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消毒薬も獣医も土地も不足
宮崎口蹄疫
              伝染病対策の体なさぬ国     2010年5月24日付

 宮崎県で猛威を振るっている口蹄疫は、ついに隔離していた最優良種牛にも感染し、6頭のうちの1頭が殺処分された。宮崎県の畜産業はもちろん、日本全国の畜産業が存亡の危機に直面している。4月20日に口蹄疫感染が確認されてから1カ月がたつが、沈静化するどころか、感染は拡大し続けている。現場では消毒薬の不足、獣医師などの人手不足、殺処分した家畜の埋却地の不足など、政府の対応の遅れや体制不備がいたずらに感染を拡大している事態に怒りが爆発している。
 
 “畜産業全滅させる気か!”

 口蹄疫は強いウイルスによる家畜伝染病であり、防疫対策は消毒による殺ウイルスが第一となる。現場は強い殺ウイルス性能を持つ消毒薬・ビルコンの放出を政府に要望してきた。10年前にも宮崎県と北海道で口蹄疫が発生しているが、その際は初動で2000本、その後の1カ月で1000本のビルコンを国が配布した。この時は740頭の殺処分で終息している。
 今回、宮崎県や近隣の酪農・畜産農家はビルコンの配布を国に要請した。当時全国の農政局に合計5000本の家畜防疫用のビルコンのストックがあるという情報があったが、農水省は「非常時用のストックで、非常時かどうかは大臣が判断する」との回答で、農水大臣の対応はなかった。のちに、保管しておかなければならない消毒薬剤が必要量保管されていなかったことが発覚している。
 国際的にも「韓国」、中国で口蹄疫が発生しており、ビルコンは奪い合い状態にあり、五月初めに宮崎県の川南町に届いたビルコンは20本のみであった。このため宮崎県は、酢を薄めて散布するありさまであった。
 国がなんら動かないなかで、宮崎県から子牛を買い入れてブランド牛を育成している産地をはじめ全国各地の農家は「宮崎の畜産を守れ」と、ストックしていた消毒剤を放出し、送り届けてきた。
 また、日本政府の対応の悪さにイギリスの口蹄疫リファレンスセンターがバイエル本社に要請し、同日本支社がビルコン約30d(2000本)を緊急輸入することを決めた。20〜23日に航空便で運び、ほぼ全量を宮崎県を中心に九州地域に出荷する。現地では「これで本来の防疫体制」がとれるとしているが、すでに口蹄疫発生から一カ月が経過しており、事態は深刻である。

 感染拡大に対応できず

 さらに、人手不足の深刻さが加わっている。
 感染が疑われる牛や豚は殺処分することになっているが、獣医師の資格を持つ者しか処置できない。5月10日時点では、殺処分対象の家畜は7万6881頭であったが、実際に処分されたのは、6分の1以下であった。
 現場は、4月20日以後5月9日までは県の職員を中心に350人体制。国が派遣したスタッフは九州農政局から3人の獣医師と20人の職員、追加で30人の自衛隊員。農政局派遣の獣医師はペーパー獣医師で、現場ではまともに牛を触ることもできなかったと話されている。
 9日からはこれに加えて九州各県からの応援で700人体制になったが、1日の処分頭数は1000頭。処分対象は10万頭以上であり、とても追いつかない。現場からは、殺処分する薬剤が足りない、薬剤を打つ注射器の替えがないので、どんどん刺さらなくなる。重い牛に静脈注射を打つには、電気で気絶させてから打つ方がよいが、その機材が壊れて予備がない、などの声が上がっている。不眠不休で奮斗するスタッフから「国の対応マニュアルがまったくできていない」と怒りは噴き上がっている。
 感染した牛は毎日10億個、豚は5兆個のウイルスをまき散らすため、感染の拡大がとまらない。農家は、感染していても殺処分できない牛は、弱れば排出するウイルスが増えるため、毎日エサをやり、ビタミンをやり、あらゆる手を尽くして健康を保つために必死になっている。
 保健所や獣医師が殺処分場に集中せざるをえず、発症が疑われる農場の検査もできず、感染の広がりも確実な把握はできていない。
 さらに、埋却用地が不足しているために、殺処分できず、感染が拡大するという悪循環も起こっている。
 最初に感染家畜が確認された都農町では、殺処分対象になった家畜は8万頭をこえるが、埋却地がないため、4万頭以上が処分されていない。原則として、殺処分された家畜の埋却地は発生農場周辺に確保するとなっている。適当な場所がない時は、農家が近くの土地を買い取らなければならない。だが、農家は家畜の全頭殺処分による経済的、精神的負担は大きく、この上買収資金の工面や買収交渉の余裕はない。JAは「国が隣接した土地を買い上げるなど、早急に方策をとって欲しい」と訴えている。
 「とにかく人手が足りない。物資が足りない。土地が足りない。殺処分が感染拡大に追いつかない。このままでは宮崎から、いや日本中から牛や豚が一頭もいなくなって初めて終息ということになりかねない」と事態が進行するに従って国の対応への憤りは激しくなっている。

 山口県でも重大な関心

 山口県の畜産・酪農農家や肉屋、行政関係者なども他人事ではないと受けとめている。
 県内で最大の畜産・酪農産地(和牛3100頭、ホルスタイン1800頭)である下関市内の和牛生産農家は「口蹄疫は伝染力が強いこともわかっている。問題は対応の遅さだ。日本の政治家にはリーダーシップがない。統治能力がない。普天間でもあれだけ大騒ぎして結局アメリカのいいなりだ。宮崎はかなりな産地で、努力して研究してレベルを上げてきた。うちも宮崎の種をかなりもらっている。松阪牛というが、結局生産しているのは地方だ。宮崎・鹿児島がやられれば日本の畜産業は壊滅に近い。これが本州に侵入すれば、もう本当の壊滅だ。畜産農家は数年前の輸入飼料の高騰で経営が厳しくなっている。牛飼いは牛がいないと収入がない。それを全部殺してしまえば数年先の収入も断たれる。だが牛舎などの借金は待ったなしだ。自殺者も増えるのではないか。第一次産業がなぜこれほど衰退してきたのか。こうしてきたのは自民党政治だ。そして民主党はまだ悪い。農漁業をなんと思っているのか」と怒っていた。
 六〇年近く酪農をやってきた婦人は、「口蹄疫が起きなくても酪農家は赤字で借金漬けだ。輸入飼料は高いのに、乳価は安い。夫や息子が働きに出て、やっと借金も返せる。この上に口蹄疫で全頭殺処分されたら、再起できる農家はどれほどいるだろうか。ほとんどが再起できないだろう。自殺者も出るのではないか」と心配している。
 また、「とにかく国の農政がめちゃくちゃだ。トヨタなどの車を輸出するために、農産物を輸入するという取引をしているから、国は日本の農業をペチャンコにしてきた。今度でも牛の足が何本あるか、鶏の足が何本あるかもわからないような官僚や国会議員がやることだから、うまくいかない。そもそも国の農政は牛もコメもミカンも野菜もやっていけない。農業をつぶすための農政だから、こんなことになる」と怒りをこめて話した。
 また別の酪農家は「口蹄疫はもともと日本にはなかった。今では飼料はほぼ100%輸入に頼っている。人の行き来が国際的になっている。いつどこでなってもおかしくない世の中になっている。山口県も他人事ではない。なのに、国の対応はおかしい。上関原発でもそうだが、農業や漁業を守ろうとしない。宮崎県の農家は規模が大きいので借金が大きいだろう。一頭60万円補償とかいわずに、借金を棒引きするとか、もっと農家が再起できる方策を考える必要がある。国に農業を守ろうという気持ちがないことが一番悔しい。口蹄疫の発生した牧場は、これから五年は牛を飼えないと聞いているが、そのあいだにつぶれる。国に農漁業を守り、食料自給率を上げるつもりがあるかどうかだ」と激しく語った。
 鹿児島県の農業資材関連業者は「口蹄疫以前から苦しい。ただでさえエサ代が高騰し、また金融危機以降、枝肉価格が下がってきていた。経営が苦しいから規模拡大の方向になる。頭数が多くなればなるほどエサは輸入に頼る。ほぼ100%輸入だ。国は評価額の全額補償というが、何年間も育てた必要経費や人件費の満額補償ではない。規模が大きいだけ借金も大きいし、連帯保証人もいるので、廃業できる人はいい方で、廃業できずに借金地獄に苦しんでクビをつるという悲劇も起きるのではないか」と話している。
 下関市内の肉屋は「O157のとき、原因は輸入飼料だとつきとめた日本の学者がいたが、それを発表しようとして、その学者はその後国外で抹殺されたという事件があったことは業界では誰でも知っている。口蹄疫もアメリカの飼料だということは十分にある」と話している。また別の肉屋は「宮崎産の肉は質が違う。うちの店では90%が宮崎産の肉だ。今はまだ感染地域が一部だが、これ以上広がれば大変な事態になる。原因は憶測ではいえないが、動物の伝染病の場合、原因となるのは多くがエサだ」と話し、関心を寄せている。
 行政の関係者は「今職員の配置はどこもぎりぎりの状態だ。緊急事態には対応できない。もし山口県で口蹄疫が起きたら、大パニックになるだろう。考えるだけでも恐ろしい」と深刻になっていた。山口県畜産振興課の調べでは昨年2月現在、県内には肉用牛1万9122頭、乳用牛4018頭、豚2万2575頭、合計4万5715頭が飼われている。畜産農家は830戸。獣医師の免許を持つ県職員は120人いるが、畜産関係への配置は60人。1人当り760頭ということになる。山口県では04年に鶏インフルエンザが発生した。当時は農林部と水産部が独立してあったが、現在は農林水産部になっている。美祢市にある畜産試験場関係の職員数だけを見ても、97年には61人体制であったものが、09年には43人まで削減されている。このほか、東部、中部、西部、北部に配置されていた家畜保健衛生所は縮小され各農林事務所で兼務となっている。口蹄疫など緊急事態が発生した場合にはまったくたちうちできない体制になっている。

 米国産牛肉自由化で大打撃

 県内の乳用牛の飼育頭数は80年には1万頭以上いたものが09年には約4000頭へと半分以下に減り、農家戸数も750戸が100戸に激減している。肉用牛は80年に2万5000頭いたものが、09年には1万9000頭に減り、農家戸数は5680戸から約700戸へと1割余りにまで減っている。この間の大幅な減少は、91年からのアメリカ産牛肉の輸入自由化が大きな要因になっており、米国産牛肉輸入拡大のために、国内の畜産業を破壊してきたということがいえる。ここまで破壊されたうえに口蹄疫などの伝染病が蔓延すれば、山口県の酪農・畜産業は壊滅の危機に立つ。
 宮崎県での口蹄疫の問題は、国の無為無策ぶりを赤裸裸に示し、同時に統治能力を喪失した支配層の弱体化を示している。その根底に、アメリカに従属して、食料はアメリカからの輸入に依存することでよしとし、食料自給の体制を自前で確立する政策を放棄し、国内の農漁業生産を破壊してきた売国的な体質がある。宮崎県の農家をはじめ全国の農家は、国の対応がアメリカ従属で、日本の畜産業をはじめ農漁業、食料生産を壊滅させるものであることに怒りを噴き上がらせている。

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