#16/ジャングルの詩人

『ケツァル鳥の館』 ビルヒリオ・ロドリゲス・マカル
児嶋桂子訳 山本容子画 文藝春秋

 V・R・マカルは、中米グアテマラの作家で、本国では“ジャングルの詩人”と呼ばれているそうだ。この本は、彼が23歳の時(1939年)に発表したもので、グアテマラの森林を舞台に、鼻グマやイタチやアルマジロなどの動物を主人公とした、5編の物語が収められている。

 これはまさに、森の世界の営みを描いた美しい叙事詩である。例えば、生い茂る木々が陽光をさえぎる森林の内側は、こんなふうに叙述される。「あらゆるものが、そこはかとない光のなかにうかび、しかもあざやかに見えるさまは、まるでエメラルド色のうすい霧が地表にまで降りているようだったし、ヒソヒソとざわめく巨大な天井のほんのわずかな隙間から太陽がむりやり金の延べ棒を押しこんでいるようにも見えた。」
 そして、ページをめくっていくと、次から次へと、大小の動物や植物が生まれ、そしてあっけなく死んでいく。食うものと食われるものの、絶えることのない抗争が描かれる。この森を支配する神は「運命」であり、その弟は「本能」なのだ。

 ところが、五つの物語の最後には、いつも人間が登場して、主人公の動物を殺したり、捕えたり、怯えさせたりするのだ。小さな森のネズミがこう問いかける。「それで、運命はその生き物を、そのみんなのおそるべき敵で、掟を馬鹿にして従わない人間を罰しないのですか。誰が人間を殺すのですか。誰が人間を喰うのですか。人間は誰の食料とされているのですか」
 ジャングルの生命の循環を断ち切り、その実りを貪欲に食いつくそうとしているのは、銃を持ち犬を連れた人間たちなのだった。
(2001年初版)

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