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新自由主義との斗い世界で拡大
エジプト、トルコ、ブラジル
             他人事でない日本社会の現実    2013年7月3日付

 サッカーW杯が開催されるブラジルで「サッカーよりも医療、福祉、公共サービスを!」と叫ぶ100万人の大規模デモが起き、エジプトでは一昨年のエジプト革命を乗っとった為政者への怒りが爆発し、全土で1400万人(国民の6人に1人)が参加する巨大な反政府デモが繰り広げられ、トルコでは大統領が強権を振りかざして火に油を注いだ結果、イスタンブールでの大規模デモがさらに白熱するなど、世界各地で大衆的な行動に火がついている。きっかけは各国それぞれの事情があり、抱えている要因もさまざまあるものの、二極構造の崩壊から米国覇権へと突き進んできた新自由主義を特徴とする軍事的、経済的な支配体制のもとで、それに立ち向かう流れが台頭している。とくにリーマン・ショック以後はグローバリゼーションが浸透した世界の資本主義各国で金融・経済の破綻があらわれ、各国人民に犠牲を転嫁する政治との矛盾が先鋭化している。アラブ、中南米、欧州など各地で医療、福祉など国民生活の向上を掲げた行動や、緊縮財政への抗議行動、民主化を求める行動が始まり、世界的な連帯感情を広げながら、各国の為政者を震撼させている。
 
 エジプト 貧富格差が深刻化 IMF支配が背景

 エジプトでは、“アラブの春”といわれた一昨年のムバラク大統領打倒デモから2年半を迎えたなかで、その後に就任したモルシ大統領の辞任を求める反政府デモが拡大している。6月30日には全土で1400万人(ロイター発表)もが参加し、衝突によって死傷者も多数出ている。首都カイロのタハリール広場には50万人が集まり、エジプト国旗を掲げながらモルシ大統領の辞任を求めた。
 長年にわたって続いた親米政府のムバラク体制が崩壊に追い込まれた後は、イスラム組織「ムスリム同胞団」を母体とするモルシ大統領が登場したものの、実権を握っている親米派の軍部にすり寄り、民主化の願いは歪められ、「トップの首が変わっただけではなにも変わらなかった」状況が露呈していた。今回のデモではムスリム同胞団がエジプト革命を乗っとり、選挙戦勝利を利用して権力を独占したことへの怒りが噴出し、昨年以上の盛り上がりを見せている。
 こうした動きを受けて、7月1日には軍部トップがモルシ政府に対し、48時間以内にデモ隊の要求に応えるための事態収拾策をもって各政治勢力と合意するよう要求し、実現しなければ軍部として政治介入すると「最後通告」。今度は辞任や大統領選の前倒しを拒否してきたモルシ大統領を切り捨てる動きとなった。イスラム勢力と世俗派の対立などの矛盾関係もあるものの、ムバラクからモルシに乗り換えたり、トップの首をすげ替えうる背後勢力、米国とつながってエジプトを支配する本丸が姿をあらわしている。
 2011年1月の民衆蜂起は、ムバラクという絶対的な権力を誇っていた親米独裁者を倒した。しかし、国家権力や経済構造は変わらなかった。国家権力は依然「最高軍事評議会」と称する親米軍部が握り、検察・裁判所もムバラク時代そのまま。経済構造としても、親米資本家である軍部中枢や与党に成り上がったムスリム同胞団の上層幹部らが握り、アメリカの15億jの経済・軍事援助を受けつつ、新自由主義経済を実行してきた。
 昨年の総選挙や大統領選挙でイスラム組織・ムスリム同胞団が勝利し、モルシ政府が誕生したが、同胞団が軍部など親米権力者と敵対しあっているわけでなく、歴史的にも労働者・農民の運動を抑え込み、革命のエネルギーを封じ込める道具であったこととも重なって、彼らが新たな親米・寡頭支配勢力の代理人となって、ムバラク打倒に込められた国民的な願いをねじ曲げていくことへの怒りが噴いている。「革命は始まったばかり」「第二の革命だ」とデモに参加したエジプト国民は叫んでいる。
 ムバラク打倒の蜂起が起きた経済的な背景には、新自由主義経済の実行で貧富の格差が拡大したことがあった。1990年代に入ると、IMF・世銀の指揮のもと国有企業の民営化など新自由主義の市場経済化を進め、人民には緊縮財政政策を押しつけた。そして民主主義を圧殺した軍事政権のもとで、ムバラクら寡頭支配層は巨万の富をため込んだが、労働者の賃金は引き下げられ、首切り合理化が吹き荒れ、青年を中心に失業が拡大。教育、医療、福祉など人民生活全般への政府支出は削られ、さらにリーマン・ショックの余波も受け物価は高騰。貧富の格差や農村部と都市部の地域間格差も拡大することとなった。
 昨年6月に発足したモルシ政府も、アメリカや軍部の指図に従って引き続き労働者・人民に緊縮財政政策を押しつけ、反対するものは弾圧するなど「第二のムバラク」になって独裁政治を実行してきた。世界的にも経済危機が深刻な様相を帯びるなかで、主要産業の観光業収入は激減。経済成長率は三%も落ち込み、エジプト・ポンドの対ドルレートも大幅に下落。通貨下落で輸入品価格が上昇して主食のパンや軽油が値上がりし、物価高騰の引き金となった。その他に天然ガス輸入も停滞し、電力不足で停電もひん発。財政立て直しのため、政府はIMFから総額48億jの支援を受ける交渉を開始したが、IMFはその条件としてパンや家庭用燃料、軽油などへの補助金のうち切りや売上税の導入、公務員の削減などの緊縮策を要求し踏み絵を迫っていた。
 この2年余りのあいだに7000以上の工場が閉鎖され、失業率は政府発表で13%、実際には25%に達しているといわれている。失業者の7割以上が30歳以下の若者たちで、全労働者の5割は日雇い労働で食いつないでいること、国民の25・2%が1日1・25jの貧困ライン以下の生活を強いられ、23・7%が貧困ライン同等の生活をしていることもモルシ政府発表のデータで明らかになっている。
 労働者・人民の生活はムバラク打倒後にむしろ悪化した。民衆革命を裏切るモルシ政府に対して、工業都市の労働者を中心に全土でたたかいが起こり、とくに若者が先頭に立っているのが特徴となっている。最近では若者が新組織「反抗」を立ち上げ、「モルシの即時退陣」「大統領選の早期実施」を求める署名運動を全土で展開し、総人口8000万人のうちモルシ大統領の得票数1320万票を超える2000万筆を集めるなどしていた。
 
 トルコ 独裁政治への怒り 米国の軍事的要衝

 トルコの反政府デモは、イスタンブールのタクシム広場の再開発に抗議する座り込みを警官隊が催涙弾や放水銃をもって弾圧し、多数の負傷者を出したことがきっかけとなった。エルドアン政府が「過激分子のデモに譲歩しない」と主張し、横暴な姿をあらわしたのが契機となって、デモはまたたく間に全国主要都市をはじめ200カ所に拡大した。6月初めには公務員労組連盟24万人が46時間ストをやり、17日には公務員や民間労働者約90万人が加盟する五団体のストがやられるなど、労働者を軸にした反政府行動に発展している。
 反政府デモの背景にあるのは、こちらもIMFや米欧資本による新自由主義、グローバル化で外資や国内財閥は肥え太り、労働者、勤労人民が貧困化したことがある。2001年2月、トルコが金融危機に見舞われ、IMFや世銀、欧州連合(EU)など国際金融機関から純総額206億jの融資を受けた。03年に誕生したエルドアン政府はその金融支援への見返りとして、公共投資や公務員給与の削減で財政赤字を削減したほか、インフレ抑制、国営企業の民営化、銀行改革、貿易自由化など一連の新自由主義の構造改革・緊縮財政政策を実行した。
 また政府は構造改革の一環として、03年に新外国直接投資法を施行し、外資に利益と資本金の移転の自由や出資比率100%、法人税引き下げなどの優遇策をとった。すでにセメント、牧畜飼料、乳製品、飲食サービス、石油販売などは完全に私有化され、旅行・観光、鉄鋼、繊維、海運や肉加工業では50%以上が外資に握られた状況となった。
 労働関連法の改悪など「雇用の柔軟化」と称する低賃金政策で無権利の非正規労働者を増やし、約2300万人の雇用労働者のうち約1052万人が非正規とされている。欧米や日本の自動車メーカーなどは安価で豊富な青年労働力に目をつけ、あいついでトルコに進出。外資の投資額は04年の28億jから05年は98億jへ、06年には200億jへと急増。今ではトルコの輸出のトップが自動車となった。安倍首相は先日、独占企業トップを引き連れてトルコを訪問、原発などをトップセールスした。
 この民営化や外資導入の過程で、労働者は情け容赦なく首を切られ、近年失業率は公式発表でも10%をこえ、今年2月には失業者は289万人に達した。加えて近年の通貨戦争を反映して、生鮮食料品の価格が上昇、酒・たばこ税の引き上げ、通貨リラ安にともなう各種輸入品の価格上昇が続いている。衣料品や電気、水道、ガスなど生活関連の物価は、この一年間で6・51%も上昇するなど、インフレが生活を圧迫していた。
 トルコは欧州と中東・北アフリカをつなぐ戦略的要衝に位置する。米欧支配層はトルコをNATOに加盟させ、中東地域支配の前線基地としてきた。トルコの米空軍基地インシルリクが中東全体をにらみ、一昨年来のシリア政府の転覆策動ではCIAの司令部が置かれてシリアの反政府の傭兵部隊を指揮し、地対空ミサイル・パトリオットも配備されるなど、米国がとくに力を入れて支配してきた。国民の反米感情も昔から強いことで知られている。
 対米従属のもとでエルドアン政府が戦争政治とセットで強権支配を実行し、国内の反政府行動を敵視し、独立メディアを解体、既存メディアを買収するなど言論封殺に血道を上げてきた。当初はイスラムを前面に出さず、世俗政府を標ぼうしてきたのが、最近は酒販売規制や「婦人は子どもを3人産むべきだ」などイスラムの戒律まで利用して、独裁的な戦争政治を突き進んでいた。これへの反発が公園開発への抗議行動鎮圧という一つの事件をきっかけにして全土で噴き上がり、米国の軍事的要衝の支配基盤を揺るがしている。
 
 ブラジル 通貨安が生活直撃 外資が資金引き揚げ

 ブラジルでは、サッカーW杯やそのプレ大会であるコンフェデレーションズカップの開催に反対し、サッカーよりも教育や社会保障、医療サービスを充実させよ! と要求する100万人もの大規模デモが繰り広げられ、世界から注目を浴びた。
 当初きっかけになっていたのは都市部の地下鉄やバスの利用料金値上げで、その額は日本円にして10円程度上がるか否かというものだった。6月に入ってから最大都市サンパウロやリオデジャネイロを中心に繰り広げられていた抗議デモは100都市に飛び火し、地下鉄の値上げ撤回が6月19日に打ち出された翌日の20日には、ブラジル全土で100万人が参加するデモへと拡大。要求する内容も、当初の地下鉄料金が3レアルから3・2レアルになるかどうかといった問題を飛び越えて、汚職撲滅や医療、福祉、公共サービスの充実を求めるものへと発展し、国民生活に対する政府の役割を再認識させるものとして突き上げている。首都ブラジリアでは「議会はわれわれのものだ!」と叫ぶ30万人のデモ隊と警官隊の衝突が起き、「スタジアム建設(1兆4500億円)よりも医療を! 学校設備の充実を!」というスローガンが全土で叫ばれる事態となった。
 ブラジルでは中南米の反新自由主義斗争の流れを反映して、2003年にルラ左派政権が生まれ、10年に同じく左派政権のルセフ体制に移行した経緯がある。この10年来なり20年来の変遷を見てみると、90年代初頭には関税率が大幅に下げられて国内市場に海外商社などが流入しはじめ、90年代後半になると外貨導入によって一段と外資系企業が増加。経済的な依存関係が強いものとなった。新自由主義によって外資に食い物にされた他の南米諸国と同じ経験をしている。反米機運を反映して誕生したのが左派政権だったが、ルセフ大統領は就任するや真っ先に米国詣でをやり、ルラ大統領体制よりも親米的になったことも特徴だ。
 ブラジルでは、2010年段階の国内企業の売上高ランキングで上位50社のうち29社が外資系企業であることからもわかるように、フォルクスワーゲン、フィアット、GMといった自動車会社や、小売ではウォルマート、カルフールといった外資系企業、石油ではシェルなど名だたる外資系の多国籍企業が参入し、経済や金融の中心プレーヤーとして振る舞う構造は今でも変わっていない。
 この間、とりわけリーマン・ショック後は米国でFRBが異次元の金融緩和を実施し、巨大金融資本がマネー・ゲームによって抱えていた負債の帳消しに躍起になってきた。その金融緩和を背景にマネーが新興国に流れ出して投資され、「BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)が世界経済を牽引する」(デカップリング論)といって、経済成長が見込める新興国で過剰なバブルをつくり出していった。ブラジルもその「恩恵」に預かって、急激な経済成長に見舞われた一国だった。
 ところが、ここにきてFRBはバーナンキ議長が金融緩和を縮小する方針を示し、ファンドなども資金を引きあげる動きを見せ始めた。そうなるとブラジル通貨は下落し、同時にレアル安によって輸入品が高騰し、生活物資が値上がりする事態となった。この一年間だけで、消費者物価は6・5%も上昇するなどインフレが進行。食料インフレとレアル安による輸入インフレなど、生活物価に影響が及び、さらにサービス業がGDPの70%をしめるいびつな構造をも直撃し、国民生活へのしわ寄せが強まっていた。
 外資系企業と共存しつつ存在する左派政府のもとで、急速な経済成長によって10年間のあいだに4000万人が貧困から脱出したといわれ、大学に通えるようになった学生の数も大幅に増加するなど、社会生活は向上してきたことがとり沙汰されてきた。貧困層が減り中間層が増えたともいわれている。そしてベネズエラなど反米機運が強烈な中南米のなかにあって、2014年にはW杯、2016年には夏のオリンピック開催が決まり、そのためにスタジアム建設やインフラ整備に巨額の資金を投入し、G20にも呼ばれるなど主要な資本主義国の仲間入りを果たすまでになった。
 しかし国民生活を見てみると、最低賃金は月給にして350j(3万4000円)程度で、中間層が増えたとはいえ生活水準の低い国民が圧倒的多数を占めている状況にかわりない。社会インフラは整備されず、政治の腐敗もそのまま。医療保険も世界的には低水準で、「サッカーしている場合か」という行動に100万人もが呼応することとなった。
 緊縮財政に反対するギリシャやスペイン、欧州各国の労働者のたたかいなど、資本主義がどんづまりの状況でのたうち回っているなかで、各国で国民的な斗争がはじまっている。法人税減税や消費税増税、大企業や金融資本などを優遇する貧困政治、後は野となれの原発再稼働、外資参入や国内産業の淘汰に直結するTPP参加と極限の貿易自由化、アベノミクスによる生活物価の高騰、聞く耳のない対米従属丸出しの戦争政治が、米国には卑屈で国民には横暴に振る舞う姿など、トルコやブラジル、エジプトが他人事とは思えない状況が日本社会でもあらわれている。20万人の首相官邸包囲どころでない行動が、いつ起きても決しておかしくない共通性がある。
 いまや新自由主義との対決が世界的な規模で噴き上がる情勢が到来していることを示している。

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