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流通支配覆す消費者直結に展望
新鮮田布施や交流館の経験
             協同事業の強みいかす取組   2014年5月23日付

 山口県漁協祝島支店の赤字経営問題をめぐって、県内各地の農漁業生産者のなかで、「仲買や市場の言い値に甘んじていては生産者に展望はない」「出荷、販売、加工を工夫すれば解消できる」と激励・期待を寄せる声が高まっている。第一次産業の振興はどの地域でも共通の課題で、過疎や離島といった困難性をどう打開し、大手スーパーの流通支配に対抗していくかが模索されてきた。上関町に隣接する田布施町は、そのなかでも生産者みずからが独自の流通システムを構築している先進地として知られ、近年は確実に漁業収入、農業収入をアップさせてきた。どのような工夫や努力がされてきたのか、漁業者グループの「新鮮田布施」および直売所「田布施地域交流館」のとりくみを取材した。
 
 飛ぶように売れる土曜の昼市

 毎週土曜日の午後3時前になると、普段人通りがほとんどない田布施漁港に次次と車が乗りつけ、人人が漁協の加工施設前の広場に向かっていく。楽しみにしている鮮魚や水産加工品の販売を今か今かと心待ちにして、開始の合図がされる前から主婦たちが手提げかごを握りしめてスタンバイしている。テント下にはコンパネ(板)を敷いた即席の販売棚が設置され、ケースに入れられた加工品が漁師たちによって並べられていく。昼市が始まるとまるでバーゲンセールのような喧騒で、ほぼ10分以内で完売する人気ぶりだ。品物を抱えた客たちが、勘定係の漁師めがけて行列をつくり、一人ずつ代金を精算していく。
 エソを開きにして衣をつけ、あとは油で揚げるだけのものが10匹以上入って1パック400円。みりん味の加工品も同様の量で1パック400円。夏場には旬のハモが好評で、素人にとっては難しい骨切りまで施されたものが格安で手に入る。真空処理されたり、鮮度を保つための工夫も要所に施されている。冷凍処理された品物といっても2〜3日前に水揚げされたばかりで鮮度がよく、一般に出回っている数カ月間も冷凍室に眠っていたような冷凍物とは身崩れの状態が比べものにならないとリピーターたちはいう。新鮮な魚が安く手に入ることで人気に火がつき、今では地域住民にとってなくてはならない存在となっている。光市や柳井市など近隣からも常連客が駆けつけてくる。
 なぜ小さな漁港の昼市がここまで人気を博しているのか? どのような工夫を凝らしているのか、漁師たちに話を聞いた。
 1990年代、田布施漁協(当時)では高齢化と組合員数の減少から「このままでは後継者がいなくなる。漁協として若手の育成をすべきだ」と論議になり、1999年ごろから県のニューフィッシャー支援事業を利用し、漁協が積極的に新規漁業者の受け入れを開始した。Iターンを中心に東京、大阪、下松、田布施町内から6人の若手が組合に加わった。勤めていた会社や自営業などをやめて、新たに漁業を始めた若手漁師がベテラン漁師に一から漁法を学んで独立していった。ところが独り立ちしたのに魚価の低迷と燃油高騰で経費ばかりがかさみ、単純に市場出荷していただけでは生活できない現実に直面した。「雑魚」といわれる規格外の魚を市場に出荷してもタダ同然の値しかつかない。「このままでは幼い子どもを含めた家族を養っていくことはできない」という危機感もあり、どう現状を打開し、収入を増やしていくかが差し迫った課題として論議になった。
 若手漁師の指導を担当したベテラン漁師たちも「これからは漁師みずからが魚を売らないと生きていけない」といい、以前から移動販売車で鮮魚を売り歩いていた。しかし、加工を施されていない鮮魚は調理に手間がかかることもあって敬遠されがちだった。そのなかで客から上がっていたのが「フライとかお刺身があれば良いのにね」という声だった。客のニーズを捉え、鮮魚販売からステップアップして加工で付加価値をつければ厳しい現状を打開できるのではないかと論議は発展していった。
 ベテラン漁師夫婦と若手漁師夫婦が力を合わせ、底引き網や建網で漁獲される低価格魚・未利用魚などを加工・直販することで付加価値の向上をねらい、2002年から加工品の販売先、経営・運営方法などについて協議を重ねた。協議のなかでは加工をおこなうための施設について、保健所の営業許可が必要であること、とくにフライのような手の込んだ加工をするにはハードルも高く、さらに施設をつくる費用も高額となることが出された。そのため国の補助事業を利用して施設を建設することにし、建設費約2000万円のうち半額以上を補助金でまかない、残りの約800万円は漁家1組当り約100万円をそれぞれが負担することにした。3年間で30回にもおよぶ話し合いを経て、2005年に加工施設が完成。4組のベテラン漁師夫婦、4組の若手漁師夫婦の合計8組(現在は5組)で「新鮮田布施」というグループ名で商品直販を開始した。
 「新鮮田布施」は@新鮮・安心・安全(新鮮さへのこだわり、衛生的な製品づくり)、A安価(浜値より高く、スーパーより安く販売する)、B実力主義(頑張った分だけもうかるシステム)、C自立(必要以上に組合に頼らず、自分たちで施設の維持費を捻出する)の4点を基本理念にして運営されている。
 加工から販売までの流れを見てみると、夫が早朝沖から帰港すると、夫婦で手分けして市場出荷する魚と加工向けの魚に仕分けする。加工場に持ち込まれた魚は夫人が下ごしらえした後、鮮魚で売るものは朝一番にパック詰めして出荷。フライなど手間がかかる加工品は、昼間に作業して翌日から出荷・販売する方法をとっている。
 製品は鮮魚類、調味品、冷凍食品に分けられる。鮮魚類はフィレ、ミンチ、刺身など。調味品はつけ焼き、一夜干し、みりん干しなど。冷凍食品は加熱調理前のフライ半製品(エソ、ハモ、キスなど)である。とくにフライ半製品は、冷凍保存がきくことから時化て鮮魚が無いときでも販売できることが強みになっている。消費者からは市販のものより衣が薄いことや、すべて田布施近海でとれた魚介で新鮮なうちに加工しているため、肉厚で食べごたえがあると評価されている。価格もフライ半製品は1パック400円で販売し、量販店より安価な価格設定となっているため、多い人で20パック(8000円分)購入する人もいるという。
 底引き網に混ざる雑魚は、小型の甲イカ、季節外れのハモ、イボダイ、カナガシラ、規格外のタチウオ、シタビラメなど季節や漁法によって様様だ。市場に出荷してもキロ100円以下とタダ同然の値しかつかなかったものが、加工して付加価値をつけることにより、単価は約一〇倍近く、キロ1000円まで上がった。8年間のとりくみで1組当りの年間平均売上額(加工事業のみ)は400万〜600万円となり、1漁家当り水揚げ全体の3〜5割を占める。変動の大きい市場出荷収入に対して加工収入は確実に見込めるので、経営安定につながっているようだ。純利益は以前の約2・4倍といわれ、子育てをしながら漁業で生計をたてられるメドがついたことが若手漁師の自信になっている。
 土曜日の昼市だけでなく、平日の出荷先も確保している。販売先のメインが田布施地域交流館だ。別途オープンしていた交流館では当初農産物のみを扱っていたが、訪れた客から「魚も出してほしい」との要望が多く出されていた。客の要望と漁師たち生産者の試みが一致して、加工施設完成前から製品を出荷することが決まった。漁業夫人たちが毎朝移動販売車で運び込み、商品を陳列している。
 売場の数が多ければ多いほどたくさんのお客さんと接触することができ、まずは知って貰うことで口コミで評判が広がるきっかけになったり、露出やアピールも効果的なものとなる。地元住民からの要望で始まった昼市がテレビ番組にとり上げられたことも功を奏した。遠くは山口市や広島など遠方からも客が訪れるなど人気が急上昇し、目の肥えた主婦たちがこぞって鮮魚やフライを買い求めていく状況が生まれた。毎回平均10分でほぼ完売となり、量が少ないときは2〜3分で売り切れることもしばしば。青空市場方式には商業不動産の餌食になるようなテナント料が発生しないのも大きなメリットのようだ。
 「新鮮田布施」の運営の仕組みは法人ではなく、各家族が集まった協業体である。加工売上の精算システム、加工施設の維持・管理方法としては、各加工者が売上金を会計担当者へ報告し、会計担当者が必要項目を入力していく方法を採用(会計担当者は数年に一度交代)。加工施設への入金依頼額と組合への外販入金額が自動的に算出され、その伝票を毎月各加工者が受けとり、それぞれが依頼額を入金する仕組みだ。この入金額を使って加工施設の光熱費、固定資産税など維持管理費を捻出し、管理・運営するシステムとなっている。
 相互扶助を目的とした協同組合の解体状況がどの農漁村でも普遍的になっているなかで、むしろ協同化によって展望を切り開いている。個人の力が微力なら、集団の英知を結集して、みなで努力して消費者とつながっていく。そうした原点回帰の動きとなっている。
 
 田布施地域交流館の野菜 スーパーの半値 農家が価格決定 

 午前8時に開店する田布施地域交流館には、買い物客がひっきりなしに訪れる。その日に出荷された新鮮な野菜・鮮魚などを求めて、地元田布施町のみならず柳井市、光市、周南市など周辺市町村からも足を運ぶ人が少なくない。店内を見て驚かされるのは野菜・鮮魚の安さだ。
 5月某日に並べられていた野菜の値段を、交流館/大手スーパーで比較してみると、キャベツ1玉130〜150円/約200円、サニーレタス50円/約140円、小松菜70円/約140円、ほうれん草80〜100円/約170円、タマネギ3玉110円/約200円、ニンジン2本90円/約160円、大根1本90〜110円/約160円、白菜1玉140〜200円/半玉約240円・4分の1玉約120円と、ほぼ2倍の価格差があり、なかには3倍ほど開きがあるものもある。なぜここまで安い値段で消費者に提供できるのか? 設立の目的と販売方法について聞いてみると、様様な努力と工夫が凝らされていた。
 全商品を田布施町産に限定し、地産地消にこだわった直売所として設立された「協同組合田布施地域交流館」は、登録組合員は320人(内農家289人)。年間来客数は、約32万2000人、年間売上は約3億5500万円。2002年4月に田布施町直営の形で設立され、2006年1月からは協同組合として法人化した。
 運営理念として「全商品を田布施町産に限定し、仕入一切なしの地産地消にこだわった直売所」「販売手数料10%で生産者の還元に重きをおいた運営をつらぬく」「ヒューマンサービスで、お客様の目線に合わせた親切、丁寧な接客」を掲げている。
 なかでも強調されているのが「地域の活性化」である。「仕入一切なし」をつらぬく理由も、「単なるお土産屋にしてはいけない」という思いから出発している。「仕入をすれば海産物も萩の方などから大量に入れることができるかもしれない。しかしいくら店が繁栄しても地域が活性化し、農漁業振興につながらなければ意味が無い」というのが交流館の基本的なスタンスだ。地元で商品を開発するのは難しいことだが、少しずつ品揃えも増えてきたという。手数料が10%というのも生産者にとっては大きい。市場に出荷して二束三文で買い叩かれ、なおかつ出荷手数料等をとられていくのと比較して、はるかに生産費に見合った収入を得ることができる。
 また、スーパーなどのアメリカ的な合理主義に対抗して「人間的な心」「人間の力」を大切にすることも心がけ、客が購入したものを袋詰めすることや、高齢者が重たいものを購入すれば車まで運んであげる、商品の食べ方などを客に説明するなどの対人サービスを実施。明るく元気なあいさつで客を迎えることなども徹底している。
 「生産者が元気になる」ことと同時に「消費者の要望に応える」ことを両立した直売所を追求。価格設定は大手スーパーに対抗するため、流通コスト分は差し引いて安価に設定している。「出荷する生産者が自分で値段を決め、自ら店頭に並べる」生産者直結の流通システムを構築していることが大きな特徴になっている。また「その日にとれた野菜・鮮魚などは1日で販売する」と決め、売れ残ると生産者がひきとることを徹底。消費者の要求に合った適切な価格を生産者みずからが決め、なおかつ大手スーパーに負けない低価格を実現している。設立当初に約7000万円だった売上は毎年右肩上がりで上昇し、昨年は12年前と比較して5倍の約3億5500万円を売り上げた。
 そのとりくみ内容は多岐にわたっている。産品を開拓することによって相乗効果のある品揃えも目指している。里芋コロッケや、県内で五割のシェアを持つ地元特産のイチジクから開発した天然酵母でつくるオリジナル米粉パンなど、地元産品を活かした新商品も意欲的に開発している。また若手漁師グループが企画した冷凍フライ加工を全面支援し、魚部門を追加。出荷は鮮魚、貝、海藻へと拡大してメイン部門に成長した。さらに地元の特産であるイチゴ、イチジクも共同出荷組合との壁を克服し、完熟品を出荷することで急成長した。菊、田布施産米、オリジナル焼酎など加工品を次次と商品開発し、「おいしい」と好評だった米は昨年1200俵を販売した。
 また、消費者に信頼される野菜、果物を提供していくために、野菜安全システムの確立を実施した。きっかけになったのが中国産ギョーザをめぐる残留農薬問題で、「これが田布施で起こった場合を考えたとき、農業がつぶされてしまうという危機感からだった」と語られている。野菜安全委員会を結成して各農家に農薬の知識、技術の指導や話しあいをおこない、高齢者でも使いやすい測定器具を探し出し、斡旋することで一致させていった。
 栽培記録を義務づけ、栽培履歴書による出荷前安全検査をおこない、合格品のみバーコードが作成できるというシステムにもなっている。また、抜き打ちで月に1〜2品目、公的機関で残留農薬検査を実施し、その検査結果をあえて消費者に表示することによって、「安心・安全」な野菜、果物の信頼を勝ち得ている。
 生産レベルの統一という点では、「みんなで野菜栽培の知識・技術のノウハウを共有し、みんなで実力アップを」と目標を掲げ、定期的に勉強会を開催している。「一部の人だけが良い物をつくり、潤うのでは直売所は伸びない」という観点から、野菜強化チームを結成し、葉菜、根菜、果菜のそれぞれ得意な人が講師となり、勉強会がスタートした。
 結成当初のメンバーは25人。農業者みずからが技術を人に教えることは想像以上に難しく、活動が困難な時期もあったが、徐徐に人数は増えていき、現在は90人以上が参加している。季節によって変わる適切な種子の選定や栽培方法、農業資材(ハウス・遮光資材・暖房機具など)活用のノウハウなど、充実した中身となっている。同じレベルの美味しい野菜や果物を質量ともに保証し、それが田布施ブランドとして広まっていく効果になっている。
 さらに、需要をしっかり捉えることとかかわって、客の求めるものを直接実感するとりくみもおこなわれている。生産者みずからが半日ほど販売サービスを実施。客からは生産者の顔が見えることで安心が生まれ、生産者側は消費者にどういうものが好まれるのか実際に見ることができ、品質のいい物から売れていくことや、値段の見極めなどが実感できるという。
 新たなとりくみとして、「低硝酸野菜」のブランド化も目指している。化学肥料を使用することによって発生する硝酸値を下げ、「おいしく、栄養価があり、安全な野菜」づくりに挑戦。全国でも前例がない、グループ法人での低硝酸野菜の栽培に向けて、集団で勉強会をしながら前進している。
 
 売場占有への風穴 消費者ニーズとらえ産直方式の典型

 大手資本の流通支配が強まるなかで、産地の生産者がまともに食べていけないほど魚や野菜が買い叩かれ、いまや水産市場にせよ、青果市場にせよ価格形成機能を失っている。安値で買われた魚や野菜が東京や大都市の消費市場にトラック輸送など膨大な流通コストをかけて持ち込まれ、そこで相対取引によってスーパーなどのバイヤーに買い付けられ、全国の店頭に運ばれていくという、ムダな流通コストばかりかかる非効率が支配的になっている。売場を支配したものが、流通や価格形成も支配するというものだ。生産者は消費者のために働いているというより、流通資本やスーパーのために働いているような転倒した構造がある。
 産地の生産者は従来型の出荷方法に甘んじていたり、工夫や努力しないことには立ちゆかないところまできた。そのなかで、直接消費者とつながって売場をとり戻し、みずからその需要に応える形で販売や加工をとりくむ動きが広がっている。努力すればするだけ形になって返ってくることも実証済みで、しかも協同事業として機能するなら抜群の威力を発揮することも明らかになっている。田布施における経験や、同じように県内各地で進んでいる生産者のとりくみが、その展望を示している。
 祝島の鮮魚は福山市場まで運んで二束三文で買い叩かれ、その漁協経営たるや赤字が900万円で組合員を泣かせてばかりいる。商売をする気がなく、原発にぶら下がることばかり考えている者の漁協経営に未来がないことは明らかで、この経営に責任を持たされてきた歴代トップがいかに怠け者で努力不足であるか、自分の懐ばかり心配してきたかを問題にしないわけにはいかない。田布施町は10人程度の漁業グループが力を合わせて活路を開いている。祝島の組合員50人がかりで努力を開始したなら、900万円の赤字などどうにでもなることを浮き彫りにしている。

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