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高齢化社会支える地域の力
下関・独居老人会食サービス
              政治や行政に先行する取組み   2016年11月18日付
 
 下関市の綾羅木地区の女性たちでつくる「綾羅木ボランティアの会」(佐藤寿美恵会長)は、21年前から地区の一人暮らしの高齢者のために月1回の会食サービスをおこなっている。現在は30人をこえる女性を中心としたボランティアスタッフたちが担っている。この活動は、16日におこなわれた会食サービスで224回目を迎えた。「地域のために何か役に立ちたい」という思いをもった人人が力を出しあい、21年間続いてきた「綾羅木ボランティアの会」の会食サービスの現場を取材した。
 
 市内各地で同様の活動広がる

 綾羅木ボランティアの会は、1995年に神戸・淡路大震災が起きた年に、綾羅木地区の女性五人が自分たちでもできるボランティアはないかと考え、1996年に発足した。そして月1回、第3水曜日に70歳以上の一人暮らしの高齢者(家族が仕事などで昼間にいない高齢者を含む)を対象にした食事サービスが始まった。
 発足当初は個人の家でおこなっていたが、1年後に場所を綾羅木会館に移した。当初、会館の厨房が狭かったので、毎回屋外に流し台とコンロを持ち込んで調理をおこなっていたという。その後、行政と交渉して厨房の改修をおこなうなどして体制を整えていった。会食サービスに使用する鍋や釜、食器もみなで少しずつ揃えていった。現在、綾羅木会館の敷地内に倉庫をおいて鍋、釜は保管し、食器類は毎回持ち込んでいる。

 皆と会話し楽しい一時

 月に1度の会食サービスは佐藤会長を中心にして1週間前に献立を考える。できるだけ季節の食材を取り入れること、魚、肉、煮物、和え物などバランスよく5、6品を考えるという。前日の朝9時から5、6軒の店やスーパーを回って買い出しをし、夕方の6時から9時までのあいだに5、6人で下準備をしている。当日は朝九時からボランティアが集合して、厨房で手際よく調理や配膳がおこなわれていた。
 この日のメニューは、一口トンカツと野菜サラダ、カボチャの天ぷら、サツマイモ、ちくわ、レンコン、ブロッコリーの和風ポトフ、サツマイモ、リンゴ、パプリカ、ニンジン、ヨーグルト、チーズを塩こしょうで味を調えたサラダ、ゴボウとニンジンのきんぴら、サンマの甘露煮、大根の葉っぱの漬け物、ごはん、みそ汁、そしてデザートは手づくり抹茶プリンという豪華メニューだ。毎回70食を用意し、これを1食300円で提供している。消費税増税や物価高騰などで赤字になることもあるが、会の貯蓄を切り崩してできるだけの食事を提供するよう心がけているという。
 午前11時になると1人2人と高齢の婦人たちが連れだって綾羅木会館を訪れ始めた。歩いてきたり、友人と車で乗りあわせて来る。幾人かの高齢者は男性のボランティアスタッフが送迎している。「元気だった?」「久しぶりね」「席をとって待ってたよ!」「あら今日はスカートじゃない!」とたちまち賑やかな声が会場に溢れ始めた。まるで同窓会で久しぶりに友人と出会ったかのように互いの再会を喜んでいる。あっという間に会場には高齢者女性が約50人集まった。男性の参加は1人だった。会場には医療関係者が待機しており、血圧測定もできるようになっている。
 11時30分になると食事が始まった。高齢者たちは「おいしいねぇ」「一人だとこんな料理はつくれない」「めずらしいサラダだね」「今日欠席した人には“美味しかった”って自慢しようよ」といいながら楽しそうに食事をしていた。
 綾羅木に住む91歳の女性は、歩いて会場を訪れた。一人では買い物に行けず、食事はいつも配食サービスに頼っている。「普段は一人なので、このような開かれた場に来れることはとても楽しい。料理の味付けも濃くなく、バランスもよくて上手にしてある」と話す。週2回のデイサービスに参加するのも健康を保つ秘訣になっているが、「これから要支援2が1になって、デイサービスの回数が減るのが心配だ」と語っていた。「ボランティアさんのおかげで私たちは本当にいい時間をもらっている。頭が下がる。自分のためだけに生きているのではなく、人のために頑張っているボランティアさんと接すると気持ちも明るくなる」と語っていた。
 川中地区からも友人同士が車に乗りあわせて毎回参加している。川中本町の80代の女性は夫が10年前に亡くなり、7回忌を終えてホッとしたとたん持病が悪化し入院したという。退院して気が滅入っているときに、友人が声をかけてくれて綾羅木の会食サービスを利用するようになった。日ごろは生協の宅配を利用し、一人分の食事をつくって食べている。「私はマンションで一人暮らしだから、さみしくてたまらないときがある。週1回ヘルパーさんが来てお話できるのもとても楽しみだ。毎月、この食事会もいろんな人とお話ができてうれしい」と話していた。
 一方で、今年3月に綾羅木のスーパー丸和が閉店したことで、「歩いて買い物に行ける場所がなくなり、本当に不便になった」「魚屋や野菜を車で売り歩いてくれる人はいないだろうか」という意見も共通していた。
 食事のあとの時間は、来賓を迎えてのヴァイオリン演奏や講演など楽しいひとときを過ごしている。最近は童謡を冊子にした楽譜をつくり、コーラスをしている男性ボランティアの指導でみんなで歌を歌うことが多い。一人暮らしの高齢者は、家のなかでは会話をすることがないため、このような場で話したり歌うことが発散になっている。参加者のなかには俳句や絵などをたしなむ人も多く、みなの前で作品を披露することもある。
 20年の活動のなかで、持病が悪化して来れなくなった人、亡くなった人など顔ぶれも変化したが、また誘いあって新たな人が参加し、毎回50人前後が訪れている。

 人に役立ち元気もらう

 当初は5人でスタートした綾羅木ボランティアの会も、現在のメンバーは30人をこえている。月に1度の独居老人のための会食サービスを基本の活動として、参加できる人が無理なく集まって活動するスタイルをとっている。メンバーは「地域のために何か役に立ちたい」という60代から80代の女性が多く、人が人を呼んで徐徐に人数が増えてきた。女性ボランティアの一人は、自分が持病を抱えて気持ちが落ち込んでいたときに知人に誘われて参加するようになった。「人の役に立つことで元気になり、自分が救われた」という。「佐藤会長を中心にして、無理なく活動に参加できること、高齢者の役に立つことで逆に私が元気をもらっている」と語っていた。男性ボランティアの一人は、仕事を退職して「何か地域の役に立てないか」と思っていたときにこの活動を知って参加した。男性の役目は高齢者の送迎だが、「自宅に送り届けてきちんと家に入るのを見届けるまでが私たちの役目。お手伝いする私たちの生きがいにもつながっている」と話す。
 佐藤氏は、「食事を配るよりも、みんなで集まって食事ができる方が、会話をしながらで楽しく元気になる。高齢者にとっても奉仕する方も、お互いが励ましあっている関係だと思う」と語り、今後も続けていきたいという。また「私は子どもが小学生のころにこの活動を始めた。私たちの世代は専業主婦が多く、ボランティアスタッフもその年代が多い。次の世代にこの活動をつなげていくうえで、ボランティアの育成が課題だ」と話す。
 最近、垢田地区の自治会関係者が会食サービスを見学に来たという。安岡地区でも子どもたちや一人暮らしの高齢者向けのカフェを計画する動きがあり、豊前田地区にある「アトリエ心」では18日にシルバー世代を対象にした無料のおにぎりランチ会が開かれる。介護保険など公的な福祉サービスが切り捨てられるなかで、現状を何とか打開したいという思いをこめて、地域のために活動する動きが各地で活発になっている。
 貧困や少子高齢化などの社会的問題は、政治がまともに機能し、社会制度として整備しなければ根本的な問題の解決にはならない。しかし、子供食堂や老人配食など、社会が必要としている要求をくみとって、率先して身体を動かすとりくみが政治や行政よりも先んじて広がり、地域を支える役割を果たしている。

 

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