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産業の担い手潰す統廃合
下関・中央工と関工
              水産都市から造船科なくす    2013年5月10日付

 山口県内66校中34校を統廃合の対象とする「県立高校再編整備計画」を強引に進めてきた山口県と山口県教育委員会が、下関市ではその一環として真っ先に下関中央工業高校(中央)と下関工業高校(関工)の統廃合に着手し、中央は関工に吸収し造船科を廃止しようとしていることに対して、親や卒業生、教師たち、また生徒たちを雇用してきた地元中小企業など、市内の広範な人人のなかで深い怒りが広がっている。水産都市として栄えてきた下関では、歴史的に造船・鉄工をはじめ中小零細工業が多数存在しており、工業高校が地場の企業に人材を送り込み、企業が若い技術者を育てていくという連関が、他県と比べても強く、それが地場産業を支える基礎にもなってきた。こうした歴史性・地域性を無視し、生徒たちのため、産業の将来の担い手のためという視点がまるでない県政・県教委の姿勢を変えさせようと、行動を起こそうとの機運が広がっている。
 
 「行動起こそう」の声広がる

 下関中央工業高校と下関工業高校の統廃合計画が正式に「再編整備計画」に盛り込まれたのは、昨年3月のことだった。県教委は計画の発表から約半年間、中央の教師たちや生徒、親、OBに知らせないまま具体化を進め、10月2日に突然、県議会文教警察委員会に報告。関係者の多くはマスコミ報道で中央工業高校がなくなることを知り、「なぜこんな強引なやり方をするのか」「本当にいいことなら、きちんと説明してやればいいのに、なぜ隠してやるのか」との怒りが語られている。
 中央工業高校同窓会の主立ったメンバーに知らされたのも県議会に報告する2日前。そのときにはすでに、開校は平成28(2016)年4月で、統合後の新高校は下関工業高校の校地に設置すること、設置学科を「機械系」「電気系」「建設系」「化学系」とすることが決まっており(中央にあった「造船コース」はなくす)、県議会への根回しも済んで予算が可決されるばかりの状態だったといわれる。
 県議会の文教警察委員会では、統廃合の予算があっという間に承認され、その後本会議で可決された。委員会メンバーは、委員長・藤井律子(周南市、自民)、副委員長・藤生通陽(山口市、自民)、柳居俊学(周防大島町、自民)、上岡康彦(周南市、公明)、伊藤博(下関市、自民)、神田義満(防府市、会派とことん)、田中文夫(萩市、自民新生会)の七人。
 中央工業高校は平成17年度、総額約3億2700万円をかけて普通教室棟と管理棟の大規模改造工事(耐震化を含む)をおこなったばかり。今年2月段階までは体育館の耐震補強の予算も計上されており、「あれだけの大金を使って整備したので、中央がなくなることはない」という雰囲気もあり「不意打ちの状態だった」という。関係者はその後県教委に説明を要求したが、説明の席から教師は排除され、その場でも関工側に移転するのは「敷地面積が広いため」という理由しか示されなかった。
 計画にストップをかけようと、中央のOBや教師たちが県議会に対して陳情や請願書を提出するなど動き始めたが、自民党県議から紹介議員になることを断られた。そして今年春の人事異動で、行動を起こした教師や統廃合に批判的な意見を持った教師が他校に異動になったことも、露骨な非教育的人事として怒りが語られている。
 明確な理由もなく、強引に中央工業高校の廃校が決まったことへの疑問は強く、OBや教師たちのなかでは、「地元建築業界にも名士たちがたくさんいるのに、粛粛と進んでいるのが疑問だ。隠したまま関工側に場所が決まったのも、絶対に利権が絡んでいる」「県は財政難だから、統廃合すればすぐに土地を売りたいのだ。中央の土地は駅も近いし、不動産としては高く売れるからだ」などと指摘されている。建設関係に携わる人人のなかでは「あそこは道路になることが以前から決まっている。生徒が少ないから統廃合といっているが、だいぶ前から道路をつくるためにつぶす計画だった。耐震化はカモフラージュだ」と指摘する声もある。

 予算削減ありきの計画 生徒の実情を無視

 県教委は、両校の1学年の定員数がともに20年前の280人から半減していること、下関市内の中学卒業者の減少が予測されることを理由に、「再編統合により学校規模を拡大することで教育機能が充実し、活力ある学校づくりが推進できる」「工業科の内容を充実した専門性の高い新高校にする」という。
 だが、うたい文句とは裏腹に、関工の敷地内に新たに建設する実習棟の青写真を見ると、「予算がない」ために造船の施設がないだけでなく、土木・建築も縮小されている。また、今後2年間は元の中央工業高校で生徒が学ぶにもかかわらず、「実習棟が完成したらすぐに土木・建築の施設を移転するように」と提案されたことも、「残った生徒たちのことを考えていない」と関係者の怒りを呼んでいる。
 また、県内には建築科が少ないことから、中央の土木、建築科には、防府や小郡から生徒が通って来ている。それが、学校の場所が「安岡」になると山陰線への乗り換えが必要になり、困る生徒も出てくるという。
 また、子どもを持つ親たちのなかでは、中央がなくなると、今の偏差値で選ぶ高校受験制度のもとでは、「学力は低いが手に職をつけたい」という生徒たちが通う高校がなくなることが心配されている。「公立と私立のボーダーラインの子どもたちの行き場がなくなり、結局北九州に流れることになる。学校をなくしたら下関に残る子どもが減り、ますます若者が少なくなると思う」と切実な思いが語られている。「少子化で生徒が少ない」というが、中央の受験倍率は2倍をこえているのだ。

 県の製造業発展の支え 就職先も7割が県内

 産業の担い手を育てる工業高校の存在は、下関や山口県の発展にとって大きな意味をもってきた。
 下関は明治期から、日本人のタンパク源を支える漁業基地、水産基地として発展してきたし、それを中心にして造船・鉄工や商業などが栄えて町を形づくってきたといわれる。
 下関中央工業高校の前身は、明治43(1910)年に創立された下関実業補習学校であり、下関工業高校は昭和14(1939)年に創立された。中央は103年の歴史を持ち、現在は機械・造船、建築、土木、化学工業の四学科がある。関工は74年の歴史を持ち、現在は機械、電気、電子の3学科がある。
 両校ともに大学に行かず就職を目指す生徒などで入学希望者は多く、中央の受験倍率は2倍をこえている。また地元企業と就職担当の教師が密接に連携をとっている。
 今年3月に中央を卒業した就職希望の生徒のうち、7割は山口県内に、その多くが下関市内に就職しており、土木・建築分野をはじめとして下関市の地場産業の担い手育成に大きな役割をはたしてきた。「うちの会社は社長をのぞいて全員が中央工業出身者」(建築関係)、「うちも従業員のほとんどが中央ばかりだ」(造船鉄工関係)などという話はあちこちで聞かれ、卒業した生徒たちが現場の中心を担っていることが語られている。一つの市に二つの工業高校があることは珍しいが、それは地元と密着して人材を送り出し、企業が後輩を育てていくという循環が確立しているからだといわれる。
 四年前、中央工業高校の100周年記念式典で講演した岩下直行・日本銀行下関支店長(当時)は、山口県の製造業の振興のうえで工業高校が大きな支えになってきたこと、リーマンショック以後全国的に工場の海外移転に拍車がかかるなかで、製造業の空洞化を押しとどめる大きな役割をはたしていることを強調した。そのなかで岩下氏は、山口県は全高校生に占める工業科の生徒数の割合が全国第四位であり、その背景に明治以来脈脈と続く「工業県山口」の伝統があること、産業構造に対応する「産業の担い手」を育成するために工業高校が県内各都市に設置され、県内の製造業とともに発展してきたからだとのべている。また山口県の特徴として、歴代OBが後輩の世話をしながら交流を図る枠組みが確立しており、「地元をあげて工業に携わる人材を育成する土壌が備わっている」「人材の質の高さが地元企業を支える原動力になっている」とのべている。

 全市民的な行動が急務 下関を立直す為

 今、アベノミクスが先行して進められ、人工島や新市庁舎建設、駅前開発をはじめとする箱物利権で市財政が食いつぶされ、さんざんに疲弊してきた下関を立て直すには産業振興が待ったなしというのが大多数の市民の意見である。
 3月には三井金属の子会社MCSが工場閉鎖となり、三菱造船所もインドの造船所を買収するなどの動きがある。しかし、自らのもうけを最優先して国を捨てて海外に出て行く大企業のために、若者も中高年も働く場を奪われ、地域社会が崩壊しても仕方がないというわけにはいかない。とりわけそうした状況のもとで、長年にわたって地場産業の次代の担い手を提供してきた中央工業高校をなくし、造船の町から造船科をなくすなら、下関の産業の衰退に輪をかけることは必至である。しかもそれが、中央跡地の売却利権がからんだ動きになっていると語られている。利権で産業の担い手の育成が犠牲にされようとしているのである。
 市内の鉄工所の関係者は、「今、造船業界も不況になって大手は海外に移転しているが、海で囲まれた日本で、輸送手段としての海運がなくなることはない。目先厳しく、子どもが少ないからといって縮小するのは簡単だが、将来子どもや孫の時代になって、“船がつくれない”ということになってはいけない。うちも高齢者ばかりでは未来がないと思い、たいへんだが若い子を育て技術を受け継がせている。日本の将来を考えて人材を育成していくのは、行政の仕事ではないのか」と切実な思いを語っている。
 問題は「関工か中央か」ではない。産業の担い手の育成に責任を持つのか、それともそれをつぶすのかである。生徒や父母、教師、卒業生の切実な声を大きなものにして、県政・県教委が進める計画を抜本的にあらためさせなければならない。それは、下関を立て直すために、水産業や造船・鉄工、農林業など地場に根づいた産業の振興を求める全市民的な要求と一つのものである。全市民の団結した世論と行動こそ、事態を打開する原動力である。

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