トップページへ戻る

風評騒ぎで米も牛も暴落
福島・東北現地取材
               国益守る生産者の復興妨害    2012年9月10日付

 東日本大震災と原発事故から1年6カ月たった福島県内では、果実や野菜、米など農産物の出荷時期を迎えている。昨年のこの時期、米をはじめ県内の農産物の一部から基準値を超えるセシウムが検出されたことで出荷停止や作付け制限があいつぎ、さらにすべての「福島県産」を敬遠する風評被害で価格の暴落や売れ残りが深刻化。「福島県産は危険」「セシウムの半減期は30年」と絶望的な空気が煽られるなか、農業者たちは結束して農地の除染作業をはじめ、「福島県産」の信頼回復に向けた努力をおこなっている。原発事故から2年目の収穫期を迎える農家を取材した。
 
 TPP誘導の国策に怒り噴出

 福島県は、農業産出額全国4位の米をはじめ、野菜、果樹、畜産など多数の品目で国内有数の生産をあげている農業県。だが、昨年3月の福島原発事故で飛散した放射能によって全品目で価格が暴落した。たとえセシウム検査をして安全性が確認されたものであっても「福島県産」というだけで買い手が付かない風評被害によって壊滅的な状況に追いやられた。
 とくに主力である米は、昨年の調査で1`あたり500ベクレルを超える放射性セシウムが検出された3市(福島市、伊達市、二本松市)の九地区で作付けが制限されたのをきっかけに価格が半額近くまで暴落。農協が買いとりに応じたものの、米市場は「福島県産」を敬遠し、農協の倉庫には行き場のない米が山積みにされる状況となった。
 今年になって政府は、食品における基準値を500ベクレルから100ベクレルへと切り下げる一方、農家に対しては放射能対策についての明確な指導はおりず、「福島」というだけで売ることができない現実に直面した県内の農家は、春先の田植え前にセシウムを吸収するゼオライトやケイ酸カリウムを田に投入したり、30aの深さまで掘り返して表土を埋める反転耕などの除染作業を自力でおこなった。マスコミによって果てしもなく放射能の恐怖だけが煽られる混乱のなか、「たとえ微量でも検出されたら信頼は回復できない。農業の衰退は地域の衰退。生産者があきらめたら終わりだ。知恵を振り絞って復活させるしかない」という一歩も引けない生産者の強い決意があらわれていた。
 さらに今年は県が主導して県内で生産される米の全袋検査の実施を決定。農協出荷、直販、自家消費に至るまですべての米を30`の袋に分けて各市町村に設置されたベルトコンベアー式検査機にかけ、安全性(100ベクレル以下)が確認された米には検査済みのシールを貼り付けていく。安全性実証のためとはいえ前例のない膨大な作業となるため、作業手順から出荷に至るまでの日数など不透明な部分が多く、農家と行政のあいだで話しあいが続けられている。

 諦めぬと田耕し続ける 作付け制限の中でも

 米の収穫期を迎えた福島県内では、たわわに実った稲穂が風に波打つ光景が広がり、今月末から始まる収穫を待つばかりとなっている。
 伊達市保原地区で米を作る70代の男性は、「今年は全袋検査になっているが、どういう結果が出るのか気が気でない。この辺りは粘土質で地力があり、コシヒカリでも一等米として1俵(60`c)1万3000円くらいの高値で取引されていた。ところが昨年は、一部の地域から基準値超えが出たことで、安全な米であっても1俵が5、6000円の半額以下にまで下がった。ただでさえ農機具も燃料も値上がりするなかで、米の値段だけはどんどん下がっていく。そのうえ、セシウム汚染が加わって“もうやっていられない”と絶望してやめていく人もいた。でも、農家が米作りをやめたら、この辺りは草が生い茂り、水路の整備もされなくなって人が住めない町になる。地域の存亡にかかわる問題だ」と話す。
 兼業する畜産でも、牛の飼料にする稲ワラからセシウムが出た騒ぎを発端にして、700`もある牛が子牛よりも安い値で売られていくというひどい値崩れだという。「1キロあたり2500円だった牛が600〜700円という半値以下になったままいまだに下げ止まりしている。この状況が続けば畜産業も壊滅するのではないか」と憤りを語った。
 同じく作付け制限された二本松市の農業者は、「セシウムが検出されたのは、山間にあって土地が痩せているうえに、肥料をやらず、原発事故後も山水をかけていた一部の田からで、きちんと田を管理さえすればセシウムは米に吸収されない実態がはっきりしている。とくに土壌が粘土質で地力のある田からは検出されていない。地域の農家で“試験的に作らせてくれ”と談判しても、県からは“作ってもいいが青田刈りする”といわれ、農家は手足がもがれた状態。“福島の復興なくして国の復興なし”と口先でいうだけでまったく先が見えない」と怒りを語る。だが、作付け制限されても、田を1年放置すれば稲作ができなくなるため、トラクターで耕す作業を欠かしたことはない。
 「諦めたらそこで終わり。たとえ金をもらっても農家が田を捨てたら生き甲斐も捨てることになる。国はTPP参入にもっていくつもりだろうが、農薬漬けの外国産よりも検査した福島産の方が絶対に安全だと自信を持っていえる」と話した。
 労力をかけて安全管理を徹底し、「安全でも売れない」という風評被害に農家が苦心するなかで、流通資本による買い叩きも露骨なものになっている。
 二本松市の野菜農家は、「この地域のキュウリは東京築地でも一流品として扱われ、通常5`1500円の値が付いていた。ところが、昨年は半額以下の700円に下がり、今年も600円という今まで経験したことのない暴落状態が続いている。名産の菊も一番競りから外されて半額になり、業者に資材や燃料費も払えない状況。ところが、イトーヨーカドーなどのスーパーに行けば、私たちが1本6円で卸したキュウリが他県産と同じ42円で売られていて唖然とした。福島県産というだけで生産者からは安く買い叩いて、市場では“福島支援”といって通常価格で売るというビジネスになっている」と指摘した。
 稲作と畜産を営む男性は、「流通業者のあいだでは、福島県産は今や一番もうかる作物になっている。スーパーや業務用では、産地の明示義務がないので福島県産も“国産”として店頭に並べられる。生産者から買いとる段階では、セシウム検査を徹底しても“福島県産は売れない”とさんざん文句をいわれて安く買い叩かれ、売る段階では一般と変わらない値段で売るという流通業者による相場操作が米から肉牛、野菜に至るまで共通してやられている」という。「日本の食料事情をみると、米以外で100%という品目はない。いくら買い手市場といっても福島県産をシャットアウトした状態を続ければ市場は持たなくなる。政府は、これを契機に輸入品を増やしてTPPに持って行く腹づもりだろうが、国内農業の存亡にかけて福島県産の信頼を回復させないといけない」と語った。
 また、1年半にわたって人の手が入らない20`圏内では、草が人の背丈まで生い茂り、異常に繁殖したイノシシなどが二本松や本宮などの農村部にも進出して農作物を食い荒らす被害が頻発しており、「農業を潰せば県内全体が同じようになる。周辺地域から復活させて制限された区域を狭めていかなければいけない」と語られている。

トップページへ戻る