トップページへ戻る

医療崩壊させる独法化
下関市立中央病院
               生命預かる病院を営利企業に    2011年3月2日付

 下関市立中央病院をめぐって、中尾市長は3月議会に独立行政法人化に向けた定款を提出しようとしている。これまで民間委託、市外発注をくり返している中尾市長が、旧下関市内で唯一の公立病院である市立中央病院も市から切り離し、営利を追求する企業とするというのである。これに対して中央病院の看護師で組織する下関市職員労働組合医療評議会は、「患者の生命と健康を守るのが私たちの使命であり、目先の利益追求第一では地域医療は成り立たない」として、3月議会を前に全議員に手紙を送った【要旨別掲】。下関市立大学では独法化した結果、教育のわからない天下り役人が私物化して教育を崩壊させる事態となっているが、これが医療現場となると患者の生命にかかわる問題であり、全市民にとっての重大問題である。
 中央病院の独法化は、一昨年12月の文教厚生委員会で中尾市長が突然「平成24年4月から独法化する」と宣言し、それに向けて急ピッチで準備が進められてきた。現在、看護師など病院職員との話し合いを形だけ持ち、決着がつかないままこの3月議会で強行しようとしている。
 中尾市長が3月議会に提出しようとしている定款は、名称を「独立行政法人下関市立市民病院」とすること、事務所を下関市に置くこと、役員体制として理事長1人(市長が任命)、副理事長1人、理事5人以内、監事2人とすることなど、組織の概要を定めるものだ。法人が解散する場合があることも視野に入れ、解散時に債務を弁済して残余財産があるときには下関市に返すことも規定している。
 2004年に国が国立大学附属病院の42病院、国立病院(146病院、下関市内では現在の関門医療センター)、労災病院(35病院)を独法化した。2007年末、総務省が「公立病院改革ガイドライン」を公表し、それに沿って各自治体に公立病院の再編計画を求めたことから、公立病院の独法化が始まった。病院の経営に対して数値目標を設定し、例えば病床利用率が「過去3年間連続70%未満」の場合、ベッドの削減や診療所への転換など経営合理化を促すとしている。
 下関市でも2009年に「市立病院改革プラン」がつくられた。市立病院3病院(中央病院、豊浦病院、豊田中央病院)の平成19年度決算で2億9000万円の赤字決算とされ、財政再建のため各病院で具体的な改善目標数値が設定された。中央病院では病床利用率の最終目標を85%とすることや、入院日数を短くして回転率を上げること、患者数を増やすこと、経費削減など細かく目標数値が定められるとともに、病院の再編と経営形態の見直しが開始され、独法化に至った経過がある。
 先日、看護師など病院職員に対する当局の説明会が開かれたが、参加した看護師は「独法化したら7対1看護も実現するし、経営もよくなる。市議会に縛られずに自由に経営できるなどバラ色の説明ばかりがされたが、だれが病院に責任を持ち、どうなっていくのか具体的な説明はまったくなかった。命を預かる病院に対して無責任にもほどがあるし、こんな姿勢で独法化したところで看護師が集まるとは思えない」と語る。
 旧下関市内の総合病院は、市立中央病院、済生会、厚生病院、関門医療センターで、旧郡部に市立豊浦病院(指定管理)、市立豊田中央病院がある。旧市では、公立病院として残っているのは中央病院のみ。中央病院を独立法人化することは、旧市に公立病院がなくなることを意味している。
 看護師の一人は「市内にたくさん病院はあるが、中央病院は公立病院だからもうけを追求していないので、カテーテルでも洗って使い回すことはしない。中央病院がしないから他の病院もしないようになっている。つまり利益を追求しない公立病院があることで医療水準も確保される。関門医療も呼吸器科と小児科を廃止するという話を聞いているが、全部の病院がもうけを追求し始めたら市民のための医療が守れない」と語る。

 不採算の科廃止の危険 国立病院でも顕在化

 現在、中央病院では看護師も医師も不足している。これまでは社会的な必要から各地の公立病院に配置されてきた研修医を国の自由化政策で、個人的な希望にもとづき全国どこに行ってもいいようにしたため都市に医師が集中し、またリスクの高い小児科や産婦人科、外科医になり手がいなくなった。そのことで、よけいに地方では医師の確保が困難になっている。看護師についても、患者7人に対して看護師1人(7対1看護)を達成すれば保険点数を上げるとしてから、都会の大病院が地方から看護師を引き抜いていったため、看護師不足はどこでも深刻になった。
 そのうえに中央病院では独法化の話が浮上して以後、先行きの見えない状態にやめていく看護師が増え、現在でも定数282人に対して実働人員は約250人、30人足りない状態になっている。残った看護師の勤務状態は過酷なもので、病棟勤務の看護師は月平均で10日間の夜勤、多い人では月14日にものぼる状態だ。患者を目の前にして使命感で頑張ってきた看護師たちも、「このままではまともな医療ができない」と切実感を持って語っている。
 中央病院は長年勤める看護師が多く、技術の蓄積・継承が市内で最も高いが、ベテラン看護師がいなくなることで、若い看護師も不安が増していると語られている。独法化の話が出て以後、新たに看護師の募集をかけても集まらなくなり、この4月には欠員が50人に達する見込みで、病棟を閉鎖せざるを得ない事態になっている。
 市病院事業局は、独法化する一番の理由として7対1看護を実現するために公務員定数をはずし、看護師や医師を増やすことをあげているが、現状でも十数年前に決められた定数さえ満たしていない状態だ。
 国が進める独法化は、「不採算」といって地域医療に欠かすことのできない部門を切り捨てることである。とくに小児科は注射一本うつにも医師と看護師の2人がかかるなど、大人の倍以上の人手がかかり、薬の量は3分の1だから、どうしても不採算部門になるといわれる。厚生病院は早くに小児科から撤退し、関門医療センターも近く廃止する。
 「採算重視」といっても、医療現場で患者と接するのは医者や看護師であり、医者や看護師は患者の健康と生命を守るために献身し、そこで患者との信頼関係を結んでいるし、そのことが喜びであり、誇りでもある。その使命を立派に果たすためには必要な人員を確保しなければならない。こうして市民の医療を保障してこそ、経営も上向きになろうというものである。
 しかしこの間、医療現場のことがわからない3年ごとにかわる市職員の素人経営で、中央病院の現場は疲弊してきた。市当局の地域医療に対する姿勢がそうさせてきたのである。それを独法化して、医療現場のわからない理事長や事務局長の権限が強まれば、医療はさらに崩壊することは明らかだ。それは市民にとっては、安心してかかれる病院がなくなるということだ。
 下関・中尾市政は、このまま独法化で突っ走るのでなく、中央病院を地域医療を支える市民のための病院としてまともなものに立て直さなければならない。そのために看護師や医者を確保し、事務方にも専門的に医療を知悉する人材を配置しなければならない。それを実現させるために、看護師や医者と広範な市民が団結して大運動を起こすことが切望されている。
 

 患者の生命守るのが使命  市議会議員全員に送った手紙 (要旨)
             下関市職員労組医療評議会 看護師一同 

 私どもは看護師になることを夢見て看護学校に入学し、必死に努力して実習や試験を乗り越え、念願の看護師になりました。思えば私どもが看護師になったとき、真夜中に準夜勤が終わり、病院の出口で新人の仲間と見上げた星空の美しさ、大きく静かで澄んだ美しい星空を背にして建っていた私どもの中央病院の姿そのものが大きな希望でした。
 当院に就職し看護を通じてさまざまな患者さんと接するなかで、痛みとたたかう患者さんの顔にも触れ、わが子の斗病への付き添いに疲れた親御さんの顔にも接してきました。しかし患者さんの苦痛のなかの笑顔にも出会うことができました。患者さんから感じる確かな息づかい、それを肌に感じ、苦しい病状のなかにも希望を見出すお手伝いをさせていただく、それが私どもの看護師としての原点だと今でも信じています。
 人と人とを結ぶ信頼の医療、それが看護師として、また市立病院としての使命だと信じて勤めてきました。時代は変わり医療の水準も変わりました。そして日日刻刻と患者さんの病態も変わります。しかし私どもと患者さんやそのご家族との人と人とのつながりは決して変わりません。だから採算ばかりに目を向けて帳簿の数字だけの目先の利益を追求していては、いい医療になるはずがありません。長い目で見て地道な努力の上にこそ、人と人とをつなぐ信頼の医療と看護の魂は生まれる、そう信じています。
 他の企業や組織と同じく病院は生き物です。いえ、ただの生き物ではなく、より一層その魂のあり方を問われる生き物なのだと思えてなりません。私たち下関市立中央病院にも人と人とをつなぐ信頼の医療を築き上げたいという熱い魂が宿っています。病院の原動力は医師、看護師、コメディカル等のこの「魂」なのです。しかし残念なことに中央病院は、今その魂を見失いそうになって苦境に立っています。
 その最大の原因は事務局の定期的な人事異動による事務職員の定着率の悪さ、それに端を発する素人経営だと考えます。3年そこそこで経営陣が交代では素人同然の経営になってしまうのも無理はありません。そのような経営のなかではたして魂は宿るのでしょうか。また当院は人件費比率が高いといわれますが、別の観点からすれば看護師の定着率が高いがゆえに看護師の平均年齢が高くなっていることに起因したものだといえます。それはつまり、看護師の錬度が高く、看護技術が高いということを意味しているのです。これは自画自賛ではなく、他院を辞めて改めて当院に採用された看護師が、私どもの現場における知識や技術の伝承の確かさに驚かれることから、改めて気づかされる長所なのです。
 しかしそのような私ども看護師も、今年の4月1日には欠員が約50人に達する見込みで、ざっと2病棟分の看護師が不足する計算となります。今でも夜勤の回数は病棟の看護師は平均で1カ月に10回前後となって過重な負担を強いられており、なかには1カ月で14回の夜勤をこなさなければならない看護師さえいる過酷な状況が続いています。
 当然日勤の看護師の確保も困難な状況ですが、高い錬度とチームワークで今までどうにか事故もなく、日日の業務を必死にこなしてきました。しかしそれももう限界で、最近では士気の低落を否めません。
 このような悲惨な状況に陥っている当院が、独法化するだけで多くの人員の採用が見込めるのでしょうか? 今春、小児科と放射線科の医師が退職しますが、大学からの補充はありません。このことから一部の患者さんの受け入れを制限せざるを得ないとの話を聞いています。これで本当に地域医療が守れるのでしょうか。
 一方的に独法化が推し進められているさなか開催された中央病院の職員を対象とした独法化の説明会では、当局からは具体的な経営改善プランや勤務労働条件の提示はなされず、ただ「努力する」「検討する」などの曖昧な言葉しか聞くことができず、私どもは到底納得できませんでした。当局はこの程度の説明会で十分な協議を果たしたつもりででもいるのでしょうか?
 そこでお願いがあります。今一度、病院の経営形態の変更を考え直すよう中尾市長をはじめとする当局に、議会を通じて強く働きかけていただけませんでしょうか? 独立行政法人と地方公営企業法の全部適用との根本的な違いは職員の定数管理だけです。その定数管理も、他県では病院の定数条例と知事部局の定数条例を明確に分離させ、地域医療の充実に必要な人員を確保し、7対1看護を立派に達成させている例さえあるのです。職員定数管理以外に当局が現在独法化のメリットとして示しているものは、地方公営企業法の全部適用において、病院事業管理者が迅速かつ柔軟な指揮を発揮しさえすれば、十分なし得るものばかりなのです。
 私ども病院職員に、3年間の時間をください。必ず3年間で中央病院を変えてみせます。まずは地方公営企業法の全部適用で3年間様子を見て下さい。人と人とをつなぐ信頼の医療を築き上げたいという熱い魂を持った私ども職員が力を合わせれば、必ずこの苦境を乗り切ることができると信じています。私ども公立病院の職員には、私どもの病院を守るだけでなく、先頭に立って地域医療を守る責任があると考えています。

トップページへ戻る