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  働く者の後継ぎ育むかけ算九九
上宇部小・佐藤氏の実践
           皆で高まる学級集団へ変化  2013年3月8日付

 鉄棒逆上がりや7分間持久縄跳び全員達成に続き、5年生でかけ算九九の全員達成に向けてとりくんできた宇部市立上宇部小学校教諭の佐藤公治氏から、この3カ月間の実践のなかで明らかになった子どもたちの成長や、父母から寄せられた感想をまとめた文章が本紙に寄せられた。1月25日付(7381号)の実践報告に続いて紹介する。

 三カ月経た実践 自分達で生活に根ざす文章題作る 親も本気で後押し

 かけ算九九100問にとりくんで、足かけ3カ月となる。40回を超えても子どもたちは「やったあ」「今度こそ」とファイトを燃やし続けている。今もなお色褪(あ)せず継続している大きな要因をのべてみたい。

 総合の時間に意義を深める

 1月25日付の長周新聞「かけ算九九全員達成めざす喜び」を総合の時間1時間かけて学習した。
 まず最初に「君たちがかけ算頑張っていることが新聞の記事になった。これはすごいことだと佐藤は思うぞ! 君たちの写真と何人かの感想が載っています」と新聞を広げて紹介すると、子どもたちが一斉に駆け寄ってきて「先生、見せて見せて」と押し合いへし合いになった。
 約30分かけて記事を読んだが、自分の感想になると「俺。俺」と嬉しそうに手を挙げる子。私が先に「これはA子の力作」と紹介して読みあげる子。「だれやだれや」といわれて恥ずかしそうに手を挙げる子など、子どもたちとあれこれやりとりして読み進めていった。
 子どもたちは友だちの感想について「作文の天才じゃあ」「ようあんなにまとまった文が書けるいや」「そういえば、感想と同じで僕も約分や通分ができてきた」と表面的なことをいいながら「ふーん、かけ算九九の練習はそういうふうに考えるんか」「間違えても間違えても、間違いの原因が分かれば次は間違えなくなるという文がズシーンときた」「なるほど、大人になったときに大事故や命にかかわるけー、うっかりミスをしたらいけんのか」「社会に通用するためにやっとるんか」「世の中の役に立つ人間になるためにかけ算しよるんか」「正確さや速さって大事なんやねー」など内容的に深いところで共感している。
 この授業で重要であったことは、子どもたちがそれまで一人一人バラバラな思いでこのかけ算プリントの意義をとらえていたことが、友だちの感想を学ぶことによって共通認識となり、かけ算九九の意義を飛躍・発展させたことである。この授業によって、子どもたちはかけ算九九の経験を理性化し、全員が自分のこととしてとらえることができた。だからこそ、子どもたちは何回も何回も挑戦していくのだと思う。

 親が感動もって取組を支持

 また、長周新聞を読んだ親もかなりいて、その記事で、かけ算九九100問の意義・クラスの子どもたちの成長や努力が分かり、親自身もかけ算九九に対して本気で子どもたちを後押ししようとしていることも大きい。

 親の感想

 ▼わが子が2年生のとき、担任の先生から「何で算数が嫌いなの?」と聞かれて「計算ができんから……」と答えたそうです。足し算・引き算・かけ算・わり算、この計算につまづくと子どもは算数が嫌いになるんですね。算数が嫌いになると勉強が嫌いになり、学校が嫌いになるんですね。小学校のあいだに計算ができるように徹底的に教え込んで欲しい、分からない子が出ないようにご指導していただきたいとずっと思っていました。1学期の鉄棒逆上がりの全員達成から子どもたちは勉強も意欲的になっていると思います。かけ算九九全員達成の記事を読み、驚き、感動しました。この全員達成を通して子どもたちが自信を持ち、いろいろなことにさらに成長していく姿が目に浮かびます。もっともっと多くの保護者にこのことを伝えていきたいと思います。
 ▼子どもからかけ算のことを聞き、新聞を読んでまずはじめに思ったのは「え 高学年の今、かけ算?」ということでした。ところが読み進めていくうちに、これはまさしく、鉄棒の逆上がりや縄跳びの持久跳びと同じだなと感じました。苦手だったことが苦手でなくなっていく。昨日までできなかったことが今日はできた! それ以上に個個の心の中でチャレンジしていくというプロセスが逆上がりや持久跳びの全員達成の時と非常によく似ているなと思いました。
 子どもたちの感想は印象的でした。お父さんやお母さんの一言に一喜一憂し、先生のかけ声に発奮し、それが飾らない言葉に綴られています。子どもたちが親や先生にしっかり成長を見てもらい、それを糧にかけ算九九の正解率やタイムをあげていく様子が手に取るようにわかりました。
 ▼私も娘も、とっさのかけ算に弱くお店に行ったときに親子でいつも苦笑いしています。私も実は暗算が苦手で、今でもときどき恥ずかしい思いをしています。娘も2年生のころにはイヤというほど練習してきたかけ算。学校はできて当然の前提で授業が進んでいくので、高学年になるとますますできる子とできない子の差が付いていくのだと思いました。
 新聞を読ませていただいて、子どもたちが嫌々とりくんでいるのではなくて、目標を一歩先に置いて、達成感を味わうことによってどんどん伸びていく。鉄棒や持久縄跳びで頑張る子どもたちの心理は勉強にも影響すると思いました。
 ▼子どもたちが、徹底的にかけ算を3分で100問やっているところをまのあたりにして、新聞の記事でも素晴らしいと思っていましたが、新聞では伝わってこない緊迫感と真剣さを感じ鳥肌が立ちました(参観日の授業で)。かけ算で自信を持つようになったら、何でもできるという自信が生まれ、その自信が新たなことへ挑戦していく起爆剤になるというのはとても大切なことだと思います。子どもたちの感想が、将来を見つめていることにも感動しました。こういう練習をしていただくことが、かけ算だけにとどまらず子どもたちの人間力(人間として持っている総合的な力)を高めていくことになると思いました。
 ▼何時も何か音がしていないと、落ち着かない子どもが増えていることを良く聞きます。うちの子もテレビやゲームの音の中で育てたと親として反省しています。しかしこの前の参観日で、しーんとして鉛筆の音だけしか聞こえない。すごい集中力と静寂に感動しました。どの子もみんなが輝いて見えました。家でも、子どもに同じことをしてみます。テレビもゲームも消して、集中して勉強する習慣を今から付けさせていきたいと強く感じました。
 など、親が大きな感動を持ってこのとりくみを支持していることが分かった。

 生産活動にかかせない九九

 「労働の基礎にあるかけ算九九」(本紙2月18日・20日)の記事のなかで、とくに「1反あたりの稲の数と田んぼ全体の稲の数を出すかけ算」「肥料・農薬を使うには、薬の調合が大切。その調合はかけ算がもとになっており、ここで間違うと稲は枯れてしまう」という農民の方のお話。農業だけでなくすべての生産活動においてかけ算九九が基礎になるという提案。「機械化・パソコンが発達しても最後には“読み・書き・そろばんが基礎”“かけ算九九ができないと商品管理や納品の仕事に就けない”」という労働者のお話などに心を揺さぶられ「これだ」と思った。
 もし数の概念がなかったら、人類はここまで生産活動・社会科学・自然科学を発達させることができなかっただろう。数の概念は生活に密着し、人間にとって必要不可欠なものである。農業・漁業・工業・商業などどれ一つとってみてもすべての労働と不可分に結びついていると思った。
 そして、子どもたちがかけ算を体得することがいかに生産労働を担うために重要な意義を持っているかを改めて強く感じた。だから勤労人民である親も、この知識の獲得を心から喜び支持しているのだ。「中学校に行ってもかけ算ができない子が多く、その子たちが学校で暴れる」という嘆きの声を聞くが、そういう子どもたちをつくらないためにも、この実践は重要な質を持っている。

 自ら文章題作る新たな挑戦

 この重要性や意義を考えたら、子どもたち自身にかけ算の文章問題をつくらせることは非常に大切であると思った。「やろう」と呼びかけたら、もうすでにかけ算九九100問も30回を超えて、自信を付けている子どもたちはきっと食らいついてくるという確信もあった。
 文章問題をつくろうとなれば、人間にとって不可欠な「数」に対して、より深く注意を払うようになるであろうし、親しみがわくであろうし、何よりもこういう鍛錬こそ、社会に通用する勤労人民の資質を磨くことになると考えた。
 ワクワクしながら子どもたちに提案してみた。「ねえねえ、今度は文章題に挑戦してみん? たとえば“佐藤先生は1日に授業中2本チョークを折ってしまいます。3日では何本折りますか?”なんてね。これはまじめな話になるけど、このかけ算は人類が発展するためにはなくてはならなかったもんなんぞ! 身の周りのことをいい表そうとしたら、絶対数字使うやろ。今日は何年何月何日? 君ら何年何組? 人間はこの数字を駆使していろいろな法則を発見し、社会を発展させたと思う。君らも今からこの社会を発展させるために、算数の問題をつくってみよー!」と元気良くいった。B4の用紙1枚を渡してそれに10問文章題を書いてくることをその日の宿題にした。
 次の日に子どもたちのつくった問題を見て感動した。1問ごとに友だちが登場する問題をつくる子。友だちに問題を分かりやすくしようと1問ごとに解説をつけたりカットや絵を描いている子。色まで付けている子もいた。
 問題例「6人座れる長いすが7脚あります。みんなで何人座れるでしょう」「A君は1日に3回先生にほめられます。4日では何回ほめられますか?」など、子どもたちは常に自分たちの生活に結びつけて問題を考えて一生懸命にとりくんでいたのだ。
 楽しみながらつくったと思われる子もかなりいたが、何回も何回も書き直して、苦労した子もいた。ある女の子はどうしていいか分からず、涙で紙がぐちゃぐちゃになったといってノートをちぎって、それに書いて提出した。(その後その女の子は友だちからヒントを得て、見事に10問文章問題を完成させた)。
 「2本で6円の鉛筆は4本では何円ですか?……これには多くの子が引っかかり6円×4本=24円とした。正解は12円」「ちょうちょが5匹います。足は全部で何本ありますか?……昆虫の足が6本ということがわかってなかったら解けない」「3週間は何日ですか」など引っかけ問題をつくった子はみんなから尊敬されたり、ブーブーいわれたりと実に楽しい。そこで佐藤は次のような問題を提示した。「イカ3ばいでは足は何本になりますか……聞くところによるとイカの足は7本とか8本とかいう子も少なからずいるらしいが」すると子どもたちは「イカの足はげそというのはわかるけど7本くらいじゃないん」などとまたワイワイガヤガヤなった。
 これらの問題をつくるにあたって、子どもたちは自分の持っている知識を駆使して、みんなが読んでも理解できるような問題をつくろうと努力した。また、親が相当な援助をしていることも子どもたちの話から分かった。
 友だちの文章題を解くということで、今まで文章題には苦手意識を持っていた子どもたちも、毎回楽しみながらとりくむことができるようになり、苦手意識も解消されてきている。
 この文章題を自分でつくることによって、子どもたちはまた一段成長したと実感する。 
 実生活を見直し、そこから問題を考えること。人に分かりやすいような文章を書くこと。文字、漢字を正しく使うこと。個数とか単位とかを正確に伝えること。これらの重要性を問題をつくることによってより一層考えていくようになった。そうでなければ友だちが問題を解けないからである。問題を解くには、文章や漢字が読めなくては困るし個数・単位を正しく式に表さなければならない。
 これまでに学んできた知識や、実生活から物事を考えることが重要になってくる。今練習している力は、今度はいろいろな文章題に出くわしたときにきっと生きてくるであろうと期待している。友だちの手作りの楽しい問題を、楽しみながら解いていって、文章題に慣れ、個数や単位に注意するようになれば、実生活をよりリアルに見ることができるようになる。そのことが真実・真理を見極める力、ごまかしを見破る力にまで発展するであろうと期待する。

 団結し問題解決する力倍増

 12月からかけ算にとりくみ、長周新聞を学習して目に見えて変化したことがたくさんある。
 1つ目は、子どもたちの精神が解放されてきて底抜けに明るい学級集団に変わったということである。友だちができないことを決してからかったりバカにしない。できない子を一生懸命援助し応援し、その子ができるようになると全員が飛び上がって喜び合う。日ごろはわいわいがやがややっていても、ここ一番の真剣勝負になると集中力や団結力を発揮して、みんなの力で奮斗して問題を解決していく(いろいろな生徒指導上の問題の解決もそうなのである)。そういう力が倍増している。
 2つ目は、学習量である。「今まで宿題以外の勉強などしたことがなかった。けれどかけ算九九をとりくむなかで、宿題以外の勉強もやってみたらおもしろい」。このことがみんなの共通の思いになり、家庭学習が今までの3倍になった。(漢字・計算はもちろんのこと、社会事象への関心・科学事象への関心・言語への関心・家の手伝いなど、今までより多岐にわたって豊かに勉強してくる中身が変化した)。丸付けするのが今までの3倍かかるのが教師として嬉しい悲鳴である。
 3つ目は一心不乱に物事に集中してとりくむ習慣が付いてきていることである。シーンと静まりかえって学習することは苦手な子どもたちであったが、いろいろな教科で、何も物音を立てることなく10分〜15分くらい集中する場面をよく目にするようになった。机の上が乱雑では真剣勝負ができないと、これまでぐちゃぐちゃであった子どもたちの机周辺や机の中が見違えるように整理されてきている。
 4つ目としてあげられるのが、体育面への発展である。今、6分間持久縄跳び(5年+1分)の全員達成に向けて朝・昼休みと練習しているところであるが、練習すれば必ず効果が表れると信じ、まじめに練習にとりくむ。1分前後で引っかかっていた子どもが、何人も何人も6分達成していっている。知育と体育と徳育が密接に関連しているということが実証されている。
 5つ目は、クラス全体がものの準備や作業・掃除などが素早くテキパキとできるようになったということである。1月のある日にこんなことをいった。「君ら3分でかけ算が100問できるんぞ!3分あったら相当なことができるという事じゃろ。た〜らんた〜らんしとっても3分。真剣にやっても3分。3分を意義あるものにするためにはどっちがええと思うや?」。この言葉は、3分真剣にかけ算にとりくんでいる子どもたちにはビンビン響いたようだ。
 給食当番で並ぶ時間が短縮され、配膳が短縮され、掃除のとりくみの真剣さが増し、同じ時間でもきれいにする箇所が数段増えた。着替え・身支度の時間が短縮されてきている。これこそ働く人たちの段取りの良さや能率の良さに直結することである。たくましい勤労人民としての資質を身につけていると嬉しく思っている。

 まとめとして

 かけ算100問・文章題にとりくんで、子どもたちの生活全般が変わってきている。ものの見方・考え方、いわゆる徳育面での成長が大きい。知育での成長・体育での成長が徳育をより豊かなものにしていく。これらが相互に密接な関係性を持ちながら発展していくことが、子どもたちを見ていてよくわかる。
 働く者の後継ぎとしての資質を持ち、社会に出て通用する力を、子どもたちに身につけさせてほしいと親は心から願っている。
 その基礎にあるのが「読み・書き・そろばん」であり、かけ算九九なのである。やればやるほど成果が上がり、教訓も豊かになる。引き続きかけ算九九100問・文章題に旺盛にとりくんでいきたいと思っている。

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