トップページへ戻る

漁船20万隻が全国スト
国に燃料高騰対策求める
             国益かかる漁業の擁護   2008年7月16日付

 燃料暴騰で苦しい経営を余儀なくされている全国の漁業者が15日、一斉休漁に突入した。約20万隻におよぶ“漁民ストライキ“はかつてない出来事で、「食料供給を担う漁業を守れ」の熱気が津津浦浦から噴き上がっている。今や食料も燃料も資材も何もかもが高騰。影響を被っている各種産業からも連帯の気持ちをこめた眼差しが注がれている。ヘッジファンドなどの投機集団を当然規制しなければならないが、国内の各種産業が目の前で廃業の淵に立たされ、食料生産が破壊されようという国益がかかる事態に、黙って突き放している政府というのはいったい何なのか、問われている。

 東京で全国漁民大会を開催
 15日には漁船の燃料費高騰による窮状を訴えるため、全国の漁船が一斉休漁。各地の漁港は停泊した漁船が並び、人影もまばらで閑散としたものとなった。国産水産物の水揚げは一部を除いてストップした。東京都・日比谷公園では、全国の漁業代表者ら約3600人が集結して全国漁民大会を開催して政府・与党に対して燃料費の補填などを訴えた。集会が終わると、霞ヶ関へ大規模デモをかけた。
 全漁連は燃料費補填を政府や農水省に要望してきたが、「燃料効率化のための基金を積極的に運用する」などのケチな対策が示されるだけで、燃料費の直接補填には応じない姿勢を崩していない。「自助努力せよ」の対応で、要するに無視を決め込んでいる。廃業するのも「自由」で「利用者負担」が当たり前というもの。これに対して、食料生産の破壊を招くものであり、国として食料供給に全責任を持つこと、八月補正予算で対応するよう求めて行動が盛り上がっている。
 この日の行動に先駆けて、全国各地で漁民の行動が起きている。全漁連の呼びかけに応えて、さながら“漁民一揆“のような動きが広がった。福岡県では12日に400人規模の漁民大会とデモがおこなわれ、沖縄県漁連も11日に那覇市の泊魚市場で総決起大会を開催し県内から450人の代表らが駆けつけた。北海道では15日に東京行動に連帯して道内8カ所で計3000人が参加する集会がもたれた。休漁を引き続き実施する地域もある。大阪などの一部地域では16日以降も実施する。タチウオの水揚げが日本一の和歌山県箕島町漁協では、15〜21日までの1週間、320隻すべてが一斉休漁を決めている。全国さんま棒受網漁業協同組合も燃料代高騰に対応して、8月18日に休漁することを決めた。

 漁業守る為の正念場と論議 スト決行の各浜で
 漁民ストライキが敢行されたこの日、福岡県内でも最大規模の前浜である、鐘崎漁港(宗像市)には、所属する244隻の漁船がズラッと停泊した。玄界灘で操業する巻き網船団、ふく延縄漁をしている大型20d未満が48隻、その他、あま延縄、五智網、建網、いか一本釣りなど、多種多様な漁法が共存している漁村地域だ。漁業者は口口に「このままでは、漁に出れん!」「なぜ国は食料生産を守ろうとしないのか!」「全国の漁師が悲鳴を上げとる」と語っていた。
 60代の漁業男性は、9月からはじまるふく延縄漁が心配で仕方ないと胸の内を明かした。今の時期は、磯の仕事をして毎日を過ごしている。「(ふく延縄は)出港したら、3〜4日は船上生活。5〜6時間も走って毎日帰っていたら油代も高いし仕事にならん。去年のような水揚げだと経営は厳しい」と眉間にシワを寄せた。軽油はドラム缶1本(200g)が2万3800円。目が飛び出すほど高額になった。3人雇うので、給料も保証しなければならず、えさ代が2万〜3万円はかかる。油はドラム缶1本は間違いなく使う。それで1日15万円の水揚げではとても利益が出ないという。
 「5年前の3倍だからたまったもんじゃない。水揚げ量があればいいが、まるで油代を払うために沖に出ていくようなものだ。昭和50年代はふくの値段もよくて、1箱(約20`)が80〜90万円の値をつけることもあった。今はよくても10数万円だ」という。油代や資材は高騰するが、魚価は反比例して下がり続けるので採算がとれない。
 「ただ、これは漁師だけの問題じゃない。世の中みんな、物価が上がって困っている。日本中がやっていかれん。働かないでホリエモンとか村上ファンドみたいな兄ちゃんたちとか、アメリカの金持ちが投機で食らいついていると思うと、“世の中で自由ばっかりするのも程度がある“と思う。働いている人間が沖に出られないで、パソコン打っている人間が銭儲けとはなにごとか。人を恨むことはしたくないが、これはおかしい」といった。
 巻き網船団に所属している男性は、「巻き網も1月からふく延縄をする。漁師は沖に出てなんぼ! なのに出られない。油が安ければ遠くに行って魚の群を狙ったり、一発当てるということもできるのだが…。先が見えないのが一番つらい。山口県の漁師もみんな同じ心境だと思う。鐘崎は、ふくは唐戸魚市場に出荷するし、沖ノ島で停泊することもあるので、角島の漁師たちとは懇意だ」といった。
 また、「食べ物を供給している者をつぶしたら、国がやっていけん。国民が魚やコメを食べられない。だから“第一次産業“といって一番にされてきたと思う。トヨタとかの大企業がどれだけすごい“水揚げ“を威張っても、魚獲ったり、コメをつくる人を大切にしないと、日本から食料がなくなって飢餓になる。“自分たちの努力でどうにかしなさい“と政府が知らん顔していることに我慢がならない」と語っていた。
 鐘崎町漁協では273人の組合員のうち若手漁業者も多く、後継者が育っている。年配漁師たちは「わしらは学校出てから、漁師一筋で何10年と叩き込まれてきた漁業のプロ。だが、この歳になって陸に上がっても何もできない。道路の旗振りくらいしか仕事はない。若手には前途がある。漁業でボロ儲けできるわけではないが、夢を曇らすようなことはさせたくない」と思いが語られていた。
 有明海側のノリ漁業に従事する漁師たちのなかでも、秋口から冬場にかけて本格化するノリ漁業への不安が語られている。ここ数年は史上最高の豊作で品質としても申し分ないが、入札単価が下がっていて純利益そのものは落ち込んでいる。福岡県柳川市大和町でノリをつくっている50代男性は、「乾燥させる工程で1年間に2800gのA重油を使う。経費の2割にもなる。昨年から比較しても油代は跳ね上がっており、想像がつかない。平均して24〜25小間(1小間=網10枚)をつくっているが、1小間で水揚げが60万円程度なら厳しい。80万円ないと資材など経費がもたない」といった。
 諫早湾干拓の堤防が閉め切られ、海が変わっていることも漁師らは指摘する。プランクトンの発生するタイミングが、従来の季節によるローテーションではなく狂っているという。沖の海域も汚れていると懸念されていた。「私らは“有明海を死の海にするな“とたたかってきたが、国は強行してきた。漁業を守るための正念場。全国の漁師が危機感をもって行動していると思う」と語っていた。

 食料生産を担ってきた漁業 日本民族の死活問題
 国は漁業がかつてないピンチにあるとき、放置する姿勢をとっている。これは今にはじまったことではない。漁業者の高齢化と減少、水揚げ高の下降推移が近年は著しい。これは零細漁民の首を絞めた結果でもあるが、日本社会全般に共通する国内食料生産の切り捨て、グローバル化・規制緩和によって無政府的な産業破壊が進行していること、そのなかで生産者がどんなに苦労して働いても、見合った収入にならない現実におかれていることを物語っている。
 かつて世界でも突出した水産物輸出国であった日本は、今では世界最大の水産物輸入国になった。1965年までは国産魚介類のみで国内消費をまかない世界の国国へも輸出していた。それが為替変動相場制(外貨の通貨交換レートが自由に変化する)に移行した1971年を境に輸入国に転じ、その後70年代後半の200カイリ体制への移行によって、さらに輸入の拡大をすすめ、円高などの影響も加わって拍車がかかった。
 極めつけは1994年のGATT(関税と貿易にかんする一般協定)ウルグアイ・ラウンドの決定によってWTO(世界貿易機関)が設立されたこと。そこから、魚の値段は極端に下がりはじめた。国産魚を押し潰す勢いで入りはじめたからである。1994年以後の輸入量は300万dを上回る数値で国産魚を脅かしている。
 数字だけ見ればもはや国産魚はいらないほど溢れている。一方で国産供給量は1990年代初頭には100万dを割り減少。水産物輸入額は原油につづいて第2位に位置し、世界の水産物輸入総額の3分の1にあたるというから、破壊的な輸入といわざるをえない。そして、いかに日本人が魚を食べる民族であるかがわかる。
 日本の漁業者が歴史的に経験を蓄積し開発してきた漁業技術は多種多様におよぶもので、世界的にも突出している。網1つとっても形状が違えば魚の入り方もまったく違うといわれる。魚食文化の日本にあって、その食料生産を支えてきたのは漁師であり、霞ヶ関で「補助する、しない」と机上の計算ばかりやっている者にはとうてい考え出すことのできない、さまざまな漁法をあみ出し、日本民族の生存を下支えしてきたのも事実である。
 戦後の沿岸漁業の生産力を担ってきた昭和1桁世代の漁業者が高齢化、老齢化し、引退の時期に入ったことから、後継ぎの問題も深刻になっている。機械化されたといっても、伝統漁法の継承、漁場管理など漁師の果たしてきた役割は、素人が長靴を履いてカッパを着ただけではできない。
 漁業が国民全体の食料確保とかかわって、つぶすことができない産業であるなら、その育成と産業存続に最終的に責任を持って対処すべきは国家であることは当然のことである。燃料高騰にあたって、政府をして水産業の保護に乗り出すことは待ったなしであり、それは農業や物資輸送を担っているトラック運輸、海上輸送など、全産業分野とも共通している。ものをつくるという作業、生産する機能を崩壊させれば国が滅びることはわかりきっており、「なければ外国から輸入すればいい」というものではない。
 世界で食料危機が叫ばれる時代なら、なおさら自国の産業を守るのが当然であり、日本民族の死活にかかわる問題である。

トップページへ戻る