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無謀な埋立地への消防移転
下関市中尾市政
               弛緩しきった箱物暴走政治     2011年4月22日付

 東北地方を襲った巨大地震・津波と原発事故をうけて、地方都市における防災機能や行政機能の在り方が改めて問われている。プレートの上に位置している日本列島において地震、津波の脅威に加えて、全国に54基も原発が林立しており、同様の事態が引き起こされる可能性が十分にあること、これに対してどのような備えをして対処するのか、全国的に防災計画の見直しを求める機運が高まっている。このなかで、下関市では中尾市長が消防本部を脆弱な海峡沿いの埋立地に移転させるといい始め、旧態依然として200億円の新庁舎建設や、150億円投資する駅前にぎわいプロジェクトなど、平和ボケの大型箱物政治を改めず、弛緩しきっていることが問題になっている。下関市の防災・行政機能はどうなっているのか、市政の実態とあわせて見てみた。
 
 市役所建て替えありきの計画

 東北地方の津波被害をまのあたりにして、海峡の街・下関では消防本部の移転計画が改めて問題にされている。中尾市政が熱を上げている新市庁舎建設の一環で、市役所に併設した現在地に立体駐車場を建設する都合から追い出され、替わりにあてがわれたのが海峡沿いの埋立地だった。地震、高潮、津波が起こったら真っ先にダメになるのは明らかで、消防関係者のなかでも早急に見直すよう求める声が根強い。
 ところが3月議会では地盤改良などの予算が通過。着工に向けてまっしぐらに進み始めた。「災害が起これば市民を救助すべき消防が真っ先に救助されなければならないというのでは、市民はいざというときに困る。中尾市長は、消防署が水に浸かって市民が助けに行った、という場面がテレビに映って全国放送される恥ずかしい状態を想像すべきだ。第一に、このようないい加減なことをしていたら、市民の生命を救うべき消防隊員の志気をくじくことになるのではないだろうか。消防署は岩盤が強固な現在地に建設するべきだ」(本池妙子市議)の反対討論もあったものの、右から左へ聞き流して可決となった。議会でもろくな審議をしていないのが実態だ。
 海岸沿いは高潮、津波の影響にさらされやすいこと、地震が起きれば液状化が起きる地盤の弱さをだれもが心配している。予定地の埋立地は実際に、99年の台風18号の際には記録的な高潮に見舞われ、一帯が床下浸水などの被害を被った。人の腰上あたりまで水が押しよせ、周囲の道路はもちろん冠水。海と陸地の区別がつかず、車はボンネットの上まで浸かって故障した。海水にエンジンまわりをやられ、新車を泣く泣く手放した話など尽きない。
 道路建設に携わったことのある市職員の男性は「あの場所で庁舎が大丈夫だったとしても、冠水したら出動できないのに…。船で出動するのか? 液状化対策を庁舎に施すといっても、周囲が凸凹の泥まみれになれば動けない。99年の台風被害のようなことは、台風の向きや条件によってはいつでも起こりうる。防災というのは1000年に1度の万が一にも備えるのが絶対なのに」と語っていた。予定地はもともと水上警察が置かれていた場所で、周囲は海。「水陸両用消防車でも導入するつもりなのか?」という声まである。
 県内の消防関係者のなかでも「常識的に考えて、海のそばに建てるのは危険だ」「県下最大の都市で、東北の被災地支援でも隊長を務めた下関なのに、なにを考えているのか?」と話題になっている。
 昨年夏に大水害に見舞われた山陽小野田市の厚狭地域では、消防署も被害を被った。あたり一面が水に浸っているなかで消防車は出動できず、身動きがつかなかったことなど、なまなましい記憶を消防隊員たちは語る。「さいわい消防車は水に浸からずに助かったが、かりにエンジンがやられたら危なかった」といわれている。そして、「わざわざ海のへりにつくる意味がわからない」「消防庁舎が孤立したら、立派な機材があっても働けないのに」と首を傾げていた。「救助する側が救助されるような事態になってはいけない」として、老朽化に伴う移転先には、浸水被害にあわなかった地域を検討しているほどだ。
 現場を知っている人ほど、消防車・機材の浸水への不安も指摘する。消防車にはさまざま種類があるものの、1台3000万〜4000万円するものも少なくない。ハシゴ車なら1億円もする高価な特殊車両になる。下関消防OBの男性は「冠水してしまえば出動できるかどうかも心配だが、消防車両がまとめて故障する事態にもなりかねない。“備えあれば憂いなし”なのに、一番備えをしっかりしなければならない消防がしばらく仕事道具を失って、手足をもがれた状態にもなりかねない。その間、応援してくれる自治体や他の消防にも迷惑をかける。あってはならないことだ」といった。
 そして「江島市長時代から、消防本部をどこに建設するかが街づくりゲームのパーツにしか見なされていなかったことに問題がある。防災機能の面からも見直してもらいたい。政治家がバカなのはどうしようもないが、このようないい加減なことをしていたら、現場職員の志気も下がってしまう」と危惧していた。

 人命救助より箱物優先

 沿岸が地震・津波など災害にもろいことが証明されたなかで、教訓にして改めるならまだしも、わざわざ海の間近で、地盤の緩い埋立地に建設する無謀さを誰もが懸念している。それなのに、なぜ暴走するのか? の疑問が募っている。総工費は30億円。2年後の秋には運用開始するスケジュールで「下関の安全・安心のシンボル」といってはばからない。ただ、このまま突っ走るなら「安心・安全」どころか不安材料の象徴になるほかない。災害が起きた場合には人命にもかかわり、強行した市長、市議会の責任が問われるだけではすまない。
 地震の危険性だけ見ても、マグニチュード9クラス(神戸地震の1000倍のエネルギー)といわれている南海地震が起きた場合、津波が豊後水道、紀伊水道から瀬戸内海に侵入し、関門海峡という小さな閉鎖海域の出口をめがけてくること、波が抜けないため、波高は大きくなっていく危険性があること、「少なくとも半日以上は津波が重なり、大きくなる可能性がある。ただ、この沿岸地域(瀬戸内海)は南海地震津波を想定対象にしていないのが現状」という研究者の指摘もある。
 そのような起こりうる災害の想定すらしないまま、「地盤改良を施して建設するので大丈夫」「予算化しているのだから、後には引き返せない」「合併特例債の期限があるからとにかく急げ」「消防を移転させないと市役所の本庁舎建設そのものが足踏みしてしまう」という理由から中尾市政が急いでいる。消防機能をどうするかよりも市役所建て替えありきで計画が作られ、東北の事態にまで至ってもなお箱物の都合で防災をないがしろにする姿が浮き彫りになっている。

 人員不足深刻な旧郡部

 今回の震災では、自治体合併によって役場機能が崩壊していることが、多くの被災地、とりわけ過疎地の復旧にさいして、困難さに拍車をかけている。行政が人員不足で機能不全になった教訓は、下関にとっても決して他人事ではない。
 下関市の場合、旧豊浦郡4町の総合支所に防災係というポストが置かれている。係長が1人配置され、数名の係員がつく配置になっている。ただ、「係長などはとくに、いくつかの係をかけ持っているから大変。町時代ならみんな町出身者でもあるし、災害が起きれば他の課にも応援をお願いして総出で対応することができた。しかし今は他の課も職員数が減ってぎりぎりの体制で、応援を出したら通常業務が止まってしまう」といわれている。
 昨年、豊田町、菊川町で水害が起きたときには、本庁職員が応援に駆けつけた。ところが地理がわからず、地元職員たちが「○○地区の○○さんが」と連携をとるのにも頭が追いつかず、役に立たなかった教訓が語られている。単純に人手があればよいのではなく、地域の名称はもちろんのこと、「○○の婆さんは足が悪い」「○○さんは痴呆で動けない」といった住民の実態や、名前まで含めて熟知した職員の存在が重要だと指摘されている。その対策として、昨年2月から、郡部出身の本庁勤務の職員で10人ほどのチームをつくっている最中で、郡部で災害が起こったときには優先して災害対応に派遣する仕組み作りが進行している。しかし人員不足という根本問題は払拭されていない。
 総合支所で働いている職員の1人は、「トヨタのカンバン方式をまねて、自治体もぎりぎり、企業も在庫なしのぎりぎりの体制だから、災害が起こるとあっという間にまひしてしまう。国・県が自治体合併を進めて、職員削減を進めてきた弊害だ」と語っていた。
 別の総合支所では、「1人の防災係が旧下関市全体と同じくらいの面積を担当しているのだから、本当の防災係とはいえない。大災害になると対応できる範囲にも限度がある。東北では初動は全部地元消防団などが機能していた。まったく地理を知らないボランティアが行っても捜索できるはずがなく、地元の者がやるのが一番早い。昨年の水害では、その後の処理や補修など、書類も含めて後処理に3カ月くらいかかり、防災係の職員がこなしていた通常業務はストップしていた」と語られていた。
 また消防機能についても、「郡部の支所は交代勤務で1班5、6人程度。普段でも救急が出て同時に火事が起こったら手が足りなくなる。この体制で大災害となると5、6人で何人救出できるかという話だ。しかも消防支所もいつまであるかわからない。費用対効果でムダ扱いするとすべて切り捨てることになる」と効率化路線の犯罪性を、東北の被災地と重ねて指摘していた。

 学校の耐震化は後回し

 新庁舎建設などの箱物利権が花盛りになる一方で、立ち後れているのが小学校、中学校の耐震化。体育館などは災害時の避難場所にもなるが老朽化が著しい。文科省がおこなった耐震化調査では、全国平均で73・3%の進行であるのに対して、下関は42・5%。小学校53校・220棟、中学校は23校・121棟あるうち、6割にあたる200棟近くが未整備のままだ。毎年2棟ずつ、それぞれ約1億円の経費をかけているが、「統廃合を実施して、いずれなくなるのだったら整備する費用がもったいない」という算術が働いて、足取りが重くなっている。
 あれほど「地震がきたら市役所庁舎が壊れる」とすぐにでも倒壊するかのような騒ぎをしている側が、子どもたちの校舎の心配は後回しにしている恥ずべき姿がある。大型箱物よりも子どもたちの安心・安全を急いで守ること、「あと数年で国の補助率が落ちる」というなら、なおさら急いで防災拠点としても整備することが求められている。

 備えにならぬテロ対策

 近年、下関では災害対策をやめてテロ対策ばかりやってきた。消防本部の海岸建設も、港湾テロを意識したものとなっている。「国民保護計画」などといって安倍首相時期に全国の自治体に対策計画を作らせ、武力攻撃、テロ対策の訓練を「関釜フェリー」や港で繰り返し、港湾には鉄条網を張って立ち入り禁止区域にし、「六連島に北朝鮮が潜水艦で攻めてくる」といって官邸直結で実働訓練を実施したこともあった。こうした「国民保護」が災害対策をおざなりにし、地震・津波に対してなんの備えにもならなかったことは、東北被災地の教訓からも歴然としている。
 下関では消防移転計画が、災害対策のいい加減さを物語るシンボルになっている。しかしこれは「市長がバカだから」だけではすまない。助かる命をみすみす助からない命にするのでは人殺し政治というほかない。市民の生命・安全を守るのが行政や消防の任務であり、早急に見直すこと、東北の教訓からしっかり再検討して最適地に建設すること、防災を担う職員の人員体制も含めて抜本的に転換することが求められている。

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