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安岡沖洋上風力に全国が注目
住民の運動に連帯の声届く
                企業利益優先の横暴さ      2014年3月28日付

 下関市安岡沖に計画されている洋上風力発電建設をめぐって、昨年末から地元住民のなかで反対運動が盛り上がり、市議会でも全会一致で請願を可決させるところまできた。当初、安岡・綾羅木地区をはじめ多くの下関市民にとって風力発電には馴染みがなく、「エコでクリーンなエネルギー」という漠然としたイメージだけがあったものの、医師たちが低周波被害などを訴え、警鐘を乱打するのを受けて運動は瞬く間に広がり、職種や世代をこえたつながりが発展してきた。こうした下関の状況が、全国の立地点や低周波被害に苦しんできた人人の耳にも伝わり、「できてからでは遅い」「がんばってほしい」と連帯の声が寄せられている。
 
 和歌山県日高地方での経験

 和歌山県日高郡由良町で暮らしている婦人は、風力発電が近くの山にできて以後、頭痛がひどくなり、歩こうとするとどうしても右に偏ったり、身体が強ばって動けなくなる症状に見舞われた。また、ある日腕が動かなくなり、病院に行って診察を受けると、神経が切れていたこともわかった。自宅のなかにいても床から振動を感じ、心が安まる時がないため、遠く離れた和歌山市内の知人宅に身を寄せ、自宅に戻れば再び症状があらわれるくり返しだったという。
 和歌山県内には現在58基の風力発電が稼働している。その多くが和歌山県日高郡や有田郡の山に建てられている。さらに83基が建設・計画中で、これに住民が反対している。前述の婦人だけでなく、風力発電が設置されて以後、近隣住民たちは騒音や低周波にさらされ、身体的・精神的な被害を受けてきた。自宅に住めなくなり、離れた場所に引っ越していった人もいるといった。
 風力発電が建つまでの経過を聞くと、広川明神山風力発電(事業者・ガスアンドパワーインベストメントと双日)が建設に入る2005〜2006年当時は「エコでクリーンで風だけで電気をつくりだすことができる」という宣伝だけが住民のなかに浸透し、期待も大きかった。低周波による被害など当時は知る由もなく、いっきに建設が進められた。
 当初、由良町に風力発電を建設する計画はなかったのに、「害だけ被ってお金が入らないのは損」「由良町にも建ててほしい」と行政側から呼び込んだ経緯もあった。「害だけ被る」つまり住民にとって害のあるものだと知っていたうえで、法人税や固定資産税欲しさに誘致したものだった。“低炭素”を売りにした補助金ビジネスで、地方の山を物色していた企業側と、行政側の利害が一致して建設された。
 その後、広川明神山風力発電に連なる形で2011年9月、2000`h×5基の由良風力発電所が追加して建設された。当初は日本風力開発(東京)だったが、その後ガスアンドパワーが買いとって運営している。建設にあたって「なにかあれば対処します」と事業者が説明していたので被害を訴えると、「すぐに測定します」といって日本気象協会が低周波の測定を行って結果を出した。ところが、それを住民が低周波研究をおこなっている大学教授に話したところ、「そのようなデタラメなデータは突き返したほうがいい」といわれ、稼働後の「調査」「測定」は被害者を黙らせるものでしかないことも経験した。被害者といっても、低周波の感じ方は人それぞれで異なるために理解してもらえず、役場でもクレーマー扱いされるなど、わかってもらえない日日が続いた。つらい状況のなかから少しずつ声をあげ、全国の人人とつながって被害の実態を訴えている。
 昨年4月、日高町では新たに9基を建設する計画がジャネックスと三井造船によって持ち込まれた。これに対して住民の反対運動が起き、昨年12月議会では「町内4つの風力発電事業計画について住民の同意が得られないので、すべて廃止・中止する」と町長が決定するところまできた。
 ただ、風力発電について「触れてはならない」という、重たい空気が横たわっているのも事実で、最近では風力発電について追及してきた由良町の一人の町会議員が懲罰にかけられるという、不可解な事態にもなっている。3月議会最終日に「一般質問で制限時間を守らなかったうえ、議長の再三にわたる制止も無視し続け」「報道機関に対して“ルールより、(風力発電)被害を訴えることの方が大事”と主張し、地方新聞紙上に“ルール無視をしても構わない”と議員としてあってはならない発言をした」ことを理由に「陳謝」せよという内容の懲罰が全会一致で可決された。議員が議場で「陳謝」を拒否したため、再懲罰という事態になっている。「風力発電のことについて触れたら、こうなるぞという見せしめだ」「しゃべるなということだ」と住民たちは受け止めた。
 和歌山県日高郡は、人口5万2475人、日高町、由良町など6町を含んでいる。ミカンや梅、花卉や備長炭などの農林産物と、漁業でも伊勢エビやかまぼこ、イワシなどが有名で、農漁業を基幹産業にしてきた田舎町だ。約6000人が暮らしている由良町は日高郡でももっとも人口が少ない町で、近年、若者の流出も深刻になっている。町内にはスーパーが一つとコンビニがあるだけで、買い物に行くのも苦労している住民が少なくない。
 15年前までは人口1万2000人を擁する町だったが、町の中心産業だった三井造船が撤退したことで職を失った人たちが次次と町から出て行き、15年間で人口が半減した。この過程で持ち込まれたのが風力発電で、過疎化と衰退に悩む町に少しの税収をもたらしたのと同時に、住民には深刻な低周波被害をもたらした。風力で税収が入ったとしても、そのことで住民が出ていけばますます税収が落ちるという、本末転倒な構図にもなっている。

 福井県美浜町 頓挫させた住民の運動

 前述の和歌山県の婦人とともに、各地で風力発電の影響を訴えている福井県三方郡美浜町の男性は、当初「町をなんとか活性化させたい」という思いから風力発電を誘致する側だった。新庄の山に100基〜150基ぐらいを建てようと思っていたという。しかし、「設置に向けて調査しているあいだに、クリーンエナジーファクトリー(下関市豊北町の風力発電と同じ事業者)が2500`hの風力発電を建てる話がトントン拍子で進み始め、“これはおかしい”と思った」のだといった。
 調べれば調べるほど身体面への影響があることや、その進め方にも大きな問題があることがわかり、関係機関にたずねたが不可解な対応ばかりだったという。運動が広がるなかで最終的に美浜町に持ち上がった計画は頓挫した。
 「事業者は国策のようにいうし、行政は民間のやることだからと無関心を装う。誰も責任を持たない。被害があってもそれを抑えることしかしない。核心の問題に触れないまま、産・官・学・法・報・医が結託して推進する構図が出来上がっている」と指摘した。
 安岡で署名運動が盛り上がっていることや、下関市議会の請願決議も全国の仲間から耳にし、「安岡ほど大規模な洋上風力発電の計画は初めてだが、大きな運動にしてほしい」と期待していた。また、新たな計画として東芝が山口市と島根県の境と、愛知県、東北に新たな計画を持っていることも指摘していた。

 風力流行の背景 低炭素ビジネスの投機

 これまで、風力発電による低周波被害などは表面に出てくることがなかった。花形の自然エネルギーと持て囃され、むしろ「地球にやさしい」「CO2を排出しない」点ばかりが商業メディアでも取り沙汰されてきた。しかしこの10年間は風車が大型化したこともあり、各地で被害の実態が語られるようになってきた。学者のなかでも風力発電と低周波の研究をおこない、その問題点を指摘する人人も出てきている。
 洋上風力、あるいは山の風力発電建設に拍車がかかったのは、東日本大震災が一つの契機になった。サブプライム・ローンが焦げ付いてリーマン・ショックが世界経済を襲い、ITバブル、不動産バブルを食い物にした後は「グリーン・ニューディール」と呼ばれるエネルギー・バブルが投機の対象として注目されてきた。その流れを受けて、福島事故が起きたのをもっけの幸いにして、全国で計画が持ち上がっている。
 岐阜県関ヶ原上石津地区には、中部電力子会社のシーテックによって「ウインドパーク南伊吹風力発電」が計画され、地元住民との衝突になっている。3000`hの風車を16基(総出力4万8000`h)建てる計画で、すでに環境影響調査に入っている。同社は三重県内の3カ所でもウインドパークを運営しているが、三重県内でも「建てたら終わり。税金をつぎ込むばかりで全く役にたたない」と反対運動が広がっている。
 北九州市でも7000`h×70基を響灘に建設する計画が浮上している。山口県でも、安岡の他に山口市と島根県吉賀町の境に東芝(ジャネックス)が4万`hの風力発電の建設を計画している。また同社は、愛知県西尾市東幡豆町三ヶ根山から吉良町に連なる山の尾根にも計画しており、ここでも住民の反対運動が起こっている。
 自然エネルギーには莫大な補助金がつぎ込まれることから、商社をはじめ大企業が群がっている。現在明らかになっているだけでも全国391カ所で風力発電が稼働し、電力会社、ゼネコン、商社(丸紅、双日、伊藤忠など)やイオンなど、さまざまな企業が運営にかかわっている。風力発電による国の固定買取価格は22円に設定されているが、今月はじめ、洋上については36円に引き上げられ、さらにもうかる業種と見なされている。固定買取価格によって経済産業省が政策誘導し、その補助金に企業群が色めきたっている関係にほかならない。
 下関の安岡沖に計画されている洋上風力発電だけ見ても、300億円が初期投資で投じられるというが、20年間稼働した場合、その生み出す利益は300億円をはるかにしのぐ金額になることも、関係する人人が試算している。企業にとっては、これほどもうかる「カネのなる木」はないというくらい、一般市民には想像できない利益をもたらす。4月13日に川中公民館で開催される「安岡沖洋上風力発電に反対する住民集会」では、それらの具体的試算や仕組みについても報告される予定になっている。
 ブレード(羽)が回転して企業利益がアップするのと裏腹に、住民は三半規管がやられたりメニエル病に見舞われて苦しまなければならない。その因果関係すら解明されないまま、全国の山の尾根や洋上を商社や大企業が漁っている。こうした動きに対して、全国的に情報を共有しあいながら、各地の住民運動と連帯していく流れも強まっている。
 安倍首相のお膝元に経済産業省が持ち込んだ安岡沖洋上風力発電の行方は、全国的注目を浴びている。全国の関係者は、計画を白紙にさせることと同時に、現在稼働している風力発電を停止させる運動の必要性も指摘している。



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