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南スーダンで何が起きているか
矢面に立ち標的になる自衛隊
                 研究者が語る最新情勢      2016年10月24日付
 
 「緊迫するスーダン情勢を考える 自衛隊は火中に飛び込むのか」をテーマに、アジア記者クラブ10月定例会が22日、専修大学神田キャンパスで開催された。30年近くにわたってスーダンの研究にとりくんできた大阪大学教授の栗本英世氏が現地の情勢・歴史的な矛盾関係と、自衛隊派遣をめぐって講演した。また、コメンテーターとしてスーダンで長期にわたる現地調査をおこなった経験を持つ千葉大学教授の栗田禎子氏(前日本中東学会会長)が、国際情勢のなかにおける南スーダンの矛盾を報告した。安倍政府がPKO派遣の自衛隊に、新安保法制にもとづいて「駆けつけ警護」や「宿営地の共同防護」などの新任務を担わせようとするなかで、両氏は自衛隊やNGO関係者、市民を危険に落とし入れかねないものであることに警鐘を鳴らした。
 
 アジア記者クラブで現地報告  欧米各国の分断支配の結末

 栗本氏は初めに、10月8日、稲田防衛大臣がジュバに7時間滞在して帰国し、「ジュバは落ち着いていた」と答弁したことを巡って自身の意見をのべた。1つの問題として稲田防衛大臣が国防大臣のクウォル・マニャンと会えず、国防副大臣のデイヴィッド・ヤウヤウと会談したことに注目。日本政府や防衛省が現地の状況に「関心がないと推測している」とのべた。
 ヤウヤウは2000年代初頭は難民としてケニアのカクマ・キャンプで生活していたムルレ人で、2010~2014年のあいだに2度の反乱を起こした人物である。彼が率いる「コブラ・ファクション」と称する集団は、スーダン政府の支援を受けて数千人の戦闘員を擁する集団となったが、2014年4月にサルファ政府と和平合意し、その結果として故郷に設置された「ピボール特別行政区」の主席行政官に就いていた。今年4月、特別行政区を廃止するかわりに国防副大臣に任命されたが、先月末に彼が率いていたコブラ・ファクションの司令官たちが将兵を率いてリエック・マチャル副大統領派に参加することを表明。ヤウヤウ逮捕の噂も出ていたという。稲田防衛大臣がヤウヤウと会談したのは事件の直後である。またヤウヤウは軍歴もなく、国防省についてはなにも知らないに等しい人物だという。
 栗本氏は、そうした日本政府の無知・無関心は過去3度の防衛大臣のジュバ訪問にもあらわれていたことを事例をあげて指摘した。例えば2014年にジュバを訪問した小野寺防衛大臣が国連PKO施設を訪問したときに怒った群衆(避難民)にとり囲まれ、車両に投石された事件(いっさい報道されなかった)は、避難民(ヌエル人)と対立するディンカ人の警護兵が同行したため、敵だと思われたからだった。
 また2015年1月に中谷防衛大臣が訪問し、マニャン国防大臣と会談したのは、ちょうどアディスアババ(エチオピア首都)で開催されていた和平交渉がひとつの山場を迎えていた時期で、大統領は会場へ向かう直前であった。その数日前には安倍首相がアフリカ3カ国歴訪の最後にアディスアババに行き、和平交渉がおこなわれていたホテルに滞在したため、和平交渉は会場が使えなくなったという。栗本氏は、和平交渉に影響力を行使しようと思えばできたにもかかわらず、「防衛大臣・首相は和平交渉にどのような関心を持っていたのか」と疑問を呈した。
 このような日本政府が、「現地の状況は落ち着いていた」「戦闘行為ではない。衝突であると認識している」などといっていることについて、栗本氏は日本の外務省と防衛省の情報収集と分析能力のおそまつさを指摘。「自衛隊が派遣できるほど安定しているなら、外務省は7月11日にレベル4に引き上げたジュバ市の危険情報を3か2に引き下げるべき」であり、稲田防衛大臣や安倍首相の論ではシリアやイラク、アフガンも含め、「国内の武力紛争はいくら軍隊同士が衝突しても戦闘は発生しないことになる」とのべた。
 栗本氏によると、7月8日に大統領官邸前で起こった大統領警護隊と副大統領警護隊の戦闘以降は、大統領側が和平合意を破って首都(昨年8月の和平合意で非軍事化)郊外から部隊や戦車、攻撃用ヘリを動員し、副大統領と約1300人の警護隊の殲滅をはかり、その後副大統領がコンゴに逃れるまで追撃戦が1カ月以上続くという、明らかな戦争状態となっている。
そのもとで2013年12月以降、国連PKOの基地内にいた約2万人の避難民は、今年7月に増加し、PKO史上初の約4万人にふくれ上がっている。「ジュバが安定しているのなら、なぜ約4万人は避難を続けているのか。帰らないのは安全が保障されていないからだ」とのべた。

 国家破綻し内戦泥沼化 政府側と敵対の構図

 栗本氏は南スーダンが独立当初から国連と国際社会による大規模で長期間の支援を受け、かつ政府自身が石油収入による資金を持っていたにもかかわず、わずか5年で破綻国家となったことについて、「皮肉だが、それゆえに国家建設と国民建設に失敗したのではないか」との見方を示した。汚職・腐敗は深刻で、大統領が閣僚たちに返還を求めた政府予算の総額は4000億円、会計検査院が議会に提出した報告書では消えた政府予算は8000億円にものぼった。こうしたなかで、2015年に予定されていた大統領選をきっかけに、大統領側が2013年からライバル排除と強権政治を強め、全閣僚を更迭するなどしてきたことが現在の内戦状態につながっていること、指導部内部の権力争いの政治的解決に失敗し、軍事的に解決しようとしたためキール大統領派(ディンカ人)対リエック副大統領派(ヌエル人)という構図になってきたと説明した。
 1年8カ月にわたる交渉の末、昨年8月にようやく和平合意がおこなわれたが、大統領は「押しつけられた平和だ」「白人の平和だ」と反発しつつサインしたもので、過去何度も停戦合意は破られ、暫定政府が数カ月で崩壊した経緯にもふれた。
 こうした複雑きわまる緊迫した状況下、人口1300万人のうち100万人以上が避難民となり、400万~500万人が飢餓状態に置かれている。栗本氏は日本国内で「派遣先の国と国民にとってどういう役割を果たすべきなのか、実際に果たしているのか」は議論されず、政府、与野党、ジャーナリズムのいずれも「参加五原則」などの議論に終始していることへの違和感を語った。また「JICA脱出のとき自衛隊はなにもしてくれなかった」(北岡伸一理事長)発言などをはじめとして、「JICA関係者や日本人を守るのが駆けつけ警護」というイメージが意図的につくられていることに警鐘を鳴らした。
 2013年以後の状況から「派遣先の国や地域の平和と安定、発展を保障する」というPKO活動自体が、「基地内に逃げ込んだ人人を保護している」こと以外は完全に失敗していることを明らかにし、「自衛隊を派遣する予算のごく一部を回すだけで、自衛隊が建設した道路の数倍の距離が完成したのではないか」とのべた。
 最後に駆け付け警護をめぐる議論にふれ、自衛隊の活動地域であるジュバ市内にいるのは政権側の軍隊と警察のみで、国連機関やNGOに危害を加えたり、市民を殺戮する恐れがあるのは政府軍であり、駆け付け警護に従事することは、政府軍と「衝突」することになると指摘。現在の議論はまったくナンセンスであり、「そもそも警護すべきは国連やNGOより、南スーダンの市民ではないか」とのべた。

 背景に米国の足場作り コマにされる日本

 コメンテーターを勤めた栗田氏は、スーダン・南スーダンの急激な「国際化」なり、「国際社会」の大規模な関与の背景に、21世紀に入るころからアメリカのアフリカ戦略の転換があることを明らかにした。「“中東の次はアフリカだ”と、アメリカがスーダン・南スーダンに関心を持ったのは端的にいうと石油・地下資源だが、同時にアフリカ内陸部に入っていく足場として重視するようになった」とのべ、アメリカがスーダン一帯を「アフリカの角」「湖水帯への道」などと呼んで関与を強めるなかで、両国の政治過程が「国際社会」を織り込んだ形で展開するようになったという見方を示した。軍事的にも冷戦後の再編で隣接するウガンダにある「米アフリカ軍」を重視するようになり、南スーダンをウガンダと連動して米アフリカ軍の足場とする意向もあり、南スーダン独立にもかかわったといわれていることを紹介。そうした関与のなかで国連はすでに部外者でなくなり、大統領・副大統領ともに、「国際社会」なり国連PKOをいかに操るかを考えながら動いていること、その矛盾のなかに自衛隊が関与しようとしていると語った。
 1956年にイギリスから独立したスーダン共和国で、やはり富や権力の分配の不公正さ、非民主的な国家運営をめぐって民主化闘争が起こり、1983年にジョン・ガランが創設したSPLA(スーダン人民解放戦線・現政府軍)は、「目的は南部独立ではない。アフリカはすでに植民地主義によって十分に細分化されてきた」として、「統一された社会主義スーダン」「新しいスーダン」を掲げ、北部政党や労働組合などと共闘して北スーダンのバシール政権とたたかっていた経過を紹介。長引く独裁政権に耐えかねた南部の人人の独立志向にかかわる形でアメリカ主導の「南北和平」がおこなわれ、「南部分離」の方向性が強まり、国家が分裂するに至ったが、独立した南スーダンは民主化どころか数年間のうちに考えられない汚職や独裁化が進むなど旧スーダンに似てきたことを指摘した。
 現在の内戦は、昨年の和平協定で決まった政権内部のポスト配分ではサルファ大統領が独占できないため、合意を反故にしようと副大統領派をたきつけて追い出す、または殺そうと意図的に仕掛けた戦争であり、偶発的衝突ではなく、戦争状態であると指摘。「五原則が守られている」という議論は観念的だとのべた。
 また栗田氏は質疑応答のなかで、大統領はPKO派遣に反発し、その他の勢力は頼みの綱としている状況のもとで、大統領派が「自衛隊を襲えばPKO全体が崩壊する」と考えているとみられ、昨年9月頃に「自衛隊が襲撃された」というデマが流れるなど、すでに一つのコマになっていると指摘。「自衛隊が襲われた」といって国際社会にショックを与える、もしくは駆け付け警護せざるを得ないように日本人を襲い、自衛隊を来させてPKO全体を崩壊させるシナリオも考えられるとのべ、「駆け付け警護をする」などと表明したこと自体が、自衛隊なり日本人の危険性を高めていると指摘した。


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