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貧困層生かさぬ市場原理
アメリカ・超大型ハリケーン
                避難手段もない黒人       2005年9月6日付
 
 超大型ハリケーン「カトリーナ」に見舞われたアメリカ南部は、社会基盤の脆弱性と、貧困層が露骨なまでに切り捨てられている超大国・アメリカの現状を見せつけている。テレビに映し出されるニューオーリンズ市の困窮市民は貧困層の黒人ばかりで、屋根の上で助けを求めたり、避難バスに殺到して乗りこもうとしている姿は難民そのもの。車も金もなく逃げることができなかったアフリカ系市民は、極限状況を生きぬくために食料や医薬品を求めて暴れ、それを鎮圧するために装甲車が走り回り、イラクから帰還した州兵を大動員。原子力空母までメキシコ湾に配置するなど、支配層は事態を沈静化させるために躍起になっている。市場原理、新自由主義をやりまくって富裕者がうみ出される一方、生命すら切り捨てられる圧倒的な貧乏人国家・アメリカの姿をさらけ出している。小泉首相らが、このアメリカのような国に改革しようという日本も、人ごとではない。

 追打ちかけた堤防決壊
 今回のハリケーンで被災した地域は、ミシシッピ州やルイジアナ州、メキシコ湾沿岸などアメリカ南部の約23万3000平方`とされ、日本の本州に匹敵する規模とされている。犠牲者の数は「数千人」としか発表されていない。
 市内の8割が水没したルイジアナ州ニューオーリンズ市では、マイカーを持つ中流階級は逃げたが、10万人以上の貧困層は避難する手段がなくとり残された。湾岸地域の貧しい人人も同様の窮地におちいった。ニューヨーク・タイムズ紙は、発生が月末だったために、政府の生活保護手当が支給される月はじめまで貧困家庭には逃げる資金がなかったと報じた。
 ワーカーズワールド紙によると、ニューオーリンズ市のドーム球場は市外へ避難することができない住民にとって最大の避難場所になったが、3万5000人の住民が待ち並んだのにたいして、入場が認められたのは約9000人。他の住民は追い返されて、自宅で嵐を乗りきらざるをえなかった。暴風雨で建物は倒壊し、多くの住民が屋根や樹木の上に避難した。ミシシッピ州ハリソン郡では少なくとも100人が死亡し、犠牲者はふえつづけていると伝えられている。ニューオーリンズ市では六b以上の高潮に見舞われた地域もあった。
 カトリーナが過ぎ去って一安心した翌日、人人は救援物資が不足していたため、食料品や生活必需品を求めて小売店に殺到。ドーム球場の食料品も在庫が底をついた。
 そこに追いうちをかけるように、8月30日にはニューオーリンズ市の北側のポンチャートレーン湖の堤防の一部が決壊し、東側の運河の堤防も崩壊。両側から挟まれるようにして市街地に濁流が押し寄せ、住宅被害と住民の犠牲はさらに拡大した。市街地は海抜五b以下と海面よりも低い土地で、町を囲む堤防は命綱だった。
 年寄りを運ぶ黒人の若者、スクールバスのハンドルを握って避難民を脱出させる黒人青年など、必死の映像が流れた。政府が水も食糧も、医薬品も持って来ないなかで、また救助にも来ないなかで、生きていく限界におかれた黒人たちが怒るのも当然であった。コンベンションセンターに避難した市民の「われわれはまるで動物だ。なんの助けもない」という訴えをAP通信は伝えた。
 地元警察も機能まひ。襲撃を恐れて警察バッジを返上する警官が続出。「警察官が必要なものは持って行っていいといったのよ」とこたえる老婦人、「わたしたちは生きていくために奪うしかないんだ」という黒人青年、黒人の婦人警官二人組がスーパーマーケットからいっしょに物品を持っていく姿まで映し出された。武装して薬などを求めて医療機関に押し入るケースなどが報じられた。
 「無政府状態」が広がるなか、警官が射殺されたり、当局のヘリコプターが銃撃されたり、貧乏人の怒りの大きさをあらわした。

 軍隊出動で鎮圧に躍起
 ニューオーリンズのネーギン市長は「命がけのSOS」を発信。ルイジアナ州知事は、ニューオーリンズに応援に来た隣接アーカンソン州の州兵部隊にたいして、「暴徒」鎮圧のために非常の場合は射殺も許可されていると伝えた、と通信社は報道。イラク帰還兵の州兵まで出動して、救出するまえに鎮圧した。災害救助のために出動するはずの州兵はイラクやアフガンに行っており、大幅に人員が不足していることも伝えられた。
 米政府は即座に原子力空母ハリー・トルーマンをメキシコ湾に派遣することを決定し、武力鎮圧の体制を整えた。装甲車が走り、鉄砲を持った兵士が街の角に立っている様は、イラクの戦場と変わりない様相を呈した。
 夏休み中(約一カ月)だったブッシュは休暇先の農場から「避難しなさい」と事前勧告を出すだけのノー天気ぶりだったが、事態が深刻な様相を見せはじめて大慌てとなった。

 天災助長した護岸対策
 その後の報道で明らかになったことは、米連邦政府や州政府は五年まえからハリケーンによる災害規模を想定し、机上演習までしていたことだった。昨年、連邦緊急事態管理庁の肝いりでおこなわれた演習では、堤防から水があふれて100万人が避難し、市民の半数が屋根の上にとり残されると想定。車を持たない貧困層や高齢層約10万人は避難がむずかしいと、まったくウリ二つの事態を確認していた。だが、予算措置は講じられず対策はなされないままだったことをニューヨーク・タイムズや地元紙は伝えた。
 ニューオーリンズ市では、今年は多くのハリケーンの接近が予想されていたにもかかわらず、財源不足を理由に治水関連予算が7100万j(約78億円)も削減されていた。堤防の老朽化は長年議論されていたものだった。
 ワーカーズワールド紙は「護岸工事が十分におこなわれていたなら、住民の犠牲はくいとめられていた」と指摘し、護岸工事費は140億jと見積もられていたにもかかわらず、ブッシュ政府が120億jに引き下げるよう州政府に圧力をかけ、これまでに3億7500万jが割り当てられたにすぎない、と報じた。アフガン・イラク戦争に注ぎこむ戦費の方が国家予算のなかで優先された背景はいうまでもない。天災を人災が助長した格好となった。

 足元から揺らぐ超大国
 ハリケーン襲来によってあぶり出されたのは、国内の貧困化がすさまじく、階級矛盾が激化しているアメリカ社会の現状だ。市場原理によって富める者はますます富み、わずか1%の人口が、国全体の富の42%を所有する国・アメリカ。その外側の圧倒的な貧乏人はハリケーンで死のうが「貧しいおまえの自己責任」といった調子で、「小さな政府」の本家・アメリカでは、国家が国民の面倒すら放棄していることを見せつけている。
 アメリカでも有数の貿易港だったニューオーリンズ市には、19世紀まで全米最大の黒人奴隷市場があったことから、六割近くがアフリカ系とされる。今回見殺しにされた黒人たちの多くが、史上最大の拉致事件によって人身売買されてきた黒人奴隷の子孫にあたる。
 そうした貧困層を国内で食えない状態に置いたものが、民主主義と自由を守るといってイラクやアフガンに侵攻して国外を略奪して回り、日本はもちろん、世界中から金を巻き上げているのが市場原理・新自由主義の実態にほかならない。
 国内の批判世論に慌てて予算措置を講じた今回、「小さな政府」は結局高くついた。国民の生命をないがしろにし、養うことすら放棄した超大国は足元から揺らいでいることをものがたっている。

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