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食料安保投捨てるTPP合意
戦争や食料難で餓死する道
                「開国」ではなく売国政治     2015年10月23日付

 安倍政府は20日、環太平洋経済連携協定(TPP)の関税交渉全体の合意内容を発表したが農林水産物については2328品目のうち8割の関税を撤廃するという、度外れた売国外交をやり、アメリカに日本の農産物市場を丸裸にして差出したことが明らかになり、農漁業者をはじめ広範な国民の怒りの声が噴き上がっている。関税撤廃で日本の食料自給率は10〜20%台に低下すると農水省自身が試算している。国民の食料をまるまるアメリカをはじめとして海外に依存することは、不測の事態が生じたときにはたちまち国民の食料供給は危機に瀕し、食料安全保障は崩壊する。安倍首相は「国民の生命と安全を守る」とうそぶいて、安保法制を強行したが、その舌の根もかわかぬうちに、TPP交渉では国民を飢え死にさせかねない危険にさらしている。
 
 TPP批准阻止は国民的課題

 TPPの合意内容で農林水産物について見てみると、「関税撤廃の聖域は守る」と豪語していた重要5品目についても、牛肉と豚肉は、いずれも7割の品目で関税撤廃することを容認したのをはじめ、例外なく関税撤廃を迫られ、大幅譲歩したことが一段と鮮明になった。重要五品目はコメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物で細目は586品目ある。今回の大筋合意は3割に当たる174品目の関税撤廃を認めた。牛肉は51品目のうち、焼き肉で人気の牛タンやハラミ、コンビーフなど37品目で関税を撤廃し、撤廃率は73%に達した。豚肉も49品目のうち、ハムやベーコンなど33品目で関税を撤廃。撤廃率は67%にのぼった。
 その他のコメでは15品目で初めて関税が撤廃され、13品目で関税削減。そのうえにアメリカとオーストラリアに対しては無関税の輸入枠をもうける。合計で最大7万8400d。
 小麦と大麦は、アメリカとカナダ、オーストラリアの3国に特別輸入枠を設定した。小麦で最大25・3万d、大麦で6・5万dにのぼる。また、売買差益の現行1`17円を9年目までに45%削減する。現在年間800億円の収入があり、国内生産振興の助成に使われている。小麦製品ではマカロニやスパゲティの関税が9年までに60%削減するほか、無関税枠の新設などを認めている。
 乳製品でもバターや脱脂粉乳は6年目に生乳換算で7万dまで増やす。チーズ類でも関税撤廃を容認している。甘味資源作物では、高糖度の砂糖やココア調製品などで関税撤廃、馬鈴薯でんぷんなどで関税を撤廃する。
 重要5品目以外では、これまで関税を撤廃したことのない品目のうち、雑豆、鶏肉など212品目を撤廃する。このほかでは、野菜はこれまでも低関税ではあったが、すべて関税が撤廃される。果実ではブドウが即時撤廃、オレンジ、リンゴ、サクランボも段階的に撤廃される。果汁や果実加工品も最終的には無税とする。
 衆参両院の農林水産委員会の決議では重要5品目について、「関税撤廃の除外または再協議の対象にする」としていたが、安倍首相は大筋合意の内容について「関税撤廃の例外をしっかり確保できた」とし、「決議は守った」と開き直っていることに農漁業者は「安倍首相に鉄槌を加えよ」と怒りに燃えている。
 農林水産品全体では、2328品目の8割の関税を撤廃、半数を即時撤廃する。コメ・麦など重要5品目のなかでも3割を関税撤廃し、関税が残ったのは443品目だけになった。このなかにも関税割当を新たに設定したり、関税率を削減したものなどが含まれており、税率を維持したのはわずか6%の156品目のみ。そのなかでも完全に従来のとおり維持できる品目がどれくらい残るかは確定していない。
 水産物では、スケソウスリ身は即時関税撤廃するのをはじめ、マス、海苔・昆布調製品、マグロ関係(クロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、ビンナガ等)、カズノコ、エビ、カニ、ウナギ調製品なども撤廃、削減する。
 コメ、麦や牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の「重要5品目」の586品目は、国内生産を守る視点から、過去の経済連携協定(EPA)では関税を撤廃したことがなかった。今回の大筋合意は、戦後の歴代政府が工業製品の輸出拡大と引き換えに農水産物の輸入を拡大するためにとってきた輸入自由化・市場開放政策の集大成であり、これ以上の開放はない水準の大規模なものになっている。
 稲作や養豚、肉牛生産者や酪農、果樹など農業の全分野の生産者や関係団体が強い抗議の声をあげている。
 なお、工業部門も含めた日本の関税撤廃率は品目数・貿易額ベースともに95%。日本がこれまで結んだ経済連携協定(EPA)の中で最も高い。

 関税撤廃の結果 食料自給率は10%台に

 TPP参加による関税撤廃の影響として、農水省の試算では、食料自給率が10〜20%台に落ちるとしている。日本の食料自給率は現在5年連続で39%しかない。日本の食料自給率は1960年の79%をピークに低下し続けた。冷夏によるコメの大凶作で過去最低となった1993年度は37%まで低下した。
 自給率39%は主要先進国の中で最も低く、国民の食料を輸入に依存している危機的状況を示している。専門家は食料安保上、過半の50%以上を目指すべきだと強調し警鐘を鳴らしている。
 食品別の自給率は、主食のコメは97%が国内産で、ほぼ完全自給を達成している。コメに次いで自給率が高いのは、野菜75%、魚介類64%、果実33%、大豆27%、畜産物16%、小麦13%などとなっている。
 コメの自給率が高いのは、日本政府がコメの輸入に778%の関税をかけ、海外から安価なカリフォルニア米などが輸入されるのを防いできたからである。日本は年間約800万dのコメを消費している。コメの輸入は、ミニマム・アクセス米として年間約77万dである。
 大筋合意でアメリカ産米とオーストラリア産米を合計約8万d輸入する無関税枠を拡大するのをはじめ、8割以上の品目で関税撤廃・削減を認めており、食料自給率の大幅低下は必至である。
 2013年に公表された政府の統一試算では、関税が撤廃されるなどのTPPの目標がほぼ完全に実施されると、農業の国内生産額は3兆円減少し、カロリーベースの食料自給率は、現状の39%から27%へと低下するとしている。また、2011年に出した農水省の試算では、食料自給率は13%(林産物・水産物を含む)まで低下する。農林水産物の生産減少額は4兆5000億円程度と見込んでいる。農地は現在の460万fが230万fと半分になってしまう可能性もあるとしている。それ以上の落ち込みも十分予想される。
 先進国は食料の国内自給を国策として遂行している。その結果、現時点の食料自給率は、アメリカ124%、フランス111%、ドイツ80%、イギリス65%となっている。先進国のなかで日本の食料自給率の低さは突出しており、独立した国としては異常である。
 イギリスの例を見ると、戦前のイギリスは自由貿易主義の国であり、食料を大量に輸入していた。しかし、二度の大戦で食料不足を経験し、戦後になって農業の統制・保護と国内における食料生産の拡大をはかった。1973年にEC(ヨーロッパ共同体=EUの前身)加盟により生産がさらに拡大した。
 イギリスは国土の70%が農地(日本は13・2%)であり、国民一人当りの農地面積が日本の8倍もある。現在イギリスでは小麦、大麦の自給が完了して乳製品もほぼ自給している。
 戦争になったときに一番国民を苦しめるのは、食料不足である。安倍政府は安保法制を強行成立させ「アメリカのために戦争のできる国」にし、若者を肉弾として駆り出す道を突き進んでいるが、他方では国内の農漁業を徹底的に破壊し、国民に飢餓や餓死の苦しみを押し付けようとしている。これは日本の為政者が真に国の安全保障を考えているのではなく、もっぱら武力参戦することしか念頭にないことをあらわしている。
 また2011年の農水省の試算では、GDPは7兆9000億円程度の減少が見込まれ、農業とその関連産業への影響では340万人の就業機会が失われる。このうち農業関係者が260万人で、食品産業が10万人、卸売関係者が20万人などの内訳になっている。運輸関係への影響も大きい。林産物・水産物を含めた試算では雇用喪失はさらに10万人増えて350万人と試算されている。
 安倍政府は八割の農水産物への関税撤廃に合意したことを明らかにするとともに「安い輸入品が入ってくるから消費者にはメリットがある」などと宣伝している。だが、関税撤廃により国内のコメや野菜、果樹生産や畜産業、林業、水産業をことごとく成り立たなくさせるなら本末転倒で、目先の安さだけに目を奪われている間に日本人の胃袋はグローバル資本に握られ、生産者を駆逐してしまった時には、社会にとってたいへんな損失となる。古今東西、一国の為政者のやるべき第一は国民に食料を安定的に供給することである。この任務を放棄した安倍政府に為政者の資格などない。

 食料危機は現実的 為政者失格の安倍政府

 世界の食料事情を見ると、食料不足、在庫不足が深刻な事態となり、穀物高騰や穀物の輸出規制などにより、「いくら金を積んでも売ってもらえない」事態が現実化している。
 日本は現在でも世界最大の農産物輸入国となっている。大豆、トウモロコシ、豚肉などの主要品目についてはアメリカ、カナダ、ブラジルなど特定の国に大きく依存しており、異常気象による凶作や輸出禁止措置などがあると、日本の食料需給はすぐに大きな影響を受けてしまう危険な状態にある。
 また世界の人口は71億人を突破し、2050年には96億人(国連推計)と予測されている。約8億7000万人が慢性的な栄養不足=飢餓に苦しんでいる。そのなかで中国やインドなどでは食生活が変化し、日本と同じく畜産物や油脂類の消費が増え、穀物類の輸入が増大しているため、世界の食料市場は非常に不安定になっている。世界的な異常気象、原油価格の高騰、水不足、家畜伝染病、輸出国の輸出制限などなど、食料の輸入が突然止まってしまう要因が増えている。食料不足に陥った場合は自国への供給を優先し、輸出規制するのが当たり前で、地球規模で食料難になれば食料の争奪戦が激化することは必至である。
 食料不足にともなう価格高騰によって世界各国で暴動が発生している。2007〜08年の穀物価格の危機的高騰で、世界市場では従来の2〜3倍の高値が付いた。最大の打撃を受けたのが、家計収入の半分以上を主食となる穀物に支出していた発展途上国の貧困層である。そうした人人はおよそ10億人を上回ると見られ、35カ国ほどで食料暴動が起きた。2010年に干ばつ、野火、熱波に見舞われたロシアを中心に近隣諸国の生産が落ち込み、穀物の禁輸や輸出規制をする国も出てきており、世界の食料価格危機が再燃した。
 穀物輸出においてアメリカは圧倒的な地位にあり、世界の輸出量の4分の1を占めている。穀物のなかでもトウモロコシの世界市場におけるアメリカの地位は突出しており、世界の輸出量におけるシェアは40%を上回っている。穀物生産は国民の食生活に占める基本的な重要性を持っていることから、多くの国においては国内の需要の大半を自給し、一部の過不足分だけが貿易に回っているのが一般的で、生産量のかなりの部分を輸出に振り向けている輸出国はごく限られており、アメリカが市場を支配している。
 他方日本は世界最大の穀物輸入国である。トウモロコシの9割、大豆の約7割、小麦の約6割をアメリカからの輸入に頼る日本にとって、穀物相場の高騰が国民生活を直撃している。
 食料の中核である大豆、トウモロコシなどの穀物在庫率(消費量に対する在庫量の比率)が99年ごろの30%をピークに下がり始め、最近は16%まで落ち、危機的水準と見られている。
 穀物とならんで水産物の高騰も激しい。アジアを中心に消費されていたサケは、世界的な需要が伸びている。欧米で人気のアトランティックサーモンは、価格が02年の1`当り2jから5j近くに高騰した。世界の水産物市場で、価格高騰をともなう水産資源の奪いあいが起きている。輸入サバの価格は前年比で2倍、かまぼこの原料のスケトウダラ価格は5割増と相場は軒並み上がっている。
 日本は水産物の国内消費の45%を輸入する輸入大国だ。ところが、最近は日本より高く魚を買う国があらわれ、国際市場で日本が他国に買い負ける例がめだっている。
 世界的な食料不足、価格高騰のすう勢は今後とも深刻化していくと研究されている。その食料危機に対する備え、食料の安全保障と食料自給率向上は日本のみならず、世界的な重大課題になっている。
 2011年の東日本大震災のさいには、食料や物資の流通機能がまひし、都心部では食料の買い占めが起こり、パニック状態に陥った。近い将来、世界中で慢性的な食料不足が起こることが危惧されている。
 実際に世界的な食料危機が起こった場合、日本は非常に深刻な状況に陥ることは歴然としている。食料自給率が今でさえ39%しかないうえに、さらにTPP交渉の合意でほとんどの関税を撤廃すれば、当然国民を養うことはできない。
 世界には今現在、人口が1億人以上の国は世界に11カ国あるが、このなかで、飛び抜けて穀物自給率が低い国が日本で、たった28%しかない。次がメキシコで68%。それでも日本の2・4倍の水準である。その他の9カ国のうち、150%の米国を筆頭に100%をこえている国が6カ国で残り3カ国も8割をこえている。専門家は、「現状の日本は実質的には飢餓の危機に直面している」と指摘し、さらに「日本の食料自給率は30%台、穀物自給率は20%台になっている。TPPを推進してこれ以上自給率を下げることは自殺行為だ」と指摘している。
 日本国民は戦時中も戦後も、深刻な食料難に苦しめられた。第2次世界大戦では320万人もの日本人が殺されたが、戦地で亡くなった兵隊の多くが食べ物がなく餓死したことが証言されている。戦後復興の過程でも、配給される食料だけでは栄養失調になって餓死者が続出し、「食料メーデー」がたたかわれた。
 一国の統治者として、安倍政府はまずなにより国民に腹いっぱい食わせるという責任を果たさなければならない。TPPの大筋合意の内容は国内の農漁業生産を壊滅させ、いざというときに国民には食う物がない、かつての苦難を再び押しつけるものである。そして、食料市場をみな多国籍企業に投げ売りするものにほかならない。不測の事態は架空のことではなく、きわめて現実的である。世界的な食料事情から見ても、またアメリカの戦争に国民を動員する安保法制の成立で、日本が敵国とみなされ食料輸出をストップされる危険性も高まる。
 食料の国内自給はもっとも確実な食料安全保障の道であることは明白である。安保法制反対の国民的な大運動に続いて、TPP批准阻止の大運動を巻き起こすことが国民的な課題になっている。

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