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大企業が奪った好漁場
内海漁民の痛恨の思い
               上関原発の動向に注目     2006年2月23日付
 
 瀬戸内海で操業する漁業者にとって、上関原発計画の行方が重大な関心事になっている。閉鎖海域に国内最大級の原発(137万`h)が2基も建設されたなら、たちまち「温泉」になることは疑いないからだ。内海沿岸は、歴史的に大企業が好きなように開発し、漁場は「経済成長(大企業の金儲け)」の犠牲にされてきた経緯がある。水銀垂れ流し事件など、これまでに甚大な影響を及ぼした例は限りない。上関原発が最後のギロチンになるとみなしている関係者も多く、「祝島には最後までがんばってほしい」という切実な声が上がっている。あぶく銭で漁場を奪われた結果は無惨な結末しかない。宇部で経験を聞いた。

  宇部海域の変遷が示す前例
 宇部興産の城下町・宇部市の海岸線は、明治時代の炭坑産業が発達する以前から比較すると様変わりした。その昔、豊かな漁場には、厚東川からの栄養塩が流れこみ、広大な干潟が群生していたという。魚が卵を産み、稚魚が成育する“ゆりかご”の役割をはたしていた。海底には貝柱が山ほどそびえ立って、潜水夫たちにいわせれば、「竜宮城」だったという。好漁場ゆえに、広島や岡山県、四国などから移り住んだ漁師も多い。
 宇部岬のベテラン漁師Aさんは「わたしが子どものころ(昭和初期)でも、西部石油のあたりまで見渡すかぎりの干潟があった。砂地を両手ですくったら、アサリがこぼれ落ちるほどとれた。工業化でつぎつぎに姿を消していった」と説明した。
 宇部興産の前身である沖の山炭坑時代からの開発は、終戦後にさらに拡大して、沿岸線は原型を失った。市政は興産の下請状態でなすがまま。そのたびに漁業者の抵抗が起きたものの、「繁栄を妨げるな」の雰囲気が覆い尽くし、押し切られていったのだという。

 W型護岸で狂った漁場環境
 宇部岬では近年、東見初の産廃処分場建設による護岸工事が、ノリ養殖に多大な影響をおよぼしている。厚東川からの栄養塩の流れを遮断したためで、W型の護岸ができたとたん、ノリ漁場にはリンや窒素が回らなくなった。内海試験場の検査でも、他海域に比べて極端に低い数値ばかり記録した。昭和30〜40年代には30億〜40億円を誇った同漁協のノリ生産金額は急激に落ちこみ、平成16年度には約4億5000万円。今年度は若干持ち直して6億円台となった。それ以前は12億〜19億円を安定して稼いでいたものだ。
 漁協関係者の1人は「漁業交渉のさい、年配の漁師は“いいことにはならん”といさめる人間もいたが、目先の金ほしさに狂った騒動も起きた。いまになって踊った人間すら後悔している。首が回らなくなって陸に上がったものもいる。海を手放したら、とりかえしはつかないんだ。農民が畑の土を手放すのといっしょ。祝島には、宇部のような失敗をしないように伝えてほしい」とくり返すように語る。

 企業本位に奪い尽くす手口
 宇部では戦後からこの方、漁場を奪う側と、奪われる側の争いはしのぎを削った。かずかずの漁場破壊は、漁師が補償金がほしいから発生したわけではない。行政や大企業が漁場を手に入れたいがために起こしたものだ。企業交渉、行政交渉では、かならず裏舞台のシカケや買収がつき物で、大企業になるとサクラ代(漁協役員に納得させるための費用)を計上するのが常識。
 隣接漁協役員のBさんは、市長側近から「お宅の息子さんを市役所の職員にするから、折れてもらえんだろうか」と説得されたことがある。「うちは断ったけど、県庁水産部にも宇部市役所にも縁故採用されたものは多い。連中の手口は脅しと買収しかない」という。野放図な漁場破壊に対抗するために、Bさんは水産大学の教授たちに教えを請うて、水協法を猛勉強したこともある。「わしら漁師だけの力じゃ勝てないときが多い。こちらが無知だったら、はったりかまされて泣き寝入り。“共産党”にも頼ったが、肝心なところで裏切られることが多かった。漁師が束になって、いろんな力とつながって情報や知恵をもらってたたかわないと負けるんだ」といった。海上封鎖行動など、ときに漁協の枠をこえた抗議行動に発展したこともあった。

 原発できれば熱帯魚の楽園
 宇部岬の年配漁師の1人は、「この海は、興産に好きにされた。大企業はほしいものはどんな手口を使ってでも手に入れていく。行政なんてその子分。漁師は補償金をいくらもらっても、失ったものの方が大きい。海をいじる代償は金ではひきあわんよ。暮らしが壊れる。祝島も上関の漁師も、海を壊された経験がないからわからないだろうが、悔しさしか残らない」と痛恨の経験を言葉少なに語った。
 近年、瀬戸内海では海温の上昇が進行して、ナルトビエイとか原色の珍魚がふえている。宇部では、民間企業が国内最大級の石炭火力を建設する話がうごめいている渦中。「どうせ興産の石炭処分だ」と漁師らは口をそろえる。上関原発の温排水も加われば、周防灘はまぎれもなく“熱帯魚の楽園”になると危惧(ぐ)されている。「どうしていまになって崩れるのか」と、内海漁業者たちは祝島の動向を気が気でない表情で見守っている。

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