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畜産潰し牛肉輸入拡大狙う
異常なセシウム汚染騒ぎ
               国内農業守らぬ政府     2011年7月29日付

 東京電力の福島第1原発の爆発事故によって、牛肉や牛の飼料となった稲ワラ、たい肥をつくる腐葉土などから、放射性セシウムが検出されたと大きな騒ぎになっている。それによって福島県だけではなく、全国的に牛の価格暴落が起こり、国内の畜産業が危機に陥っている。国産牛肉の消費がスーパーや焼肉店など関連部門でのきなみ大幅に落ちこみ、和牛枝肉価格や成牛価格が全国的に大暴落している。メディアは「国産牛肉は放射能に汚染されて危険だ」と煽るばかりで、どの牛がどの程度危険で、どの牛は安全かなど、日本の畜産業をどう守るかという立場がない。そして米国産牛肉の輸入が急増している。放射能汚染という災害を、国内畜産業をつぶして、牛肉輸入ビジネスのチャンスにするという、アメリカと輸入商社などの意図が働いている。
 
 大半の和牛安全と知らせず

 原発事故で東電御用達の御用機関であることが暴露されたメディアは、連日セシウム汚染された稲ワラを福島県などの東北地方だけでなく広く他県でも肉牛の飼料として与えられていたのだとか、セシウム汚染牛肉が全国に流通していたかのようにセンセーショナルに報道している。検出されたごくごく一部を取り上げて、あたかも国産牛肉すべてが危険であるかのように吹聴する悪質な報道である。
 検査を担当している農水省が発表した25日までの結果では、放射性セシウムが暫定許容値(1`当り300ベクレル)を超える稲ワラを肉牛に与えたのは、16道県の127戸で、出荷頭数は2906頭。このうち放射性物質の検査が完了したのは274頭。そのうち牛肉の放射性セシウムが暫定規制値(1`当り500ベクレル)を超えたのは23頭であった。
 16道県は、北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、新潟、岐阜、静岡、三重、島根県。このうち25日までにセシウム汚染の牛肉が検出されたのは、岩手県の1頭、宮城県1頭、山形県1頭、福島県20頭の23頭である。
 セシウム汚染稲ワラはすべての畜産農家が使用しているわけではない。福島県の場合では、放射能汚染の稲ワラを使用した飼育農家は25戸で、出荷した農家は16戸である。福島県全体の肥育農家は314戸あり、そのうちの一1割にも満たない。また、福島県の出荷頭数は09年には3万3121頭であった。セシウム汚染稲ワラを与えて出荷した牛は571頭で、全出荷頭数から見たら、1・七7%である。
 また、1頭が暫定規制値を超えた岩手県を見ても、県内の肥育農家は603戸で、09年には3万6807頭を出荷し、全国で7位の出荷実績を誇っている。このうちセシウム汚染の稲ワラを使用した農家は13戸、出荷したのは80頭で、全体の0・2%である。そのうち7頭を検査して1頭から規制値を超える放射性セシウムが検出された。
 セシウム汚染の稲ワラを与えた牛の出荷頭数がもっとも多いのは宮城県で、58戸が1183頭を出荷していた。宮城県全体の肥育農家は857戸で、出荷頭数は09年で3万3303頭であり、汚染した稲ワラを使用した農家は1割にも満たず、出荷頭数も全体からすれば3・5%である。 
 また、25日までに検査をおこなったのは北海道、岩手、宮城、秋田、福島、新潟、岐阜、静岡、三重、島根の各道県であるが、北海道、秋田、新潟、岐阜、静岡、三重、島根の各道県では1頭も規制値を超える放射性セシウムは検出されていない。
 なお青森、茨城、栃木、群馬、埼玉の各県では測定機器の不足などにより検査がおこなわれておらず、汚染した稲ワラを与えて出荷した2906頭のうち検査が完了したのは274頭で1割足らずである。
 岩手、秋田、宮城、山形、福島の東北五県だけでも出荷頭数(09年)は12万9877頭である。今回セシウム汚染の稲ワラを与えて出荷したのは、東北五県では1935頭であり、割合からすれば1・4%で、そのなかで放射性セシウムが規制値を超える牛肉はさらに割合は下がる。

 影響は少ないと専門家 それでも牛肉は暴落

 専門家は「牛が体内にセシウムをとりこんでも尿やふんで大部分が排泄され、2〜3カ月で半分、半年で8分の1程度になる」としている。また、稲ワラの放射能汚染については「相次いだ原子炉建屋の爆発で大量の放射性物質が放出されたことが原因と見られ、今後の検出量はそれほど増えないはずだ」と見ている。汚染された牛肉を食べた場合の人体への影響については「基準値は危険とされる数値の100分の1〜1000分の1程度であり、基準を極端に上回らない限り一時的に食べても影響が出るとは考えにくい」「通常の日本の家庭で食べる程度の量ではほとんど影響はない」と指摘している。
 もちろん放射能汚染された牛肉を野放しにして食用に回すわけにはいかない。問題は、メディアも菅政府も、国内の農業を守り、畜産業を守るという姿勢が見られないことである。稲ワラの飼料が危険なことを知らないか、知っていても教えなかった政府は、政府とはいえない。そして汚染牛が出たとなったら、どこの牛が稲ワラを飼料にしたか、その汚染度はどうなっているか、それ以外の大多数の牛肉は安全であることをなぜ明らかにしないのか。こうして福島県産や東北産の肉牛だけではなく、全国で肉牛や子牛の値段が大暴落している。
 ここには、原発災害をチャンスと見なして、国内の畜産業をつぶし、牛肉輸入を増やせというアメリカの意図が働いており、それを取り扱う輸入商社などのビジネスチャンス拡大の野心が優先している。
 福島県の農家は「通常であれば1頭70万円はしていた牛が出荷できないばかりか、出荷できたとしても20万円程度しか値がつかない」といい、農家は「このままでは資金繰りに困り2〜3カ月ともたない農家が出てくる。廃業できる農家はいい方で、借金のある農家は廃業もできない」という危機に直面している。
 下関市の豊北町の農家も「3年で300`を超えるまでに育てた牛が以前は1頭56万円はしていたが、今年は39万円に落ちた」という。また「子牛を1頭約30万円で買い、30カ月育てて経費は20万円かかる。だから60万円以上で売れたらもうけが出るが、福岡の市場では最近42万円だった。1`当り300円程度下がったことになる。人件費も出なければ飼料代も出ない。子牛の値段も下がっている。これ以上下がったら繁殖農家がやめてしまうぎりぎりの値になる。しかしトウモロコシや大豆や麦など輸入穀物飼料は高騰している。先代から50年近くやっているが、これほど厳しいのは初めてだ」と話している。意図的なセシウム汚染騒ぎが東北地方だけの問題ではなく全国的な農家に打撃を与えている。
 また豊北町の肥育農家は「ここ2〜3年、狂牛病だ、口蹄疫だ、ユッケだと牛はたたかれっぱなしだ。原発が爆発してから4カ月もたつ今頃になって稲ワラが汚染されているとか、今度はたい肥も危ないといっている。たい肥が危険だということは、それを使って育てた作物も放射能汚染で危ないとなる。原発の爆発が原因なのだから東京電力に補償させなければならない。BSEのときは当初から国が全頭検査体制をとったので、農家は安心できたが、今回は政府がもたもたしてなにもしない。外国からしたら願ったりだ。日本の企業もこれでもうけようというのが目をつけている。そういうのが日本の農家つぶしをやっている」と話している。
 農家側は、国産牛肉の信頼を回復するためには、福島原発事故後に集めた稲ワラを食べた可能性のある肉牛について、全頭検査を実施するよう政府に迫っているが、菅政府は全頭検査実施をしぶっている。

 和牛を輸入肉に切換え スーパーや外食産業

 そうしたなかで、大手スーパーや外食産業などは国産牛肉を輸入肉に切り換えている。とくに米国産牛肉の輸入が増大している。米国産牛肉は03年の狂牛病(BSE)感染牛の発覚で、日本は輸入禁止措置をとった。その後小泉政府時代の05年に輸入再開をしたが、二〇20カ月齢以下の牛肉に限って検査なしで輸入するという制限つきであった。
 オバマ大統領は昨年1月の一般教書演説で、5年間で輸出を倍増する「輸出倍増計画」をうち出した。対日本のおもな分野は農業であり、とくに牛肉についてはBSEで失ったシェア回復を狙っている。TPP交渉では重要項目に牛肉輸入の月齢制限撤廃を日本政府に迫っている。
 下関市内の農家は「イオンが最近、テレビコマーシャルで輸入肉の宣伝を始めた。これまでそんなのはなかったのに、いかにも輸入肉の方が安全だとアピールしている」と語り、「日本の農家のことなど考えていない」と怒っている。
 同じく下関市内の農業者は「マスコミはなんの根拠もなしにただ危ない危ないとだけいっている。そんなことをいったら、牛肉だけでなく豚も鶏も野菜も海藻も魚介類もみな危ないとなる。それでは、震災復興どころではない。日本の農業や漁業はみなつぶれてしまえといっているのと同じだ。政府は消費者の不安を取り除き、国産の牛肉の信頼を取り返し、農家が安心して農業復興に力を出せるようにすべきだが、のらりくらりでなにもしない。本当に日本の国のことを考えているのか。そのうちに外国産がどんどん入ってくる。そうなるようにし向けているのかと考えざるをえない」と話していた。
 菅首相はアメリカのオバマ政府に追随し、TPP参加に双手を上げて賛同し、当初は6月にも参加を表明するもくろみであった。だが大震災で日程は変更になったが、あくまでTPP参加をできるだけ早い段階で表明する方向である。TPP参加でアメリカは農水産物に関しては関税撤廃、規制撤廃を日本政府に要求している。今回の牛肉セシウム汚染に関連してのマスコミなどの大騒動には菅政府が、TPP交渉に参加する条件づくりとして、日本の牛肉市場をアメリカに明け渡すために、国内の畜産業に対し壊滅的な打撃を加えるという政治的な思惑が貫かれている。
 世界的な食料危機が国際会議の大きな議題になっている。食料を国内生産をやめて輸入だけに頼る国が成り立つわけがない。東北大震災からの復興を考える場合も、食料生産の復興がその地域の復興の原動力になる。農林漁業は、食料安保の観点からも、国土保全の観点からも、水資源の確保という観点から都市を維持するという観点からも、それがつぶれたら国が成り立たないという問題としてある。
 大震災、原発大事故という大事件を利用して、新自由主義市場の拡大、TPP参加による全面自由化の体制づくりを強行し、国内産業を破壊する売国、亡国政治をあけて通してはならない。

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