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    天狗の火あぶり


        作 礒永秀雄    絵 桑原嗣子
                                       

      発行・長周新聞社  B5判 36頁 定価1000円

 2006年10月24日に開催された没30周年記念・礒永秀雄詩祭実行委員会は、同月8日の詩祭の大成功を確認するとともに、礒永秀雄の芸術が現代に生き生きとした生命力を持っており、人人が渇望しているものであると評価。今後、礒永作品の全国への普及と新たな文化創造につとめ、今回の詩祭を新しい文化運動の出発点にしようと決意しあうものとなった。
 この方向に立った文化創造として、絵本『天狗の火あぶり』がこのたび長周新聞社から発行された。礒永秀雄の童話に、福岡県宗像市在住の桑原嗣子氏(美術グループあらくさ)が絵を描いたものである。
 絵本を開くと、天狗がその長い鼻から釣り糸を垂れ、魚を釣りながらうとうとと居眠りをしている絵が飛び込んでくる。見開きの色鮮やかな海と空がまぶしい。
 さらにページをめくると、……
 「引っこ抜け」
 「叩っ切れ」
 「そうだ、へし折ってやれ」
 憎々しげな村人の声です。手に手に棍棒(こんぼう)や鉈(なた)を持った男たちの輪の中に、後ろ手に縛られてあぐらをかいているのは1匹の天狗です。……
 という文章があらわれ、縛られた天狗をにらみつける村人たちの顔があらわれる。再びページをめくると庄屋さんの登場である。
 最初は、地位も名誉も金もある紳士然とした庄屋さんが、憎たらしい天狗の悪事をこらしめる、ように見える。ところが、天狗は実は心優しい存在で、正直者の孫兵衛を助けようとし、善人ぶった庄屋さんこそが実はより巨大な悪であったことが、天狗と庄屋さんのかけあいのなかから明らかになる。そして庄屋さんは天狗を火あぶりにするが、天狗は死なないのである。最後は庄屋さんに縄がかけられ、村人は山に帰っていく天狗を手を振って見送る。
 この現代に通じる物語と、桑原氏の絵があわさって、大人も子どももひきつけるものになっている。桑原氏の絵は、めくるごとにアングルが変わるなど斬新な展開で、見るものをあきさせない。天狗が、火を食べる場面など、あっと思わせる。22枚の明るく色鮮やかな絵で、楽しい気持ちにさせる。表紙絵では一見恐そうな天狗が、裏表紙ではたくさんの子どもたちがその鼻の上で遊ぶ優しい天狗に変わっているところもおもしろい。
 桑原氏は礒永童話の絵本化をとりくむうえで、礒永作品の中心テーマの読みとりが重要だったこと、そのテーマの底には、幾多の内外の犠牲者を出し、みずからも死線をくぐった第二次大戦の戦争体験が貫かれており、それを学ぶことだったとのべている。また礒永童話では、鬼や天狗や鴉など社会から厭われている異形の主人公の目を通じて、比喩を持って、より深く現実を映し出すことが試みられており、これにとりくむ芸術家自身が、社会のあらゆるまやかしとたたかって人人に役立つ作品を生み出す立場に立つことだとのべている。
 桑原氏は、「天狗の火あぶり」に続いて「雪と鴉」「鬼の子の角のお話」の絵本原画も完成させ、いずれも礒永秀雄詩祭の会場で展示された。あとの2作品も引き続き絵本化が計画されている。
 B5判・36ページ、定価1000円。総ルビつきで、小学校低学年でも読める。全国の礒永作品愛好者はもとより、子どもたちと母親、学校や教育関係者などに全国で広く普及することが求められている。

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