衛星軌道がごみで埋まる!

ネイチャー2009年2月19日号
 「Kaputnik chaos could kill Hubble」「Overhead hazards」より


 2009年2月10日グリニッジ標準時04:56、米国の携帯電話会社であるイリジウム社が所有する通信衛星と、すでに機能停止したロシアの軍事通信衛星が、シベリア上空およそ800kmで衝突するという事故がありました。人工衛星同士が正面衝突したときに発生するエネルギーは1グラムあたり50キロジュール、TNT爆薬のおよそ10倍と推測されており、おびただしい量の破片が周囲に撒き散らされました。
 このことから、多くの宇宙科学ミッションにおける事故のリスクが高まり、許容範囲を超えたと判断されれば計画が中止されることもありえます。


 国際宇宙ステーションは地上およそ400km、ハッブル宇宙望遠鏡は600kmあたりの軌道を周回しています。地上500〜1000km、とくに衝突事故が発生した800kmあたりは人工衛星の密集空域で、それだけ宇宙ごみ、スペースデブリの数も多くなっています。
 実は2007年に中国が対衛星兵器実験で人工衛星を破壊してスペースデブリ問題を悪化させたということもあったようです。


 国際宇宙ステーションの宇宙飛行士たちについては、高度が低いこともあってリスクの増加は比較的小さいとされています。しかし5月に予定されているNASAのミッション……スペースシャトルでハッブル宇宙望遠鏡を修理しに行く計画は中止の危機にさらされています。中国の実験の影響もあって、もともとスペースデブリとの致命的な衝突が起こるリスクはNASAとして「容易には許容しがたい」レベルであったのに、それが衝突事故によってさらに悪化してしまったのです。
 修理ができなければ、ハッブルには遠からず寿命が来て、本体に何かの破片が衝突するような事故が起こらなかったとしても使用不可能になってしまうかもしれません。


 今回の衝突事故について、専門家の意見はさまざまです。米軍のデータによれば、二つの衛星が互いに0.5km以内に接近することは予測されていたので、イリジウム社がこの衝突を事前に予測し回避すべきであったという意見もあります。一方、衝突の予測は可能性の値としてしか示されず、回避作業のコストは衝突のリスクを上回るため、それは無理な注文だという意見もあります。
 衝突を早期回避するためにはデータの蓄積が必要です。独自のスペースデブリ追跡システムを保有するロシアを別にすれば、世界中の国々は米国のUS space-surveillance networkが提供するデータに全面的に頼りきりです。しかし実際のところそのデータは「無いよりまし」という程度のものです。米軍はもっと詳細なデータを持っているはずで、それが全面公開されればリスク回避に大きく役立つことが期待されますが、現実としてそれは非常に難しい話でしょう。なぜなら全データの公開は米軍の監視能力の限界や盲点を世界に知られることにつながってしまうからです。


 衝突によって散らばった破片は次の衝突を引き起こします。衛星軌道上のスペースデブリをこれ以上増やさないようにしないと、いずれ本当に軌道がごみだらけで使えなくなってしまうかもしれません。
 対策としてはまず、これまで以上に監視体制を厳しくすることが挙げられます。米軍が提供してくれるわずかなデータに頼るのではなく、別に国際機関を立ち上げるべきだとの声も出ているようです。
 また、人工衛星を打ち上げる国が、スペースデブリを最小限にするためのルールに従うようにするというやり方もあります。例えば、使用済みの燃料タンクやバッテリーを宇宙空間に廃棄する際には爆発を防ぐ対策を施す(穴をあけるなど)、といったような取り決めです。しかし、これを強制するのは難しいと考えられます。


 実は1967年に、他国の人工衛星に損害を与えたら責任を負わねばならないことが一応は定められていたようです。しかし地上の交通事故と同じように事故の責任を考えるのは無理があり、イリジウム社としてもロシア政府に正式賠償を求めるかどうか、まだ決定しかねているようです。しかしいずれ、人工衛星の交通ルールのようなものの取り決めは必要となることでしょう。



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