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新自由主義打倒の世界的潮流
押しとどめられぬ大衆行動
               旧左翼と一線画す勢力躍進    2016年1月13日付

 2007年のアメリカのサブプライムローン問題に端を発したリーマン・ショックは、その後欧州危機へと波及し、ギリシャの債務危機からポルトガル、スペイン、イタリアなど南欧各国の債務危機に発展するなど、各国を揺さぶってきた。米欧の大銀行がつくり出したこの国家財政危機を乗り切るために、各国で緊縮財政政策がとられるなどして犠牲をみな労働者や広範な人民に押しつけてきたが、それに対して労働者や青年のストライキやデモが大きなうねりとなって発展してきた。グローバル化のもとで金融資本が世界を股に掛けて暴れ回り、その尻拭いは民衆に転嫁していく。このもとで新自由主義に反対して社会的利益を求める世論と運動が強まっている。「左翼のバックラッシュ」ともいわれており、世界的な流れとなっている。
 
 資本主義国で進む地殻変動

 金融危機の煽りをもっとも受けたギリシャでは、トロイカ(欧州委員会、欧州中央銀行、IMFからなる)の財政支援を受けることとひきかえに公共部門の大幅な首切り・民営化、教育・福祉など人民生活関連予算の削減、増税など、緊縮政策が強行され、失業率は26%を超えている。

 ギリシャ

 とくに15歳〜24歳の青年の失業率は60%にものぼった。仕事のない若い女性たちが税金や請求書の支払いをするために売春を余儀なくされ、売春婦の数は2・5倍にもふくれあがったといわれている。ギリシャ危機当初は売春は30分当り50。だったが、2015年には約2。と、サンドイッチと変わらない値段で人間の身体が売り買いされるほどの荒廃状況をもたらした。
 こうしたなか、昨年1月の総選挙で反緊縮を掲げる急進左翼連合シリザが第1党となり、チプラス政府が発足した。チプラス政府は当初IMFや欧州連合から提起された金融支援を拒否し、国民投票を実施するなどしたが、8月にEUからの金銭支援の一部を受け入れ、9月の解散総選挙で正反対の公約を掲げて総選挙をおこなうなど、EUに屈して公約を反故にしたが、この反新自由主義・反グローバリズムの流れは欧州全体を巻き込んだものになっていった。

 スペイン

 ギリシャでシリザが政権を掌握してから1週間後、スペインの首都マドリードでも数千人の人人が、緊縮政策に反対する左派政党ポデモスを支持するデモをおこなった。
 ギリシャとともに経済危機の煽りを受けたスペインは、ラホイ政府の緊縮政策の下で失業率は20%をこえ、若者の失業率は50%をこえる状況となるなかで、大衆的な反緊縮の抗議行動が繰り広げられてきた。現在でもゴールドマン・サックスなどが住宅を買いあさり、家賃を高騰させて住民を追い出し、家を失ったまま利子やローンを払い続ける破滅的な家庭が増加し続けている。
 左右の2大政党が同じく緊縮政策をとり民意を反映しない政治を続けていたところに、既存政党を批判して登場したポデモスは、昨年12月の総選挙で「スペインを金融大国の植民地にするな」と訴え69議席を獲得して第2党に浮上した。
 ポデモスは2011年の経済危機のまっただなかに、新自由主義と既存政党に抗議してマドリードのプエルタ・デル・ソル広場を数千人が占拠した「インディグナードス」(怒れる者たち)という市民運動をきっかけに生まれた。アメリカに飛び火し「ウォール街を占拠せよ」の運動へと波及していったこの運動から2014年1月に30代〜40代の若手大学教授らを中心として結党され、わずか20日間で10万人以上の党員を集め、同年5月の欧州議会議員選挙で第4党に躍進していた。
 同時にカタロニア自治州では、反グローバリズムと自治権の拡大を求める動きが拡大し、昨年9月の自治州議会選挙で独立賛成派が勝利した。カタロニアでは2013年から14年にかけて貧困者の割合は1・1%増えて21・9%となり、電気やガスなどの料金を支払うことができない「エネルギー貧困」者の数は同じ1年で77%増の68万3000人に達している。
 グローバルな収奪構造のもとで、社会主義を志向する運動とともに民族の自主権を求める独立運動が高揚しており、スペインではカタロニア、イギリスではスコットランド独立党の躍進という動きにもなっている。

 イギリス

 イギリスでも9・11後、アメリカに真っ先に追随してイラク戦争に乗り出し、国内政策では規制緩和、民営化など新自由主義路線を推し進めてきたブレア労働党に対する怒りが、労働党首選で「党内の異端児」と呼ばれたジェレミー・コービンの圧勝という形であらわれた。初めは立候補に必要な35人の党下院議員の推薦すら集められない泡沫候補とみなされていたが、選挙戦の過程でその支持は燎原の火の如く広がり、第1ラウンドで59・1%という圧倒的な得票率となってイギリスの地殻変動を実感させている。
 コービンは、緊縮政策の終結を最優先課題に掲げ、富裕層に対する課税強化、企業に対する優遇税制の撤廃と法人税の引き上げなどによって、財源を確保し国営医療制度を充実させること、大手銀行ロイヤルバンク・オブ・スコットランドの再国有化や「国民のための量的緩和」を訴えた。また労働党のブレア、ブラウン政府、保守党のキャメロン政府の下で民営化された教育を公教育へと戻し、鉄道や電力・ガス会社の再国有化を掲げた。NATOからの離脱、国防予算の縮小、核抑止力システム「トライデント」の撤廃、環大西洋貿易投資協定(TTIP)断固反対など労働党の結党精神に立ち返ることを訴えている。
 労働党の党首選で投票権を持つのは、労働党党員、登録支持者、関連団体支持者と大きく3つに分類される。登録支持者はウェブサイトで3ポンドを払って登録した支持者。今回の党首選で投票権を得るためには8月12日が登録の締め切り期限だったが、その12日にコービンを当選させようとする登録希望者が殺到してサイトがダウンしたため、正午の締め切りが午後3時まで延長される騒ぎとなった。最終日だけで新規登録者は16万人に及んだ。5月の総選挙時期には労働党員は20万人だったが、その後党首選までに約10万人が入党。登録支持者や関連団体支持者を含めると1時約60万人へとふくれ上がった。
 コービンが党首討論で「彼らがギリシャにしたことに関して、EUに強い懐疑心を持っている」「EUは欧州全体の労働者階級や労働者の権利を破壊するフリーマーケットのように運営されている」「EUが許可されたタックス・ヘイヴンをもうけていることを真剣に追及しなければならない」というと拍手が鳴り止まなかったと報じられている。
 ロシアによる空爆で、アメリカ主導の有志連合による「イスラム国」空爆が、実はアサド政権の転覆を狙ったものであり、「イスラム国」をはじめとする反政府勢力を擁護していたことが明らかになり、あせるアメリカに追い立てられたキャメロン政府がシリア空爆への参加を議決したが、その国会前では数千人規模の抗議行動がおこなわれ、コービン率いる労働党の党員たちの大半が空爆反対を突きつけた。

 カ ナ ダ

 同様にカナダでも最大都市トロントなどオンタリオ州南部での失業増加や主要輸出品である原油価格の下落などで経済が落ち込むなか、10月の総選挙でアメリカの戦争政策に追随してきた保守党のハーパー首相をカナダ国民が引きずりおろし、「イスラム国」空爆からの撤退を公約した野党・自由党が議席数の半数以上を獲得するという劇的な展開となった。カナダの新首相ジャスティン・トルドーは就任後すぐにカナダ戦斗機の引き揚げを発表した。同党は他に中間層の所得税減税と富裕層の増税などを掲げている。

 フランス

 ドイツとともにEUの中核となってきたフランスでも、昨年末におこなわれた地方選挙の第1回目の投票で国民戦線(FN)が、本土13州のうち6州の得票率で首位となる動きとなった。2回目の投票で全敗したものの、パリ襲撃事件やヨーロッパに難民が押し寄せるなかで、テロや難民を生み出してきたアメリカやNATOを唯一批判し、反緊縮やTTIP反対などを掲げる国民戦線にフランス国民の共鳴が集まり、存在感を増している。
 欧州議会ではこうした旧来の左翼政党、排外主義的なナショナリズムを煽る右翼とは一線を画した政治勢力が、アメリカによるシリア空爆をはじめとする中東政策、新自由主義を批判し、連携を持ちつつ台頭している。

 アメリカ

 新自由主義のお膝元であるアメリカ国内でも社会主義者を自認するサンダース氏が、民主党の本命候補であるヒラリー・クリントンと互角のたたかいをくり広げ、「サンダース現象」といわれるほど反響を広げている。サンダースがTPP反対で存在感を示すなかで、ヒラリーまでTPPについて「協定の最終的な文言が基準を十分に満たしているとは思えない」と反対を明言せざるを得ない状況に追い込まれ、共和党のトランプも反対姿勢を示すなど、アメリカ大統領選の候補者でTPP賛成候補が見当たらない状態になっている。
 世界各国で国境をこえて大衆の世論と行動が激変し、新自由主義を打倒して次なる世界の展望を切り開こうとする斗争が発展している。こうした大衆決起が止めることのできない大きな流れとなって時代を席巻しようとしている。金融資本主義のもとでは人人が生きていけないことを世界中が認識し、特に統一司令部があったり打ち合わせたわけでもないにも関わらず、確かな力を蓄えながら連帯した行動となって広がっているのである。アメリカの裏庭といわれ新自由主義が最も早く持ち込まれた中南米では、ベネズエラのチャベスに代表されるような反米を鮮明にした政治家が台頭して社会主義的な政策が実施されてきたが、資本主義各国でも同じような現象があらわれ、まともな社会運営を求める大衆的機運が高まっている。


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