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国益として譲れぬ漁業の復興
三陸に心寄せる山口県漁民の声
              食料生産に国が全責任持て    2011年5月4日付

 三陸に心寄せる山口県漁民の声 東日本大震災によって国内有数の三陸漁業が甚大な被害を被っている。岩手、宮城、福島の3県だけで約2万9000隻あった漁船の九割が津波によって使用不能になっているほか、漁港や出荷・加工施設が被災するなど壊滅的な打撃を受けている。三陸沿岸地域の基幹産業である漁業の復活が切望され、同じ水産県の山口でも、同業者たちが熱いまなざしを注いでいる。このなかで、漁業そのものが立ちゆかない環境が地震・津波以前から全国共通の問題として横たわっていること、水産業に限らず、輸入物をあふれさせて国内農漁業をないがしろにしてきた政治を抜本的に改め、食料産業の保護・育成に国が全力をあげなければならない問題が指摘されている。山口県下の漁業者に実情と思いを聞いた。
 県内でも若手後継者の数が群を抜いているのが萩市大島と下関市豊北町の角島で、汐巻(五沖)とよばれる良好な瀬に恵まれている角島では、150隻近くが操業している。一本釣りや沖建網、棒受け網、アワビ、サザエを箱メガネで覗きながらとる磯見漁業によってみなが生計を立てている。
 棒受け網漁でイワシをとっているベテラン漁師の一人は、「30年前に“子や孫のために”と手弁当で豊北原発に反対したが、あのとき神田岬に建てさせなくて本当に良かったと思う。孫子に誇れることをした」と四半世紀以上も前の経験を思い起こしていた。福島原発の事故をニュースで見るたびに、中国電力の原発計画を阻止し、みなで国策とたたかった頃の記憶が蘇ること、原発汚染が他人事とは思えない心境になることを話した。
 「三陸の様子を見ると言葉がない…。だが向こうも漁業が中心の町だろうし、地域の結束があれば、みんなが励まし合ったり支え合うことで幾倍ものパワーにつながると思う。漁師町は一匹狼では決してやっていけない。組合があって、相互扶助でみんなの力を持ち寄ることで成り立っているものだ。家屋や漁船がなにもかもなくなった状態から這(は)い上がるのは少少でないだろうが、漁師はそんなにヤワじゃない。国が人、モノ、金を惜しみなく注ぎ込めば、向こうの人間の力で必ず復活すると思う。ただ、放射能ばかりはどうにもならない。なんてことをしやがったんだ、という思いだ。地震と津波だけならまだ復興は早かろうに」と語った。
 漁船が9割も使用不能になっていること、漁師にとって「命の次に大切なもの(船)」を失った状態について、「船がなくてははじまらない」「二重ローンを組めるほどもうかっている漁師はそんなにいない」とだれもが口にする。漁業の「国有化」すら宮城県知事が発信するなかで、わが身に置き換えたときに個人責任で立ち上がることなど到底不可能だという思いが共通して出されていた。
 棒受け網漁をしている別の漁師は、「利子補給するから次の船をつくればよいといわれても、簡単に次のステップに踏み出せるわけがない」と案じていた。「うちは2級船(「YG2」標記の5d以上の船)に乗っているが、船体だけでなく魚群探知機やソナーなど一式揃えるなら3000万〜4000万円はくだらない。家1軒分のローンを10〜12年かけて返済していくんだ。馬力によっても異なるが、エンジンだけでも高級車が1台買える。安い魚価でこれを上回る稼ぎを出さなければ万歳(お手上げ)だ。三陸の船を見ると、もっと規模が太い感じだった。また借金してやりなさい、というのでは好きにしろと突き放しているのと変わらない」といった。
 漁業者のなかでは、経費ばかりかかって水産物価格が下がり続けていること、地震・津波がくる以前から漁業が困難な状況に置かれている普遍性が語られ、「三陸が立ち直るにしても、魚価をなんとかしなければ展望がない。日本全国いっしょだ」と話されている。最近はヤズを釣ってきても1匹100〜150円で買いたたかれたり、魚価は安いのに漁具や燃油は高騰続き。「100円で買いたたかれたヤズが、スーパーに行けば700円で売られている」「オコゼは一昔前に1箱2万円していたものが、いまは3000〜5000円を下回ることすらある。新鮮な魚をとってきても、値段がたたかれると励みがなくなる。輸入物や養殖物と同じような値段で天然物が扱われている」と様子が語られている。とくに90年代に入って以降の水産物価格の落ち込みがひどく、浜値は半値以下、3分の1程度にまで下がってきたとベテラン漁師たちは変遷について語っていた。

 関税引上げや価格保障せよ 燃油高騰も打撃

 一方で燃油価格はうなぎ登り。角島では7月から本格的にはじまるのが棒受け網漁で、いりこになるカタクチイワシをとりはじめる。夜中に出航し、水中灯をたいてイワシをおびき寄せてすくう漁で、8月、9月までは沖合15宸フところで操業し、10月、11月になると60宦A島根県の県境までとりに行く。「遠方に行くときは60〜70尅魔驍ニきもある。そうなると油代は5万〜6万円はくだらない。燃油が高騰しているから、消費量を抑えるためにスピードを控えたり、早めに港を出たりする。使用するドラム缶の数や値段だけでもバカにならない。1gあたり5円でも10円でも上がると、すごい額になってくる」と語られている。
 別の浜でイカ釣り漁をしている男性は、「不漁であれば丸ごと油代分が赤字になる。油代がかさむことで、生産意欲にも否応なしにブレーキがかかってくる。うちの浜ではサザエ網をしたり、みなが季節ごとに業種を転換させて工夫しているが、そもそも魚価が安すぎて飯が食えない。だから陸の土木工事で働かせてもらったり、兼業も増えている」といった。
 そして、「三陸は船乗りが多いという。山口県でも萩や長門など漁業が苦しいから船乗りになる人が少なくない。こういう状況を抜本的に変えないと、三陸だけでなく日本の水産業全体がつぶれてしまう。スーパーが安く売り捌く輸入物につきあわされたのではかなわない。漁協からTPP反対の署名が回ってきたが、これ以上輸入物を増やすなど気狂い沙汰だ。三陸漁業をどうするかも国のさじ加減一つでいくらでも解決できる問題のはず。船を全額負担して与えたり、港を早急に復旧したり、優先順位をかえてやるべきことがいくらでもある。国が農漁業に対する姿勢を改めて食料供給を担っている産業を守るかどうかが一番大きな問題だと思う」と語った。
 漁業が国民全体の食料確保とかかわってつぶすことができない産業である以上、その育成に最終的に責任を持って対処すべきは国である。食料生産は国益として譲ることのできないものであり、農水産物の関税を引き上げたり、価格保障をしたりして、国内産業を守ることが待ったなしの課題となっている。震災とそこからの復興とかかわって、グローバル化・規制緩和のもとで生産から消費、流通にいたるまで農漁業を深刻な破壊状況に追いこんできた政治に対する全国共通問題が語られている。原発が象徴する「あとは野となれ」によって、三陸はもちろん日本全国の農漁業をつぶすわけにはいかないとの思いが強まっている。

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