| 山口県内海の生態系が異変 伊方原発に加え上関原発 エビとれず熱帯魚が急増 2005年7月9日付 |
山口県内海側の漁業者のなかでは、海の異変が深刻な問題として語りあわれている。漁獲量は近年、過去最低を更新するばかり。漁業者の減少にともなうものもあるが、明らかに「魚がとれん」と話されている。その一方で、本来なら南方海域に生息するはずの魚類がつぎつぎと姿を見せはじめている。生態系の大きな変動が起きているのである。それがなぜなのか、専門機関による科学的な 駆除されたナルトビエイ。1,5bもあるものもいる(小野田) 証明はいまのところなされていない。個別の研究者による努力以外に、本格的な調査すらされていない。地球温暖化という一般的な条件に加えて、大量の温排水が周防灘、伊予灘、広島湾海域でまき散らされていることが関係しているとみなされている。海域に面した火力発電と伊方原発を合計した出力は1145万`h(民間の自家発電などの温排水は除外)にもなる。それに加えて中国電力の上関原発(1号機、2号機あわせた出力は274万`h)を建設するなら、内海漁場は壊滅的破壊となることが危惧(ぐ)されている。貝類食い尽くすエイも大量発生 今月6日の午前中、山陽小野田市の刈屋漁港には小野田漁協、宇部岬漁協、厚狭漁協、埴生漁協の漁師たち約50人がナルトビエイの駆除作業に追われた。18隻が流し網で捕獲したエイを、船からつぎつぎと陸に放り投げ、トラックの荷台に山積みにしていく。投げられた衝撃で、20aくらいの親そっくりの子が腹から出てきて散乱している。 そばでは行政職員が1匹ずつ雄雌を記録して体長を測定していった。大きなもので全長1・5bもある。ほとんどが雌だ。この日捕獲されたのは286匹であわせて5・78d。トラック4台分になった。 「いくら駆除してもへらない」と60代の漁業男性は汗をぬぐいながらぼやいた。出没しはじめたのは5〜6年まえからで、水温が上昇する6月になると、本山以西の海域に大群が押し寄せるようになった。漁業者のなかでは激震が走った。100匹ほどの暗褐色の群れが砂地を埋め尽くして、アッという間にアサリなどの二枚貝を食べ尽くしていくからだ。わずか数分ですさまじい量の貝類をたいらげる。頑丈な歯で貝殻をかみ砕き、中身だけ食べると殻は吐き出していく。襲われたあとの砂地には残骸だけが散らばっていた。 本来はインド洋や太平洋の西部など、熱帯沿岸海域に住むとされているのが、なぜ瀬戸内海に生息するようになったのかは明らかになっていない。ここ数年、山口県の沿岸がもっとも被害にあっている。体内にアンモニア成分をふくんでいて、捕獲しても「小便臭くて食べられん」という。しかし放っておいたら漁場が壊滅的な打撃をこうむるので、漁業者は本業をおいて駆除作業(焼却処分する)をくり返している。 漁業者の切実な要望を受けて、行政が駆除に動き出したのが3年まえ。山陽小野田市の担当職員によると、これまでの統計で2003年に5009匹、2004年に4687匹駆除した。が、「へる様子はまったくない」というのが漁業者の実感だ。 刈屋漁港の目の前には中電の火力発電2機がそびえ立っている。ナルトビエイはおもに温排水が吹き出してくる排水口周辺の海域に、たむろするように生息しているのだと地元漁師は指摘する。6〜9月に活発に動き回って子を産み、冬場にはどこに行ったのかわからないとされているが、地元漁師によると、「温排水の周辺で冬場でも見かける」といわれている。 小野田市周辺だけでなく、周防灘、広島湾、伊予灘の沿岸各地で出没し、貝類だけでなく建網についた魚も食べていくようになった。呼び名がわからないので、「カラス」とか「マント」とかいわれていたり、海のモンスターとして厄介な存在になっている。 漁獲は減少の傾向 15年間で6割も減 近年、ナルトビエイだけでなく、南方系の熱帯魚がふえていることが、内海側の漁業者のなかで口口に語られている。カラフルな色調が特徴で、名前がわからない場合がほとんど。水揚げしても気味悪がって、市場のなかでも「なんだこれは?」といって不思議がられている。 柳井魚市場では、近年水揚げされた珍しい魚を記録して研究者に資料を送り、学術名や生息海域などの情報をまとめている。 同市場の関係者によると、見たことないほど巨大化したオコゼやタケノコメバル、インド洋・太平洋の熱帯に生息するアカヤガラが水揚げされたり、セミホウボウ、ミノカサゴ、ウグイ、アイブリ(瀬戸内海の魚類リストには掲載されていない、暖海性の稀種。山口県内海側では初の水揚げ)、その他にもガザミ類ではタイワンガザミ(南太平洋、インド洋に分布。模様がはっきりしている)がふえている傾向。上関の漁師が捕獲したニシキエビ(西太平洋、インド洋の浅海、岩場や珊瑚礁に生息。奄美大島以南には少なくないが、本州ではほとんど見られない。華やかな模様)は周防大島町のなぎさ水族館に展示された。 マグロも入ってくるようになったほか、針千本(南方海域に生息)が大量に網にかかったり、マダイが減少したかわりに暖かい水温を好むチダイがふえたことなども語られている。 一方で、これまでとれていた魚類が著しく減少傾向を見せている。海水温の変化に敏感なエビや、ナルトビエイの餌食にもなっている貝類が激減した。中国・四国農政局山口統計情報センターの調べでは、毎年右肩下がりに山口県内海側の漁獲は減少傾向を見せている。89年に3万4146dあったのが04年には1万2245dと64%も減少。 なかでもエビ類は92年には9012dあったのが03年には1538dにまで8割強落ちこんだ。貝類になると8149dだったのが876dと九割も減少した。アサリは83年のピーク時に8557dあったのが、ここ2、3年は500d台を推移している。 ふえたものでは、マアジは増加傾向で70年代には100dに満たなかったのが、5〜6倍にふえている。ハモも10dなかったのが400d台で近年は推移している。これも水温の上昇をうかがわせている。 海水温は0・7度C上昇 伊方原発や火力が温排水垂れ流し 瀬戸内海の異変について、いまのところ水産庁としては調査に乗り出していない。漁業者の実感としては、海水温の上昇が関係していると話されている。 周防灘、伊予灘にまたがった山口県内海側の海水温について、内海水産研究センターの調査によると、過去30年間の統計から0・7℃上昇したと公表している。魚類の生態系とかかわった異変の因果関係については明らかにされていない。そして、冬場の海水温が下がりにくいのが特徴。人間の体感温度と違って魚類にとっての0・7℃は大きな変化になる。 海域ごとの水温については潮流や水深、天候などさまざまな特徴があり、温度差は季節によって差異がある。周防灘で22地点、伊予灘・広島湾で四地点の海水温度を毎月調査している。表層温度では夏場は最低水温と最高水温の幅がたいして変わりなくほぼ横並びに近いが、変化が大きいのが冬場。周防灘海域では下松、光の沖合がほかよりも高い傾向を見せている。2004年の記録を見てみると、1月はもっとも低い山陽町沖合よりも4℃高く、2月は最低水温の小野田沖合より4・2℃高い。 伊方原発の温排水増 エビが激減する時期と符合 自然界での一般的な温暖化による変化のほかに、この海域では閉鎖海域に火力発電所や伊方原発が膨大な温排水をまき散らしていることが上げられる。なかでも伊方原発の温排水が94年12月からそれまでの2倍にふえたあたりから、変化が著しいのだと県東部の漁業者らは指摘する。エビが激減していくのもこの時期とちょうど符合する。 山口県内海側の周防灘、広島湾に面した沿岸線を見てみると、岩国、柳井、光、周南、防府、宇部、小野田、下関海域にいたるまで大企業の工場群、コンビナートが全国屈指の規模で密集している。中国電力の火力発電だけ見ても五カ所。490万`hにものぼる。山口県の電力使用量が170万`hとされているので、その3倍近い電力を生み出し、毎日相当の温排水をはき出している。 岩国海域では35万`hの2号機(1972年稼働)、50万`hの3号機(81年稼働)。柳井海域では92年末から70万`h出力の1号機、96年から同出力の2号機が運転を開始した。合計140万`hというのは、中電の火力発電所のなかでも最大規模。下松では1号機が17年まえに廃止になったものの、73年に運転開始した2号機(37・5万`h)、79年から70万`hの3号機が運転をはじめた。小野田では86年から50万`hの1号機、翌年から同出力の2号機が運転開始。下関では67年に17・5万`hの1号機、77年から40万`hの2号機が稼働している。 周防灘・伊予灘に面した、大分県、福岡県側では関門海峡の入口の新小倉発電所(3号機60万`h、4号機60万`h、5号機60万`h)をはじめ、苅田発電所(新1号機36万`h、新2号機37・5万`h)、豊前発電所(1号機50万`h、2号機50万`h)、大分発電所(1号機25万`h、2号機25万`h)、新大分発電所(1号機69万`h、2号機87万`h、3号機73・5万`h)がある。 火力発電や原子力発電では、高温の水蒸気によってタービンを回転させて発電している。電気に変換されなかったエネルギーのほとんどが、冷却水として利用されたものといっしょに温排水として排出される。蒸気を水にもどすための海水は、20℃で取水したものが7℃程度昇温して排出される。それは大量なもので、発電容量100万`hにたいして火力発電で毎秒40立方b、原子力発電(BWR)で70立方bとされている。 伊方原発からは毎秒140立方b、そのほかの火力発電所から合計約400立方bが毎秒排出され、それらが各地の沖に滞留しながら潮流に乗って混ざりあったときの影響が甚大であることは疑いない。それに大企業の工場の吐き出す汚物や温排水も加わる。 上関原発問題が重大問題に 山口県では、中国電力のすすめる上関原発計画の行方が大きな注目を集めている。瀬戸内海の心臓部にあたる上関に137万`hもの国内最大級の原発が2機できるなら、既存の魚類の生態系を狂わせ、南方海域の熱帯魚が大集合することはだれの目にも明らかとなっている。 二井県政は、中電の上関原発計画を「国策」として推進している。もう一方では、県1漁協合併を強行している。原発をつくれば「漁協経営の健全化」どころでないのはあたりまえ。世界有数の瀬戸内海漁業をつぶしてしまおうというのである。 |