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ふざけたミサイル避難訓練
米軍基地と原発のない街ばかり
              戦争動員のため国民弄ぶ   2017年6月21日付

 「X国の弾道ミサイルが落下した」という想定で、内閣官房が号令をかけて全国各地の自治体で住民避難訓練をさせている。学校の校舎や建物の陰、草むらなどに頭を抱えて伏せている住民の姿がニュース番組等で映し出され、まるで現代版・空襲警報訓練のような様相を呈している。七二年前とは比較にならないほど兵器レベルが向上した現代において、ミサイルが撃ち込まれればひとたまりもないことは誰でもわかる。ところが、「机の下に潜る」等等の現実離れした避難方法を説き、真顔でやらせているのである。こうした訓練はミサイルの標的になるはずがない田舎の自治体が多く、北朝鮮が名指ししている米軍基地を抱える自治体では控えている。あるいは、パニックに陥るであろう大都会や原発立地自治体でもおこなわれていない。「原発や米軍基地があるから標的にされるのだ」という世論が該当自治体で浸透することは避けつつ、その他の地方都市から「ミサイルが飛んで来る!」と仮想敵への脅威を煽って動員体制を強めているのに特徴がある。国民を戦時体制に組み込み、慣れさせることに最大の眼目があることを暴露している。

 事態を回避する外交努力が先

 山口県内では阿武町で五日、内閣官房、消防庁、山口県と合同で、全国で二番目となる「弾道ミサイルを想定した住民避難訓練」を実施した。約3500人の住民のうち283人が参加したこの訓練は、「午前9時15分にミサイルが発射された」ことを想定した。
 日曜参観日で校庭の清掃作業をしていた阿武小学校の児童、保護者、教員のほか、訓練日にあわせてグラウンドでゴルフをしていた住民や役場関係者などは、発射から3分後に防災行政無線で放送されたミサイル発射情報と避難の呼びかけを聞き、一斉に屋内避難先(阿武中学校体育館、阿武町役場、阿武町体育センター)に避難した。発射から八分後には、ミサイルが中国地方山口県周辺に落下した可能性があるため、ひき続き屋内に避難するようにと呼びかけがあり、内閣官房参事官と町長の講話を聞いて午前9時30分ごろに訓練は終了した。若干15分ほどのものだった。
 同じ日、光市全域や防府市玉祖地区でも「X国から弾道ミサイルが発射され、わが国に飛来する可能性があると判明」したことを想定し、防災行政無線による情報伝達訓練があったが、住民動員型は今のところ阿武町のみだ。県内初・全国2番目の訓練に参加した阿武町民らは、北朝鮮との関係悪化で日本にもいつミサイルが飛んで来るかわからない状況になっていることへの危機感を持ちつつ、事前にミサイル発射時間を知らされて、みなが集まった状態からの「避難」という非現実的な訓練への疑問も語っていた。同時に、「なぜ阿武町だけが訓練するのだろうか?」という思いを抱きながら避難した住民も少なくなかった。

 岩国市は情報伝達訓練

 今年3、4月、朝鮮半島情勢は緊迫し、一触即発の事態ともいえる状況がもたらされた。そもそもの発端は、米軍が過去最大の35万人を動員した米韓合同軍事演習を展開し、トランプ大統領が「先制攻撃も辞さない」として原子力空母ロナルド・レーガンを派遣するなど、軍事挑発をエスカレートさせたことが背景にあった。それと連動して安倍政府は、北朝鮮への経済制裁延長を決めたうえに「敵基地攻撃能力の保有」を急ぎ、全面戦争をも辞さない構えを見せた。こうした動きのなかで反発する北朝鮮は「ミサイルの標的は在日米軍基地」と表明するなど、終わりなき挑発合戦がエスカレートする危険性が増した。
 こうして緊張状態がつくり出されるなかで、国内では3月に秋田県が男鹿市で「X国」(北朝鮮)の弾道ミサイル着弾を想定した訓練を実施したのを皮切りに、避難訓練がたけなわとなってきた。4月に内閣官房が都道府県の防災危機管理担当者を集めて訓練を実施するよう号令をかけたのを受けて、5~6月にかけて青森県、山口県、山形県、広島県、新潟県などが実施した。今後、静岡県や長崎県も計画している。
 しかし、実施した自治体を見ると、青森県はむつ市大秦浜町、山形県は酒田市西荒瀬地区、広島県は福山市、新潟県は燕市、福岡県は吉富町と大野城市などで、北朝鮮が「標的にする」といっている在日米軍基地を抱える自治体や原発立地自治体での開催は皆無である。農漁業を基幹産業としている山口県の阿武町にいたっては、北朝鮮なり「X国」が狙うような施設もなければ住民もおらず、まともに考えると攻撃側にとってはミサイルの浪費にしかならない。むしろ戦争になれば都会人の疎開先に選ばれるであろう地域といえる。ところが、現実的な視点や意見が憚られるような勢いで、小さな田舎町において「国民の生命を守るため」の訓練が実施され、物いえぬ雰囲気で住民を動員していく。
 山口県の場合、北朝鮮が名指ししており、もっとも標的になる可能性が高いのは米軍基地のある岩国市だ。朝鮮半島情勢がもっとも緊迫した時期には、岩国市内の行政関係者のなかにも緊張が走っていた。しかし、今月27日に予定されている岩国市での訓練は、午後3時に市全域を対象に防災行政無線で情報伝達訓練をおこなうだけで、住民を動員した避難訓練は予定していない。隣接する和木町も防災行政無線での町内一斉放送で「弾道ミサイル発射を想定した伝達訓練」を実施するのみ。「基地があるから標的にされる」「住民が巻き添えにされる」といった世論が広がるのを恐れ、こちらは当たらず障らずで何もなかったような顔をしている。
 同市では避難訓練がないことから、通津小学校が独自で23、27日の2日間にわたり避難訓練を実施する動きにもなっている。「北朝鮮が米軍基地をミサイルの標的にするといっている」ことに危機感を深めた学校独自の判断のようで、同時に1945年の岩国空襲体験者の話を聞くことも予定しているという。
 新潟県は「原発立地県で初めての訓練」と報じられたが、実際に訓練があったのは柏崎刈羽原発の立地自治体である柏崎市や刈羽町ではなく、燕市渡部地区だった。同地区は柏崎刈羽原発から30㌔圏内にあたるが、ミサイル着弾にともなう原発の異常といった最悪の事態を想定した訓練は見送った。この地区は一面に田畑の広がる田園地帯で、頑丈な建物もない地域である。訓練に参加した住民は、サイレンが鳴り響くと農作業の手を止めて、爆風や熱風から身を守ることを想定して、田んぼ脇のコンクリートの用水路の中や草むらに頭を抱えて避難し、屋内の住民も座布団を頭に当てるなどしたのだという。そのほかの市町村は緊急情報ネットワークシステム(エムネット)で国と情報共有する訓練をした。柏崎市など11市村で、メールや防災行政無線で住民への情報伝達訓練をしただけだった。
 今後は、7月末には長崎県雲仙市で「武力攻撃事態」を想定した国民保護法にもとづく実動訓練をするといっている。国が長崎県に共同実施を申し入れたものだ。この訓練はこの間おこなってきた住民の避難訓練が主体の訓練とは性質が異なり、自衛隊や警察、消防、自治体が参加して有事のさいの役割分担なり動きを確認するという。04年の国民保護法成立以来、テロなど「緊急対処事態」を想定した訓練はおこなってきたが、初めての「武力攻撃事態」に備える訓練となる。
 また、静岡県下田市や富山県高岡市での避難訓練が予定されているほか、山口県では16日に19市町の防災危機管理担当者を集めて避難訓練の研修会を開くなどしており、今後、未実施の自治体でも避難訓練を広げていこうとしている。

 標的にされるのが前提

 北朝鮮なり「X国」が日本にミサイルを撃ち込む可能性があるというのであれば、まず撃ち込まれる前提で逃げる訓練をさせるのではなく、そうした事態を回避させる外交努力をしなければ話にならない。平和外交による話し合いの努力もなく、米国と北朝鮮の矛盾関係に首を突っ込んで喧嘩腰外交をくり広げ、日本列島が米国本土防衛の盾にされることほど愚かな道はない。
 東アジアの軍事的緊張の背景に米国の存在があることは歴然としたもので、日本の米軍基地を足がかりにして、この地域に軍事的な恫喝を加えてきた関係だ。朝鮮戦争であれ、ベトナム戦争であれ、アジアで起こした戦争はみな日本から出撃していったし、対中国や対ソ連の最前線の防波堤として対米従属の鎖につないできた関係だ。今回の北朝鮮ミサイル騒動についても、そもそもの発端になったのは過去最大の米韓合同軍事演習であり、そうした脅威に対抗して北朝鮮が開発に勤しんでいるのは米国本土まで届くICBM(大陸間弾道ミサイル)である。その矛先はアメリカそのものに向いている。従って、「狙われる」「ミサイルが飛んでくる!」と騒ぐ以上に日本政府がしなければならないことは、「東アジアで揉めるな」「われわれの国民が巻き添えになるではないか」といって米国も含めて緊張を抑制させることである。ところが、もっけの幸いで「ミサイル避難訓練」を実施して国家総動員の地ならしをやり、さらに防衛費を増額して米軍産複合体へ貢ぐ体制を強めようとしている。戦争や恐怖を弄んではしゃいでいることに特徴がある。都会や原発立地自治体、さらに米軍基地の街で訓練をしないのは、実際にはミサイルが飛んでこないと確信しているか、飛んできても知ったことかと思っているかのどちらかといわなければ説明がつかない。
 阿武町を狙うような国が世界でどれだけ存在しているのか、まともに考えれば誰でもわかることである。しかし、「バカげている」の一言がいいにくい雰囲気をつくって有無を言わさず住民を丸ごと総動員してしまう。これは特定秘密保護法、共謀罪、盗聴法、有事法制など一連の戦争法案を強行して目指している社会というのがいかなるものかをあらわしている。
 いまや日本列島が世界の国国から標的にされるような国に成り下がったことを為政者の側が承認し、標的にされることを前提に空襲警報の整備や避難訓練をやり始めた。しかし、米軍基地や関連施設を100カ所以上も抱え、原発は五四基も林立し、化学コンビナート群もたくさんある日本列島は、真面目に考えても考えなくても戦争ができるような国土ではない。従って、アジアの近隣諸国と喧嘩腰外交をして孤立するのではなく、友好平和の関係を築いていくことがもっとも争いを遠ざける道であり現実的な選択肢である。米国の尻馬に乗って地球の裏側まで恨みを買いに行かなければ、親日的といわれる中東の人人からテロの標的にされることもない。
 為政者が戦争に対して前のめりになり、ミサイルが飛んでくることを承認して国民が逃げ惑うような社会ではなくミサイルなど飛んでこない当たり前の社会にするかどうかが問われている。平和主義、主権在民、基本的人権の尊重といった戦後勝ちとった国是を投げ捨てた先にあるのが、空襲警報が復活するような戦時国家というのでは、天皇制軍国主義のもとで安倍晋三の祖父たちの過ちによって運命を翻弄された320万人の霊は浮かばれない。72年前の大戦に対して反省もなく開き直った戦争狂いに対して、それを押しとどめる力を全国で強めることが重要な課題となっている。

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