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収奪と戦時動員を意図  
共通番号法成立
              学者、弁護士、作家等が批判     2013年6月3日付

 安倍内閣が提出した、国民一人一人に番号を付けて納税や社会保障などの個人情報を一元的に管理する共通番号「マイナンバー」制を導入する法案が、委員会でまともな討議もされぬまま先月24日、参院本会議で可決成立した。この制度は1970年代から「国民総背番号制」として取りざたされてきたもので、国民各層の強い反対世論の前に幾度も頓挫をよぎなくされてきた。そのような法案がアメリカと財界のために農漁業を破壊し、中小零細商工業をなぎ倒し、労働者家庭を困窮させ、そのうえ改憲や教育改革など戦争体制へのごり押しを進める安倍政府によって、翼賛国会の容認のもとで強行されたことに、各界の批判が一段と高まっている。
 「マイナンバー(共通番号)法」の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」である。政府・マスメディアはそれによって、国の行政機関や地方自治体がそれぞればらばらに分散管理している年金、福祉、医療、税金などの個人情報が統合でき、国が共通番号として掌握し一元的に管理することで行政の効率化とともに、確定申告や年金受給などの窓口手続きが便利になると称えている。
 そのために、生まれた赤ん坊からすべての国民と在日外国人に、死ぬまで変わらない番号がつけられる。2016年1月から番号の利用を始めるとしており、申請者には一人一人に氏名や住所、生年月日、顔写真とともにICチップが組み込まれた「個人番号カード」が公布されることになっている。しかし、共通番号の使用にあたってはカードを提示しなければならないので、実質的な義務化である。さらに3年後の見直しのさい、民間企業や団体などすべての法人にも番号づけを広げていくことも附則に明記されている。
 安倍政府はマイナンバー制度によって、「社会保障の充実(効率的な社会保障の給付)」「公平な税制の実現」が進むかのようにいっている。だが、それが進んだとしても年金給付が保障され、安心して病院に通えるようになる、また高所得者・大企業の脱税を摘発し、低所得にあえぐ者が重税から抜け出せるようになるというものではない。むしろその逆の結果となることは、だれの目にも明らかだ。
 現行の番号制度の一つに、多くの反対にもかかわらず施行された「住基ネット」がある。この制度の施行でも、住民票コードが各個人に割り当てられ、「行政の簡素化」「便利」などとはやされた。だが、住基カードの交付率は10年たった今でも、たったの五%でしかなく、国民からまったく相手にされない実態にある。まして、それで便利になったと感謝する者はいない。
 逆に、そのもとで税金や介護保険料が年金から無慈悲に天引きされるようになった。また、公共事業の電子入札で制限のないダンピングが常態化し地場産業を疲弊させた。また納税困難者にはうむをいわさぬ差押えが執行されるようになり、母子家庭や生活保護家庭など社会的な弱者への社会保障の切り捨てが抽象的な数値や行政マニュアルにそって冷酷にやられるようになった。
 人と人との対話や情実を排して実行される「行政の効率化」とは、そのように国民を血の通った人間としてではなく、モノとして冷酷に扱うものだということは、大多数の国民が体験から身にしみて実感している。
 共通番号制によって、所得が一元的に把握されるのは低収入の非正規労働者など給与所得者が大半である。専門家からは、高額所得者への適正課税は実質的に不可能であり、社会保障の充実どころか給付の抑制に利用され、弱い立場の人人をターゲットにして圧迫するシステムとなると警告されてきた。
 さらに、ホームレス、多重債務者、DV被害者など社会の最底辺に置かれて住民票を持たない層が多数存在しており、そのもとで一年以上も行方不明で学校教育を受けていない児童生徒がかなりいることが大きな社会問題になっている。マイナンバー制が導入され、さまざまな行政実務が個人番号によっておこなわれるようになると、このような個人番号カードを持っていない人人は公的サービスから締め出されざるをえない。

 徴兵制にも通じる制度 各界から抗議の動き

 この間、日本弁護士連合会(日弁連)や各地の弁護士会、税理士、法学者、ジャーナリストなどの専門家による「マイナンバー(共通番号)法」制定に反対する発言や声明があいついで出されてきた。
 日弁連(山岸憲司会長)は法案が国会で可決したのを受けて、会長の抗議声明を発表した。声明は「自己情報コントロール権」、つまり自分の生活にまつわるさまざまな情報を明らかにするかしないかを決めるのはその個人であって、国や行政ではないという憲法に定める国民主権の原則が形骸化すること、さらにマイナンバー制度を設ける目的が「極めて曖昧」であり、国会でも具体的な目的が示されぬまま、「十分な審議」もされずに成立させたことを強く批判、ひき続きその問題点を明確にし解消していく決意をのべている。
 これらの声明を含めて、多くの専門家が指摘するのは、すでに共通番号制を取り入れてきたアメリカやイギリス、韓国などでは、ID情報を不正に手に入れて本人に多額の負債を押しつける「なりすまし詐欺」が頻繁に発生し、深刻な社会問題になっていることである。ハッカーによるコンピューター侵害は日常茶飯事であり、情報の漏洩を避けることは実際には不可能に近い。
 アメリカではそのため昨年、国防総省が共通番号(SSN=社会保障番号)から離脱し、国防上の対策から、独自の番号への一斉変更・転換に踏み切るなど、各国とも分散番号への回帰が始まっている。コンピューターを経由した漏洩は故意であれ、過失であれ、さまざまに起きており、その種の事件がマスメディアを賑わしているのは、日本でも同じである。
 また、直接的には「マイナンバー制」が「社会保障と税の一体化に必要」との大義名分を掲げた野田内閣によって国会に上程されたが、消費増税だけが可決され、社会保障が切り捨てられたことから廃案になったいきさつもある。それにもかかわらず、安倍政府がそのような流れに逆行して、「漏洩や犯罪を防ぐ」というできもしない「監督機関」を設置するなど、ドンキホーテのようなパフォーマンスで、共通番号制にしがみつく馬鹿さかげんと、政治家の思考停止、国会機能の崩壊が浮き彫りになっている。
 住基コードは非公開だが、共通番号は公開され対象も無制限に広げられる。さらに、租税の犯則事件への調査など租税に関する調査、刑事事件の捜査のために提供されることが認められている。警察や公安調査庁などが、特定個人の住所、電話番号、顔写真はもとより、学歴、職歴、病歴、犯罪歴、海外渡航歴、結婚・離婚歴、借り入れの有無・額、クレジットカードによる買物歴、インターネットサイトの閲覧履歴などを収集する手段として、この法律を用いることは十分想定されることである。
 重要なことは、アメリカの社会保障番号(SSN)が貧困家庭をターゲットにその子弟を奨学金を与えることを条件に兵役につかせるために利用されてきたことがあげられる。安倍政府がマイナンバー制に躍起になるのは、徴兵制とからんでいることも納得できる指摘である。
 日本ペンクラブ(浅田次郎会長)が法案可決成立を受けて発表した「共通番号法案に反対する声明」は、「言論・表現活動に携わる者」の立場から、法律で定められた「監督機関」が作家や出版社が個人情報のとり扱いに問題があると判断すれば、記事や評論等の作品の公表についても、「指導及び助言できる」とする条項が含まれていることを指摘。「これは取材・調査活動と言論・表現の自由に対する制約・侵害となる」とその危険性を訴えている。
 こうしたなかで、マイナンバー制度の本当の狙いが、国民一人一人を監視・管理する統治システムの構築であり、民主主義の破壊であることが浮かび上がっている。
 それは安倍政府が戦争の反省を覆して、天皇を主権者としてその臣民としてのあり方を定めた「明治憲法」ならぬ、アメリカのための戦争に奉仕させるために改憲を持ち出すなどの動きと一体のものであり、「国民には百害あって一利なし」との論議が発展している。

 秘密保全法制定と一体 有事体制作る一環

 憲法学者の間で、マイナンバー法を秘密保全法制定の動きと一体のものとしてとらえる必要性が強調されている。秘密保全法案は、安保条約にもとづく日米共同作戦体制を実行に移す有事法制の一環として、つまりアメリカの戦争の必要に応えて、民主党以前の自公政府のときから防衛省、外務省、警察庁・公安調査庁の官僚らによって準備されてきたものである。
 一昨年、尖閣沖中国船追突映像が流出した事件を絶好の口実にして「秘密保全法案」が提出された。そこでは「国の安全」「外交」のほか「公共の安全及び秩序の維持」一般にかかわる情報を「特別秘密」として、国民の目から隠蔽(ぺい)しようとすることが暴露された。実際に、福島第一原発事故での隠蔽は「公共の安全と秩序の維持」を理由にしたものであった。放射線の影響予測システム(スピーディ)のデータを米軍が独占する一方で、住民には長期に覆い隠され国民の生命や安全がないがしろにされてきたし、今なお正確な情報が与えられないまま、棄民政策が押しつけられている。それは原子力発電所が第一級の軍事機密であり「特別秘密」とされているからだ。
 憲法学者は、秘密保全法の最大の問題は「報道の自由、取材する自由の規制」にあり、憲法29条の「表現の自由」の抹殺にあると指摘している。その眼目は主権者である国民が、国の官僚や政治家、地方自治体などが国民の側に立って活動しているかどうかを監視し、報道機関がそのための取材をおこなうという、報道の自由を妨げることにある。
 マイナンバー法でも、対米従属国家に国民の個人情報を一元的に掌握する権限を持たせると同時に、国家中枢の情報の秘匿を保障している。このように国民の知る権利を侵害しようとする点で、秘密保全法の内容も盛り込まれている。こうした「寄らしむべし、知らしむべからず」というアナクロニズム(時代錯誤)は、TPP交渉などにもはっきり示されている。
 このようなマイナンバー制は、自衛隊をアメリカの戦争の下請軍にして青年をその肉弾に差し出し、日本全土をアメリカの原水爆戦争の盾にして恥じない安倍政府の性根を示すものだといえる。それはまた、腐敗しきった日本の売国的な支配層がその統治能力を失い、政党政治が崩壊し国会が翼賛化するなかでの窮地の産物である。
 マイナンバー法の暴露、批判の高まりを、新しい時代を代表する主権者である国民の手で支配権力を引きずり下ろす運動の一環として、さらに発展させることが期待される。

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