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皆で力を合わせる事が美しい
組体操で変わる子供、教師
              他校に広がる上宇部実践    2013年10月2日付

 鉄棒逆上がり全員達成を教師集団でとりくんできた宇部市黒石小学校の佐藤公治氏が、山口県A小学校運動会の組体操の指導をおこなった。佐藤氏から寄せられた報告を紹介する。

 山口県A小、運動会の取組み

 「僕たちは、“一生懸命は美しい”“みんなが力を合わせてみんなのために”という先生方の教えを守り、組体操の練習をしてきました。そして今日は、見事大成功しました。みんなが力を合わせれば、どんな難しいことでもできるんだということを知りました。組体操で学んだことをこれからの学校生活に生かしていきたいと思います」 これは、この間組体操を指導してきたA小学校の閉会式での児童代表の言葉である。

 子どもたちとの出会い

  「1昨年、去年と組体操がぼろぼろで2人1組の技からばらばらばらばら落ちて、大技などまったく体をなさず、どうにかしたいと思っているのでぜひ指導してほしい」という依頼を受けて、9月のはじめからA小学校に組体操指導に入ることになった。
 初日に出会った子どもたちは、緊張しながら私の顔を見ているが、体育館のまわりで集合しない子どももいる。上履きを折って履き、担任の教師のいうことは無視という感じで、女の先生が手を引こうとすると「放せ、くそばばあ」と悪態をついている。初日はおそらく私を試しているんだと思った。「君たち、時間がもったいないから集合せーや」と一言かけて、まず黒板に大きく4つの言葉を書いた。"
 1、一生懸命は美しい
 2、みんなが力を合わせ てみんなのために
 3、頑張っている人を笑わない、けなさない、 ばかにしない
 4、佐藤は知っていることは全部全力で教える 
 このことを全員に伝え、「この運動会に感動的な組体操をつくり上げていこう。組体操を通じての協力や努力が、将来、君たちの自信につながっていくし、地域の方方やお父さん、お母さんの期待に応えることになるんだ」と強調した。
 1学年30人足らずで、5・6年合同でおこなう組体操。前もってA小学校の先生方からの構想をいただいていたので、それに従って1人技のV字バランス、ブリッジ、肩倒立などからこつを教えていった。集合しなかった子どもたちも技の練習になると隊列に加わるようになったので「やる気になったら結構やるねえ」と声をかけると、手や足に力を入れて、きれいに見せようとするところがかわいい。「この子たち、自分を見てほしい」というサインを送っているんだと思った。しかし一番最後に集合したK君は、しばらくするとお腹が痛いといって保健室へ逃避して2時間練習の最後の10分ごろになって復帰した。
 初日は3人技の飛行機までで練習を終えた。終わりの挨拶で「A小の子どもたちは、いいものを持っているし、本気でとりくんでいる君たちは輝いていたよ。ただ、まだ練習中に茶化したり、友だちに嫌なことをいう場面やきちんと集合できない場面を見た。人が話しているときに手悪さをしている。これを直さないと大技は成功しないと思うよ。次回までの改善点として直すべし。もう一つ、佐藤から宿題を出す。今日から毎日、スクワット10回、腕立て伏せ10回、腹筋10回、スクワットジャンプ10回を家でも学校でもやること。そしたら運動会までに、君たちの体に力がついてきて、いろいろな技が楽にできるようになるから」と課題を出して子どもたちと別れた。

 練習のあとの職員室で

 子どもたちとの練習の後、校長先生、5、6年の担任の先生と話をした。
 「この子たちは、きついことや嫌なことからすぐ逃げるんです。保健室に行ったK君のような傾向を持った子がたくさんいるんです」「人数が少ないのに、家庭環境・学習環境が厳しい子が多いのです。体育的にも学習的にも、十分に力が発揮されていないのです。地域や周辺からも評価が低いのです。それが担任のところへ跳ね返ってくることがあります。先生方は一生懸命子どものために努力していますが、周囲にはまだ十分理解されていないようです」「しかしいつもだらだらして、私たちの指示には素直に従わない子どもたちが、今日、本気で一生懸命、組体操の練習にとりくむ様子にびっくりしました。指導一つでこんなに子どもが変わるんだと驚きです。子どもたちは何でもやれる力を持っているし、本気になれることがわかりました」ということだった。
 私は「子どもたちの力は無限と思っています。子どもたちのやる気と教師の情熱が一緒になれば(自発性と指導性の統一)必ず子どもたちは大きな力を発揮し、成長すると思います。子どもたちの力を信じて組体操をやり遂げましょう」と力を込めてエールを送った。

 子どもたちに変化が…

 2回目の練習に行った。明らかに子どもたちから出てくるオーラが違う。
 「君たち、佐藤の宿題を本気で続けとるやろ。なんかこの前から見ると体と顔が引きしまっちょるよ。佐藤の大好きなK君とM君とNさんも今日はきちんと集合できちょるね。感動! ただし手悪さして集中してない子がまだ何人かおる」というと「俺毎日やっちょる」「何か技が楽にできるようになった」と反響が返ってくる。「そうか、これを運動会まで続けるともっともっとたくましくなるぞ。今日は四段のタワーと五段ピラミッドに挑戦していく。最初にいっておくが、みんなで力を合わせて本気でやらないとけがをしたり、命の危険にさらされたりするので、厳しいこというかもしれないけど頑張ろう」といって練習に入った。

 嫌なことから逃げるな

 4段のタワーと5段のピラミッドになると5、6年が一緒にならなくては完成しない。タワーを6年の男女が全員で1基。5段ピラミッドを男子1基、女子1基つくる。
 ここで、女子のなかにあらわれてきた敗北主義。「どうせできんから無理」「嫌だ」「意味わからんし」を口癖のようにいう。「あんたら、それが口癖のようになって今までもしんどいことや努力せんといけんことから逃げてきたんじゃろ。それじゃ世の中で通用せん。父さん母さんはじめ働いて社会を支えとる人があんたらみたいに逃げとるか? 必死でやってみてできんかったときには援助する。“意味わからん”で逃げるな。わかるまで聞く努力をせー。“嫌だ”を全員がいったら組体操完成せんやろが」と女子を集めて一喝した。
 男子は見えないところで悪さをしたり、茶化す。ピラミッドの下から2段目の子が一番下の土台の子の背中にグー(握り拳)でぐりぐりやっている。しかも一番上の5段目の子が立とうとするときにだ。5段目を座らせ4段目、3段目を解いて男子全員には次のように話した。「今、ピラミッドをつくっているときに、下の人にグーでぐりぐりをした子がおる。佐藤は許さん。もし土台の子が痛がって体勢が崩れたら、全部が崩れ一番上の子が地面に真っ逆さまだ。“ふざけ半分でした”などという言い訳は通用しない。命をかけてやらないといけない場面に直面したときに、真剣にやることができなかったら死ぬ。自分だけでなく多くの人が犠牲になる。これはずっと覚えておいてほしい」とここでも吠えた。(このあたりからもう試すのはやめたみたい)
 子どもたちは、見違えるように本気になった。もう逃げる子も弱音を吐く子も悪ふざけをする子もいなくなり、ぴーんと張りつめた緊張感のなかで、4段タワーと5段ピラミッドをついに完成させた。心の底から熱いものがこみ上げてきた。「やったー。できた!」 涙で声もうるうるしていたが、それでも力一杯の大きな声で賞賛し拍手を送った。他の先生も涙目で拍手を送り続けた。 一回自信をつけて、「やれる」がわかれば子どもたちの力はすごい。どっしりとがっしりと4段タワーも5段ピラミッドもつくりあげる。それ以後の練習で1回も失敗しなかったと聞く。

 いよいよ運動会当日―

 運動会は快晴に恵まれた。いよいよ組体操の出番である。
 音楽に合わせ、1人技から2人技をぴしっぴしっと決めていく。2、3人の失敗はあっても必死で完成させようと努力する姿が美しい。3人技は完璧にこなし、5人、6人の技も堂堂と完成。いよいよピラミッド。「逃げるな」と叱られた女子、「ふざけるな」と一喝された男子。どの子の顔も真剣だ。1段、2段、3段と順調に仕上げていく。4段、そして一番上の5段目。びくともしない土台と誇りに満ちて手を広げる一番上の子。どの子の顔も輝いている。「すごいねー!」「感動!」の声とともにひときわ大きな拍手が起こる。
 そして最後の4段タワー。どっしりした土台。K君とM君(あえてここに起用した)ともう1人の男子の2段目も自信に満ちてびくともしない。そして一番上。ピンと立った姿勢。堂堂と風格のあるタワーに会場がどよめいた。「去年までこんなタワー見たことなかったねー」「素晴らしい」と目頭を押さえて拍手を送る保護者。私は涙が次から次に流れてきた。
 ポーズを決めて1人1人退場していく姿は何とも頼もしく、清々しい。「どうせA小の子は」の低い次元から「A小の子はすごい」「A小の子は素晴らしい」に評価を一変させる画期的な組体操であった。担任の先生が子どもたちに「先生いつまで泣きよるん」といわれながらも「私はうれしいの」と涙をぬぐおうともせずに、お化粧がぼろぼろになってもうれしそうに係の仕事をされる姿にまた、涙が出た。感動の運動会であった。

 子供天国とたたかって

 この実践を通じて、重要な教訓をまた一つ教えてもらったように思う。「家庭的に問題があるから」「親の理解がなく文句ばかりだから」はどこの学校も抱えている問題である。そこで子どもたちに好き放題の言動を許していては、規律などあったものではない。いわゆる「子ども天国」では組体操も失敗するのはあたりまえである。ただの失敗だけならよいが大けがや命にまでかかわってくる。
 個個バラバラで友だちを揶揄(やゆ)し、意地悪をし、集団行動ができない傾向を持っている子どもたち。教師と子ども、子どもと子どもの心の通い合いができず、教師に反発する子どもたち。教師も必然的に叱ってばかりで自信を失っている。
 A小の子どもたちに、運動会の組体操をともに成功させようと訴えた。そして成功のためなら全身全霊をかけて教えると宣言した。そして何よりも「みんなのために自分の力を役立てる」「みんなが力を合わせれば、どんな難しいことでもできるんだ」ということを体感させた。上宇部小実践の真髄をそのまま子どもたちや教師に組体操の実践として提起した。
 「自分さえよければ」「嫌なことから逃げて努力しない」「どうせ〜だから」の「自由・民主・人権」「敗北主義」と毅然として斗争した。「よその学校の子どもだから」なんか関係ない。この子どもたちも将来勤労人民になって社会を支え発展させ新しい社会をつくる大切な仲間である。世の中に出て通用しない自己中を開けて通すことはできないと思った。(もし私が開けて通せば、どこでも自分たちの思いのままが通ると勘違いさせる)"," 先述のグーで背中をぐりぐりした子にげんこつをはめた。集団の団結を乱す言動には厳しく臨んだ。しかし子どもたちが力を合わせて、技を完成したときには心から喜び、泣きもした。できなかった技が練習やトレーニングを重ねてできるようになった子には大きな拍手をした。常に基準は「働く者の資質として、集団・仲間を大切にすること」においた。"
 子どもたちみんなが力を合わせて苦労してピラミッド5段を完成したとき、「みんなで力を合わせることが美しい」と感じ「自分勝手や逃げは美しくない」と感じることができるようになったと実感した。子どもたちのその姿にこの組体操は成功するという確信を持った。
 それ以降、A小の先生方も「みんなで力を合わせることが美しい」と感じ「自分勝手や逃げは美しくない」観点で子どもたちに厳しいこともいい、できたときには心から賞賛できるようになったと聞く(小言ばかりで建設していこうとする目標がないことを改善)。また上宇部パンフ(逆上がり・縄跳び全員達成)と長周新聞(教育集会・黒石小全員達成)の記事をみんなが先を争って読んだと聞く。そのことも成功の要因になっていると思う。さまざまなしがらみや抑圧をはねのけて子どものために一心不乱に自分の力を発揮するようになった先生たちの力は相乗効果。教師間の結束が進み子どもたちとの関係もよくなっていることも、上宇部小、黒石小の教訓なのである。
 上宇部小実践の正しさがまた一つ証明され、また新たな学校に広がった喜びで胸がいっぱいである。
 秋の日差しをいっぱいに浴びて誇らしげにタワーとピラミッドを完成させたA小の子どもたちと先生方を思いつつ、文を閉じようと思う。
 

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