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75歳以上皆保険から切る
4月実施の後期高齢者医療
               「どうせ死ぬ」と医療制度      2008年3月7日付

 福田政府は、全国的に国民の怒りが大きく高まっている「後期高齢者医療制度」見切り発車を、4月1日から強行しようとしている。同制度は「保険」という言葉がないように、75歳以上のすべての国民を国民皆保険から切り離し、安あがりに医療をまかなうことを狙った、あからさまな「姥捨て」政策である。2月下旬までに同制度の中止・撤回・見直しを要求する意見書を可決した市町議会は512議会にのぼっている。
 下関市本町に住むN氏(77歳)は、「戦中、戦後と懸命に働いてきた高齢者を医療保険から切り捨てる制度は絶対に撤回させなければならない」と強調する。市が発行した「国保と老人保健が変わります!」と題したパンフレットによると、N氏の後期高齢者医療の保険料は、所得割(率8・71%)=9万4772円と均等割4万7272円の計14万2044円。現行国保料の13万円より大幅に高い。
 N氏は「保険料は年金天引きで介護保険料とあわせて有無をいわさずとる。医療の方は定額制で決まった額をこえる治療も検査も受けられない。1人のお医者さんが主治医となり治療計画を立てる。さらに入院しても早く自宅に帰らせて在宅療養させる。制限だらけだ。こんなことが許せるか」と語気を強める。
 最後に、「要するに早く死んでくれという仕打ちだ。アメリカには、米国国債を世界に売り出した3分の1以上も買いこみ、米軍再編には3兆円もつぎこみ、インド洋での米艦への給油再開には血眼になる。私は敗戦の年の7月、米軍による下関焼夷弾じゅうたん爆撃のとき、逓信省電話局に動員され働いていた。局は大やけどなど負傷者の救援場所となり、昼夜をわかたず活動した。日本を守り、今日まで建設してきた世代の国民を姥捨てし、このようなことをする国は変えなければならない」と強調した。
 下関市役所職員M氏は母親を共済健保の扶養家族にし加算分の保険料を納めてきた。ところが後期高齢者医療で「子どもと縁切りさせて保険でない制度に強制加入させる。細部について、まだわからないことも多いというが、医療費削減のためにつくった制度で、よくなるわけがない。母のことが心配だ。B29の空襲で焼け野原となり、焼け出されたところから苦労して戦後を生きてきた話を聞いた。政府や自民・公明はなんでこんな理不尽なことを強行するのか。アメリカにあれほど巨額な金を使うのなら、いくらでも大切にできるはずだ」と、思いをこめて語る。
 下関旧市西部の開業医A氏は、「75歳で区切ることそのものが大間違いだ。人間は年齢に関係なく同じ病気にかかるし、80代のはじめまでは農業や漁業、自営業など現役で働き、社会に貢献している。医学的にも、社会的にもなに1つ道理も必要もない」と指摘する。
 続けて「小泉改革で医療費削減のために持ち出したもので、当初は“後期高齢者医療保険制度”といっていたが、いつの間にか“保険”という概念が消えた。国民皆保険とは別建てにし、診療報酬も定額制、1人の主治医、在宅療養にもっていくなどとしている。保険でないから傷病手当も、死亡時の埋葬料も出ない。WHO(世界保健機関)からも“世界に例がない”と指摘されているありさまだ」と語る。
 開業医A氏は、概念を法文上からも切り捨てていると、老人福祉法が「老人は多年にわたり社会の進展に貢献してきた者として敬愛され、かつ、健全で安らかな生活を保障されるものとする」と明記していたものから、高齢者医療法(2006年)では「国民は、自助と連帯の精神に基づき、自ら加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して、常に健康の保持増進に努めるとともに、高齢者の医療に要する費用を公平に負担するものとする」と、「自助」と「負担」を強調したものに変貌したことを明らかにした。

 保険証の取上げも実施
 安倍政府の「後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」が2007年4月にまとめた「基本的な考え方」は、@老化に伴う生理的機能の低下により、治療の長期化、複数疾患への羅患(とくに慢性疾患)が見られる、A多くの高齢者に、症状の軽重は別として、認知症の問題が見られる、B新制度の被保険者である後期高齢者は、この制度の中で、いずれ避けることのできない死を迎える、――としている。「多くはぼける」「いずれ死ぬ」と、市場原理による経済効率1点ばりでつくった制度であることを浮き彫りにしており、人権意識のかけらもない。
 後期高齢者医療は、75歳以上のすべての国民を対象にしている。下関市で見ると約4万人、このうち約3万5000人が国民健康保険から加入させられ、約5000人が子どもの健康保険の扶養家族から切り離されて加入させられる。
 山口県下のすべての市町が加入する「山口県後期高齢者医療広域連合」が運営主体だという。この「広域連合議会」で運営や保険料を決めるが、県民も市民もこの「広域連合議会」を選出したおぼえはない。民意のチェックを受けることのない国・行政がつくった「議会」で保険料引き上げ、都合のよい運営方針を決めようというわけである。見直しは、2年に1回やることになっている。
 山口県下の後期高齢者医療の保険料は2008、9年度の2年間、加入者全員の均等割が4万7272円、所得割率は8・71%、1人当り平均は7万5796円。これは県下の国保料1人当り平均より高い。保険証は1人に1枚交付する。 保険料の徴収は、年額18万円以上の年金がある人は年金から有無をいわさず天引きする。保険料を払えない被保険者は保険証を返還させ、「資格証明書」を交付するとしている。これは病院窓口10割負担で、医療を受ける権利を奪うものである。この保険証とりあげは、現行の老人保険制度では適用していなかったが、後期高齢者医療では冷酷非情にこれを実施する。
 このように加入者の医療を受ける権利、基本的人権は保障されておらず、病気や負傷によって働けなくなった場合の傷病手当も出なければ、死亡した場合の埋葬料も出さない。「いずれ死ぬ」のだから、安あがりの医療をという人間破壊の観点は徹底している。
 後期高齢者医療の患者医療費負担は、一般では1割、現役なみ所得者は3割と、負担の方はがっちりとる。入院時給食費や生活療養費、保険外併用医療費制は、公的医療保険と同じように設けており、差額徴収される。

 丁寧な治療受けられず
 医療供給の制限もすさまじい。
 外来の初診料は、患者の病歴や服薬歴、福祉・介護のサービスの利用状況などを詳しく認識する必要があるとして引き上げる。だが、2回目以降の再診料は引き下げる。これは、高齢者の2回目以降の診察にかかる費用を抑え、医療費を削ることを狙ったものである。だが再診料引き下げは、受診回数が多くなることを医療機関にも敬遠させるものである。
 75歳以上の患者を1人の医師が総合的に診察する「主治医」制を導入する。「主治医」は年間の診療計画を作成し、必要な治療や検査を実施。患者の病歴や服用した薬を管理するとしている。
 これは、複数の病気を抱える患者が複数の専門医の診察・治療を受けるフリーアクセスの権利を奪うことで、医療費を削ることを狙っている。
 外来では、長期の治療が必要な慢性疾患の診療報酬を定額払いにする。初年度、定額払いの対象にしたのは、@医学管理料(年間診療計画を作成し、継続的に指導する)、A検査、B画像診断、C処置(高額なものを除く)――の4項目。
 これは、個個の患者の症状に応じて、必要な検査や治療をおこなうことを制限する。ていねいに治療すればするほど医療機関の持ち出しが増え、赤字になるため、決まった額の治療しかおこなえない。
 入院では患者を早く退院させることに重点をおいている。このため@退院後の生活を見こした支援体制を整えるため、退院支援計画を作成、退院調整をおこなった場合、A退院の円滑な情報共有のため、医師らが共同して指導した場合、B末期がん患者に対して、訪問看護ステーションの看護師などが退院時の支援、指導をおこなった場合――など。このようなことをおこなった病院へ診療報酬を手厚くする。
 医療費削減ありきで、入院日数を短縮し、必要な医療から高齢者を排除し、病院追い出しを狙ったものである。
 そして在宅医療に強引に高齢患者を移し、@人工呼吸器をつけている患者に長時間(2時間以上)の訪問看護を実施した場合、A重度の床ずれがある患者や気管切開をおこなっている患者に対して週4日以上の訪問看護を実施した場合――などの診療報酬評価を高めるとしている。
 後期高齢者医療では、「終末期医療」について明確に区別している。具体的には、医師が「回復を見込むことは困難」と判断したとき、診療内容について患者や家族と話し合い、合意書をまとめた場合、診療報酬を高く評価するとした。たとえば「過剰な延命治療をおこなわない」との誓約書。
 また、「自宅での看取り」を促進するため、終末期の在宅療養を支援する体制を手厚くした場合も、高く評価するとしている。
 「終末期は自宅で」と希望する人人は少なくないが、これは現在約2割の「在宅死」の割合を4割に引き上げて約5000億円の医療費削減をめざすものである。この強引な在宅療養への移行は、共働きが圧倒的で、ワーキングプアが増大する貧困と失業の社会にあって、「いずれ死ぬ」との観点から、悲惨を国民に押しつけるものにほかならない。
 全国的な後期高齢者医療制度反対の世論と行動が広がるなかで、同制度廃止法案を、野党四党が提出する動きとなっている。高齢者と家族、労働者、農漁民、自営業者、婦人など、まともな人間社会をとり戻す広範な大衆行動によって、政治を動かすことが求められている。

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