#13/銃をもてあそぶ兵士

『ラテンアメリカの小さな国』 ジョーン・ディディオン 千本健一郎訳 晶文社セレクション

 鮮かな黄色い表紙の薄い本。アメリカ人女性作家による、中米エルサルバドルの探訪エッセイ。全米で60万部超のベストセラーになった。・・・・と聞くと、いかにも楽しそうな南国の旅行案内を想像するが、これが大違い。

 筆者がエルサルバドルを訪れた1982年は、軍部主体の政府(米国の後ろ盾をを持つ)と、反政府ゲリラ勢力とが、泥沼の内戦に突入していった時期である。「毎日、いたるところに、死体や死体の断片がころがっている」という状況。外国人のジャーナリストや農業技術者、修道女なども、被害者になっていた。そんな中、筆者も常に自分に向けられる銃口に怯えながら、首都や地方の紛争地帯を取材して回る。しかしそれはまるで、正義も悪も、真実も嘘も、味方も敵も、何もかもがこんがらがって判然としない、とらえどころのない悪夢の世界のようであった。そうした戦乱のグロテスクな様相を、「唯一、哲学があるとすれば、目の前の現実を黙って受け入れることしかない」と思い定めて、筆者の筆はたんねんに写し取っている。

 本書後半の、エルサルバドル教育省主催の「文化祭」のルポは、死体こそ出てこないが、読むとひどく気が滅入る。土着文化振興策としての、「インディオの舞踏」の場面。村の広場に古い歌謡曲が流れ、女たちは「原住民の服装のようなもの」を着せられ、男たちは「ボール紙や木でつくった剣」を持たされ、奇妙な土着文化風の振り付けで踊らされている。それを見張っているのは、ビールを飲みながらライフル銃をもてあそんでいる、政府の警備兵だ。・・・・この光景の、どこにも「文化」など見当たらない。
(1984年初版)

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