#11/得るものと失うもの

『さよならブラジル』 ルイス・プンテル 小高利根子訳 花伝社

 副題に、「国籍不明になった子供たち」とある。1970年代、軍事政権下のブラジルから、亡命を余儀なくされた人々の物語。作者は高校の先生で、民政移管後に、世界各地の亡命先から帰国してきた心に傷を負った子供たちを前にして、この本の執筆を決意したという。青少年向けの小説で、ブラジルでは学校の副読本になったそうだ。

 主人公の少年マルコスの一家は、新聞記者の父が書いた政府批判の記事が原因で、国を追われ、ボリビアへ、チリへ、それからフランスへと逃げ延びる。命からがら飛行機に乗りこみ、「少なくとも次の国までは生きていられる・・・・少なくとも次のクーデターまでは・・・・。」という大変な生活。そんな中で子供たちは、母国の言葉も、習慣も、歌も、記憶から薄れてきてしまう。亡命の途中で生まれた子供の場合には、もはや祖国は訪れることさえできない未知の国だ。だがもちろん逆に、彼らは異文化の中で揉まれて成長し、そこから吸収するものは限りなくある。特殊な状況だが、結局、人は一つの人生しか生きられないわけだ。

 そんな重いテーマの小説だが、内容は波乱万丈で“楽しく”読める。マルコスがフランス人の彼女を口説く場面は傑作。自分が亡命者であることを逆手にとって、「僕は人生からひとつ学んだことがあるんだ。それは『今』を生きなくちゃ、ってことなんだ。先のことなんか誰にもわかりっこないんだから・・・・。考えてみてくれよ。僕なんかブラジルを出る時、もし先のことを心配していたらどうなっていたと思う?」と、かなり強引にそれを恋愛に結びつける。やっぱり彼はブラジル人だ。
(1989年初版)

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