#20/リュックの中の小瓶

『アンデス 食の旅』 高野潤 平凡社新書

 よく知られていることだが、トマト、ジャガイモ、トウモロコシ、トウガラシなどは、すべて中南米原産の農作物である。この本は、ペルー、ボリビア、コロンビアなど南米アンデス一帯の、オリジナルな食材や料理、食をめぐる生活様式などを、精力的に見て(食べて)まわった臨場感あふれる記録だ。

 高野潤は、アンデスをホームグラウンドとする写真家で、旅の達人でもある。彼の旅は、ただの観察者の立場にはとどまらず、どんどん体を使って経験を重ねていく旅だ。だから、食事も他人が作ったものを食べるだけでなく、自分なりに工夫して、まわりの人に提供して喜ばれたりもする。
 たとえば、初めての土地でカニャーソというサトウキビの酒を手に入れた時も、彼はさっそく自己流のカクテルを作ってしまう。「夕食前、コンロで私がお湯を沸かし、天然アニスの草、主人が買ってきてくれたカニャーソ、それに蜂蜜を加えたマテ茶を作り、店のテーブルで主人夫婦と向かい合って飲んでいた。カニャーソを強目にしたが、のどが鳴るように受け入れてくれる。」・・・・すると近所の人まで現れて、「どれどれ、おれも」と、仲間に加わるといった具合だ。

 高野は、鞄の中に小さな瓶を入れてあるという。そこに、大衆食堂でうまいと思ったトウガラシのソースを詰めて持ち歩く。少しずつ使って減った分は、次の食堂で補充する。するといつの間にか、瓶の中には、旅の全行程が凝縮されたような複雑で味わい深いスペシャルソースが醸成されるというわけだ。さすが、旅の達人。
(2000年初版)

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