#12/村一番の料理人

『黄金の都シカンを掘る』 島田泉 小野雅弘 朝日新聞社

 1992年、ペルー北部の森林地帯の遺跡から、巨大な黄金の仮面を含む大量の考古遺物が発掘され、人々を驚かせた。この調査の中心になり、発見された文化を「シカン」と命名したのが、南イリノイ大学の島田泉教授だ。本書は、この遺跡発掘の成果を報告するとともに、そこに至るまでの長い道のりを紹介している。

 というと、学術的な堅苦しい本のようだが、そんなことはない。読む人によって、何通りにも楽しめる間口の広い本だ。
 もちろん第一には、南米の古代文化について、発掘調査の実際とあわせて、ていねいな説明がなされているから、すぐれた考古学の入門書である。また第二には、少年時代に移民船でアメリカに渡り、考古学を志して猛勉強の末に世界的な学者となった筆者の、人間味あふれた成長の物語でもある。そして第三には、日本、米国、ペルーという、三つの異質な世界を悩みながら行き来する、興味深い比較文化論にもなっている。

 ペルーで発掘をするには、地元の人をたくさん雇って組織しなくてはならない。しかし、何年にもわたる大がかりな発掘調査は、過酷で忍耐のいる肉体労働だ。そこで最初の準備段階で、島田は古い宿舎をきれいに修理し、それから村で一番料理が上手な女性を探す。彼には、「良い発掘隊の基礎をなすのは、良い宿泊地とともに、腕のたつ料理人だという確信」があり、ついに「ペルー一うまいものを食わせる発掘隊」をつくりあげるのだ。労働のあとの楽しみを用意し、従業員のモラルを高める。・・・・なるほどこの本は、実践的な経営学の本でもあったのだ。
(1994年初版)

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