#10/祭壇のない教会

『ニカラグア 昨日・今日・明日』 野々山真輝帆 筑摩書房

 1979年のニカラグア革命後の、初期のサンディニスタ政権時代を記録した、貴重なルポルタージュ。とはいっても、中米の小国ニカラグアの現代史に興味をもつ人は、そう多くはないだろう。

 でも、細かい歴史の勉強は別にして、この国の若い革命政権の様子を伝える本書を読むと、中南米諸国のほとんどが抱えている、思想や宗教をめぐる問題が、かなりはっきり見えてくる。
 そこには三つの大きな流れがある。第一は、マルクス主義。植民地時代後の、米国の執拗な軍事圧力と戦うための、理論的支柱だ。第二に、キリスト教。スペインが持ちこんだカトリックは、今や彼らの精神生活から切り離すことはできない。第三に、民族主義。インディヘニスモとも呼ばれ、土着的なアイデンティティを取り戻そうという動き。
 簡単にまとめれば以上だが、それにしても、ばらばらの水と油のようなものだ。これらの思想を、一つの社会が、あるいは一人の個人が、同時に信じることは可能なのか? 分裂しないのか?

 本書には、貧民街にある人民教会の内部が紹介されていて、興味深い。・・・・祭壇はなく、赤や青の極彩色の壁画が描かれている。画の中には、革命の兵士やインディオの神々もいる。そして、肌の浅黒い農夫の姿のキリスト。ミサは、にぎやかな民族音楽の伴奏で始まる。彼らはこう歌うそうだ。「日やけした顔のキリスト、汗を流して労働するキリスト、労働者の神よ、だからこそ私たちはあなたに話しかける」「キリストよ、抑圧された階級と一体となり、団結せよ」
(1988年初版)

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