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庶民襲う物価値上げラッシュ
                  原料高騰で各種産業に打撃        2007年12月5日付

 物価が上昇している。ガソリンや食料品、日常雑貨にいたるまで軒並み値上がりしており、各種産業に大きな打撃となっている。アメリカのサブプライムローン問題に端を発した金融危機によって、それまで株や証券など金融商品に張り付いていた全世界の余剰マネーが逃げ出し、原油や穀物など資源の先物取引になだれ込み、ドル価値も下がるなかで、世の中全体が大混乱をしている。下関市内でどのような影響が出ているのか見てみた。

 輸入小麦は異常な高騰
 輸入小麦の価格が異常な高騰を続けて困ったのはパン屋だった。10月1日から政府の売り渡し価格が10%上昇したからだ。11月からは仕入れ値に直接影響しはじめた。下関市内でパン屋を営んでいる男性は、毎日110種類のパンをつくるのに75`(25`×3袋)ほどの小麦粉を使用する。仕入れ値の1割増しは大きな痛手になった。「来年は、さらに値上がりするという。いったいどこまで上がるのだろうか。想像するだけで恐ろしい」といった。近年の材料費を調べてみると、小麦に限らず油脂、チーズ、くるみ、レーズンなどすべての原材料が軒並み値上がりしていた。サンドイッチなどを入れるプラスチック容器もだ。くるみは10年前に1箱7000円で仕入れていたものが1万5000円にもなっている。
 男性は、輸入された小麦が自分たちの手元に届くまでの仕組みにも原因があると指摘する。現状では9割が輸入小麦であるが、その価格は政府が管理する仕組みになっている。商社を通じて全量を買い入れた政府が、そこに関税や管理経費など諸諸の額を加算して、製粉会社に売り渡す制度で、例えば商社が1000円で仕入れてきた小麦は、政府、製粉会社という販売ルートを経由して街のパン屋さんが仕入れる時には8倍の8000円ぐらいになるのだといった。今年4月、国は、製粉会社への外国産小麦の政府売り渡し価格を、それまでの年間固定制から価格変動制へと変更し、年2回(4月と10月)見直すことになった。国際穀物相場や為替の動きにいっそう翻弄されることにもなっている。
 ケーキ屋を切り盛りしている女性店長は「小麦もだが、バターも値上がりした。クッキーもケーキも新商品から価格を上げている」と対応策を明かした。
 小麦相場の高騰は世界的な「バイオ燃料」ブームの影響でとくに世界の小麦輸出量の24%を占めるアメリカを中心とした国国で、小麦生産農家が「トウモロコシをつくった方が儲かる」と鞍替えする動きがあり、また主要輸出国であるオーストラリアでの干ばつ、欧州の不作が影響して、世界の小麦在庫が32年ぶりの低水準に落ち込んだとされている。しかし、そこに追い打ちをかけるように先物取引が活発化し、「需要と供給」以外の要因によって価格がつり上がっている。

 大豆価格も1・5倍に
 大豆価格の上昇もすさまじく、豆腐屋の経営を直撃している。廃業するところも出てきている。今年になって2回の値上げがあり、「特に夏以後の高騰がひどい」と語られている。下関市内の豆腐製造業者に聞くと、今年初旬までは1000円ほどだった1袋25`の価格が1500〜1600円にもなった。約1・5倍の値上がりだ。豆腐を入れるパック容器は、3円30銭だったのが5円に値上がりした。「病院や食堂などと取引しているけど、いまのところ販売価格を上げることはできない状態なので、その分うちがかぶっている。1丁60〜70円くらいが適正な価格だと思うのだが…。なにもかも原材料が値上がりしてたまらない」といった。
 かたや、ドラッグストアなど安売り量販店には、1丁26円の豆腐が陳列されたりする。「パックに5円かかるとしたら、20円で豆腐をつくることになる。あり得ない。見てみると賞味期限の表示は1週間先の日付が打ってあった。豆腐は冷蔵庫に入れても1週間持たない食料品なのだが…。防腐剤を入れているのだろうか。どうやってつくっているのか不思議で仕方ない」と語った。

 穀物値上げ養鶏に影響
 穀物の価格上昇で、養鶏業者や酪農家も影響を被っている。
 養鶏を営んでいる男性は「毎月100万円の赤字が出ている。資金を借り入れてなんとかしのいでいるが、国策でどうにかしてもらわないと中小の養鶏業者はみんなつぶれてしまう」と現状を語った。広大な敷地にはいくつもの鶏舎が建ち並ぶ。10万羽を育てるために、餌はトウモロコシ6割に大豆、小麦を混ぜる。これらすべてが値上がりして、燃油の高騰も加わったからだ。一方で、卵の価格は大型店出店による流通の激変状況とも関わって、1個10円の時代になった。終戦時期に12円だったのと比較すれば価格が大暴落している。
 「日本の養鶏業者のうち70〜80%が“ウィンドレス鶏舎”を導入していて、私らが1棟の鶏舎に1万羽入れている同じスペースに10万羽ぐらいを詰め込んで飼っている。鉄筋づくりの太陽が当たらない窓無しの鶏舎に、風を人工的に送り込み、夜と昼の区別も電気で光をコントロールするヨーロッパ方式。強力な消毒をするので、殻の気孔がつぶれて3日で死んでしまう。本来鶏が産む卵は粘膜のようなものに包まれていて、自然界ではそれが消毒の役割を果たしているのだ」といった。男性や中小養鶏業者たちが出荷しているような質の良い卵・鶏肉を押しのける勢いで、大規模養鶏業者の市場独占が進行していることも指摘した。
 下関市内には養鶏農家は15戸ある。そのうちの1つが、「原材料の高騰とスーパーとの取引価格が見合わずに廃業するようだ」といわれている。同じ町内で酪農を営んでいる農家の婦人は「もう鶏舎のなかに鶏は1羽もいないと聞いた。頑張っていたのに」と、残念がっていた。そして「人ごとではない。酪農もたいへんで、輸入の干し草などすべての仕入れ値が上がっている。それなのに乳価はまだ下げると聞いている」といった。明治乳業、森永乳業など大手3社が価格設定の主導権を握っており、来年どうなっていくのか気が気でない心境を語った。
 別の酪農家のところでは「朝と晩、1日2回の乳搾り・餌やりは大変な労力。だけど収入が足りないから、主人は昼間はアルバイトに出ている。乳価は1g240円くらいがまともなのに。資材代ばかり上がってやりきれない」と夫人が語っていた。
 豊田町で肉牛を飼育している男性は、「1頭を出荷するまでにかかる費用は、これまで40万円ほどだった。しかし藁や配合飼料が値上がりしたため、80万円くらいかかるようになった」と明かす。10頭ならば400万円の出費がかさみ、30頭ならば1000万円を超える違いになる。

 バイク屋も鉛高騰直撃
 バイク販売店の男性店主は、バッテリーにせよ、タイヤにせよ、諸諸が値上がりしたと語る。スクーターやカブに取り付けるバッテリーだと、昨年まで8900円(定価)だったものが今年1年だけで2回の値上げがおこなわれ、1万3000円にまで跳ね上がった。「鉛の高騰が原因と聞いている。来年1月にはさらに約15%上がるようだ」といった。純正でないものは2000〜3000円で出回っており、他県の業者から購入を勧めるファックスが届く。ただ、その後の故障トラブルにつながる可能性があるので使わないことにしている。
 店頭でいっしょに売っている自転車も今年2回値上がりした。メーカーや種類にもよるが、平均して3000〜4000円のアップになった。タイヤも原油の高騰が影響して値上がりした。量販店で売り捌かれている中国製の自転車が修理に持ち込まれることもあるが、4000〜5000円で売られている自転車のタイヤ交換に3000〜4000円かかる関係にもなっているのだと首を傾げた。
 ちなみに、バイク販売をしている小売店にとって切実なのは、ホンダやヤマハなどのメーカーが直接小売業に身を乗り出してきていることだ。ヤマハはレッドバロン、ホンダはホンダドリームというように、車の販売店同様に直販の店舗を出しはじめている。これまでは各メーカーの傘下に卸販売店があり、そこから小売店がバイク本体や部品類を調達し、店主らがその後の商品メンテナンスも見てきた。「街中にメーカー直販店が出てきて市場を持っていかれると、私らのような店はやっていけなくなる。メーカーとの関係では、手数料収入のパーセンテージも売上高に応じたもので、販売額が少ないと利益率も下がる仕組みになっているという。かつがつの経営だ。お札の腹巻きでもしていたら心も体も温まるのかもしれないが」といって苦笑した。

 銭湯まで燃油高騰波及
 燃料油の高騰で、トラック運送会社も内航船も、沿岸漁業もたいへんな操業を余儀なくされている。
 銭湯も燃油高騰が直撃した産業の1つだ。ボイラーに使うA重油は80円近くになっている。2年前のほぼ倍近い。燃油はグングン上がるのに価格に転嫁することはできず、公衆浴場経営者がかぶることになっている。入浴料は知事認可料金なので勝手に変えることはできないからだ。現在は平成17年4月1日認可の一般360円。これを変えるためには、組合として値上げ幅を山口県に申請し、調査(抜き打ちで利用者数や、過去の年間帳簿などを提出したりする)がおこなわれ、県が消費者団体(商工会議所や婦人会など)にはかって協議する。結果が出るまでに半年から10カ月かかる。市内で銭湯を経営している男性は「なんとか持ちこたえている。精一杯の状況だ。手続きのスピードが追いついていない」といった。
 市内のクリーニング業者の男性は、「以前は1カ月200万円ほどだった経費が300万円くらいにアップしていて、経営にこたえる」と漏らした。工場で利用するA重油、配達に使う車の軽油代の上昇に加えて、衣服を包むビニールの仕入れ値も上がった。
 一人暮らしをしている高齢婦人の1人は、「灯油が上がっているので、今年は極力我慢して、コタツと毛布をかぶって過ごそうかと思う」と話した。1缶1800円にも届くといわれている。火鉢は捨てたので手元にない。「年金は減るばかりなのに介護保険は高いし、生活必需品が高額になる。ますます暮らしにくい世の中になっていく。どうしてこんなことになっているのか」と疑問をぶつけた。

 大騒ぎ引起す商品投機
 原油や穀物相場の高騰は、生活の隅隅に弊害をもたらしている。農漁民や中小業者、低賃金と税負担、医療や福祉の切り捨てなどで苦しむ庶民の生活を直撃する事態となった。自給率が落ち込んだ日本のもろさを露呈しながら、今後さらに深刻さを増す勢いを見せている。不況で庶民にはカネがなくて、欲しいものも買えないのに物価は上昇するという、とんでもないことが起きている。
 原油や穀物価格の急騰は、アメリカにおけるサブプライムローン(貧乏人への住宅融資)と、それを金融工学と称するインチキ手法で債券にして世界中に売り、それがパンクしたことが直接のきっかけとなった。世界的な金融不安が高まり、株式や不動産の投機に向かっていた世界の余剰資金が、人が生活するのに不可欠な石油や穀物などの生活必需物資の資源投機に向かい、実需では説明がつかないほどの価格高騰を引き起こしている。先物取引による買い占め、高値売りつけが世界的にあらわれているのである。さらに、ドルが暴落をはじめ、紙切れに近づいており、インフレになっている。
 世界中の人民が貧乏になって購買力がなくなった結果、資本を再生産に投じることができずに有り余った余剰資金が、社会の上層にジャブついている。そのカネが夏以後、金融投機から商品投機に乗り換えはじめ、大騒ぎを引き起こしている。

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