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17年宙に浮いた補償金など無効
懲りない山口県漁協の陰謀
               跳ね返した祝島の島民    2017年5月12日付

 上関町祝島で10日、山口県漁協祝島支店の組合員集会が開催された。議題は①報告事項として「平成28年度3月末決算について」と、②協議事項として「決算にともなう補填金の徴収について」の2つであった。4月28日に正・准組合員に対して5月10日の開催が通知されていたが、今回異例だったのは、たかだか組合員集会に県漁協本店から仁保宣誠(専務理事)、原田博之(参事)、村田則嗣(参与)の3人が出席したことだった。案の定、総会議案にかこつけて上関原発計画の漁業補償金受けとり手続きを迫る動きを見せたが、反発する組合員らの抵抗によって会は紛糾し、流会となった。福島事故という前代未聞の原発災害を目の当たりにしながら、この期に及んで新規立地に道を開こうとする企みが動いている。取材にあたった記者たちで緊急に座談会を持った。
 
 県漁協幹部を招いた山戸貞夫

 司会 まず、何が起きたのか整理してみたい。
  祝島支店では他の支店と同様、この時期に決算報告も含めた組合員集会を開いている。そこに今回、わざわざ県漁協本店から幹部たちがやってくるということで、「これはなにか企んでいるに違いない」と警戒感が高まっていた。島のなかでどれだけの人が緊張感を持っていたのかはわからないが、推進派の漁師たちや「反対派」の振りをしている隠れ推進派の動きが怪しかったこと、さらに県漁協関係者たちの話を総合して「これは陰謀を企んでいる可能性が大だ」と見なして本紙も取材に向かった。案の定、議題にこじつける形で漁業補償金の受けとりを巡る採決をせよ! と蒸し返す動きを見せた。結論からいうと、組合員の抵抗もあって予定時間の5時までに結論を出すことができず、集会所は次の予約も入っていたために流会となった。話を聞きつけた島民が全力で撃退した格好だ。
  経緯を整理しないといけないのだが、そもそも県漁協本店からの幹部の出席を要請したのは山戸貞夫だった。3月9日に開かれた中間決算の集まりの場で、山戸が県漁協本店から呼ぶことを提案した。当日参加していない正・准組合員もおり、知らない漁師もいたが、多数の漁師が出席した場で提案した。「私がいえる立場にないが…」と前置きしたうえで、赤字の補填金を他の支店ではどのように処理しているか本店を呼んで説明してもらいたいという主旨だったという。
  山戸は漁協合併問題が発生した時期に祝島漁協の組合長だったが、諸事情があって失脚した。「私がいえる立場にないが…」はそのことを意味しているのだろう。推進派の漁協幹部に聞いた話では、カネを巡るあんなことやこんなことがあって、当時の県水産部の梅田審議官立ち会いのもとで、「以後二度と運営委員になることはしません」(そのかわり不正の数数は見逃してやるの意味)という念書を書かされたのだという話だった。祝島漁協を県漁協に合併させて、逃げるようにして組合長を退いたのはそういう裏事情があったのだという。ここで漁協会計を巡る具体的な話を展開しても仕方がないが、当時何があったのかは梅田審議官をはじめとした県庁の役人、上関の大西、県漁協の森友組合長(上関町室津出身)、山戸自身が一番知っている。
  祝島支店では合併後に赤字が膨らみ続け、それを組合員が毎年のように自腹で負担してきた。今回は1人12万4000円の負担金となっている。こうした祝島漁民の実情を聞いて、とりわけ2011年3月11日の福島原発事故以後、30年以上も漁業権を売り渡さずに頑張っている祝島の漁民に対して、全国から思いのこもったカンパが届いている。そのこととかかわって、3月9日の山戸の主張は「原発反対の漁民だけが全国からのカンパで負担金を支払っていることはおかしい」という趣旨だったという。推進派の漁師のなかには「その意見はこれまで推進派側がいってきたことなのに、なぜ今ごろ山戸がいうのか」と疑問に思っている人もいた。
  3月9日の集まりで山戸が県漁協本店を呼べと要求したことに対して、大方の部分は「赤字の負担金の問題であり、原発にかかわる漁業補償金受けとりとは関係ないのだから大きな問題ではない」ととらえ、その場では反対意見は出ずに了承した。だが、その後時間がたつにつれて、「はたしてそれだけなのか? なぜ今山戸が県漁協本店を出席させろというのか?」と疑問を抱く部分も出てきていた。というのも、これまで県漁協本店は祝島に漁業補償金の受けとりを迫るために何度も総会の部会を開催させようとしてきたからだ。仁保専務らが執拗に上陸を試みてきており、「県漁協本店が祝島に来るということはかならず補償金がらみだ」という確信が強まっていた。そのため3月9日の集まり以後、祝島側から県漁協本店に対して「補償金受けとりにかかわってきた仁保は絶対に来させるな」と要望もあげたようだ。
  ここで事実経過を整理してみると、まず第一に山戸が県漁協幹部を呼び込んだという事実だ。そして、招かれた県漁協が補償金受けとりについて蒸し返した。両者の間で連携プレーがあったのかなかったのかはわからないが、行動と結果から何がいえるのかを見ておかないといけない。

 補償金受取拒否が圧倒 組合員集会は流会に

  10日の組合員集会は3時からの開催予定だったが、2時半に仁保、原田、村田の3人がチャーター船で上陸し、そのまま会場の公民館に向かった。その様子を見ていた島民が「仁保が来た! 補償金の話が出る!」という知らせをまたたくまに島中に伝え、漁師のみならず、婦人や若者たちなど多くの島民が公民館に集まって監視行動をとった。
 そして組合員集会が始まると真っ先に「なぜ組合員集会に仁保が来ているのか」という声があちこちからあがった。「誰が呼んだのか」「なぜ呼んだのか」という厳しい声が飛び交うなかで「山戸が呼んだのだろう」と追及の声もあがった。だが、本店の出席を要請した当の山戸本人は黙ったままだった。この態度についても島のなかでは疑問視する声が高まっている。
  組合員に通知されていた二つの議題が終わったところで、修正案が出された。ここからが本番だった。県漁協本店が一人の漁師に「ここで読め」と促して提案させたことを参加者は見ている。修正案の趣旨は「赤字を個人に負担させるのは重すぎる。欠損金の補填を自己負担ではなく、原発の漁業補償金から出せば、個人も助かるし、漁協運営もうまくいく。そのための総会の部会を開いてほしい」というものだった。個人の負担金の支払い期限は7月1日となっており、それまでに総会の部会を開いて補償金を欠損金の補填にあてることを決めるように求めていた。もし7月1日までに総会の部会が開かれなければ、個人で負担するとも書いてあったという。
  これを文書で提案した。漁協の定款によると、文書で修正案が提案された場合、採決しなければならないことになっているという。文書がなければ採決は必要ない。そういうことが定款に書いてあることは、県漁協本店なら詳しいだろうが、祝島のS(提案者)が熟知しているとは誰も思っていない。その場で文書を渡され、ただ読み上げただけのようだったとみなが話していた。つまり、筋書きを書いた脚本家がいたということだ。組合員のほとんどは蚊帳の外だが、ごく一部の人間が明確に何かを企て、狙いを持ったうえで陰謀を働かせて集会に挑んでいた。修正案を突破口にして採決に持ち込み、「補償金受けとり」に持っていく算段だったことが暴露された。
  この修正案に対して反対意見が圧倒した。「補償金の話は出さないはずだ」「補償金の話は議題にはない。委任状を出して今日出席していない組合員もいるが、委任状は二つの議題に対してだけだ。補償金の話は委任していない」「山戸さん、なぜあんたが補償金の話をするのか」「補償金を受けとるということがどういうことかわかっているのか」「ここにいる組合員だけで決められることではない。島には数百人が住んでいるんだ!」などの主張が圧倒した。そして、修正案に対する採決はできないまま午後5時で散会となった。
  この場で山戸は「黙れ!」とか「准組合員に発言権はない!」などと威圧的に大声を出すだけで、まともな発言はなにもしなかった。また、県漁協本店となにやらひそひそ話をしている姿も目撃され、山戸と本店がグルになってやったことだと島民たちは話題にしていた。
  本店の仁保、原田、村田は何時間かかっても修正案の採決まで持ち込む構えだったようだ。公民館は午後3時から5時までしか押さえておらず、5時からは次の予約が入っていた。仁保たちは「会場を変えて継続できないか」と支店長や運営委員長にもちかけたが、「それはムリだ」と断られている。結局3人は、午後5時5分の定期船に乗って祝島を離れていった。
  組合員集会の終了後、会場から出てきた漁師や婦人や若者らは「頑張ったね」「よかったね」「大成功だったね」と肩をたたきあったり、手を握りあって喜んでいた。抜き打ちで向こうが仕掛けてきたので、その日は朝からみんなが連絡をとりあって行方を見守っていた。警戒心が少し足りなかったという反省もあったようだが、それでも跳ね返した。
  山戸本人にも「どうだったか」と感想を聞いたが、なにも答えず、顔をそむけてすたすたと帰っていった。相当ショックだった様子だ。仁保、村田、原田の県漁協本店の3人もしょんぼりと会場から出てきた。島民たちと対照的な光景だった。

 総会同意は一度もなし 漁業権放棄せず

  祝島の漁業補償金を巡る問題を振り返ってみると、そもそも発端は2000年の漁業補償交渉妥結にある。祝島における漁協総会を開催もしないで、107共同漁業権管理委員会の多数決だけで押し切ってしまった。祝島の漁業者は3分の2同意など一度も問われておらず、交渉のテーブルにもついていない。その漁業権は生き続けているのに、「管理委員会の決定に拘束される」という裁判所の曖昧な判決文をもって手続きを押し切ってきた。おかげで今日のような捻れた状態がもたらされた。
  表向きは「漁業交渉妥結によって漁業権問題は解決した」で押し切っているが、実は法的にも漁業権放棄は完了していない。補償金を受けとってもいないし、そもそも漁業権放棄の総会同意をしたことが一度もないわけだ。3分の2の書面同意が最終的には必要になるのに、その手続きを誤魔化してゴリ推ししてきたツケがすべて今に響いている。補償金を受けとる=漁業権放棄を容認したという二段論法、三段論法のすり替えで話を進めようとしたがそれも阻止され、推進勢力からすると手がない。それで困って「赤字補填を補償金からあてる」=「補償金の受けとりを認めた」=「漁業権放棄に同意した」という具合に、いったい何段論法だよ! と思うような手段に訴えた。姑息すぎるという問題もあるが、最終的には漁業権を放棄するための書面同意を取り付けなければ、漁業補償交渉は完了しない関係だ。
  2000年の「漁業補償交渉妥結」から17年が経過した。10年間受けとりを拒否していた補償金は法務局に没収されて振り出しに戻ることが妥当だったのに、それを県漁協が勝手に引き出して延長戦に突入した。祝島に断りもなくやったというより、祝島は供託金没収に応じるつもりだったのに、その意志を無視して引き出したわけだ。そして3億円近くの税金を勝手に立て替えて納め、その処理期限がどうのこうのいっている。県漁協側の事情など自業自得であって、責任は全て勝手に動いた県漁協にある。従って、指示した幹部が責任をとるべき問題であって、今になって騒ぐのは道理が通らない。
 というか、供託金没収の時点で10億8000万円は国庫に没収されるはずだったのだから、税金として納めた3億円超がどうこう以前に、残りの7~8億円も県漁協が国庫に没収させれば済む話だ。複雑な話ではない。もともとが県漁協のカネではないのだ。それで一件落着させることで漁業補償交渉は晴れて振り出しに戻る。中電は一からやり直ししなければならない関係だ。
  手続きを誤魔化してきたおかげで、一般からするとわかりにくい騒動をくり返しているが、単純化すると見やすい。漁業補償交渉は妥結していないし、正式にやり直ししなければならないということだ。勝手に振り込んだ補償金が宙に浮き、国庫に没収されて困るのは推進側だ。それで慌てている。
  2000年の「漁業補償妥結」から既に17年が経過した。当時の組合員数や漁獲高から算出した祝島の補償金額が10億8000万円だった。しかしこの17年で鬼籍に入った者もいるし、組合員数も大幅に変化している。社会情勢も変化した。民事の世界から見ても、実現に至っていない17年前の契約が効力を持って生き続けるのか疑問だ。しかも相手が同意していない「漁業補償契約」だ。漁業権も10年で書き替えとなる。10年で供託金が没収されるというのも、そのような一つの基準だ。まずはそこから問い直さなければならないのではないか。17年前に断った補償金をいまだに揉めていることそのものがナンセンスだ。
 D 本来なら影響を受けることへの補償金なのに、生活基盤からして既に漁業生産から引退して、籍だけ置いている組合員が口を開けて待っている。長年の反対運動を裏切って、冥土の土産欲しさなのか何なのか、原発ができたところで知ったものか! という類いが潜んでいる。表だって推進はできないが、無記名投票ならこれらが呼応してうごめくからややこしい。この十数名の魑魅魍魎(ちみもうりょう)については県漁協側がしっかりつながっている。そして、今回のような陰謀じみた真似をするわけだ。しかし、裏切りは島民が許さない。すべてはこの力関係で決まる。誰がどのような動きをしたのか全島民のなかに明らかにして、問題を鮮明にしていくことが重要だ。ズルズルと裏切っていく流れに対して、インチキを鋭く見抜いて対応しなければやられてしまう。その意味で、今回の一件は弛緩していたところを急襲された。全国が応援しているのだから祝島もしっかりしないといけない。
  反対派の内部に明らかに裏切り者が潜んでいる。この期に及んで、補償金程度の端金に目がくらむ意味がわからない。あまりにもさもしいではないか。そんな補償金を手にしたところで、祝島での暮らしを失う代償にはならない。地獄の沙汰もカネ次第というが、福島を見ても本当に地獄に見合った数字なのか? だ。
  今ごろになって推進に寝返った場合、恥をさらすのは祝島だ。長島側も「それならはじめから賛成しろよ」となるし、なにより全国がぶったまげる。それこそ「この期に及んで何を考えているのか?」と一気に注目されることになる。そうすると35年に及ぶ島民たちの頑張りが水の泡になるだけでなく、「原発に反対する島」から「福島事故を経てなおカネを欲しがるさもしい島」へと評価が180度変わってしまう。祝島にとっては由由しき事態だ。従って、現在の島民の会を中心にしっかりと認識を共有しながら、緊張感を持って対応しないといけない。分断や分裂を仕掛ける者についてはそれを許さない力を勝たせなければズルズルと負けてしまうし、内部の裏切り者が県漁協とつながって仕掛ける陰謀にまんまと引っかかってしまう。島民の誇りにかけて跳ね返していくことが重要だ。
  山戸については漁協支店の赤字補填のカネを問題にする前に、自分のカネ問題を明瞭にするのが先だろう。祝島千年の島づくり基金の会計がどうなっているのか、島民の会の会計がどうだったのか、漁協会計はどうなっていたのかなど、すべてカネ絡みでみなが不信感を抱いている。真っ先に解決しなければならないのはそこだ。自分のことは棚に上げてケチをつけても「オマエがいうな!」とほとんどの島民が思っている。なにより、県漁協を利する行為に及んだという事実は曖昧にすることはできない。
 
 

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