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米国の変化映し出す大統領選
サンダース旋風が示すもの
               まともな社会求める世論      2016年2月5日付

 アメリカ大統領選挙が、当初の予想を覆す動きに発展している。「革命」や「社会主義」を唱える候補者が若者たちの熱狂的な支持を集めて躍進しており、虚飾と欺瞞、プロパガンダ(扇動)に満ちてきたアメリカ大統領選を下から揺さぶっている。米ソ2極構造崩壊後、「資本主義の永遠の勝利」「社会主義は時代遅れ」といって、市場原理による新自由主義をやりまくってきたアメリカ本国で、強欲資本主義の下では生きていけないことを多くの人民が実感し、次なる社会の展望を求めて世論と運動が盛り上がっている。大統領選の動きをどう見るのか、そしてアメリカ国内の実態について記者座談会で論議した。
 
 新自由主義の大破綻を暴露 資本主義乗り越える力示す

 司会 大統領選をめぐる動きから見てみたい。
 A 今月から、共和、民主両党の指名候補を選ぶ予備選挙が全米各州で始まっている。メディアはほとんど扱わないが、もっとも話題をさらっているのが民主党のサンダース旋風だ。民主党員でもない無所属の上院議員サンダースが、オバマが後継指名したヒラリー前国務長官と指名候補争いで互角に渡りあっている。共和党でも政治経験ゼロの不動産王トランプが躍進するなど、2大政党制という従来の枠組みをこえた番狂わせが起きている。支持されている主張も累進課税や富裕層への課税拡大、所得格差の是正、社会保障の拡充のための財政出動、ワシントンの既成勢力に媚びない変革という点で共通したものがある。アメリカ国内で、そうした要求がうっ積していることを示している。
  サンダースはみずから「社会主義者」と名乗り、「1%の富裕層が90%の下層国民と同額の富を保有しており、技術と生産性の大幅な進歩にもかかわらず、何百万人ものアメリカ人は低賃金、長時間労働を強いられている。男性労働者の平均収入は、42年前から783j(約9万4000円)も減少し、子どもの貧困率は32・2%でどの先進国よりも高い」というアメリカの不平等社会を批判し、「この40年で進んだ中流家庭の減少、富裕層とその他の人人との格差の拡大に歯止めをかけ、雇用を増やし、環境を保護し、医療をすべての人に提供できるようにするためにたたかう」「1%の億万長者(スーパー・リッチ)から政治的権力と経済的便益を剥奪する」と主張し、若年層を中心に熱烈な支持を受けている。首位を独走していたヒラリーとの差を一気に縮める勢いで支持率を伸ばしている。
 政策としては、大企業への優遇措置の停止、タックスヘイブン(租税回避地)を経由した富裕層の税金逃れの禁止、労働者の最低時給を15j(1800円)へ上昇させる、国民皆保険制度などの社会保障制度の充実、公立大学の授業料無償化、性別や人種間の平等の実現と公民権の擁護、TPPに反対し生産活動の海外アウトソーシング(外部委託)をやめて国内生産にシフトさせる、緊縮財政で崩壊しかかっているインフラの再建、労働者が組合に入る権利支援、病気休暇中の保障を全労働者に与える、有給休暇・家族休暇・医療休暇を全労働者に保証するなど、「1%の億万長者への富の集中を規制し、99%の国民のための政治」をするための「政治革命」だと主張している。
  大統領選に不可欠といわれるスーパーPAC(上限なしで献金ができる特別政治行動委員会)は、大企業による政治支配の温床であるとして廃止を唱えている。1口平均27jの小口の寄付で、巨大スポンサーに支えられているヒラリーをしのぐ額を集めている。1月だけで2000万j(約24億円)をこえ、約130万人から325万件という寄付者数はオバマをこえる新記録だという。大企業と結びついた御用メディアをこき下ろし、「社会主義」や「革命」を声高に主張しているため商業メディアは無視していたが、これが選挙運動のスローガンになるほど社会現象化し、無視できないどころかトップ争いをするまで影響力を発揮している。

 世論が選挙揺さぶる 候補の大半TPP反対

  同じような特徴は、保守層の多い共和党にも見られる。「移民を排斥する」「イスラム教徒の追放」など排外主義的な言動がとりあげられてきた不動産王のドナルド・トランプが躍進しているが、経済政策では「累進課税の強化」「強い政府・大きな政府で何が悪いのか」「富裕層への懲罰的課税が必要」「所得格差是正待ったなし」「社会福祉の拡充」など、「市場原理」を否定して社会的な規制を強めるとか、ワシントンの既存勢力に媚びないという主張が強い支持を受ける要因の一つだ。
 また、2001年の9・11事件以降の外交・軍事政策に対しても「2兆j以上の戦費をかけながら、中東を不安定な混乱に突き落としただけだ」「イラクのフセイン大統領、リビアのカダフィ大佐を温存しておいた方が、中東は安定し、米国の国益にもかなったはずだ」と批判している。単純に「極端な保守主義の台頭」という代物でもない。新自由主義政策に対する国内の不満の高まりをその側から反映している。当初、共和党の指名候補はブッシュ前大統領の息子のジェブ・ブッシュが有力視されていたが、アイオワ州の党員集会では1人も代議員を獲得できないほど相手にされなくなっている。これまでの大統領選ならブッシュクリントンが順当なのだろうが、そうはいかないところに大きな変化がある。
  日本にとって直接影響するTPP(環太平洋経済連携協定)についても、サンダースが「大企業や製薬会社のための自由貿易協定であり、国内産業の疲弊と労働者の低賃金化を促すものだ」と明確に反対し、世論を気にして賛成の立場を覆したヒラリーを筆頭にして、与党である民主党候補は全員反対という状況だ。
 共和党でもトランプが「TPPは国内産業が海外に生産拠点を移し、労働市場を脆弱にさせる。他国の企業からアメリカが訴えられるような恐ろしい協定を結ぶわけにはいかない」と反対し、共和党でも半分の候補は反対だ。財界や政府の思惑に反して、完全にTPP反対世論が圧倒している。
 A 予想できなかった世論の流れが選挙全体を揺さぶっており、誰も展開が読めない状態になっている。第2次大戦後の世界で覇権を欲しいままにしてきたアメリカで、いったい何が起きているのか? だ。リーマン・ショックからこの8年、支配の側は金融資本主義のシステムを守るのに必死で量的緩和を実施したり、ウォール街を優遇して延命を図ってきた。その一方で米国でも国内矛盾がかつてなく激化している。抑えきれない力が噴き上がっている印象だ。サンダースを急速に押し上げているのが若年層の支持だ。その流れは、2011年に始まったウォール街占拠(オキュパイ)運動から鎮まることなく全米に広がっている。

 すさまじい貧困化 家なき子が250万人

  2008年のリーマン・ショック以降、大銀行は7000億j(70兆円)もの公的資金で救済されたが、アメリカの経済疲弊は一段と深刻さを増した。国民生活は一気に窮乏化している。国民の7人に1人が貧困ライン(年収2万3000j=約233万円)以下の生活水準になった。失業率は改善したというが、失業状態が1年をこえると失業人口の統計から外される。職探しを諦めた実質的な失業者を加えると20%近いようだ。とくに16歳から29歳までの若者では45%になっている。
 若者に職がなくあっても低賃金、無保証の非正規雇用という実態が日本以上に進んでいる。低所得者層に提供される食料購入券(フードスタンプ)の利用者も急増し、過去最高の4700万人、国民の7人に1人が依存するまでになった。このフードスタンプ受給者が増えるなかで、全米の各自治体が契約企業への支払いで財政が逼迫し、教育や公衆安全などの基本的な公共サービスを削減している。
  住宅バブルが崩壊し、自宅を売っても住宅ローンを完済できない債務超過の家庭は、そのなかの4分の1(約1000万世帯)に達している。7秒に1軒のスピードで住宅が差し押さえられ、2011年にはアメリカ全土で200万軒以上の住宅が差し押さえられた。中流家庭でも1世帯あたりの収入が減少し、低所得者層が集中する「貧困地区」人口が過去10年で33%増加したというデータもある。
  アメリカの子どもの貧困率は32・2%(2012年ユニセフ調査)で、先進国35カ国の中でも2番目に高い。総数にして2420万人で、2008年からの4年間で170万人も増加している。ニューヨークでは、家を持たない子どもが2014年に2万5000人と過去最高を記録し、全米では過去最高の250万人と推定されている。家なき子すなわち子どものホームレスが250万人もいる。米国でホームレスの支援をしているNGOが発表している数字だ。
  若者が立ちあがっている根拠の一つとして、学生の貧困化のすさまじさがある。ジャーナリストの堤未果がルポ『貧困大国アメリカ』で「公教育が借金地獄に変わっている」と告発している。国からの予算削減で大学の授業料は90年以降は毎年5〜10%というスピードで上昇しているが、高卒で就ける職業は「マックジョブ」(マクドナルドの時給店員のような低賃金労働)しかないため、約4分の3の学生が高利子の学資ローンや奨学金を受けて大学へ行く。一切の免除がない民間企業が貸し付ける学資ローンは、9カ月の延滞期間を過ぎると不良債権化され学生はブラックリストに入れられ、クレジットカードすらつくれない。不良債権化されたローンは金融機関に切り売りされ、学生は知らない間に元本の何倍にも膨らんだ利子をかぶせられ、永遠に借金に追い回される事態になっているという。
 学生にとっては一度落ちたら這い上がれない下層転落コースが拡大していく一方だが、それを食い物にして学資ローンは住宅ローンと並ぶ巨大マーケットになっている。政府が教育予算を削減すればするほど、営利目的で参入し、教育ビジネスは数億jの巨大市場になっている。労働者だけでなく、社会に出る前の学生を直接搾取するシステムができあがっている。そうして大学にも行けず、職もない若者には「奨学金返済免除」という特典を付けて軍隊への入隊が斡旋される。経済的徴兵制だ。「チェンジ」といって救済を打ち出していたオバマ政府が、奨学金への補助削減を打ち出していることにも反発が強いようだ。

 崩壊する医療制度 市場原理で盲腸600万円

  また、終身雇用制度も国民皆保険制度もないアメリカでは、失業と同時に保険を失い、労働人口の3分の2が無保険状態だ。年間150万人が自己破産者になっているが、その理由のトップが医療費だという。
 民間保険は保険料が高いため、多くの人が安価であるが適用範囲が限定された低保険に加入するか、約5000万人いる無保険者の1人になり、病気が重篤化してから救急治療室に駆け込むハメになる。だが、1カ月に40万円かかるガン治療は保険適用外で、逆に「尊厳死法」に基づく安楽死薬の服用なら自己負担はゼロとか、盲腸治療なら無保険で5万5039j(約575万円)、民間保険に加入していても1万1119j(約116万円)などの実例が公表されて日本でも話題になった。手術回復室に2時間いただけで78万円、麻酔1本で47万円、1泊の入院で部屋代と食事代が51万円という、日本では考えられない額だ。
 昨年も、毒蛇に噛まれたアメリカ人男性が、薬代1000万円、臨床検査サービスに280万円など総額1900万円を請求され、支払期限がわずか2週間後という明細書を公表して物議を醸した。他にも、虫歯治療は2本で13万円とか、出産費用も140万円とか、「市場原理」で人の生命や健康を金もうけの対象にしてデタラメなものになっている。
 国民皆保険と銘打ってオバマが始めた医療保険制度改革「オバマケア」では、企業が持病やガンなどの重病を患っていることを理由にして保険加入を拒否することを禁じて皆保険にした。ところが逆に保険料が1・5〜2倍に跳ね上がり、保険会社が病状によって適用範囲を縮小したため、自己負担率が上昇して以前よりも厳しさを増している。「オバマケア」は市場を独占する大手保険会社と製薬会社のもうけにしか繋がっておらず、年間4万5000人が医者にかかれずに死んでいる。銀行や証券会社などの金融資本、ウォール街が国民生活の隅隅まで食い散らかして暴利を貪る社会の本質がむき出しになっている。
  70兆円もの公的資金の救済を受けて、シティグループ、ゴールドマン・サックス、モルガンスタンレーといった一握りの金融資本が、いまやリーマン・ショック以前の利益を上げ、株式市場は高値を更新してきた。しかし対照的に、国民の間では貧困が一気に進行してきた。アメリカの大企業のほとんどが1998年から2009年にかけて、まったく所得税を払っていない。たとえばゼネラル・エレクトリック(GE)は2009年には103億jの利益を上げながら、納税額はゼロだ。グローバル企業は企業法人税がゼロの国に子会社をつくることで租税を回避し、損失は国内の納税者に要求する。自治体の財政は逼迫して、公立学校や公共交通、公共サービスなどの予算がことごとく削られていく。道路、橋、鉄道、空港などの公共インフラが老朽化したまま放置されている。このなかで充満してきた大衆的な反撃機運が、大統領選で一気に噴き出している。

 ウォール街占拠運動 富裕層の政治支配覆せ

  「金融危機の扇動者たちが記録的な利益を上げているのに、なぜ私たちがその代償を払う必要があるのか!」「権力の不正をただし、人間としての尊厳を取り戻すときだ!」と訴えてスペイン全土の都市に広がった占拠運動に連動して、2011年、アメリカで始まったのがウォール街占拠運動だった。ウォール街の銀行、大企業など1%の富裕層が残りの九九%を犠牲にして富を独占していることを批判し、ニューヨークからボストン、シカゴ、ロサンゼルス、ポートランド、アトランタ、サンディエゴなどに広がり、その行動の波は南米、欧州、アフリカ、香港にいたる世界1500都市に広がった。ほとんど公に報じられないが、この動きがその後も全米に拡大している。
  占拠運動では、「99%の困窮は、1%のウォール街の拝金主義、腐敗した銀行、企業による政治システムの乗っ取りこそが原因だ」と危機の元凶を名指しし、「みんなのために機能する世界をつくる」「政策や提言は九九%のためのものであることを実証せよ」と新しい基準をつくり、「社会や政府を企業支配から解き放つ」と新しい社会像を求めてきた。若者たちが掲げるプラカードも「資本主義に代わる社会を!」など資本主義の経済システムを直接問題にするものが目立つ。
 この流れが、同じようにゴールドマン・サックスの介入で財政破綻したギリシャにおける緊縮財政反対の大衆行動、スペインの左派政党「ポデモス」の台頭、イギリスで「富裕層への課税強化」「国営医療制度の充実」「公共インフラの再国営化」を唱えたコービンの労働党党首選での圧勝など、反グローバリズムと自治権の拡大を求める世界的な大衆行動と連動して広がっている。
  新自由主義の総本山であるアメリカで、いまや「社会主義」が新鮮な響きをもって歓迎されているというのが象徴的だ。これは必ず日本にも波及せざるを得ないし、安倍政府の経済、金融政策がいかに古くさい時代遅れのものであるかを示している。日本のメディアが口裏を合わせたかのように、サンダースの躍進やその背景について報道しないのも、日本に波及することを恐れているからだ。
  資本主義が終わりを迎えている。それを世界中の人人が実感している。そのなかで、一方は滅亡の過程にある金融なり経済支配のシステムを死守するためにさらに強欲に暴れ回り、これに対して圧倒的な九九%の人民の側が社会的な利益を掲げ、みんなの暮らしをまともなものにせよと願って行動している。資本主義の冷酷さをもっとも実感している米国で、足下から為政者を揺さぶる行動が広がっていることが特徴だ。大激動の時代を迎えている。
 C リーマン・ショックから8年が経過するが金融恐慌はますます深刻なものになろうとしている。泥沼を抜け出せないどころか、もっとひどいものになろうとしている。このなかで、国際的にも「左翼のバックラッシュ」といわれる現象やマルクス・ブームが起こっている。
  戦後の世界はアメリカが覇権を握ってきた。しかし60年代のベトナム戦争によるドル垂れ流しなどが響いて71年にはニクソン・ショック、金ドル交換停止に追い込まれ、ブレトンウッズ体制は崩壊した。その後、管理通貨制・ドル体制へ移行しながら、同時に軍事力と金融・IT技術の優位性を武器にして新自由主義、グローバル化を唱え、市場原理主義によって一極支配をはかってきた。しかしこれも破綻して、今日の状況をつくりだしている。犠牲はみな人民に転嫁しながら、強欲な金融資本ばかりが暴利を貪っていく。このデタラメな社会構造が暴露されている。
  アメリカでも欧州でも日本国内でも、世界的に資本と労働の矛盾、帝国主義と人民の矛盾が激化している。米ソ2極構造の崩壊から4半世紀が経ったが、いまや「資本主義の永遠の勝利」を叫んでいたアメリカ及び西側資本主義こそが腐朽衰退している。それで体制崩壊がさまざまな形で顕在化している。1%の金融資本がいなくても99%の労働者がいれば社会は成り立つ。みなが助けあって社会的に有用とされるものを生産し、まともに暮らしていけるあたりまえの社会運営を求めている。人民世論の側は、この大激動の時代にあって明確に次なる社会を展望して動き始めている。滅亡の側に身を寄せて悲しんでいるのではなく、未来を展望している。そのような国際的な世論と運動が噴き上がる情勢になっている。日本国内の情勢も決して無関係ではない。

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