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医療訴訟、10年で3倍
              まともな医療供給を阻害    2006年5月5日付
 
 「医師と患者の信頼関係で築かれてきた日本の医療は、アメリカ型の市場原理による採算第一の医療と、アメリカ型医療訴訟の増大によって、がたがたに崩されている。日本はこれでよいのか」との意見が、急性期医療を担う勤務医から、強い世論となって広がっている。医療関係訴訟はこの10年余で3倍化しており、医療現場はリスクの高い患者を敬遠し、この悪循環によって医療供給が阻害される事態となっている。

  医療破壊する米国型訴訟社会
 最高裁判所が公表したデータによると、医療関係訴訟新規受理件数は、1992年の371件から2003年には987件とほぼ3倍化しており、既済件数も同じすう勢である。
 急性期医療を担う総合病院の年配勤務医は、「市場原理によるコスト論で、医師も看護師もぎりぎりの人員。最善を尽くしても、結果が悪ければ医療訴訟となり、医師も看護師もその対策に、アメリカ保険会社が売る保険をかける。まさに日本の医療は歪められ破壊されてきた。これは医療を受ける国民の健康と命にかかわる大きな問題だ」と強調する。
 また、急性期医療を担う中堅勤務医は、「救急医療を担う医師は、内科でも外科でも、実質夜勤である当直の翌日も丸1日働かなければならない実情にある。睡眠不足は集中力や判断力を鈍化させる。飲酒と同じ症状であり、飲酒運転は禁じられているが、医師の36時間勤務は野放し。使命感だけでは限界だ」と語る。
 そして、「内科一つをとっても呼吸器科、消化器化、循環器科、心療内科などと専門化し、高度な医療が要求される。医療は100%命を救うことをめざすが、千差万別のケースでこれを実現することは不可能であり、最善を尽くしても一定の確率で不幸な結果となることは明らかだ。ところが医療訴訟が起こる。このため、リスクのある患者は受け入れないという方向が強まってまともな医療供給を阻害している」と指摘。
 以前は、医師が全身全霊をかけて最善を尽くした結果、不幸な結果となったとしても、患者の家族はこれを知って納得してもらえるきずながあった。ところが今は、しばしば医療過誤訴訟となる。
 最高裁判所公表のデータによると、2003年の診療科別の医療関係訴訟新規受理件数は、内科が253件、外科が214件、産婦人科が137件など各診療科に広がっている。

 減っていく小児科や産科医
 大都市で医療訴訟専門の弁護士があらわれ、小泉政府はアメリカ型訴訟社会をならって法科大学院を設置し、弁護士を大量生産する。そして医療から必要な人材がいなくなる。すでに、労働条件が厳しく、リスクの高い産科や小児科に進む研修医が、それぞれ4割も減っている。
 急性期総合病院のある小児科医師は、「医学生のころ、明るい子どもたちの世界にひかれ、子どもたちのためにがんばろうと、小児科医となった。ところが、市場原理一点ばりの医療政策で、小児科は不採算部門にされた。子どもの診察は、採血一つをとっても人手がかかる。大人のように検査はできず、投薬も半分。だが社会に子どもがいる以上、小児科は不可欠であり、とくに次代を生み育てるために重要だ。社会的に保障されなければならない」と語る。
 子どもの急病は、休日・夜間を問わず救急対応が要求され、小児科医は厳しい過重な労働を迫られる。しかし、たいしたことのない症状のケースも少なくなく、サービス業のように扱われる。一方で大人のように症状を説明できず、検査も大人のようにはできない子どもの病気は、専門小児科医の診断と適切な対応が求められる。このため不幸な結果となるリスクも高い。医療訴訟となるケースも少なくない。
 アメリカ型訴訟社会の後追いが、医療を大きく歪めている。急性期病院の勤務医たちは、10年前に比べ、仕事量が2倍、3倍となっている要因に、医療の高度・専門化のほかに「医療訴訟」対策があると指摘する。裁判になって突っ込まれないために検査の件数も増え、カルテにこと細かく医療行為を書きこまなければならない。カルテに書いていなければ、最善を尽くして当然やった医療行為でも認められないからである。
 医療訴訟の増大は、当然にも医師がリスクを避ける傾向を強める。「最善を尽くしても結果が悪ければ、罪人として責められるのなら、やってられない」。内科医が子どもの病気は見たがらず、外科医が麻酔をかけることをやめ、婦人科はやっても産科はやらないなどである。「七万人産まれるのに、産科医は6万人しか対応できず、1万人の“出産難民”をどうする」という問題が現実に起こっている。
 アメリカでは、医療訴訟専門の弁護士がいて、救急車を追っかけて売り込みをしたり、看護師を買収して情報を手に入れようとするなどがまかりとおり、「弁護士を養うために仕事をしているみたいだ」と医師が自嘲するありさまという。このような、人間社会のきずなをズタズタにするようなことを、日本の医療界に広げる小泉改革を、医師と国民が結束して阻止し、医療の社会的保障をめざさなければならない。

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