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国民を食えなくさせる物価高
               生活必需品が投機の具    2008年6月2日付

 なんでもかんでも値上がりし暮らしに負担がのしかかる。ガソリンの店頭価格はついに「173円」をつけるまでになった。ただでさえ高騰しているのに、道路好きの自民党政府が暫定税率を復活させ、1gにつき43円もの道路資金が巻き上げられる。食料品も同様で、世界的な穀物高騰を受け、4月から政府の小麦売り渡し価格が30%アップ。スパゲティは1年前より26・6%上昇、即席めんは17・9%、マヨネーズ、食パン、ビール類など軒並み値上がり。鉄鋼や資材、生活必需品から工業資材にいたるまで価格が跳ね上がっている。世界的規模でインフレに向かっており、食料・エネルギーを輸入に依存する日本社会にも影響が及んでいる。なぜ、このような事態がひき起こされているのだろうか。

 アフガン・イラク戦争引き金に
 5月初旬米証券大手のゴールドマン・サックスが「半年から2年の間に1バレル150〜200jまで上昇する可能性が増している」と原油価格の見通しを発表し、原油先物市場はさらに価格が乱舞する出来事があった。
 世界的な原油価格の指標であるアメリカのWTI原油というのは、現物価格ではなくて先物価格。この先物買いがバブルのように活況を呈しているのである。近年の原油価格の高騰【グラフ参照】は、もはや気狂い沙汰というほかない。WTI原油を一滴たりとも輸入していない日本や各国にも、その価格が影響する構造になっている。
 石油価格高騰の直接の引き金となったのは、グラフを見てもわかるように、アフガン・イラク戦争があげられている。1999年、OPECによる協調減産前には、1バレル10j台を推移していた。それが01年には20j台になり、以後はかつて経験したことがないほどグングン上昇してきた。米国同時多発テロが起き、アフガン・イラク戦争に向かう過程で投機資金が流入しはじめたところからはじまっている。米国では同時期にFRB(米国連邦準備制度理事会)が低金利政策をおし進めたので、ジャブついた資金が住宅バブルのほか、原油など商品市場にも向かうこととなった。
 そして、昨年夏以後は、米国でのサブプライムローン問題を契機に金融不安が広がり、世界の上層にあり余った資金は行き場を失った。株価の下落などによって金融商品で投機資金を運用しても利益が出なくなったからだ。そうした資金が穀物や原油などの商品市場にどっと集中して、価格がグングン釣り上がることになった。値上がり益を得たいがために買い占めている関係だ。FRBは利下げを繰り返して、サブプライム問題で損失を被った巨大銀行救済に動く。そうするとドル安になり、インフレへの懸念によってヘッジファンドなどの投機資金がさらに石油などへの商品市場に流入するという動きになっている。今度はエネルギー・食料を中心とした投機に火がついて、生命の源である商品でギャンブルをやりはじめたのである。
 先物投資家が買い持ちしている石油在庫は11億とされ、そのうち過去5年間の原油先物取引で生じた投機需要は8億4800万にもなると指摘されている。
 世界の先物投資ファンドが運用している資産残高だけでも、3月末時点で約2800億j(21兆8000億円)にものぼる。全世界の投機資金となると、天文学的な数値であり把握することすら困難な金額になる。これらが世界中の株式や、商品など多種多様な市場に投資され、「儲かる!」と見なしたら飛びついていく。大手ファンドは原油や穀物に資金の多くを配分するようにもなっている。24時間態勢で市場を監視し、コンピューターが相場が上がりはじめた市場には自動的に買い注文を出し、下がりはじめた市場には空売り注文を出すなどしている。「必要だから買い入れる」わけではなく、「利ざやで儲かる」から買い入れて売り抜けるというものだ。

 食料にも投機資本流入
 穀物相場の高騰も似たような構造でひき起こされている。こちらの場合、食料不足も深刻で、穀物在庫率は過去最低水準とされる1970年代と同じ水準である15%台まで落ち込んでいることも、大きな要因になっている。日本は人口減少社会だが、世界は人口増加の趨勢で、いまや食料の奪い合いが起きている。貧乏な国ほど食いっぱぐれる格好で、アジアやアフリカでは暴動や買い占め騒動も起きている。途上国を中心にして、12億人が栄養失調や飢餓の脅威にさらされていると試算されるまでになっている。
 経済協力開発機構(OECD)と国連食糧農業機関(FAO)は5月29日、今後10年間は食料価格の高止まりが続くと予測した報告書を発表した。新興国・途上国の需要拡大やバイオ燃料生産の増大(すなわち小麦、大豆などの穀物供給の減少)、原油高による生産コストの上昇、投機ファンドの動きなどを理由にあげている。1998〜2007年と2008〜2017年の品目別の平均価格を比較すると牛肉・豚肉は約20%。砂糖約30%、小麦・トウモロコシ40〜60%、バター60%以上、植物油は80%以上の値上がりになると予測。アジア、アフリカなどの低所得で食料を海外に依存している82カ国は大打撃を被っている。
 穀物輸出国は自国民向けの食糧を確保するため、輸出規制をかけはじめた。ベトナムとインド、インドネシア、カンボジアがコメ輸出を原則禁止にしたほか、ロシアや中国は穀物に輸出税を導入して規制。アルゼンチンはトウモロコシや小麦の輸出を事実上停止した。日本のような6割もの食料を輸入に依存する国の脆弱性も露わになっている。
 しかしこの価格高騰も、昨年から拍車がかかっている。06年に世界最大の小麦輸出国・オーストラリアが干ばつで大不作(一昨年は平年に比べて4割減、昨年も5割減)に見舞われたことを1つのきっかけにして、大豆など他の穀物にも広がった。受給と供給のバランスが崩れたところに、原油と同様、めざとく投機資金が流入して相場の釣り上げをやりはじめたから需給バランスで説明がつかないほど上昇するようになった。小麦、トウモロコシ、大豆の国際価格は1〜2年間の期間に2倍以上に跳ね上がった。
 投資家が買い占めをやって儲けるほかに、米穀物メジャーのカーギルは2007年12月〜08年2月の3カ月だけで、純利益が10億3000万j(1080億円)と前年同期に比べて86%も拡大させるなど、ボロ儲けを謳歌している。
 ガソリンの代替燃料になるバイオエタノールを中心にアメリカは食糧戦略を仕掛けている。「バイオ燃料は地球に優しい」とかいってブッシュが推奨。補助金を大盤振る舞いして生産を奨励してきた。その結果、トウモロコシが増産され、あおりを受けて大豆や小麦の作付面積が減り、穀物需給が逼迫、価格高騰の要因になった。エネルギーが食糧にも連なって、世界が翻弄される事態なわけだが、これはアメリカ政府が意図的に進めている世界戦略でもある。
 1990年代以後、世界的な規模で“グローバリゼーション”といって農産物貿易の自由化が強まった。その結果、「競争力」が劣った国国の農業がつぶされてきたのも、食糧不足の要因になっている。日本の水田が荒れ地になっているのも、第1次産業が後継者が食っていけない産業になったのも、市場原理が浸食した傷跡である。

 投機資本が世界食い物
 世界経済を牛耳ってきたアメリカでは、2001年のITバブル崩壊と同時に同時多発テロが起き、住宅バブルを創出して息をつないだ。その後、サブプライムローンが破綻してさらに金融緩和を実施し、新たな商品バブルへとつながっている。投機資金の流入によって、些細な事件・事故であっても、なんでもかんでも値上がり要因になって、さらに加熱する傾向を強めている。物価上昇率から換算しても、すでに第2次石油ショックの水準を上回っている。
 一連の動きが物語っているのはアメリカ経済の崩壊が急ピッチで進行していることでもある。それまで高金利のアメリカ(ドル)に張り付いていた資金が逃げ出して、ドルはますます暴落し、ドル支配の権威が剥落する過程で、同時にインフレがひどくなる趨勢になっている。
 不況で庶民にはカネがなくて、欲しいものも買えないのに、物価は連動して上昇する。それもこれも世界中の人民が貧乏になって購買力がなくなった結果、資本を再生産に投じることができないまでに大膨張した結果であり、あり余った余剰マネーが、今度は諸諸の国際商品に向かって、ついには生命すら翻弄する無政府的な投機を繰り広げている。資本家は「毛穴から血をしたたらせながら登場した」といわれるが、まさに投機分子が世界中を“食い物”にして混乱におとしめている。

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