#2/かつて、SFの時代があった

『パチャカマに落ちる陽』 豊田有恒  集英社文庫

 1960年代、SFは燃えていた。小松左京、星新一、筒井康隆などをはじめとする、きら星のごとき才能が日本SF界には集結し、力作・実験作・問題作が、次々に生み出されていた。

 豊田有恒もそうした才能のひとり。あらゆる分野について博識で、理論的で、いかにもSF作家らしい人だ。彼の初期の作品である本書(短編連作)は、歴史に関する深い造詣を生かして、中南米の古代文明を舞台に描いた、古典的なタイムトラベル物。タイムマシンをめぐる約束事がきっちり押さえられていて、しかもそれが物語展開の重要なファクターになっている。
 表題の「パチャカマ」は、リマ近郊に今も遺跡の残る、インカの古代都市だ。作家のイマジネーションは、その都市の往時の風景を鮮やかに描出していて、楽しい。作中に登場するインカの武将チャルクチーナ(チャルクチマ)は、当時のスペイン人の記録文書に出てくる実在の人物で、そのことを含めて、作者はかなりの量の資料を下敷きに、作品世界をつくっていることがうかがえる。
 本書は他に「マヤに咆える象」「アステカに吹く嵐」などを収め、全体で古代中南米を縦断するという壮大な構成になっている。

 皆さんにぜひお薦め、と言いたいのだが、この本は非常に手に入りにくい。私は十年以上捜していたのだが、ある時ついに、友人が古本屋で見付けてきてくれた。嬉しかった。百円だった。その夜は、ページをめくりつつ、気分は60年代、SFの黄金時代へとタイムトリップしたのだった。

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