#17/サンチャゴへ飛べ

『旅人たちの墓石』 三好徹 徳間文庫

 1973年のチリ・クーデターを題材にした、国際派ミステリ。主人公は日本の新聞社の特派員だ。作者は元新聞記者であるから、登場人物の思考や行動の展開はごく自然に描かれており、読者はすぐに、そのリアルな作品世界に引き込まれていく。また解説によると、この本に書かれた政変の内実は、98%が歴史的事実と適合しているという。

 チリでは、1970年に、世界で初めての、民主的な選挙による社会主義政権が誕生した。アジェンデ大統領の政権である。だが、それもわずか3年足らずで、悪名高きピノチェト将軍の率いる軍と警察(その背後には米国がいる)によるクーデターによって転覆させられる。その後の虐殺と弾圧の歴史については、今日までさまざまな報道が伝えているとおりだ。
 さて、この小説で面白いのは、動乱の渦中にいる主人公にはまだそうした歴史的な視点はなく、彼はただ命がけで銃弾をかいくぐり、アジェンデ派、ピノチェト派双方の情報を集めて、迷いに迷いながら、真実の記事を書こうと奮闘するということだ。・・・・ではその結果、日本に正確な記事は送れたのだろうか?・・・・これから先はミステリの謎解きに属する部分なので、書けない。

 最終章に登場する西ドイツ(当時)のジャーナリストがこんなことを言う。「真相を書きすぎるものは、長くは生きていられないということだ。−中略− 生きて行くには知恵が必要だ。手にしたものを、一度にぶちまけずに、小出しに出して行くという知恵が、ね」
 もしかすると、この小説こそ、その知恵の産物なのかもしれない。
(1977年初版 角川書店)

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