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萩に丸紅系巨大牧場進出
山口県・農家に知らせず
             国が4億円補助し1700頭規模   2013年2月18日付

 萩市では「強い農業づくり交付金」の名目で国から約4億円の補助金を受けて、島根県益田市にある松永牧場が1700頭規模の肉用牛を飼育する畜舎や堆肥舎などを建設中で、3月には完成予定である。下関市の肉用牛は全体で2871頭(2012年、県畜産調査)、山口県全体では約1万7000頭であり、1700頭という規模は一つの牧場で下関市全体の半分以上、全県下の1割以上の頭数を飼育するというこれまでにない規模である。下関市はもちろん山口県全体の畜産業にとって重大な影響が考えられるが、農家には県からの正式な説明もなく、計画自体を知らない農家が大半である。国から4億円余りの補助金、すなわち国民の税金を支出するのであれば、山口県全体の畜産業の振興にとって有益なものとなるのかどうか、検討がされなければならない。
 
 TPP対応で小規模の農家淘汰する国策

 萩市での牧場計画について、市の関係者の話では以下のようになっている。
 2011年の12月、民主党政府時代に、第4次補正予算が出て、農林水産予算で約250億円がつき、ある程度の事業計画を出せば「強い農業づくり交付金(国庫補助事業)」がとれるというので、市から島根県益田市の松永牧場に声をかけた。通常の農業補助金は最大でも1億円程度しかつかないが、今回は4億円規模だというので、松永牧場も手をあげた。
 松永牧場は益田市種市村で肉用牛約6000頭、乳用牛約300頭を飼育している。萩進出にあたっては、農業生産法人株式会社萩牧場(仮称)を新法人として設立する予定である。
 進出予定地は当初は倒産した旧農業生産法人キャトルファームの跡地を予定していた。ここは、須佐地域で一番大きな土建会社が経営していた種付け用の牛舎であったが、10年前に倒産して放置され競売にかけられていた。そこを松永牧場が2010年に取得していた。だが、面積が不足するということで、その後弥富中小川の旧みずほ農産の養鶏場が撤退した跡地に変更した。
 ここに1700頭規模の畜舎1棟、堆肥舎1棟、飼料庫1棟を建て、機械一式を整備し、総事業費11億円。国の補助対象となる事業費は8億円で補助率は50%で、国から4億円の補助金が出る。また、「5〜6人の雇用を計画」とか「黒毛和種の子牛は県内家畜市場から導入予定」などとして、地域の農家には「子牛価格が上がるのでは」との期待感を持たせようとしている。
 現在工事が進行中であるが、事業者も島根県から来ている。
 萩管内には約90軒の畜産農家があり、1900頭の肉用牛を飼っている。なかには一つの牧場で400頭規模のところもある。
 下関市内には約120軒の肉用牛を飼う畜産農家があり、2871頭を飼っている。山口県全体では、1万7000頭の肉用牛を614軒の農家が飼っている。県下の畜産農家は圧倒的多数が中小零細な規模であり、1700頭の規模とは格段の差がある。
 萩市の関係者は「問題は小さい個人の畜産農家を助ける補助制度はないということだ。国の施策は、大きい法人に援助するということになっているので、小さいところはつぶれていくしかない」と話している。
 油谷和牛生産組合の関係者は「大津、長門地域では、育成牛が846頭、肥育が169頭で1015五頭いる。そのうち油谷町が514頭で約半分を占めている。この地域では個人が5〜6頭飼っているところが多い。平成8(1996)年には120軒の畜産農家があったが、今は68軒しかない。平均年齢は70代。5年後には40軒ぐらいになるのではないかと思う」と話した。
 畜産業にかかわる補助金については「個人が受けることができる補助金では全農がやっている預託制度があるが、5年間が期限で返済しなければならないのであまり利用していない。市がやっている市有牛制度は安くて牛を手に入れることができるが、その牛は市のものなので生産者からするとあまりいいものではない。生産者は補助金をあてにしないでいこうというところに落ち着いている。市は法人には補助を出すといい、農家が4〜5人一緒に組んでやっているが、赤字になったときが大変。全体でかぶることになるので、全部が倒産ということになる」と話し、中小零細な畜産農家にとっては国の補助金を受けることは不可能であることを指摘していた。
 また、「松永牧場は国産牛ということだが、これは和牛とはまったく違う。アメリカで生まれた牛でも日本で育てれば国産牛として出荷できる。ホルスタインと黒毛和牛をかけあわせてできたものだ。3万頭を保有していた安愚楽牧場が倒産したが、松永牧場も経営はそんなに簡単ではないと思う。和牛を専門とする生産者たちは、黒毛和牛の数が増えるようにどうしていくかが一番問題だ。10年後に日本の和牛を守るということでいかなければならない。どこそこのブランドをというのでなく、日本の和牛をどう守り、どう残すかだ。そのために山口県全体で生産者が手をつないで頑張らなければと思う」と話し、山口県の畜産を振興することと松永牧場の進出は相容れないことを強調していた。

 薄利多売の企業化加速 全県畜産農家に影響

 下関市内では詳しい計画を知っている人はほぼおらず、うわさ話程度で語られている。市内の畜産農家は「松永牧場が子牛を飼うというが、繁殖農家は子牛を売る側なので値が上がっていいかもしれないが、肥育農家は子牛を買う側なので値が上がればやめていく農家も出てくるかもしれない」と話す。別の市内の畜産関係者は「松永牧場といえば、島根で6000頭の牛を飼っている。エサも独自ルートがあり、農協などの範疇にはない。個人の農家とはレベルが違う。大量の堆肥に種を混ぜて、高速道路の法面に吹き付ける事業で成功している。萩に牧場が来ることは豊北町の畜産農家はほとんど知らない。大きな流れで企業化が進んでいる」と話し、畜産農家とは別世界の牧場であることを話していた。
 また、市内の和牛繁殖農家は畜産業の現状について「牛が妊娠して子を産むまで9カ月。それから300日までに出荷する。300日を過ぎたら安くなる。小郡に家畜市場がある。そこに農協が持って行く。子牛1頭が雄で40万円、雌で35万円で売れるといい方だ。水田が一町歩あるので、牛の堆肥がいるのでそのために飼っているようなものだ。1年1産で、赤字にならない程度にぼちぼち続けている」と話した。
 F1(交雑種)専門の肥育農家は「大規模な牧場が萩にできれば、下に敷くおが屑需要などが増えていろんな資材が値上がりするかもしれない。今、小規模で高齢の夫婦がやっているところも多く、繁殖農家は減る一方だ。うちの牛は、生後1〜2週間の牛を酪農家から買う。雄7万円、雌が4万円くらいだ。それを24カ月育てて食肉市場に出荷する。F1はだいたいが大衆肉でスーパー向けだ。和牛は料理店などが買う。`単価は500円くらい違う。和牛は、9カ月くらい繁殖農家で育てられ、小郡の家畜市場に持って行かれる。この市場も昔は2週間に1回、2日間かけて開かれていた。それが今は45日(1カ月半)に1回の、1日間の開催になっている。市場に出荷する頭数がずいぶん減っている。農家自体が減った。畜産は厳しい。需要が減っているし、円安で飼料などが高騰するし、外国産はどんどん入ってくる。米国産牛肉も月齢30カ月未満が売り場に並んだ。大手の業者が薄利多売で頭数を増やしてもうけるということをやるから、小さい、頭数が少ないところは厳しくなるばかりだ」と話していた。
 山口県全体のすう勢を見ると、肉用牛の頭数は1998(平成10)年には2万952頭であったが、2012(平成24)年には1万7119頭になり、この間に3833頭減っている。農家戸数は2005(平成17)年に849戸あったものが、2012(平成24)年には614戸。235戸が廃業しており、畜産経営の厳しさを示している。
 経営難のおもな要因として農家が指摘しているのは、設備投資の資金が莫大にかかることに加え、トウモロコシや大豆かす、牧草など輸入に頼る配合飼料が天候不順や円安のために高騰していること、牛肉の輸入自由化でアメリカをはじめオーストラリアなど外国産の牛肉が大量に輸入され、肉牛の売値が下落し、採算があわないことである。2月からはBSE対策で輸入を禁止していた30カ月齢未満の米国産牛肉の輸入が解禁され、値下げ競争が煽られている。
 こうしたなかで山口県の畜産農家も厳しい経営に直面している。

 商社の安売り競争奨励 国民の税金投入し

 そこに島根県の松永牧場が国の補助金4億円を受けて、農業生産法人・株式会社萩牧場を設立して山口県に乗り込んでくる。
 松永牧場について萩市は「従業員は25人で、年間売上げ高は約18億円で、牛肉の販売やレストラン等を全国展開している」と紹介している。松永牧場は2010年に丸紅と提携している。丸紅はグループで飼料調達から飼育指導、食肉加工までを一貫しておこなうことでコスト削減をはかり、スーパー市場などを争奪するため、割安な国産牛肉の供給事業に手をつけた。独自のブランド名で、最初は中堅・中小スーパー向けを中心に月間80〜100頭規模で供給を開始し、初年度10億円の売上げを見込んだ。その相手先が松永牧場で、「石見牛」のブランド名で相鉄ローゼンで販売を開始した。店頭価格は、従来の和牛などに比べて2〜3割安く、取扱店を50店舗まで広げる計画である。
 丸紅子会社の日清丸紅飼料が松永牧場への飼料供給や飼育指導をおこない、そこが飼育した牛を食肉準大手のエスフーズ(丸紅が15%出資)が関東の工場で食肉加工し、スーパーにおろしていく。松永牧場は「牧場全体でゆくゆくは一万頭に増やしていきたい」と表明している。
 国は「強い農業づくり交付金」として農林水産予算から4億円を松永牧場に補助するというが事実上は、大手商社丸紅の関連牧場への補助金であり、丸紅の「国産牛安売り」競争を支援する補助金であるといえる。山口県の山本県政は、「県内で牛の頭数が減っているので、頭数増加につながることはいいことだ」として松永牧場の萩市進出を歓迎しているが、山口県下の畜産振興につながらないことは目に見えている。

 国民の食守る重大問題 TPP路線との対決

 「強い農業づくり交付金」はそもそも民主党政府がTPP(環太平洋経済連携協定)交渉参加を前提にして、それに対応した「強い農業づくり」を掲げてもうけた補助金である。その主旨は「大規模化と農地流動化を推進し、農地と担い手の絞り込みで“競争力・体質強化”をはかることによって、TPPに対応する“強い農業”をめざす」とするもので、「関税や非関税障壁の撤廃による自由化に耐え、さらには農産物輸出に挑戦する企業的経営」のみを育成し、それ以外の小さい農家や高齢農家は、早期の廃業に追い込むことを狙っている。中小零細な農家を根こそぎなぎ倒したうえで、アメリカ農産物を大量に輸入拡大し、農畜産物市場をあけ渡そうというものである。
 対米盲従の自民党安倍政府はTPP推進に拍車をかけようとしており、その布陣の一つが林芳正参議院議員の農林大臣就任である。
 山口県では04〜06年に山陽小野田市の埴生干拓地に農業生産法人・株式会社花の海(花卉やイチゴ栽培事業)が進出したが、そのさいも国は約19億円にのぼる総事業費の半分を補助し、その後も「物価高騰のため」などと補助金の上乗せをおこなった。花の海の代表は船方農場の坂本多旦氏で、農林水産省食料・農業・農村政策審議官の専門委員につくなど中央や地元出身の代議士との癒着の疑惑が高まった。06年からの第一次安倍内閣と重なる時期である。県下の花卉農家やイチゴ農家は県庁前でプラカードを持って抗議行動を何回もおこない、「なぜ株式会社にばかり国の補助金を出して小さな農家をつぶそうとするのか」と訴えた。
 今回は山口県出身の安倍総理大臣に林農林大臣とそろっており、大商社丸紅につながる松永牧場への四億円の国庫補助金の背景に政治家の力が働いているのではないかとも話題になっている。
 だが、松永牧場がたとえ1万頭規模に拡大したとしても、アメリカの規模に追いつくことはできない。全米での肉用牛飼育は9500万頭、日本は280万頭であり、丸紅傘下で一貫工程をつくったとしても洪水のように押し寄せてくる米国産牛肉との安売り競争に勝てる見込みはない。
 花の海の例を見ても明らかで、TPPに参加していない現段階でも、花卉類の輸入拡大などで経営は悪化し、その経営悪化を国の補助金で補填するという自転車操業が続いている。だが、国の補助金を受けた以上、県は倒産させるわけにはいかず、補助金をつぎ込むというむだ遣いをくり返している。牛肉にしても同じことで、米国産の牛肉輸入の規制が緩和され、これまで以上の量が国内市場に押し寄せてくる。さらにTPP交渉参加で、関税撤廃になればさらに低価格競争は激化する。萩市内の生産者は「松永牧場も経営は苦しい。今から二年ぐらいはもつと思うが、それからがどうなるかだ」と見ている。
 下関市内の生産者は「松永牧場もアメリカとの競争で勝てるわけがない。TPP参加で関税を撤廃して外国産がどんどん入ってきたら、日本の農業は畜産もコメも大打撃を受ける。食料を失った国は弱い。本当なら農家が徒党を組んで反対しないといけない。農家だけではない。国民みんなが一緒になって、日本の国のシステムを変えるような行動をしていく必要がある」と話している。

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