#19/カストロもよござんす

『南米耳袋』 今 東光 講談社

 昭和37年発行の古い本。作家でナマグサ和尚(失礼!)の、今東光が、ブラジルを皮切りに、アルゼンチン、ペルー、パナマ、メキシコを巡った漫遊記。硬軟入り混じった語りで、古き良き中南米の世情を伝えている。和尚の語り口には、時として独断的で差別的なところがあり、やや閉口するが、逆にそれゆえに生き生きとした印象も伝わってくる。

 もちろん、今和尚のことだから、本の半分ぐらいはお色気話だ。そこで、和尚がブラジルで仕込んだという、艶笑小話をひとつ紹介しよう。
 《バルガス大統領の崇拝者の男が、ある後家さんに、内股に彫られたバルガスの似顔の刺青(いれずみ)を見せてもらう。男はうやうやしくその刺青にキスをする。後家さんが「いかがでしたか」と感想を問うと、男は、「エヘー・・・・バルガスも悪くありませんが、カストロもよござんす」と答えたという。》
 バルガス大統領は長期間ブラジルに君臨したファッショ的な独裁者だ。一方カストロは、キューバを革命に導いた共産主義者−そして、もじゃもじゃの顎鬚が彼のトレードマークだ。
 この小話には、政治も色事も一緒くたにして皮肉り、笑い飛ばしてしまう、いかにもラテンアメリカらしい気分が横溢している。

 南米の旅から戻ってきた和尚は、日本の読者に向かってこう書いている。「僕は南米人の生き方から、いかに僕等は自らを酷使することによって、わが命を粗末にしているかということを反省したのだ。これからの日本人は大いに遊んで、そして後に働けといいたい。」 
(1962年初版)

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