#9/歌の生まれる場所

『ラテン音楽パラダイス』 竹村淳 河村要助(画) 日本放送出版協会

 サンバ、レゲエ、タンゴ、ぐらいなら、区別がつく。チャチャチャ、カリプソ、などは何となく。だが、パチャンガ、ズーク、モジーニャ、ときたら、わかる人はどれだけいる? 本書は、百花繚乱の中南米音楽世界を、その隅々まで語って尽きない。すごい知識だ。しかしこれは、単なるオタク本ではない。

 筆者が旅をして接した、音楽家や聴衆の印象を交えながら、それぞれの土地の風土や歴史や社会情勢を語り、一種文化人類学的な興味で、読者をひっぱっていく。竹村の求める音楽は、「民族性をたて糸とし、時代性をよこ糸として音楽家のなかで織られるタペストリー」だという。そしてそういう音楽の源を探っていくと、得てして「社会のシワよせをくらったようなコミュニティーから」発していることが多い。生まれた当初は「下賎な音楽として白眼視された」ものばかりだ。・・・・どうやらこのあたりに、本書の説く“芸能の秘密”が、隠されているようだ。

 この本には、私の好きなドミニカの歌手、フアン・ルイス・ゲーラも紹介されている。ところで、ラテン音楽は、歌詞もたいへん面白い。中南米の人々は、長い抑圧された歴史の中で、表と裏と、言葉に二重の意味を込めるのがとても巧みになった。例として、ゲーラのヒット曲『愛の泡』の一部を訳してみよう。ちょっとキワドイけど。「・・・・ぼくは魚になりたい/鼻の先で君の金魚鉢をつつくために/そして愛の泡をそこらじゅうに撒きちらす/一晩中眠らずに/君の中で濡れて/夜に/最後まで沈もう/顔と顔/キスとキス/人生/いつものように/君の中で濡れて・・・・」
(1992年初版)

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