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尻馬に乗って標的にさらすな
ここぞとばかりに米軍艦船を防護
             緊張煽らぬ事が最大の国民保護   2017年5月3日付

 武器を携行した自衛隊が平時から米国の艦艇などを守る「武器等防護」の実施を、稲田防衛相がアメリカの要求を受けて自衛隊に初めて命令した。これは2015年に強行成立させた安保法制に盛り込んだ新任務で、米軍艦船が攻撃されれば、自衛隊が即座に応戦し自動参戦することも認め、米軍の指揮棒で日本の艦船が戦争の前面に立つことを意味する。この「米艦防護」がなにを意味するのか、日本が進むべき進路とかかわって記者座談会で論議した。
 
 北朝鮮騒動から見えてきたこと

  これまで自衛隊については直接攻撃されたときのみ武器使用を認め、米軍が攻撃されたときに発砲することなど認めていなかった。憲法で戦争放棄を明記しており、「2度と戦争をしない」というのが悲惨な第2次大戦の経験にもとづく国是だからだ。だが安倍政府は「一緒に活動をしている兵隊が攻撃されたのに助けることができないのか」といって駆けつけ警護を認めた。さらに「一緒に航行している米艦船が攻撃されたとき応戦できないのはおかしい」といって自衛艦が米軍艦船を守るために平時からいつでも発砲できることも認めた。昨年11月に南スーダンに陸上自衛隊を派遣して「駆けつけ警護」の実績をつくり、その翌月に国家安全保障会議(NSC)で「武器等防護」の運用指針を決定していた。北朝鮮騒動をもっけの幸いにして「米艦防護」の実行に踏み込んだ関係だ。虎視眈眈と狙っていたわけだ。従って自衛隊の対応は極めて迅速だった。
  具体的な行動を見てみると海上自衛隊最大級のヘリ空母「いずも」が5月1日に横須賀基地(神奈川県)を出港し、午後に房総半島沖周辺で米海軍の艦船と合流する。今回「いずも」が守るのは貨物弾薬補給艦で、2日かけて四国沖まで一緒に航行する。その後、アメリカの補給艦は原子力空母カール・ビンソンなど北朝鮮対応で展開した艦船に燃料を補給するという。だが「いずも」はその後、別の自衛艦と合流し護衛を受けながらシンガポールの国際観艦式に向かうという。
  本当に米艦防護が目的なら情報収集能力や攻撃力が高いイージス艦を使うはずだ。だがここに防空能力が低く、図体が大きいため狙われやすく、普段はイージス艦の護衛を受けて移動しているヘリ空母をなぜわざわざ同行させるのかが一つの疑問だ。しかも「危険だから護衛する」というが、「いずも」は安全な四国沖までしかついていかない。本当に危険なら四国沖以上に危険な朝鮮半島近辺を航行するときの防護を強めるはずだが、「いずも」は最大の危険地帯に近づく前に「米艦防護」をやめて南方へ行く。その行為自体、米艦や米軍が最初から北朝鮮のミサイルや艦船を脅威と見なしていないことをあらわしている。
  防衛省幹部が「国内外に見せるには最大級の護衛艦を使うのが一番いい」と発言したというが、この「米艦防護」は春先から海上自衛隊と米海軍で具体的な調整を始めていたことも明らかになっている。この時期に足並みをそろえて史上最大規模の米韓合同軍事演習を3月から4月末にかけておこない、それに反発する形で北朝鮮がミサイルを発射すると、原子力空母や原子力潜水艦を急派し、韓国にもTHAAD(高高度迎撃ミサイル)の配備を開始して挑発をエスカレートさせた。それに反発してまた北朝鮮がミサイルを発射すると、ここぞとばかりに「米艦防護」の命令を出したというのが実態だ。防衛省幹部は「日米の連携を行動に移す絶好の機会になった」とも発言している。これは「米艦防護」の実績づくりだけにはとどまらない。平時から米軍防護のために自衛隊が小間使いとなって動く活動を本格化することを意味している。
  この「米艦防護」は米軍が再三実施を要求してきたもので、別に北朝鮮がミサイルを発射したことに対応して実施したものではない。昨年末に安保法制が施行され運用可能になった。その後から防衛大臣が実施命令を出す時期を探ってきていた。もともと安倍政府が安保法制でももっとも重視した目玉の一つだ。安倍晋三は国会審議でも「米艦防護を日本がせず、米艦が撃沈され多くの若い米兵が死んだら、その瞬間に日米同盟の絆は決定的な打撃を被る」と強調していた。政府や自衛隊関係者も「安保法制の肝は米艦防護」「米艦防護は強化された日米同盟の象徴」と主張してきた。それをここぞとばかりに実行して地ならしをした。
  ここ数カ月、東アジアで軍事緊張を煽り続けてきたのはアメリカだ。米韓合同軍事演習もこれまでは大規模訓練の次は規模を縮小するというくり返しできたが、昨年の演習から北朝鮮首脳部をたたきつぶす「斬首作戦」を盛り込んだ「作戦計画5015」を初めて適用した大規模演習をやった。今年はさらに規模を拡大して32万人もの兵力を展開し、米軍精鋭の特殊作戦部隊も1000人規模で参加させた。
 いまだに休戦状態のまま、戦争が終結していない朝鮮半島のすぐそばに原子力空母や戦闘機で出かけていって「おまえを叩きつぶしてやる!」と軍事訓練をやるのだから挑発以外のなにものでもない。
 日米政府は国内の経済や政治が行き詰まると、いつも北朝鮮を挑発し、軍需景気で危機打開策を図る。むしろ、北朝鮮がミサイル発射するのを待ち望んでいるかのようなはしゃぎっぷりだ。ミサイルが発射されると、軍事予算を増額してミサイル配備や軍備増強やさまざまな戦時法制を整備する追い風になる。稲田防衛相の夫が保有する軍需株も一気につり上がる関係だ。

 過剰反応する日本政府 戦時体制作りに利用

  北朝鮮のミサイル発射をめぐって日本の対応は国際的にも異様さを持って受け止められている。4月末に北朝鮮がミサイルを発射した情報が流れると、東京メトロ(地下鉄)が全線で約10分間運転を見合わせ乗客に影響が出た。東京メトロと乗り入れをおこなう東武鉄道も東京メトロからの情報を受けて一時運行を見合わせ、北陸新幹線も約10分間運転を見合わせた。北朝鮮のミサイル発射で日本で列車運行が見合わせとなったのは初めてだ。武力衝突になれば「火の海」になるというソウルでは地下鉄はもちろん市内の交通機関は通常の運行を続けていた。地下鉄を運行するソウルメトロも、駅構内や車内の巡回は強め、車内モニターでテロ発生時の説明映像を流しているが、ミサイル発射で電車を止めたことはないという。
 B 韓国メディアも「異例の対応」と報じている。『聯合ニュース』は「北の“失敗した”ミサイル発射に地下鉄まで止めた日本…過剰対応が物議」と報じ、ハンギョレ新聞は「日本、北のミサイルに地下鉄を止める『勇み足』」と見出しを打った。鉄道会社や政府の対応に日本で批判の声が高まっているとして、記事で「ソウルの地下鉄は平常運転なのになぜ東京メトロだけが運転ストップなのか」「政府は国民に戦争の雰囲気を徐徐に浸透させようとしている」「不安をあおる日本メディアは非難されるべきだ」などのコメントも紹介している。
  日本外務省は現在、在韓邦人は旅行者も含め約5万7000人いるとして、この多数の邦人を朝鮮半島有事が起きた際、民間船や自衛隊艦船を使って日本に輸送する計画を具体化している。実行するには自衛隊が他国で活動するために韓国側の許可を得なければならない。だが4月に協議を申し入れたとき話しあいを拒否されている。韓国側ではもっとも近い韓国が落ち着いているのに安倍政府はあまりに飛び跳ね過ぎているという評価が定着している。
  国内の今後の対応を見ても同じことがいえる。安倍首相は衆院決算行政監視委員会で、朝鮮半島有事のさい、100万人規模の難民が日本に流入することを想定した対応にも着手した。武装難民や工作員が紛れ込むといって「避難民の保護に続いて上陸手続き、収容施設の設置、運営、わが国が庇護すべきものに当たるか否かのスクリーニングといった一連の対応を想定している」と説明している。日本の前のめりな対応は際だっている。そのような有事にならないように、どう日本として東アジア情勢にかかわるのかがない。
  安倍政府は4月中旬に「弾道ミサイル落下時の行動について」と題する呼びかけを「国民保護ポータルサイト」に載せ国民に周知するよう通知した。ミサイルが飛んできたとき国民がとるべき行動を示したものだ。それを見ると全国瞬時警報システム(Jアラート)の警報が鳴ったときは、①屋外にいる場合=できる限り頑丈な建物や地下街などに避難する、②建物がない場合=物陰に身を隠すか地面に伏せて頭部を守る、③屋内にいる場合=窓から離れるか窓のない部屋に移動する、となっている。ミサイル着弾時は、①屋外にいる場合=口と鼻をハンカチで覆いながら現場からただちに離れ密閉性の高い屋内の部屋または風上に避難する、②屋内にいる場合=換気扇を止め窓を閉め目張りをして室内を密閉する、としている。バカではないか?と誰もが思うような内容だが、学校で子どもたちにまで周知される異様さだ。戦争への地ならしも大概にしないといけない。
 D 宮城県大崎市では4月19日に、Jアラートの機器整備中に、誤ってミサイル発射情報を防災行政無線で市全域に一斉放送し大騒ぎになった。平日の出勤時間帯である朝八時半ごろに「当地域に着弾する可能性があります」などの音声を2度も放送した。市は「市民に多大な不安と迷惑をかけ深くおわびする。再発防止に努める」とコメントしたが、国民を守るどころか国民の不安を煽り混乱を与えただけだった。ミサイル騒動によってGPSが狂ったり、米空母が航行する上空の雨雲レーダーが異変を起こしたことも明らかになっている。万事が米軍の作戦優先で国民生活など二の次という姿もまざまざと見せつけた。
  「国民保護」といってミサイルの住民避難訓練も全国で具体化が動き出した。秋田県男鹿市で3月に実施したミサイル飛来を想定した住民避難訓練がモデルで、その会場は「なまはげ」で知られる小さな漁村だった。住民がミサイル発射3分後に着弾情報を知り、避難時間は残り4分という設定だ。高齢者もふくめ住民みなを公民館や小学校に追い立てて避難する訓練だが、これで本当に守れる保証はなにもない。結局は国民保護法でとり決めた戦時を想定した訓練をこの機に乗じて動かしたということだ。地下鉄は止めるし、メディアは一斉に同じことばかり報じ、ラジオの関係者にもまさかのときに備え原稿が配られていたという。
 岩国基地を抱える山口県は、各市町の担当者を集めた会議を開いてミサイルに備えた避難訓練を県内で実施する方針を示した。長崎県が今年の夏に訓練を実施し、福岡県が6月に吉富町で訓練を実施する動きも出ている。

 国会審議もなしで行使 公式発表すらなく

 A もう一つの問題はこうした「米艦防護」が国会審議もなく、国民的な論議もないまま野放しになっていくことだ。
  自衛隊による米艦防護はアメリカ側からの要請にもとづく行動と規定している。要請があった場合は防衛相が実施の可否を判断し決定する、と定めている。他国での警護要請があった場合など「内閣総理大臣が必要と認めた場合に、NSC(国家安全保障会議)で審議する」としているが、基本的に「米艦防護」に国会承認は必要ない。集団的自衛権行使は①我が国または我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること、②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと、③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、という新3要件を満たす必要があり、国会承認も必要になる。実行に到るまでには国民的な論議が避けられない。この武力行使のハードルを引き下げ、国会審議などしないまま武力行使へ踏み込めるのが「米艦防護」だ。だから日米政府はこの実績づくりを急いだ。
  「米艦防護」は安保法制審議のときから「国会承認はいらないが自衛官がミサイルを撃てる」「集団的自衛権行使の裏口入学」と批判が噴き上がり大きな問題になった。「米艦防護」は「国会承認不要の集団的自衛権行使」を野放しにしていく布石だからだ。安倍首相は当時、衆院安保特別委員会で「新設する米軍等の武器等防護の実施等については、法律上国会報告の対象とはされていません」とのべ「国会および国会の皆様に対する説明責任を果たすため、可能な限り最大限の情報を開示し、丁寧に説明する考えであります」と強調し、結局は国会議員の頭数に物をいわせて法整備を強行した。
  だが今回の「いずも」が米艦防護を実施することを安倍政府は事前に公式発表していない。今後も公式発表をしない方針を示している。防衛省出身の柳沢協二・元官房副長官補ですらテレビ番組で「アメリカの船に対する攻撃があれば自衛隊が武器を使って防ぐわけですから、それは常識的には戦争になる」「事実上の集団的自衛権のような行動がとれる。国会の承認もいらない、公表もしないで進められるところに二重の問題点がある」と指摘している。
 D そして今後本格化させていくのは「武器等防護の実施」を掲げて、米軍の兵器や艦船、戦闘機をはじめ、日本全国の米軍基地を自衛隊が守る活動を本格化させていくことだ。現在は「米艦防護が対象」と限定した装いをとっているが、米軍艦船を守る自衛隊がそのまま韓国近辺へ行けば、米軍艦船を背にして銃を構えて韓国の人人に銃口は向く。日本の港に入ってくれば日本の国民に銃口は向く。「米艦防護」とは米兵や米軍艦船、米軍基地を守るため住民に銃口を向けることを意味する。
  それは全国で広がる米軍基地撤去などさまざまな住民運動とも無関係ではない。「米艦防護」が次第に「武器等防護」へなし崩しになれば、米軍基地防護で自衛隊が出動し、平時からの武器使用が認められることになる。それは沖縄辺野古への新基地建設、岩国基地への空母艦載機移転などとも密接にかかわる問題となる。共謀罪法案の成立に躍起になるのも同じ意図が動いている。いずれ米軍基地だけでなく、原発警備、米軍が使う空港や港湾の警備などに適用が拡大することも現実味を帯びている。
  これまで「国民を守る」「国防のため」といって防衛費を5兆円に拡大し、自衛隊の武器・装備を増強してきたが、みな米軍を守るためだったということだ。高い税金をつぎ込んで自衛隊に配備するというF35もオスプレイもヘリ空母もみな米軍のために肩代わりして、米軍需産業を潤わせるのとセットで日本政府が買ってやった関係が浮き彫りになっている。ことあるごとに「国防」や「国民保護」を口にするが、今回の北朝鮮騒動でも危機を煽っているのはむしろアメリカであって、なぜ「米韓軍事演習などして東アジアに戦争の危機を引き寄せるな」という対応ができないのかだ。戦争をさせないことが最大の国民保護であり国防のはずだ。加担して煽るなどいくら反知性主義者といえども言語道断だ。

 対米従属構造こそ根源 アジア諸国と友好を

  朝鮮半島をめぐる矛盾は1950年6月に勃発した朝鮮戦争にさかのぼる。1953年の停戦協定以来、交戦状態が終結していないことが最大の問題だ。そしてアメリカが軍事挑発を続けていることが新たな「戦争の脅威」を拡大している。経緯を見ると、アメリカは1991年まで1000発以上の戦術核を韓国に配備し、1976年以後は10万~30万人規模が参加する米韓軍事演習を毎年くり返してきた。
  アメリカは2002年1月に北朝鮮をイラク、イランと同様、「悪の枢軸」(体制転覆対象)として名指しし、この年の3月には核先制攻撃対象にした。そして2003年3月には大量破壊兵器除去を掲げてイラク侵略に踏みきりフセイン政府崩壊後「次は北朝鮮だ」と豪語していた。北朝鮮が核武装に乗り出したのはこの時期で「核の脅威」に対して「核の脅威」でもって対抗している。
  2014年段階だが、核実験の回数だけ見ると、アメリカが1069回で北朝鮮が5回。核弾頭の保有数もアメリカは約6970発で、北朝鮮は約八発といわれている。どちらが脅威なのか、その力関係は歴然としている。
  北朝鮮側は2015年1月に「米国が合同演習を一時的に中止すれば、核実験を一時的に中止する対応処置をとる用意がある」という提案をおこない、同年10月には李外相(当時)が第70回国連総会の演説で「名ばかりの現在の停戦協定では朝鮮半島で平和を維持できず、一日も早く平和協定の締結を米国が決断しなければならない」と訴えている。それに応じることを拒んできたのは米国の側だった。
  韓国で配備が進むTHAAD(サード)もアメリカと韓国政府は「北朝鮮の脅威から守る」ことを配備理由に掲げているが、サードでは首都ソウルを防衛できないうえに、各種ミサイルの高度や落下速度に対応できないなど軍事専門家も「実際の戦闘では使い物にならない」と指摘している。サード配備の目的は北朝鮮対応ではなく、中国やロシアの軍事的動向を監視することにある。サードの要となるエックスバンドレーダーの探知距離は1000㌔で中国やロシアの領域に届く。一方ですぐそばの北朝鮮対応にサードなど必要ない。
 北朝鮮のミサイル騒動が加熱するなかで、安倍政府はミサイル攻撃を想定して全国の自治体に避難訓練の実施を求めており、各自治体が対応に追われている。軍事挑発を続ける米軍の指揮下に護衛部隊として自衛隊を組み込み、米軍が武力行使すれば自動的に日本も参戦するという状況下に置きながら、独自の外交交渉はいっさいないまま国内で戦時中さながらの避難訓練を実施させるという事態に戦争体験者からは「自衛隊は危機を煽る部隊なのか」「戦時中を彷彿とさせる動きだ」と強い怒りが語られている。
 長崎県も、弾道ミサイル攻撃を想定した住民の避難訓練を7月に実施することを発表した。同県には、米軍第7艦隊の出撃拠点である佐世保基地があり、今回の日米共同演習には佐世保からも自衛隊護衛艦2隻が、米原子力空母「カール・ビンソン」の警護任務で朝鮮半島沖の共同訓練に出動している。県危機管理課は「特定の国の動きを想定したものではない」というが、北朝鮮が「攻撃目標」と公言する米軍基地を抱えているがゆえの訓練であることは明らかで、実施場所も佐世保近郊とみられている。
 これまで長崎県では、武力攻撃を想定した「国民保護計画」にもとづく訓練は、主に爆破テロや化学テロを想定したものであり、核兵器を含むミサイル攻撃についての訓練はおこなっていない。被爆地である長崎市では、国の国民保護計画の基本指針が「核兵器のもたらす惨害について大きな誤解を定着させる」として、計画に核攻撃関連の記述を一切盛り込んでおらず、被爆による深刻な被害を経験してきた県民の強い反発が予想されている。
 国が示す国民保護計画の基本指針では、核兵器攻撃の場合の対応として、「風下を避け、皮膚の露出を極力抑えるため手袋、帽子、ゴーグル、雨ガッパなどを着用させ、マスクや折りたたんだハンカチなどを口及び鼻にあてさせる」などと記載。核爆発の場合には、「失明する恐れがあるので見ないでください」「とっさに遮蔽物に身を隠しましょう」「上着を頭からかぶり、口と鼻をハンカチで覆い」「爆発地点からなるべく遠く離れましょう。その際、風下を避けて風向きとなるべく垂直方向に避難しましょう」などの「留意点」も示している。また、「屋内では窓閉め、目張りにより室内を密閉」「屋外から帰ってきた場合には、衣類を脱いでビニール袋や容器に密閉する。その後、水と石けんで手、顔、身体をよく洗いましょう」などとしており、長崎市は「国の核兵器攻撃による具体的な被害想定と対応策が不明確」であり、「国の責任において具体的な被害想定をおこない、その結果及び対応策を早急に示さない限り、核兵器攻撃の対処に関する記述を除外する」と反発を強めてきた。
 同じ被爆地の広島市も、独自の被害想定で「70年前と同型の原爆が投下された場合は27万人が死傷する」と結論づけ、「核兵器攻撃によってもたらされる被害を回避することは不可能であり、行政が最善の対処措置を講じることができたとしても、被害をわずかに軽減する程度の効果しか発揮し得ない」として「核兵器攻撃による被害を避けるためには唯一、核兵器の廃絶しかない」と明記している。
 米軍基地を抱える佐世保市では、08年から2年間、寄港する米原子力潜水艦が放射能を含む冷却水を垂れ流していたことが発覚している。そのため市では、原子力潜水艦の放射能漏れ事故を想定した防災訓練を毎年実施してきたが、米軍がこれに参加したり、協力したことは一度もなく、ついにはミサイルが飛んでくることを想定した避難訓練をしなければならないことに県民の間では強い憤りが渦巻いている。
 長崎市の男性被爆者は、「佐世保は朝鮮半島にもっとも近い軍港であり、海軍基地のあった終戦直前には大規模な米軍の空襲を受けて1200人が死んでいる。米軍は市街地を焼き払ったが佐世保基地には一発の爆弾も落とさなかった。当時は、毎日のように避難訓練や防火訓練をしたが、実際にはほとんど役に立たず、原爆投下に関しては、空襲警報を解除した。どこに飛んでくるかもわからないものからは逃げられない。アメリカのいう通りに従ってなぜ国民が守れるのか。まして、数分で到達するようなミサイルに対して、避難訓練のような事後対処ではどうしようもない。ミサイルが飛んでくる事態を作り出さないことが国の責任なのに、“ミサイルに備えて逃げろ”というような首相や外相は即刻辞任するべきだ」と怒りを込めて語った。
 対ミサイル避難訓練は、先月17日に秋田県男鹿市でおこなわれ、仮想の「X国」からミサイルが発射され、秋田県沖20㌔の領海に着弾したという想定のもと小学生児童や住民110人が公民館や小学校に避難。また、4月に入ってからは、徳島県、徳島市、さらに山口県で「県内の山間部に着弾した」「上空を通過して太平洋に落下」などの想定で初動訓練をおこなっている。安倍政府が「国民保護」「自衛能力の強化」と叫びはじめて、逆に国民の生命が急速に脅かされている現実を前に、危機を引き寄せる政府対応に批判が強まっている。

 

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