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産婦人科や小児科にかかれぬ
医療破壊する市場原理
            社会的な保障が不可欠   2006年3月30日付
 
 医療界、とくに急性期医療を担う大手総合病院の医師のなかで、全国的に「小泉改革による日本の医療崩壊」への警鐘が鳴らされている。アメリカが要求する市場原理医療の導入で、急性期医療の現場はぎりぎりの人員、アメリカ型の価値観で医師と患者の信頼関係は崩され、医療訴訟がふえるすう勢にあり、産婦人科や小児科、麻酔科の医師不足は著しく、「医療ビジネスへの狂奔を阻止し、国民のための医療を社会的に保障しなければならない」(下関市、勤務医)との世論が広がっている。

  過密になる医療現場
 山口市のA大手総合病院の医師は、「日本政府は諸外国に比べて国民のための医療に力を入れていない」と指摘し、日本の総医療費が国民総生産(GNP)に占める割合は7・8%にすぎず世界で17番目、アメリカの半分、ドイツの七割程度という実情を語る。
 そのもとで、国民皆保険制度で日本国民の受診率は高く、世界一の長寿、世界一の健康寿命、世界最低の乳幼児死亡率を実現しており、WHO(世界保健機関)の高い評価を受けている。この医療を諸外国に比べてきわめて少ない医師と看護師が支えている。
 このもとで、医学の進歩による医療にたいする要求は高まり、仕事量はどんどんふえている。
 下関市のB大手総合病院の医師は「10年まえに比べて医師も、看護師も仕事量は倍になっている」と実情を語る。医学の進歩によることと、「医療ミス」への対応の両面から検査の仕事が増大していること、また「安全対策」「院内感染対策」などの院内会議が激増し、医師も、看護師も勤務時間が終わってこれに出席することなどの例を説明する。まさに「ハイリスク、ローリターン」(山口市A総合病院医師)の状況におかれている。
 市場原理による医療政策は、「もうからない医療は切り捨て」「36時間連続勤務が月に何回もある」という実情を医療現場に押しつけている。
 産婦人科に例をとると、大学病院、全国各地の総合病院で、医師不足が一般化している。とくに産科の医師は、昼夜を問わず分娩に対応しなければならず、輪番に必要な医師数がいる。ところが、不足している病院が全国で圧倒的であり、産婦人科を維持できなくなった病院も多い。下関B大手総合病院は、産婦人科医3人体制であるが、現状は2人で、大学病院も派遣困難な状況。
 都市部では妊婦が夜中に産科医がいる病院をさがし回らなければならず、農村部では隣の県の総合病院まで車をとばすなどの事態が頻発している。どこでも、だれでも安心して出産できる状況ではなくなっているのである。
 厚生労働省は、「スーパーローテート」と呼ばれる臨床研修制度が終わり、医師は現場に出て行くといっているが、市場原理によるアメリカ型営利医療の後追いによって、医学生が進む方向は診療科によって大きな格差が生じている。
 日本産婦人科学会が全国八一大学の産婦人科医局を対象にした調査によると、同医局に入る医師は合計で210人程度と推計され、臨床研修制度発足まえの約350人に比べ、4割減となっている。同科に進む医学生が少ない理由は、過酷な勤務と、出産トラブルによる訴訟が多いこととなっている。市場原理によるぎりぎりの人員と、アメリカ型医療訴訟の増加が、その要因となっている。

  手術もうけられない 医師不足が深刻
 産婦人科だけでなく、小児科医師、麻酔科医師の不足も深刻である。小児救急体制が構築できない地域は全国各地で山積みであり、麻酔科医不足から必要な手術がおこなえない総合病院も少なくない。下関のB総合病院の医師は、「アメリカのような医療訴訟社会になりつつあり、以前は内科医が子どもの病気を診察したり、外科医が手術で麻酔をかけたりしていたが、怖くてやらなくなったことも、小児科医、麻酔科医の不足に拍車をかけている」と語る。
 さらに、内科でも呼吸器科の医師は不足ぎみとなっている。千葉県のある県立病院では、呼吸器科の医師3人が、それぞれの出身地で開業することから、呼吸器科の医師を確保できなくなっている。山口県下でも独立行政法人化した山陽荘病院が、結核の専門病院として、広域対応をしているが、県下の大手総合病院にある結核病棟が、呼吸器科医が確保できず閉鎖の危機に直面している。
 山口県立総合医療センターの江里院長は、山口県医師会誌で全国自治体病院協議会常務理事会で、いつも「医師不足」が検討事項となっていることをあげ、「生命にかかわる重症医療は急性期病院でおこなわれ、勤務医の労働は過重となり、一息入れるほどの時間的余裕のない環境が生じている。そのうえ収入は低い」「医学・医療の進歩で高度専門性が要求され、複雑化し、医療過誤が起こりやすくなり、毎日、医療訴訟におののきながら働いている」「このようななかで、早晩、病院を辞めていく。日医ニュースによると、定年までいまの病院で働きたいとするものは20・5%。病院が患者に満足できる医療を提供できなくなる」と、医療の崩壊の危機を明らかにしている。
 山口市のA総合病院の医師は、市場原理による日本の医療崩壊が進んでいることを指摘し、患者が必要とする医療を社会的に保障することと、勤務医の労働環境をととのえることは一致しており、「インターネット上で勤務医の論議が活発に交わされているが、全国的な勤務医の組織化が重要だ」と話す。前記の県立総合医療センター・江里院長も「日本医学会長・森亘氏は“われわれは医学・医療の世界の中の政治家である”と主張している。勤務医がみずから立ち上がる方策を模索すべきときである」と訴えている。
 「市場原理による日本の医療崩壊」の警鐘が、病院勤務医を中心に鳴らされている。国民が必要とする医療を社会的に保障する、所得にかかわりなく、だれでも平等に必要な医療を受けられる社会にむけて、医師と国民の結束した運動が求められている。

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