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コスト競争で安全切り捨て
鳥インフルエンザ・米国の輸入エサに疑惑
          農業の企業化に問題        2004年1月24日付

 アメリカでの狂牛病発覚で米国産牛肉の輸入が禁止された衝撃が冷めない間に、今度は山口県の養鶏場で鳥インフルエンザ感染で、3万羽以上を処分するという深刻な事態が発生した。狂牛病、鳥インフルエンザ、口帝疫など家畜の伝染病は、農畜産物の貿易自由化のなかで、どこかの国で発生すれば、またたくまに全世界に広がる可能性が増大している。また畜産にしても養鶏にしても企業的な生産が拡大し、「もうけることが第一」になり「安全性」が切り捨てられ、「農畜産物の安全性」が重大な社会問題になっている。今回の鳥インフルエンザ感染がふくむ問題について見てみたい。
  
 2002年以来、アメリカで頻発
 今回鳥インフルエンザ感染による被害が出たのは、山口県阿東町にある有限会社「ウインウインファーム山口農場」(本社・福岡県)の養鶏場であった。この会社は昨年四月に阿東町に進出し、六棟の鶏舎で採卵用の鶏3万5000羽を飼っていた。1棟で約5000〜6000羽を飼っていたが、昨年末に8羽が死に、今月12日までに約6000羽が死んだ。県や動物衛生研究所(茨城県つくば市)などで調べたところ、「韓国」などで感染が広がっている「H5型」に属する高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出された。
 鳥インフルエンザが日本で確認されたのは、1925(大正14)年以来79年ぶりのことである。日本だけでなく、最近の「韓国」、ベトナム、香港などアジア各国、さらには昨年オランダで30年ぶりに発生したのをはじめ、イタリア、ベルギー、ドイツなどヨーロッパ各国、そしてなにより、アメリカの各州で2002年以来ひん発している。
 アメリカでは2002年1月以降、ペンシルベニア州、メーン州、バージニア州、ウエストバージニア州、テキサス州、ノースカロライナ州などであいついで鳥インフルエンザが発生し、さらに03年にはコネティカット州、ニューヨーク州、カリフォルニア州で発生している。そのたびに日本では米国からの家きん肉の輸入を禁止してきた。
 アメリカで発生しその後、欧州、アジア各国へと全世界的にまんえんしたというのが、近年の鳥インフルエンザの大流行の経路である。
 鳥インフルエンザは、当初は鳥のあいだで流行し、人間には感染しないと考えられていたが、九七年に香港で六人が死亡し、人間への感染がはじめて確認され、昨年2月には中国旅行者2人が死亡した。インフルエンザウイルスは変異しやすく、数十年周期で遺伝子型がまったく異なるウイルスがあらわれる。新型にたいする人間の免疫はないため被害が大きい。1918年のスペイン風邪では2000万人以上が死亡した。新型インフルエンザはここ30年間出現していないが、鳥インフルエンザの流行が新型インフルエンザの出現の前兆であると警告する専門家も多い。今回の鳥インフルエンザの発生にたいし、検疫態勢を万全にし、国際的な監視も強めることを専門家は強調している。
 山口県では、ウインウインファーム山口農場で飼育していた3万5000羽をすべて処分するとともに、半径30`以内にある養鶏場の鶏、卵の移動を禁止し、出荷した卵は回収するという厳戒態勢をとった。

 養鶏農家に深刻な打撃
 現在までのところ、その後の鳥インフルエンザ感染は発生していないが、養鶏農家にとっては死活問題になっている。九州や中国地方のスーパーなどでは「山口県産」の卵を店頭から一掃するなど、風評被害も広がっている。それでなくても卵価下落のなかでぎりぎりの経営をおこなっている養鶏農家にとって、今回の事態で倒産・廃業の危機に立たされてもいる。
 深川養鶏農業協同組合の組合員(夫婦2人で経営)は、「昭和44年からこの仕事をはじめ、35年になるが、今回の鳥インフルエンザははじめての経験で、生産者はたいへん深刻だ」とつぎのように実情を語った。
 「深川養鶏は現在は41の生産者で成り立っているが、多いときには130軒の農家でやっていた。肉の値段が下がり、あとつぎもなくやめていく農家がふえている。鶏肉の値段は昔は`300円だった。1羽で約3`なので1羽900円。いまは`135円で1羽で405円にしかならない」
 「深川養鶏は“新鮮で安全”を誇りにしてやってきた。エサと鶏舎を改造し、消毒も徹底し、無薬で飼っている。絶対に病原菌がない状態で出荷することを原則にしてすすめてきた。昨年の12月に“韓国”で鳥インフルエンザが発生して、すぐ集会を持って、毎日スチーム消毒をするなど、徹底してすすめている。だが、個人の努力だけではたちうちできない。いま国は農業を守るという方向ではない。国や県がもっと真剣に対策をとる必要がある。今回の鳥インフルエンザの影響で倒れたら、養鶏農家は新しくはじめるというのはむりだ」。
  
 穀物商社が支配 安全な養鶏を破壊
 また、消費者は牛肉は狂牛病、「安全と思っていた」鶏肉や卵まで鳥インフルエンザでは、安心して食べられるものがない。こればかりではなく農畜産物全般で、輸入野菜の農薬問題や、遺伝子組み換え食品の問題など、「食の安全」が危機的な状況であり、「なにを食べさせられているのかわからない」という不安はかつてない。とくに子どもを育てていくうえで、「安全で健康にいいものを腹いっぱい食べさせてやりたい」という母親の思いにかなった食品はなかなか手に入らない。「飽食の時代」といわれる日本で、なぜこのようなことになっているのだろうか。
 日本の養鶏はもともとは農家の庭先で何羽かを飼い、卵を産ませ、肉用にするというものであった。30羽も飼えば子どもの学資も出たという時代もあったが、いまでは個人の経営でも5000〜1万羽飼わなければ経営が成り立たなくなっている。
 菊川町で父親の代から養鶏をやっているAさん(70代)は、「昔は菊川町でも20軒ぐらいはあった養鶏農家がいまでは6〜7軒になっている。そのうち2〜3軒が後継者がなく近近やめる。設備や経費は何千万とかかるが、卵の値段は何十年もかわらない。スーパーは安売りの目玉に卵を使う。液卵や粉卵という形で輸入もふえている。大企業は中国や“韓国”で安い労賃でつくらせて日本に輸入している」と話していた。
 1万羽を飼う養鶏場では、鶏舎と、エサと産んだ卵を運ぶベルトコンベアーの設備などを合わせ4000万〜5000万円を投じている。時間がくれば自動的にベルトコンベアーが動き出し、エサを運び、産んだ卵を運び出すようになっているので、人手は最小限ですむ。だが、それでも朝いっせいに卵を回収する時間帯には少なくとも二人は必要だという。人手を雇わず家族で経営する場合は一万羽が限度で、それ以上になると、会社経営が多くなっている。
 鶏は昔は雛から飼って大きくして卵を産ませていたが、狭い鶏舎に何万羽も密集して飼うため、伝染病の発生、伝播をどう防ぐかが大きな問題になる。さまざまな伝染病予防のワクチンの投与をおこない、すでに伝染病に抗体を持った鶏を導入している。生まれて130日目くらいの鶏を導入するが、1羽が1000円というのが相場である。1万羽で1000万円かかる。2年卵を産ませ、その後食用にするが、月に約100羽弱を入れかえるサイクルになる。エサも昔とは違って配合飼料でありこれも経費がかかる。
 一羽が年間約300個(通常は年間270個程度)産むとしても、1万羽で300万個。卵価は1個6円程度であり、収入は1800万円。鶏舎は約10年で修理が必要になり、機械代や電気代、エサ代、鶏代、人件費などを差し引いていくと、楽な経営ではない。
 卵価が長期に低迷しているため、何万羽という規模で飼わなければ採算はとれない。個人経営はなぎ倒され、大手商社などの系列による企業経営が支配的になっている。
 鳥インフルエンザが発生したウインウインファーム山口農場の本社は福岡県にあり、丸紅系列の経営である。ひよこを仕入れ卵を産む成鶏まで育てる「育成農場」と採卵用の養鶏場(本社農場と山口農場)を持っていた。本社農場では約20万羽を飼い、山口農場で3万5000羽を飼っていた。本社農場では近畿方面に1日平均10d(15万〜16万個)出荷していた。従業員は両農場を合わせパートなど約50人が働いていた。生産した卵はイオングループのマックスバリュなどのスーパーや量販店で販売していた。
 養鶏業界をはじめ畜産界では「飼料を握るものが業界を支配する」といわれているが、丸紅は国内最大の飼料会社を持ちアメリカの穀物商社と結びついて配合飼料の原料を輸入している。

  真先に米国方式を導入 農業支配する典型
 養鶏は戦後アメリカが日本農業を支配していく典型として、農業分野で最初に企業化された。鶏を庭先で飼うのではなく、何万羽をゲージに押しこみ、ベルトコンベアーでエサを運ぶ飼い方はアメリカから導入された。とりわけ1960年代から、アメリカの穀物商社は日本の商社を下請にし、輸入した穀物を加工するエサ会社と結び、エサ、ひよこ、ひよこに投与する動物医薬品をセットにして農家に売りつけ、生産した卵をスーパーと提携して売るというやり方をとってきた。養鶏を突破口として、牛肉など農業の全分野に広げ、さらにこれを世界的にグローバル化していく方向ですすんできた。
 アメリカでの養鶏の規模は100万羽以上を飼養する企業が62社あり、これが採卵鶏全体の七九%を占めている。日本では10万羽以上を飼う企業が全体の91%を占めている。
 生産経費を見ると2001年度で、卵1`当りの生産費は3000〜1万羽で160円(前年151円)、1万羽以上で144円(同142円)となり、年年上昇している。それに比べて卵価は国際競争にさらされ、1`当り140円を割りこむ場合もあるなど下落傾向にある。
 アメリカ最大の養鶏企業カルメイン・フーズ社は2040万羽を飼育し、アメリカ資本を導入した中国の養鶏では、最大で約300万羽を飼育している。しかも中国の養鶏は日本むけの輸出を念頭においたもので、殻付き卵の日本への輸出を狙っている。人件費が日本の20〜30分の一という中国から殻付き卵が本格的に輸入されるなら、いま以上に卵価が下落することは確実である。こうした国際的な安売り競争をよぎなくされている日本の養鶏業界では、いかにコストを削減するかが史上命令である。生き残ろうとすればどうしても安い輸入配合飼料に頼り、人件費をぎりぎりに削減して経費を削らなければならず、「安全」は切り捨てられる。「安全」を優先すれば、経営は成り立たず、アメリカや日本の大企業にしめ殺されるというなかにある。

 経営難で対応もとれず
 「韓国」で鳥インフルエンザが大流行した段階で、当然養鶏業者は大きな危機感を抱いていた。専門家はすべての鶏にワクチンを投与することも主張した。だが、ばく大な経費がかかるものであり、とてもそのような対応はとれなかったことも実際である。
 下関市内の畜産関係者は、「狂牛病もエサが問題だった。丸紅の飼料をやった牛に狂牛病が発生した。鶏はインフルエンザ、鯉はコイヘルペスウイルスで大量死している。これもすべてエサに問題がある。いまは飼料はほとんど輸入だ。狂牛病も鳥インフルエンザも世界中に広がっている。アメリカが世界中に食糧や飼料を輸出しているからだ。それももうけのためだ。牛には抗生物質やホルモンをやって早く肥えさせるし、コメや野菜は農薬をぶっかけて腐らないようにする。大企業はもうけさえすれば、毒入りでもなんでも知ったことではない」と話していた。
 「日本の農産物は高い。輸入すれば安い」という宣伝で、牛肉、オレンジなど農産物の「自由化」がつぎつぎに強行され、ついには主食であるコメも「自由化」された。この間にすすんできたことは、アメリカ農産物の大量流入であり、アメリカの多国籍企業が直接日本の農業を支配し、農産物価格を下落させ、中小零細な農家の経営を成り立たなくさせて、なぎ倒していった。しかも国際的な「低価格競争」は、結局は「安全」を切り捨てるものであり、消費者にとっては「毒入り」の食べものを買わされるということである。

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