犯行現場に残された身体の一部、例えば髪の毛や体液を解析し、それがどの民族のものかを調べることは、日本の犯罪捜査において重要な項目となっています。しかし、それは外国人を不当に容疑者扱いすることにつながりかねないとして、科学者や人権保護活動家などから批判の声が上がっています。
科学警察研究所の法医学者らは、1億5300万円を投じた4ヶ年計画で、容疑者の民族的血統や身体的特徴に関する手がかりをつかむための『民族識別指標』を収集した警察用データベースを作成しようとしています。日本の当局は、外国人犯罪の増加を理由に、このような計画の実行はやむをえないものであるとしています。
科学警察研究所は、偽造・変造パスポートの偽変造手法から関係者の国籍を割り出すための『偽変造手法データベース』の構築にも取り組んでいますが、この『民族識別指標データベース』も、外国人が関与した犯罪の捜査に役立つことになるでしょう。
しかし、アムネスティ・インターナショナル日本(思想・信条などの理由で投獄されている良心の囚人の釈放運動など、人権侵害をなくすための活動を行うNGOの日本支部)は、こうしたプロジェクトを問題視しています。日本も、国際標準に基づく公正な裁判や尋問のシステムを構築してゆくべきだ、と東京支部の代表者は述べています。
『民族識別指標』として用いられるのは、血液型、代謝性酵素、髪や肌の色素タンパク質、ミトコンドリアDNA、不顕性感染ウイルス感染などです。これらの指標についてデータを収集し、民族による出現頻度データベースを作成し、その有効性を検証する予定になっています。
犯罪捜査における生物学利用としては、例えばDNA鑑定法などがすでに実用化されており、べつに目新しいことではありません。しかし、『民族識別指標』は通常、損傷が著しい遺体の身元を調べる際にしか利用されていないのです。
プロジェクトは、まず民族の特性と個人のDNAの関連付けを行うことから開始されるものと思われます。計画に対して懸念を抱いているのはアムネスティ・インターナショナルだけではなく、日本の数多くの科学者も似た考えであるようですが、しかし彼らは公的に批判しようとはしません。『ネイチャー』は、ある著名な日本人遺伝学者にコメントを求めましたが、公式なコメントは差し控えたいとの返事でした。
実際にデータベース作成に携わることになる日本の法医学者たちも、倫理的な困難が予想されることから、プロジェクトに懸念を抱いています。
確実な解析が可能なものであればまだしも、『民族識別指標』はあくまで指標であり、不確かさを含むものですから、それを利用しようとするならば、とくに人権への配慮が不可欠となります。
しかし、外国人による犯罪の増加に対処する必要に迫られている、という大義名分のもとに、このプロジェクトは容認されることになるのだろう、と彼らも考えているようです。
科学警察研究所の科学者たちは、この『民族識別指標』はあくまで外国人の犯罪者または被害者の情報を絞りこむ目的だけに用いられるものであり、特定の個人や民族を差別するものではない、と主張しています。
しかしこうした動きに対しては、社会問題・経済問題の責任を外国人に転嫁しようとする、日本のいつものやり方だ、として非難の声が上がっています。このプロジェクトから、日本警察が外国人中心の捜査を行うような流れが生じ、やがて外国人への偏見へとつながってゆくおそれもあります。
バブル経済がはじけて以来、日本は外国人をスケープゴートにしてきたのだ、という陰口もささやかれています。