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殺されているタクシー労働者  
労働蔑視し人間扱いしない
               客減るなかで運転手増やす    2009年10月16日付

 北九州市内でタクシー運転手の過労死が連続している。タクシーの座席で死亡したり、意識を失って事故を起こすなどの悲劇が絶えない。健康破壊はきわめて深刻である。とくにリーマンショックの昨年9月頃から乗客が急減したうえ、リストラされた失業者の入社でタクシー運転手は増加。このなかでガタベリとなった運賃収入を補うため、気狂いじみた長時間勤務に駆り立てられている。タクシーで寝泊まりしたり、入浴、食事、トイレなどを我慢し、人間的な生活もできない。規制緩和で資本はボロもうけする一方で労働者は人間ではなくモノ扱いになった。
 北九州市で今月3日早朝、男性運転手(76歳、タクシー最大手の第一交通徳力営業所)がタクシーのハンドルを握ったまま死亡していた。この運転手は30年近くタクシーに乗り、若いときから夜勤(P勤)専門。運賃収入はつねにトップクラスで「努力してコツコツ客を乗せる人」で知られた。だがこの日は朝なのに夜勤から帰って来ない。「〇〇番応答してください!」との無線が何度も流れ、他営業所の運転手も「どうしたのか」と捜し回るなか、小倉駅近くの路上に停車したタクシー内で発見された。
 運転手の一人は「発見されたのは駐停車禁止の場所で普通客待ちするところではない。気分が悪くなり慌てて停車したのだろう。“年だから”ともいわれるが、若いときから働きづめに働いていた。長年にわたる過労死だ」といった。「通夜に行ってきた…」と話す運転手は「どう見ても過労死だ。死に場所は家でも病院でもなく道ばたのタクシーの中。これが家族のために一生懸命働いてきた人の最期にふさわしいはずがない。野良犬や野良猫ではあるまいし」と痛恨の思いをぶつけた。

 長時間運転で過労死増 高いノルマ課し搾る

 最近の事情を客待ちするタクシー運転手に聞くと共通してリーマンショック以後の変化を指摘する。リストラや派遣切りが吹き荒れるなかタクシー利用客は急減。小倉駅周辺の飲屋街も閑散とし、病院通いの年寄りが多かった午前中でもタクシーは客待ちばかりで動かない。「2時間まってワンメーターというのはざら。失業者は失業手当があるが、タクシーは車をあてがわれた失業者と同じ」と話す人もいる。
 しかし乗客がいなくても走り回らなければならない。第一交通運転手の一人は「タクシーはすべて歩合給だから客を乗せなければ収入はゼロ。しかもノルマを達成しなければまともな給料もボーナスもない。だから長時間運転をする。自分で手差しする人もいる。でも昨年からの落ち込みは尋常ではない。もう限度を超えているから、若い人が入ってもすぐやめていく」と実情を話す。
 第一交通を見ると給料の足切り(ノルマ)はA勤が33万円、P勤と隔日勤務が39万円。達成すれば運賃収入の48%が給料となるが、未達成なら38%となる。ボーナスにも足切りがありA勤=37万円、P勤=43万円、隔日勤務=42万円で達成すれば約20万円、未達成なら7万円前後となる。企業側は運転手を増やせば増やすほどノルマ未達成が増え給料を出さなくて済むが、働く側は少ない客を求めて走り回っても運賃収入は上がらず過労死に追いやられていく構図である。
 ちなみに運収33万円の48%の場合、賃金は15万8000円、会社側の取り分は17万2000円となる。運収が30万円なら38%で賃金は11万4000円、会社側の取り分は18万6000円となる。運収が28万円では賃金は10万6000円、17万4000円ほどになり会社側の取り分は運収33万円より多い。運転手を増やして33万円以上を少なくし、28万円を超えるほどに維持させたら会社の取り分は大いに増えるという関係になる。資本の強欲な搾取と、労働者を人間扱いしない構図である。
 こうしたなか「子どもが小さくて養育費がかかる」「親の介護費がいる」「孫の仕送りがある」「夫がリストラされた」など切実な理由を抱える若手運転手や女性運転手が長時間乗務に駆り立てられている。最近は24時間勤務(隔日勤)をした後、「勤務終了」の処理をしてさらに8時間乗務する36時間乗務も増加。さらに生活費をおさえるため食事をカップラーメンやホカ弁にし,
1日2食にする人もいる。また、銭湯に行く回数を減らしたり、病院に行くのを我慢する状況もある。
 運転手の一人は「“いつでも眠れるし楽な仕事”と思われがちだが実際は違う。客を待つ間もいつ無線が入るか分からないから車内で動けず、客を乗せれば命を預かっているわけで神経を使う。立って歩くのが人間なのに何十時間も車で座っているのはきつい。昼食や夕食後も座りっぱなしだから消化不良で内臓をやられる。腰痛も多い」と話す。「金を稼ぐロボットか道具としか見ていないことが許せない」と続けた。運転手のなかでは「奴隷以下のモノ扱いだ」「運転手をティッシュペーパーのようにしか扱わない」と口口に話されている。

 事故死傷者毎年3万人 有所見率は70%

 こうした労働条件の悪化は全国でも事故の増加、健康状態の悪化として顕著に表れている。国土交通省によるタクシーの交通事故件数は、2000年が2万3042件。それが2005年には2万7794件に増えている。それ以後、06年=2万6704件、07年=2万6219件と微減したが、全国で毎日70件以上ものタクシー事故が相次ぐ異常事態となっている。2000年以後8年間で見るならタクシー事故件数は合計21万2743件に上っている。
 タクシーが絡んだ事故の死傷者数も2000年の3万117人(死者43人)が2005年には3万2367人(同53人)となり増加。07年は3万938人(同38人)となったが、ここ8年間、毎年3万人を超している。
 深刻なのが業種別定期健康診断の結果である。道路旅客業(タクシーやバスなど)で異常を指摘された有所見者は04年の21万5491人から増え続け、08年には24万2474人(4年間で2万6983人増加)に達している。さらに有所見率は04年=66・1%、05年=66・4%、06年=68・6%、07年=65・7%、08年=70・1%と推移。いまやタクシーやバス運転手の10人中7人が健康診断で異常を指摘される事態となっている。この数値は全業種の有所見率が51・3%(08年)であるのと比較してもきわめて高い。
 北九州市内の内科医師は「タクシー運転手を診察しているが、高血圧と心臓の疾患が多い。でも健康診断でいわれしぶしぶ来る程度で、治療途中なのに通院をやめる人もいる。病院の本人負担が3割負担になったのも影響している」と危惧する。そして「楽な様に見えるタクシーの就業形態だが、食事の不規則と運動不足は体に良くない。コレステロールや高血圧は心筋梗塞にも発展する。だから“薬をちゃんと飲みなさい”と厳しくいうが、“それでは仕事にならない”“生活が苦しいから食べる方が優先だ”という。病院にも行っていない運転手のことを考えるとタクシー運転手の健康状態はかなり危険だ」と指摘した。
 北九州市内では06年12月に50代のタクシー運転手(男性・隔日勤務)が突然、心筋梗塞で倒れた。この運転手は朝7時から24時間乗り、本来は休むべき翌日の夕方6時〜早朝4時まで乗り、3時間仮眠してまた朝7時から24時間乗るサイクルを続けていた。
 07年6月にも4カ月前に入社した女性運転手(30代後半)が北九州市内の自宅で倒れ、片目が失明寸前に陥る事故が起きた。この運転手は一日のハンドル時間が400分以上、走行距離は150`以上で、勤務上では模範的存在だった。8時間に1時間休憩をとればハンドル時間の限界は420分。毎日タクシーで走りっ放しだったことを意味していた。病院に担ぎ込まれ目の横の静脈をつなぐ手術をして復帰したが、再び倒れ退職に追いこまれている。
 今年初めにも夜勤を続けていた女性運転手(59歳、第一交通徳力営業所)が勤務後に入った自宅の風呂で遺体となって発見され、七月にも気分が悪くなって帰宅した夜勤の男性運転手(60歳、第一交通小倉営業所)が救急車で病院に運ばれ心筋梗塞で死亡している。運転手の多くは「過労は極限状態」「タクシーがいつそのまま棺桶になってもおかしくない」と指摘している。

 小泉構造改革の大犯罪 トヨタ等がボロ儲け

 こうした状態をつくりだしたのは、小泉構造改革の一環として02年2月に強行したタクシー業界の規制緩和(需給調整規制、料金規制)である。「オール歩合」賃金で基本給すらないもとで、タクシー台数の無制限の増車を野放しにすれば、運転手が限度を超えた競争に駆り立てられるのは当然だった。
 全国のタクシー車両数は規制緩和で急激に増加した。02年度には26万3000台あったが、06年度には1万1000台増の27万4000台に到達。しかし輸送人員総数は02年度の23億6600万人から下降。06年度は1億5700万人減の22億900万人となった。タクシー運転手の数は40・8万人(02年度)から横ばいで06年度は41万人。こうして国主導で大手タクシー会社を先頭に無政府的なタクシー台数増加を強行し、中小のタクシー会社をなぎ倒した。そして運転手間で競争を煽り、互いに首を絞め合う体制を意図的に促進した。
 これでもうけたのは大手のタクシー会社であるが、その背後でタクシー仕様車であるトヨタのコンフォートや日産のクルーの販売を促進し、自動車大手のボロ儲けを保障した。さらに規制緩和の旗振りをやった宮内氏率いるオリックスの下請・オリックス自動車が自動車リース事業を拡大し、タクシー会社との間に立って荒稼ぎを謳歌した。現在、リース車両台数60万1000台(2009年3月末現在、タクシー以外の車両もふくむ)で自動車リース業界一位に躍り出ている。小泉政府は「(増車を規制する)需給調整は事業の活性化を妨げる」と叫んだが、労働者をボロボロにして、第一交通をはじめとするタクシー大手に加え、トヨタやオリックスなど巨大企業がボロ儲けするものとなった。
 市場原理主義改革の結果は、労働者の健康をボロボロに破壊し、殺してかまわぬという強欲な資本の残酷さを暴露している。それは同時に社会的な安全の切り捨てである。労働が余りにも侮蔑されているのである。それは小泉構造改革の犯罪性を暴露している。なによりもタクシー運転手の人間的な生存権の確立、労働の尊厳の回復が急務である。それは社会の交通の安全を守るためでもある。
 強欲な資本も、労働者が労働をすることによってもうけている。労働者が働かなければ強欲な資本も成り立たない。労働者が団結するなら、強欲資本より強いことは明らかである。それは今や待ったなしになっている。しかもそれは、個個の資本との関係だけではなく、政府の規制緩和を撤廃するための、企業を超え、地域を超え、全産業的、全国的な団結が展望されるほかはない。

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