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国潰す食料の海外依存拡大
牛肉、コメ輸入自由化の上にTPP
              口蹄疫や震災からの復興に冷水    2012年11月5日付

 昨年の東日本大震災と東京電力福島原発の爆発事故による被害や宮崎県での口蹄疫被害など、極限ともいえる過酷な状況のなかから奮起し、なみなみならぬ努力のうえに自力で農漁業の復興に立ち上がる農業者、漁業者の姿が全国の農漁民に共感を与え、激励している。他方で政府は、大震災や原発事故、口蹄疫被害からの復興は放置したうえに、アメリカに追随して環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加し、日本農業を壊滅させるかまえでいる。おりからの世界的な穀物高騰のなかで、国内の農漁業を全滅させ、食料を海外に依存することに対し国を破滅させるとの警鐘が鳴らされている。
 
 戦後の対米従属政治の結末

 東日本大震災や福島原発事故での絶望的な状況のなかから、農漁業者が強靱な精神と地道な努力で一歩一歩生産を復興させている姿が全国の共感を呼んでいる。また最近では、2010年の口蹄疫の被害で存亡の危機に直面した宮崎県の牛が、10月末に長崎県で開かれた国内最大の和牛の祭典=全国和牛能力共進会(5年に1回開催)で2回連続で日本一の成績を収めたことが山口県内でも話題になっている。
 宮崎県では2010年の口蹄疫被害で約29万頭が殺処分されたが、これは山口県の牛頭数の2倍、宮崎県内の牛の2割にのぼる甚大な被害であった。豚を含めた家畜全体では約30万頭が理不尽に殺処分され、農家だけでなく地域全体を暗雲が覆った。なかには全頭を殺処分され、再起を断念した農家も出た。しかし今回の大会では全頭殺処分された農家が、畜産仲間の励ましを受けて、苦境のなかから立ち上がり内閣総理大臣賞など日本一を勝ちとった。
 こうした宮崎県の畜産農家の快挙に、下関市内でも喜びの声が上がっている。肥育農家の男性は「全国共進会で賞をとった宮崎の畜産農家はみんな友だちだ。宮崎県はあれだけの口蹄疫の被害のなかから立ち上がって、絶対に宮崎県の畜産業を守り抜くんだと本当に張り切っている。一人の高校生が綱を引っ張ったが、高校の側が“一カ月学校に来なくても欠席扱いしないから、全力でやってこい”と送り出し、共進会の後の肉の競売会でも、県が積み立てをしておいて、全部買い上げるくらいの構え。共進会では、背筋から姿勢、性格などさまざまな面が評価される。賞をとるということは、種牛の質もあるが、各農家の育て方が一番大きい。畜産農家がどれだけの志を持って牛を育ててきたかということだ」と話した。
 また市内の宮崎牛を扱っている肉屋は「口蹄疫のとき国はスーパー種牛まで全頭を殺処分せよと指示したが、現地では断固として拒否して種牛を守った。それが今回の日本一にもつながっていると思う」と話していた。
 だが、こうした宮崎県の畜産農家の前には、飼料価格の高騰や、枝肉価格の低迷など難題が山積している。野田政府はアメリカがTPP参加の条件として突きつけてきている狂牛病(BSE)対策で「月齢20カ月以下」となっている米国産牛肉の輸入規制を「同30カ月以下」に緩和する。年明けにも新たな規制に基づく米国産牛肉の輸入が拡大される。さらには「60カ月以下」まで規制を緩和するかまえを見せ、アメリカにこびを売っている。
 全国の畜産農家の血のにじむような努力に冷水を浴びせ、国内の畜産業を存亡の危機に陥れる野田政府の農業破壊政策である。この国内の畜産業の破壊は戦後一貫して貫かれている。
 牛肉は戦後直後は自給率約90%であったが、1975年の日米牛肉交渉を契機に輸入牛肉のシェアが大きく拡大していく。日本政府は73年のオイルショックの影響で経営危機に陥った農家の救済のために74年に牛肉輸入を中止したが、アメリカはこれをガット協定違反だとやり玉にあげ、75年から日米牛肉交渉を始め、83年の第3回交渉で「91年からの完全自由化」を押しつけた。75年には国内生産量が79%を占めていたが、90年には50%になり、94年には42%、2000年には33%、09年の自給率は11%に激減している。
 2003年にアメリカでBSE感染牛が発覚し、米国産牛肉の輸入を禁止したが、05年に20カ月以下の条件で輸入を再開。その後アメリカは執拗に「20カ月以下」の規制を撤廃することを迫ってきていた。日本では21カ月齢の牛からもBSEが発生しており、アメリカの「30カ月以下ならば安全」という主張はなんの根拠もない。にもかかわらず野田政府が「30カ月以下は安全」としてアメリカのいうままに規制緩和を強行しており、国民の生命・安全にもまったく責任をもたず、国内の畜産業を破壊する先兵になっている。

 輸入制限は5品目だけ 50年前は103品目だが

 牛肉と同様、戦後他の農産物の自由化もあいついだ。専門家は「戦後の農政は市場開放の歴史であった」と指摘している。その間に食料自給率は1965年の73%から現在では39%に低下している。自由貿易交渉の結果、輸入制限品目は1962年当時の103品目から現在では5品目だけになっている。たとえば62年には羊、卵黄、繭、生糸、食パン、真珠などが自由化、63年には蜂蜜、落花生の粉、バナナなど、とくに71年には豚肉、ブドウ、グレープフルーツ、ソーセージなど30品目の輸入自由化が強行され、91年には牛肉、オレンジの輸入自由化が農家の強い抗議行動を押し切って強行された。
 また、93年のガット・ウルグアイラウンドでは主食であるコメの輸入自由化にも踏み切った。日本は現在、最低限輸入機会(ミニマムアクセス=MA)米として、年間77万dのコメを輸入している。それは年間コメ消費量約1000万dの約1割にのぼっている。
 コメの輸入自由化を強行するために政府は1970年代から本格的な減反政策を進めてきた。最初は水田面積の1割であったものを拡大し続け、自由化時期には水田面積の約4割もを減反し、ちょっとした天候不順によるコメの不作でコメ不足になるようにした。そして93年の長雨、冷夏によるコメの不作を「好機」として、輸入自由化を強行した。
 輸入自由化を契機に、食糧管理制度を廃止し、コメ市場を自由化、市場原理を導入した。米価は急激に下落し、自由化前の半値に落ち込んだ。経営難によって、耕作放棄地は拡大している。唯一100%を確保していたコメの食料自給率も90%台に落ち込んだ。
 そのうえに、野田政府はTPP交渉参加を急いでいる。農業に関する問題では、農産物にかかる関税を完全撤廃する。農水省の試算でもTPP参加によって、食料自給率は10%台に激減する。各地の特産物の生産が残る程度である。日本農業を壊滅的に破壊したうえで、アメリカ産をはじめとする外国産の農産物を大量に輸入するというものである。

 世界的に穀物在庫不足 飢餓の危険が現実味

 だが、世界的に穀物在庫は不足傾向にあり、加えてアメリカでの大干ばつなど天候不順による不作、そこにつけこんだ投機マネーの流入などにより、穀物価格は高騰している。世界的には「食料は輸入すればいい」「安い食料を買えばいい」などの論が通用しない事態に直面している。
 国際穀物理事会は10月25日現在の最新の世界穀物需給見通しを発表したが、前年度の実績見込みに比べて五%減の水準であり、食料高騰で各国で暴動が発生した07、08年度以来の低い水準となると予測した。
 アメリカや欧州、ロシアなどを襲った大規模な干ばつで生産量が減り、期末在庫が減少することが確実になっている。
 07、08年には世界のコメ価格は217%、小麦は136%、トウモロコシは125%、大豆は197%高騰した。リーマンショック後、有り余った投機マネーが原油や農産物市場に大量に流入したことが大きな要因になった。穀物高騰はエジプト、カメルーン、ハイチ、チュニジアやバングラデシュ、フィリピンなど20カ国で民衆蜂起や政変を引き起こした。
 エジプトは世界最大の小麦輸入国であり、小麦価格が1年足らずで約3倍にまで高騰した。食料高騰と安い賃金、若者の失業の増大に抗議して民衆が決起し、ついに30年間にわたって独裁政治をおこなってきたムバラク大統領を辞任させた。 08年水準の穀物高騰のなかで、各国政府は、食料高騰や食料危機が「政変」や「革命」を引き起こすことを恐れ、小麦など食料確保に奔走している。世界最大の産油国サウジアラビアは、現行6カ月分から1年分に引き上げる小麦備蓄倍増計画をうち出した。
 現在でも日本の穀物自給率はわずか28%であり7割以上を輸入に頼っている。TPP参加で国内の農業生産が壊滅状態になれば、穀物価格の高騰はエジプト並みの影響を与え、日本人民の食卓を直撃する。いくら軍備を増強しても飢餓や餓死が現実味をおびており国民の生命も安全も守る意思のない国の姿をみせつけている。
 どの時代でも国民に食料を供給するのは国の責任であり、国民を飢えさせる為政者は統治能力なしとみなされ、人民の蜂起や革命で歴史から葬り去られるのが常である。日本も、1918年のシベリア出兵にともなうコメの買い占めや売り惜しみが原因で米価が急騰したとき、富山県魚津の漁村の主婦が起こした一揆(越中女一揆)をきっかけに米騒動が全国各地で起こった。政府は軍隊を出動させて鎮圧したが、米騒動の結果、寺内正毅内閣は崩壊している。
 戦後の日本の農業者は焼け野原となった都市部はもとより日本を復興させる礎となる食料生産のために営営と努力し、食料自給率70%以上を実現してきた。ところが自民党政府をはじめ歴代政府は、アメリカの市場開放要求に従い日本の農産物市場を明け渡すための農業破壊政策を意図的・計画的に実行してきた。TPPはその最終的な大破壊をもくろむものとしてあらわれている。TPPは農業だけの問題ではなく、労働や医療、郵政や金融など日本社会の全分野をアメリカに差し出し、アメリカ基準を導入して日本を今以上の植民地・属国に変えてしまうものである。とりわけ食料を安定的に供給する問題は、人人の生活にとって譲れない一線であり国の主権にかかわる問題である。それは農漁業者はじめ労働者や消費者が団結して農漁業生産の振興、食料の国内自給実現を政府に迫り、全国民的な運動をまきおこしていく重要課題である。
 下関市内の肥育農家は、「TPPとなると山口県だけでなく日本全国の農業がつぶれる。全国民は反対で、賛成しているのは永田町だけだ。狭い永田町の隅っこで、“まあなんとかやりましょう”と陰で話が決まっている。こうなったら全国の農家が結束して、一週間出荷停止して、日本に農業がなくなったら大変なことになるんだというのを知らしめるなどして消費者の世論を喚起し、国を動かすくらいのことをしなければいけないのではないか」と語っている。

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