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消防庁舎守るための消防移転か
下関・震災から学ばぬ中尾市長
              市民の生命守る対策はなし   2012年6月16日付

 3・11東日本大震災から1年以上が経過したなかで、ほとぼりが冷めたと思って野田政府が原発再稼働を動かし始めているのと同じように、下関では関門海峡に面して冠水したことのある埋立地へ消防庁舎を移転させるという震災以前の計画がごり押しされようとしている。東海・東南海・南海地震によって引き起こされる津波を警戒して、西日本の沿岸では各地で防災対策の見直しが進められ、従来よりも津波の予測値が引き上げられたり、浸水が予想される低地には公共施設を建設しないといった対応がなされているのに、下関市の中尾市政はなぜ市民の生命や安全を守れないようなことをするのか。国政が国政なら市政も市政で、市民の心配をするようなものではないことに市民の怒りは沸騰している。
 
 議会監視し全市世論で阻止へ

 下関市議会の6月定例会には、消防庁舎の建設工事にかかる請負契約締結議案が複数出されている。給排水設備の工事はまだ含まれていないが、総額にして25億円を上回る金額である。
 地震の際の液状化を防止するための基礎工事は、極東建設が1億1800万円で落札。庁舎建設は友田組、福永建設、永山建設のJV(共同企業体)が落札し、請負代金は10億8500万円。予定価格に対して落札率は99・81%という、たいへん高いものになった。電気設備工事は河崎電機工業、サンワ電工、広電工業によるJVが落札し、請負代金は2億3300万円。落札率は97・9%。空調設備は合田燃料機器、小林設備のJVが落札し、請負代金は1億5500万円。同97・2%。高機能消防司令センター施設整備は沖電気工業が落札し、請負代金は9億900万円。同94・2%。
 選挙を前にした任期最終年度に、地元の主だった企業群に発注することで“選挙対策”だという評価になっている。秋口におこなわれる市役所本庁の建設工事には、今回入らなかった別の地元有力企業が入ることで調整が完了したのだろう、と落札率の高さについて解説がなされている。

 「大丈夫」繰返す執行部 市議会総務委

 中尾市長が岬之町の埋立地への消防移転を打ち出して2年が経過した。今回の市議会・総務委員会では、埋立地への無謀な移転について懸念する議員もいるなかで、「大丈夫」「安全です」という言葉が繰り返された。
 執行部の説明によると、予定地になる海岸沿いの土地は海抜2・7b。消防庁舎の敷地はプラス50aのかさ上げを施して3・2bにすることや、庁舎の周囲には高さ1・1bの防潮板(津波警報が出たらはめ込んでいく)を設置し、あわせて4・3bの防御壁ができるので津波に耐えられるといっている。南海トラフによって起きる津波は山口県全体では4・4bと予測されているが下関は満潮時で3・7bという予測数値。「これで十分対応できている」と説明した。
 ただし、「100%防げるかというと、多少浸水することもないとはいえない」「少なくとも1階部分が浸水することはあっても、2階から上は必ず守れると確信している」といっている。1階部分は津波が抜けやすいように、シャッター式の作りになることも明らかになっている。
 さらに、津波襲来は3時間後の想定で、警報が出た段階で消防車や救急車は広報業務(実質的に高台に避難)に出ていく予定なので、車両が被災することはないとした。庁舎には作戦室だけが残ることになり、災害対策本部は市役所本庁に設置され局長はそっちに詰めること、一度出動した消防自動車は帰ってこないように対応するという説明がなされた。
 議員のなかからは、「あと1bかさ上げできないのか? 高潮でも船が浮き上がって消防庁舎に飛び込んでくる可能性もあるし、コンテナも流れてくるのではないか?」という質問も出たが、「そんなことはない」と一笑に付して終わった。「国がこのような浸水予定地への庁舎移転に補助金支出を認めるのか?」という質問については、「大丈夫です」と太鼓判を押し、浸水の危険がある低地に公共機関を設置するのは「避けるように」という指示は出ているが、「できるだけ避けるように」という緩い指示なのであって「絶対に避けるように」の意味ではないし、「下関は対策をとっているから大丈夫」と執行部は説明していた。
 また、「消防庁舎は大丈夫だったとして、まわりの市民なり市街地は津波襲来時にどうなっていると想定しているか?」の問いには、3時間で待避させる方法を模索中であるが、警報が鳴って津波が来るまでに市民は避難しているので犠牲者は出ないのだと説明していた。なんの問題も起きないという想定のようである。

 消防機能果たせぬ危機 津波襲来時の想定

 「大丈夫です」「安全です」というが、執行部の説明は消防庁舎が大丈夫という説明ばかりで3〜4bの津波がきたときに下関の市街地や海岸線、企業群の施設や、水道、下水、電気、通信といったライフラインや諸諸の生活基盤はどうなると想定しているのか、そのとき消防は機能できると想定しているのだろうかの疑問に答えてはいない。消防局を守るための消防なのか、市民を守るための消防なのか重大な分かれ道となる。
 かさ上げや地盤改良、津波が抜けていくシャッター方式、1bの防潮板というものをわざわざつくり、2階以上は大丈夫というところにわざわざ消防局をつくること自体がバカげているのは幼稚園児でもわかることである。それが日本中の笑いものになり怒りさえ呼ぶのは当然のことである。
 地震や3〜4bの津波が来たときに市街地はどうなるか。隣接する港に係留されている数百d規模の貨物船やタンカーなら3bあれば陸上に浮き上がるのは容易で、消防庁舎に激突することもある。炎上したタンカー船が消防庁舎を燃やし尽くすことも東北の事例ではありえることとなる。隣接するコンテナターミナルに並ぶコンテナが流れてきてぶつかり庁舎周辺は収拾がつかなくなる恐れもある。
 東日本大震災では、地震や津波で製油所のタンクが爆発したり、気仙沼では一昼夜にわたってマグロ船が炎上し、海面に流出した油にも引火して市街地の奥側は火の海になった。海面が通常の水位に戻るまで相当な時間がかかるため、押し波や引き波が行き来するたびに油が漂流し、火災規模は広がった。下関で見ても山口合同ガスのタンクや長府・小月、彦島などの企業群が爆発や炎上事故を起こさないとも限らない。
 押し波や引き波が繰り返されるなかで、市街地には瓦礫がどっと流れ込み、道路は瓦礫だらけで通行どころではなくなる。消防庁舎の周辺も丸山、細江、三百目方面からの瓦礫の山にとり囲まれる。2階以上に支援物資などはかわしておくようだが、とりに行こうにも、持ち出そうにもできない。
 津波に伴う大火災が起きた場合、対応資材や特殊な科学資材などが本部にあっても、瓦礫や海面に囲まれてとり出せないのでは、燃え放題ということになる。本部にある資材や機材、備蓄食糧をとりにも寄りつけないなら、消防の作戦本部だけが助かっても意味はなく、市民を助けるためにある消防が機能不全になることを意味している。
 液状化対策が施されるのは消防庁舎の敷地だけであり、50aの高台を下って一歩庁舎から外に出ると周囲は液状化で身動きがとれない。警報が出た三時間前に消防車両は避難するというが、津波対策に必要な道具はいつも積んでいる消火道具とはわけが違う。しかし道具がある消防庁舎には潮が引いても近づくこともできない。
 さらに電気も通信も途絶え、携帯も電波が意図的に切られる。「そのときは無線がある」という説明だが、通じても消防同士の連絡しかできない。市民が119番で助けを求めても連絡がとれない。つまり下関の市街地から長府、小月などの山陽方面がどうなっているか実情がつかめない。市内の実情がわからなくては指令のしようがないし、消防隊員も動きようがない。
 庁舎の2階が無事であったとしても、被災地のど真ん中にとり残され、車両や隊員は“家亡き子”では消防の機能は果たせないのは明らかである。市役所には災害対策本部がつくられ消防局長もそこに詰めることになるが、消防がマヒしたら市内の状況はさっぱりわからず、頭だけで手も足もない状態になる。
 実際に津波を経験した東北の消防隊員のなかには、その後の救出作業の際、海側の建物で余震に遭遇して「建物の外に出ろ!」と指示されるものの、「また津波がくる!」と思い慌てていたら、ただの水たまりなのに海の深みに感じ、あまりの恐ろしさで腰が抜けて動けなくなったと経験を語る人もいた。個人の精神面が強い弱いの問題でなく、極限状況のなかで第2波、第3波とさらに大きな津波がくるとも知れない状況のなかで、瀬戸内海を正面に迎え撃つ作戦本部が、まともな精神状態で機能するのか疑わしい。
 また無線についても、石巻市の牡鹿半島では役場支所の防災無線もつながらず、1週間近く救助が来なかったことから、ワカメを食べて飢えをしのいだ経験がある。広域にわたってどのような被害が出ているのかを把握する作業も少少ではない。いくら市長や局長が賢くても、市内の状況がわからなければ司令の出しようもない。
 そして50aのかさ上げ等等がどれだけ意味をなすのか考えなければならないのが地盤沈下の問題である。三陸沿岸ではプレートのひずみが緩んだことで、長年にわたって押し上げられていた土地が広域にわたって80〜100a近く沈下し、護岸が崩壊した場所も少なくない。そこに津波が襲いかかった。
 日本列島は日本海プレートの下に太平洋プレートが沈み込み、この二つのプレートのパワーから押し上げられる形で標高が保たれている。歪みが開放されると地盤は当然沈下することを地震学者たちは指摘している。
 地震によって地盤沈下した消防庁舎に3bの津波が来れば、1bの板を設置したとしてもなんの意味もない。それ以上に津波はそれ自身の波高が3bであっても、リアス式の狭い海域や浅い海域に来たり陸上に上がると数b高くなる。駆け上るのが津波である。三陸でも最高40bほどまで駆け上った。津波の高さが3bだから、4bの防潮堤をつくれば安全、などといったら被災地の住民から「西日本の人たちはわかっていない」といわれることは疑いない。

 県内で大地震の可能性 研究者は警鐘

 今年3月に豊田町で開かれた「山口県の活断層と地震 菊川断層は動くのか?」と題した講演会のなかで、山口大学大学院理工学研究科教授の金折裕司氏は、東海・東南海・南海地震が起きると、山口県内でも連動して地震が引き起こされる可能性が高いことを指摘している。
 その講演のなかでは、阪神淡路大震災を契機に地震は活動期に入っていることや、中国地方は西に進む太平洋プレート(年間10a)と東に進むユーラシアプレート(年間1a)に締め付けられ、さらにフィリピン海プレートが年間約四aの速度で西日本の下に沈み込んでいること、これらのプレートの歪みが生じていることから、地震が起こりやすくなっていると説明していた。
 南海トラフで地震が発生すると、山口県内の断層への力の加わり方も変化し、震度6強となる可能性も指摘している。その事例としては宝永4年(1707年)に東海沖から四国沖で発生した宝永地震(M8・6)の24日後には徳地でM5・5の地震が発生し、甚大な被害をもたらしたことがある。
 下関地域には県内の三大断層といわれる菊川断層帯も横たわっている。海中の神田岬断層と陸上部分の菊川断層からなっている断層帯で、この菊川断層帯が動いた場合、地震被害想定では最大震度七。金折教授の指摘では国の地震調査推進本部が出した長期評価の発生確率ではすでに期間が過ぎているものがあるなど、矛盾も多いことを指摘。菊川断層がいつ動いてもおかしくないことを強調していた。
 そして、菊川断層で地震が発生した場合のシナリオとしては、急に強い揺れがきて15〜20秒続き、家屋倒壊や液状化が起きる。その数秒後にチャイム音と緊急地震速報が流れ、さらに数分後には神田岬断層で引き起こされた津波の第1波が響灘側に到達。津波の想定は今後具体的に数値化しなければならないとしているが、押し波と引き波が交互に7回来る可能性を指摘していた。
 さらに南海地震の場合のシナリオとしては、発生から数秒後にチャイム音と緊急地震速報が流れ、その60秒後にコトコトと揺れ始める。100〜200秒後に猛烈な横揺れがきて5分ほど続き、家屋倒壊や液状化が起こる。90〜100分後に津波が到達するとしている。そして、瀬戸内海の場合は豊後水道と紀伊水道の両側から津波が入ってくるために、何回押し波引き波を繰り返すか想像がつかないこと、津波が逃げ場を失い、内陸部に駆け上がる距離は想定できず、もっとも怖いことを強調していた。
 中尾市長が強行突破をはかっている消防庁舎移転であるが、問題は単純で、どうしてかさ上げや防御板を作らなければならないような危険な場所に作らないといけないのか? 消防はわざわざいざというときに役に立たない土地に移転したがっているのか? である。消防新庁舎は消防を守るためにあるのであって、市民を助けるためにあるのではないというのが中尾市政の考え方となっている。
 どうして日本中の笑いものになるような場所への消防移転を強行するのか。業者選定は中尾市長の選挙対策であり、見え透いた談合だというのが、市内保守派の一致した評価となっている。利権の道具はひとつの要素である。
 しかし国までが中央防災会議の結論も出ていないのにこんな計画に補助金を出すとなると、もっと別の理由があるのだろうかとも考えられる。海沿いになぜこだわるのか。関門海峡では韓国のコンテナ船と自衛艦が衝突して、自衛艦の方が負けてあえなく炎上し海峡をさまようことがあった。下関は、政府指定の臨検港、米軍指定の重要港湾で、市内の災害対策など二の次で、海峡の防衛、米日軍艦の火災消火体制を第一にせよというのであろうかとも話題になっている。
 ことは入札が済み契約も済んで議会が承認すれば建設開始となる。しかしまだできていないのであって、今でもストップさせるのは遅くはない。議会が止めればよいのだ。
 しかし下関市議会の総務委員会では、批判めいたことを発言していた香川市議をはじめ各議員が採決になるとサッと手を挙げていた。戸澤委員長になると「現場が大丈夫といっているのだからいいじゃないか」と批判的な質問をさえぎろうとする始末で、3月に議会条例を決めたばかりなのに、執行部の代表になって議会のチェック機能を妨害して恥じない。本会議では消防を守るだけで市民を守らない消防建設の議案を、サッと手を挙げて通過させるすう勢になっている。
 これには市民の監視を強める必要があり、市民の傍聴が求められている。

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