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世界に恥ずべきアメリカの選挙制度
   これでどうして民主主義を世界に押し売りできるのか
          国際教育総合文化研究所   寺 島 隆 吉  
                                   2016年4月1日付

 アメリカでは大統領選挙の予備選が過熱しています。3月22日(火)に終わったばかりのアリゾナ州民主党予備選では、ヒラリー女史が「勝利」しました。
 しかし大都市フェニックスを含むマリコパ郡では200以上もあった投票所が、たった60に削減されています。
 その結果、投票所の前では長蛇の列ができ、いつまで経っても投票できず、五時間も待たされるひとたちが続出しました。そして投票を諦めて帰宅するひとも少なくありませんでした。
 しかも、このような状態はマリコパ郡だけではなく、州全体に及んでいます。
 これにたいして住民たちは「これは民主主義ではない! これは弾圧だ!」と怒りの声を上げその怒りは州の選挙管理人に対する辞任要求にまで高まっています。
 また民主党有権者たちはオバマ大統領に「選挙不正」の調査を行うよう署名で要求したところ2日も経たないうちに8万人を超える署名が集まりました。
 住民による10万人以上の署名が集まると、大統領はその要求に何らかの意見表明をせざるを得なくなりますが、3月29日現在で署名は20万8749人にも達しています。
 また真相を解明するために開かれた公聴会(3月28日)は怒号に包まれ、今や怒りの声は「投票のやりなおし」を要求するまでに大きくなっています。ヒラリー女史がアリゾナ州で「勝利した」といっても、このような状況の中での「勝利」でした。
 これは、民主党の幹部をはじめとするアメリカの支配層が、社会主義者を自認するサンダース氏の勝利を阻止するためには手段を選ばないことを示す、典型的な事件ではないでしょうか。
 すでに2月9日のニューハンプシャー州でも、サンダース上院議員は、60対38%でクリントン氏に圧勝したにもかかわらず、「特別代議員」という制度に守られて、代議員数では両者は同数を獲得しました。
 「特別代議員」とは、下院議員、上院議員、州知事やその他の公選された職員などから成り、多くの場合、民主党の「エリート層」を表しています。この特別代議員数を足すと、クリントン前国務長官は代議員数でサンダース議員を大きくリードしているのです。
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 日本の大手メディアでは、アメリカ民主党は進歩層や労働者階級を代表しているかのように報じられていますが、上で見てきたように、その実態は日本の民主党と同じく経済界・金融界の利益を代弁するものとなっています。
 つまり民主党の政策は、共和党とほとんど変わらなくなってしまっていて、それにたいする民衆の反発が、共和党ではトランプ氏、民主党ではサンダース氏への、「若者や民衆の圧倒的支持」になって表れているわけです。
 今ではアメリカの大手メディアはトランプ叩きに奔走するようになっていますし、サンダース氏の政策や演説は無視するか報道しない姿勢で一貫しています。
 それにもかかわらずサンダース氏は、3月26日のワシントン州の党員集会(一般代議員数101)で、73%の得票率で勝利したほか、アラスカ州(同16人)では82%、ハワイ州(同25)でも70%の得票で圧勝しているのです。
 これはアメリカの一般民衆の怒りや不満がいかに深刻かを示しています(チョムスキーはアメリカの二大政党を「胴体がひとつで頭がふたつの怪物」と言っていますが、その怪物の両足はウォール街で踏ん張っているわけです)。
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 つまりアメリカでは特権階級・エリート層の利益を守るための仕組みが強固に組み立てられているのです。そのひとつが投票所の削減ですし、もう一つは火曜日という投票日の設定です。
 投票日を日曜日に設定しておけば仕事を休まなくても投票に行けますが、家庭の主婦以外は平日は仕事がありますから、火曜日では投票権という極めて重大な権利を行使するには極めて不便です。
 つまり一般民衆が投票しにくい曜日にわざと投票日が設定されているのです。
 これは「投票権」についても言えます。日本では成人に達すれば誰にでも投票権が与えられますが、アメリカではわざわざ選挙人登録をしなければなりません。しかも、この登録をする際、黒人にたいしては特別の試験をするなど様々な妨害行為をしてきたことは歴史が証明しています(『肉声でつづる民衆のアメリカ史』第一七章、第七節を参照)。
 最近では、この「投票権」に、また新しい障害が設定されました。たとえばノースカロライナ州では新しい法律で、投票所に行った際に身分証明書を提示しなければならなくなりました。
 ただし、その身分証明書として「学生証」「公務員証」「生活保護証」(これらは主として黒人などの貧困層がもっている身分証)は認めてもらえません。
 ところが、「運転免許証」「旅券証(パスポート)」「70歳以上の高齢者の、期限の切れた身分証」(これらは主として白人がもっている身分証)は、投票所では受け付けてもらえます。
 アメリカは車社会ですから誰でも運転免許証を持っているように思われていますが、黒人などの貧困者は、むしろ車を持っていないのが普通です(最近は日本の若者も車を持てなくなってきました)。
 また車を持っていなくても車を借りて運転免許証をとることは可能ですが、これは車を持たない貧困者には非常に難しいはなしです。また自分の居住地からはるか遠方の事務所まで行かなくては選挙人登録ができないことも、珍しくありません。これも車を持たない者には、なかなかできることではありません。
 このように新しい法律をつくって「投票権」を制限する動きはアメリカ全土に広がってきています。たまりかねてNAACP(全米黒人地位向上協会)は、国連の人権委員会に提訴しましたがこのような事実は、日本ではまったく知らされていません。
 いずれにしてもアメリカでは支配層・特権エリートの利益を守るための仕組みが二重にも三重にも張り巡らされています(日本ではそのような仕組みのひとつが「小選挙区制」になっています)。
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 以上みてきたように、アメリカ政府は世界に向かって「民主主義の旗手」であるかのように振る舞い、「民主主義をプレゼントする」と称して世界のあちこちにクーデター(政権転覆)を起こして、中東や中南米に殺戮を繰り広げ何百万という難民を激増させてきました。
 そして、このアメリカの政策を後押しするために日本では「戦争法」や「機密保護法」が着々と準備され、今や自衛隊が海外に大手を振って出かける準備が完了しました。そのために莫大な予算が必要となり、その結果が大幅増税と福祉・教育予算の削減となって私たちに襲いかかってきています。
 だからこそ私たちはアメリカの真の姿を知る必要があります。そのために必要なのは「ザルみず効果」に終わる英会話学習ではありません。政府や大手メディアによって隠された情報を、英語という武器を使って、代替メディアから読み取ることのできる読解力こそ、いま最も求められている英語力と言うべきでしょう。

〈註1〉私の言う「ザルみず効果」とは、いくら憶えても使う機会のない会話表現は、すぐ忘れてしまう事実を指しています。ザルに水を入れる作業に似ています。ではどのような英語学習が効果的か。これについては拙著『英語教育原論』『英語教育が亡びるとき』『英語で大学が亡びるとき』(いずれも明石書店)で詳述しました。興味と時間がある方は参照ください。

〈註2〉アリゾナ州の予備選挙について、サンダース氏は次のように語っています。
 「アメリカで民主主義は私たちが生きてゆく土台にあるものだ。人びとは投票するのに五時間も待つべきではない。アリゾナ州で起きたことは国の恥だ。すべての州がこのことから学んでほしい。どうすれば正当な選挙ができるか、どうやったら自分の時間に合わせて投票をすませ仕事に戻れるかを、学んでほしい。」


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