#3/キューバでも考えていた

『キューバ紀行』 堀田善衞  集英社文庫

 堀田善衞の紀行文といえば、第一にあげられるのは、名著『インドで考えたこと』(岩波新書)だろう。1957年発行だが、いまだにこの本を超えるインド本はないのではないか。作家の観察力と洞察力と直感が、複雑でとらえどころのないインド世界の“核”を、言葉の力で鮮やかにすくいあげている。

 本書は、そのキューバ版。1959年に起きたキューバ革命の5年後に、かの地を訪れた作家は、肩肘張らずに島内を巡り、市井の人々と交わる。道端の少年や老人からも、率直な意見を聞く。共産主義はむずかしくてまだ勉強中だというこの国の人は、「われわれの革命は、ドン・キホーテを読んだものたちがやったんだ」と胸を張る。
 堀田はそうした数々のエピソードから、国際社会の中でのこの小さな島国の置かれた状況を的確に指摘してみせ、読者をうならせる。

 作中最も印象深いのは、カネイという田舎町の祭の場面。薄暗い豆電球の飾りの下で、音楽とダンスと酒とささやかな食べ物で、人々は楽しんでいる。作家はそのそばの壁に、「もう悲惨なことはない」と書かれた張り紙を見て、胸を打たれる。そして突然、柳田国男が日本の東北のお盆の風景を描いた文章を思い出す。やるせない生存の苦痛や不安から生まれる歌についての、そして、その歌の深い意味は通りすがりの旅人には結局は理解できないのだ、という内容の文章。
 「旅と人生の大達人であった柳田氏から、私もまた、やはり旅人の節度と礼譲というものを学びたいと思う」と堀田は書いている。
(1966年初版 岩波書店)

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